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久々に他人の画像を処理してみる


Twitterで以前から相互フォローさせていただいているMasa'sAstroPhotographyさん(@MasaAstroPhoto)が、以下のようなツイートを先の連休中にされていました。


最近、Twitter上で生データを公開してくださる方も増えてきましたが、なにかと勉強になることが多いので、こうした企画を見かけた場合はなるべく参加させていただくようにしています。


そこで、「参加します」と手を上げたところ、快くデータを送ってくださいました。


撮影に使用したカメラはZWOのASI071MC Pro。APS-Cサイズの冷却CMOSカメラです。これにサイトロンのQuad BPフィルター II(以下QBP II)を組み合わせて撮影しています。

www.syumitto.jp


QBP IIはHα, Hβ, OIII, SII付近の波長域のみを透過させるフィルターで、私が所有しているIDAS NebulaBooster NB1フィルターと同じような特性を持っています。光害を強力にカットするので、比較的空の明るいところでも星雲を写しやすくなりますが、「光害カットフィルター」というよりは星雲からの光のみ通す「ナローバンドフィルター」から発展したフィルターなので、恒星や反射星雲のように連続スペクトルで輝く物体の色再現は苦手です。このあたり、どう影響してくるでしょうか……?


撮影時間は180秒×927コマ*1。トータルで実に46時間以上にも達します。凄まじい露出時間で、果たしてどんな絵が出てくるのか、期待に胸が膨らみます。


提供いただいたデータはバイアス、ダーク引き&フラット補正完了後のもの。これをいつも通りステライメージ9で読み込んで、軽くレベル調整をかけると……


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……あー……うん、もうこれでいいんじゃないかな?( ̄w ̄;ゞ


ちょっと信じられないほど星雲がハッキリ写っていますし、光害カブリもほとんど目立ちません。自宅近くで撮影されたということですが、さすがに東京都心とは環境がまったく違うのでしょう。


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だって、こちらがNB1フィルター使って同じ対象を撮影すると、撮って出しでこんなですぜ?(苦笑)(冷却CMOSカメラとデジカメという違いはあるけど)


ともあれ、ここまで写っていてくれれば処理は非常に楽です。ステライメージ9でレベル調整→オートストレッチ→カブリ補正→デジタル現像まで行った後、三色分解してNikCollectionのSilverEfex Pro2の「高ストラクチャ(強)」を適用し再合成。この段階だと星像がうるさすぎたので、StarNet++で星のみのマスクを作り、これを利用して星のみ微妙に輝度を落とし、最後にわずかに残るカブリを除いて……完成です。


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いつもの自分の写真なら、処理の過程でノイズが目立ってきてしまうため、DeNoise AIやNeatImageを用いたノイズ除去処理が必要になることが多いのですが、今回は元データの質がとにかくよかったので、そうした処理は不要でした。なお、恒星の色については、QBP IIを使っている時点でどのみち期待できない*2ので、あまり無理な強調はしていません。まずまず節度のある表現になったのではないかと思います。


www.youtube.com

なお、私の分も含めた計21名の処理結果について、Masa'sAstroPhotographyさんがまとめてくださっています。処理方法も結果も各人各様で、眺めているだけでも本当に面白いです。星雲をどこまで強調するか、背景をどこまで引き締めるか、星の色をどこまで生かすか、といったあたりに個性が現れていますので、ぜひ見ていただければと思います。

*1:上記ツイートでは462コマとありますが、462, 541, 927コマをそれぞれコンポジットしたものを準備してくださいました。

*2:フィルターの特性グラフを見ると分かる通り、QBP IIは青緑と赤の光しか通さないので、真っ白に飛んだ場合を除くと、原則として星の色はこの2色のどちらかにしかなりません。黄色の星などはきわめて表現しづらいのです。

新年初撮り

みなさま、遅ればせながらあけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。


さて、この年末年始は月の巡りがちょうどよく「撮影三昧だー!!」と思っていたのですが、年賀状に年越しそば、おせちと準備がなかなか忙しく、案外撮影時間を捻出することができず。が、2日、3日の両日はどうにか抜け出せそうだったので、いつもの公園に初撮りに行ってきました。

撮影

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メインは罵倒……もとい、馬頭星雲ことIC434周辺。ここは6年前にデジカメで狙っていて、当時としてはそこそこ悪くない写りだったのですが、冷却CMOSでどのくらいの写りになるのか気になるところです。
hpn.hatenablog.com


