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水冷服導入 ~ICEMAN PRO-X簡易レビュー~

梅雨入り前から猛暑が続く今年の東京都心。昨年もそうでしたが深夜の気温も相当高く、こんな気候では天体撮影をやっていても熱中症の危険と隣り合わせです。


たとえば、実際に撮影を行っていた昨年の7月16~17日、深夜の気温、湿度の推移がどうだったか見てみると……



ひと晩を通