撮影内容としては、2日の夜はLPS-D1(一般的な光害カットフィルター)を用いたカラー画像、3日の夜はHα画像を撮る予定。先日、IC405 & IC410の撮影で大きな効果を発揮した撮り方です。
hpn.hatenablog.com


2日の夜は、2時近くなって馬頭星雲の高度が30度を切りそうなあたりで撮影を終了。引き続き何か春の天体を撮影したい気もあったのですが、あいにく鏡筒は短焦点のものしか持ってきておらず、視直径の小さいものが多い春の天体には合わないので、この夜は撤退しました。


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3日の夜は、また夜半頃まで馬頭星雲を。前述のとおり、今度はHαナローバンドで狙います。この夜は前日に比べて湿度が高く、空もどことなく霞んでいます。が、Hαナローバンドなら光害の影響は軽微なはずで、撮影に大きな支障はないでしょう。


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そして、夜半過ぎからは鏡筒をEdgeHD800に載せ替え。これで狙うは「天空のダイヤモンドリング」こと惑星状星雲のAbell 33です。大変淡い天体で、主に青緑色のOIIIで輝いているため、一般に青緑色の成分を含む光害の下での撮影難易度は極めて高。以前、デジカメで撮影したときは、証拠レベルの像を写すのがやっとでした。リベンジなるでしょうか?
hpn.hatenablog.com


ところが、いざ撮影に入るとトラブルだらけ。まず、オフアキの視野内にガイド星が入りません。


オフアキでの撮影の際には、ガイドカメラとしてStalightXpressのLodestarを用いています。ZWOの安価なCMOSカメラが普及する前にベストセラーとなっていたガイド用CCDカメラで、チップサイズが1/2型(6.4mm×4.75mm)と比較的大きいので重宝しています。しかしながら、これをもってしても、オフアキで使った時の35mm判換算の焦点距離は10000mmを優に超えます。光路外に光を導き出すプリズムの位置によっては、ガイド星が見つからないこともしばしばです。


最終的には、どうにか適当なガイド星を見つけることができたのですが……今度はオフアキの割にガイドが安定しません。しばらくPHD2のパラメータを弄ったりなんだりしていたのですが……結局判明したのは「極軸設定のずれ」という単純な理由でした。


どうやら鏡筒を載せ替えた際に、微妙に極軸がずれてしまった模様。搭載物の重量が大きく変わったことによる、たわみなども影響しているかもしれません。載せ替え後に再度極軸を設定し直せば良かっただけなのですが、横着して失敗しました。結局、これらの騒動で都合2時間ほど無駄にしましたが、どうにか撮影はできました。


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また、裏ではこの日極大を迎える「しぶんぎ座流星群」を狙ってカメラをセット。都心の明るい空なので、写れば御の字というくらいの緩い姿勢ですが……。


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ところが、明け方近くになると台車に霜がびっしりと。確かに寒い夜でしたが、都心でここまで霜が降りるのはあまり記憶にありません。そしてこの余波で、都心にしては珍しくカメラレンズにも曇りが!これは完全に油断しました。まぁ、こちらは元々大して期待していなかったので、いいといえばいいのですが……。


ともあれ、撮るものは撮れたので、明け方頃に撤収しました。


リザルト


さて、流星群の写真はチェックが面倒なので後回しにするとして……まずは馬頭星雲の写真から。処理前のHα画像は……

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うん。撮って出しの時点でもよく写っています。これなら期待できそうです。カラー画像の方は……

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こちらも比較的良く写ってますが……明るすぎないか?これ……。


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そう、CMOSカメラの撮像結果としては明らかに露出オーバーです。淡い部分を写す分にはこれでも構わないといえば構わないのですが、ここまで背景が上がってしまうと、せっかくの広ダイナミックレンジが無駄になってしまいます。


また、この写真をよく見ると、左側がえらい暗く落ち込んでいます。光害カブリにしてもさすがに大きすぎるような……。で、フラット補正、コンポジット、カブリ除去まで処理してみると……

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な ん だ こ り ゃ orz


ゴミの影はともかく、円周状に変な明暗が……。原因ははっきりとは分からないのですが、おそらく撮影に用いたレデューサー0.85×DGのイメージサークルがギリギリなこと、そしてライトフレームとELパネルで作成したフラットフレームとで光の回り方が違い、その影響が顕著に出たこと、といったあたりが影響していそうです。もしかするとフィルターが斜めにねじ込まれていた可能性もありますが、今となってはもはや検証不可能。この時点で、やる気は当社従来品比97%減↓ですorz



やる気が減ったので、気分を変えてもう一方のAbell 33の方を見てみます。


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こちらは逆に、暗すぎて何も見えません。さすがは(?)F10の鏡筒というべきか……。Gain100で撮りましたが、こちらはもっとGainを上げても良かったかもしれません。強調してみると


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確かに、中央にうっすらと円形のものがあるように見えますが……やはり猛烈に淡いです。NB1フィルターを使っているとはいえ、青い星雲は光害地では鬼門です。


それでも、気合と根性でなんとか炙り出して……こう。


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2022年1月4日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃, Gain=100, 露出600秒×12コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
セレストロン オフアキシスガイダー+Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0dほかで画像処理

うぅむ……かなり頼りない写りの上、カラーノイズの色むらも乗って、ぶよぶよした汚い球体にしかorz 無理やり炙り出しましたが、都心からだとやはりかなりの難物です。トラブルによる2時間のロスが痛かったですし、そもそも露出時間がもっともっと必要ですね。Gainももっと上げた方が良さそうです。


その意味で、EdgeHD800のF10という暗さも考えどころ。純正レデューサーを使えばF7まで明るくなりますが、今度はオフアキが使えなく……ああ、そうか。デジカメと違って必ずしも長時間露出いらないから、ガイド鏡ガイドで行けるかもしれないのか*1。……ふむ、考えてみましょう。



さて、一方の馬頭星雲。すっかりやる気をなくしていたのですが、Hα画像はちゃんと撮れているのですし、放っておくのももったいないです。仕方がないので、StarNet++やFlatAideなどを駆使しつつ処理して……こう!


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2022年1月2日、3日 ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
カラー画像:Gain100, 900秒×10, IDAS LPS-D1フィルター使用
Hα画像:Gain350, 600秒×16, Astronomik Hα 6nmフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0dほかで画像処理

……なんとか最低限形になったでしょうか?地味な反射星雲まで結構写りこんでいるあたり、都内で撮ったにしては上出来かなとは思いますが、「なんちゃってフラット補正」の段階でディテールを損なうようなかなり怪しい処理が入っていますし、強調しきれなかったのも確かなところ。撮影条件も反省点が多いですし、多分次のシーズンになるとは思いますが、リベンジを果たしたいと思います。

*1:過去、この鏡筒でもガイド鏡ガイドをやってましたが、長時間露出ではミラーシフトに起因すると思われる像の流れをどうしても止められず、オフアキに移行した経緯があります。

2021年の振り返り

早いもので、今年ももうあとわずか。年々、年末という感慨が薄れている気がするのですが、これも歳のせいでしょうか……(^^; ともあれ、今年も色々ありました。軽く振り返ってみましょう。



今年はあまり機材には投資せず、手持ちのもので色々と撮り方をチャレンジした年でした。まず、大きな衝撃だったのが近赤外での撮影です。
hpn.hatenablog.com

ウチのメインカメラはASI2600MC Proですが、そのプロテクトウィンドウは残念なことにIRカットフィルターになっています。その前まで使っていたEOS KissX5 SEO-SP3も、クリア仕様ではなく「IDAS UIBAR-III」相当のUV/IRフィルターが組み込まれたもので、いずれにせよ近赤外撮影には全く向きません。


唯一、手持ちの機材の中で近赤外撮影に使えそうなのは、惑星撮影用のASI290MM/MCのみ。豆粒センサの上に非冷却なので、写りは全く期待していなかったのですが、ASI290MMに近赤外フィルターをつけ、ASI290MCとの組み合わせでLRGB撮影を行ってみると、思った以上にしっかりした写りで驚きました。センサーが小さい分、光学系も小型で済み、「春の銀河祭り」の敷居が大きく下がりそうです。


もうひとつのチャレンジ……というか取り組みは、Hαナローバンド画像とのブレンドです。
hpn.hatenablog.com
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これ自体は珍しくもなんともないのですが、今までは面倒くさくてやっていなかったのです。しかし、試してみると当然というかなんというか、効果は絶大。天体によって向き不向きはありますが、選択肢のひとつとして引き出しを持っておくと重宝するかなと思いました。


というわけで、今年撮った(仕上げた)天体写真は以下の19枚。


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例年以上に少ないですが、上記のような撮影方法は時間がかかるのでやむを得ない部分はあります。「連装砲」にすれば時間短縮も狙えるのでしょうけど……先立つものがorz


その他、個人的に印象的だったものとしては、光害のスペクトルを撮ってみた企画。
hpn.hatenablog.com

回折格子以外、ほぼ「ゴミ」をまとめて作った簡易分光計でいつも撮影に使っている場所の光害を調べてみたところ、想像以上に蛍光灯の影響が大きく残っていました。LPS-D2など、従来型の光害カットフィルターもまだまだ有効であることを、はっきり確認できたのは大きかったです。


また、今年は6月に「天文リフレクション」さんから招待される形で「都会で撮る“ノーマル”天体写真」と題し、都心からの天体撮影について講演させていただきました。
www.youtube.com

幸い、ある程度の好評をいただいているようでホッとしています。配信時は、トラブルに見舞われてお聞き苦しいところもあったとは思いますが、天リフ編集長様およびご聴講いただいた方々、本当にありがとうございました。



次に今年買ったものですが、年末に駆け込みで買ってしまったASI533MC Proがめぼしいところで、純粋に天文系の買い物というとこれくらいです。


あとは、9月にNASと大容量HDDを買ったくらいでしょうか。
hpn.hatenablog.com

天体写真……特に惑星の撮影などをやるとストレージ容量をバカ食いするので、HDD容量はいくらあっても足りない感じになります。今回は8TB×2から12TB×2の容量アップ。これでまた数年は持たせられると思います。



最後に、今年アクセスの多かった記事トップ10です。

  1. 光害カットフィルターのスペック一気比較
  2. 「ターコイズフリンジ」が見える仕組み
  3. 国内で簡単に入手できる望遠鏡一覧(口径6cm以下~10cmクラス編)
  4. イメージングソフトの選定
  5. Sky-Watcher MAK127SP簡易レビュー(外観編)
  6. 低品質YouTube動画の憂鬱
  7. SG-3500のバッテリー交換
  8. PHD2マニュアル更新(v2.6.5対応)
  9. 光害カットフィルターの比較
  10. PoleMaster使用説明書

やはりレビュー系の記事は強いという印象です。


1位と9位には光害カットフィルターの話題が。需要は多い一方、この手のフィルターのまともな比較記事を天文誌であまり見かけないので、そのあたりで参照されているのかなと思います。というか、手間も金もかかるし、本当はこういうのこそ天文誌でやってほしいのですが……。


2位は、皆既月食があるといつも爆発的にアクセス数が増える記事で、今年は5月26日の皆既月食と11月19日の「ほぼ皆既月食」が効いた形かと思います。「ターコイズフリンジ」でググると、かなり上位にこの記事が出るので、その影響が大きいのでしょう。


3位は、GW中に暇に任せてまとめた望遠鏡の一覧。口径10cm超のものについての記事も14位に入っていますが、アクセス数にして実に1.5倍の開きがあり、大きさや価格面から小型鏡筒にやはり人気が集中するのでしょう。中華勢が魅力的な鏡筒を次々出してきたのも大きいと思います。


4位はちょっと意外なところ。天体用CMOSが普及してきた影響でしょうか?たしかに、Twitterなど見ていると、最近は最初から天体用CMOSカメラに手を出す人が多いような印象もあります。デジカメがどんどん高額化しているというのもありますしね……。ちなみに、上記記事はあくまで当時のもので、現在はバージョンが上がるなどして改善されているものもあります。


5位も意外で、なんでこの時期にMAK127SPのレビュー記事だけアクセス数が上がったのか、想像がつきません。どこかで紹介されたんでしょうか……?*1


6位は、この夏に物議をかもした動画の話題。最近はYouTuberと組んで販促するケースも大きく増えましたが、相手によっては大きなリスクを抱えることになります。このケースの場合、販促というわけではないのですが、会社の取締役が出てきている割に内容が「アレ」だったので炎上した次第。会社名を出すならもう少し慎重になってほしかったところです。


あとは、まぁまぁ定番の記事でしょうか。SG-3500のバッテリー交換の記事がランキングに残ってるのは面白いところで、おおかた5年以上前に買ったバッテリーがぼつぼつダメになってくる頃合いなのでしょう。今ならリチウム系のバッテリーに走りそうなものですし……。

*1:アクセスログを見る限り、あまりそういう感じもしないのだけど。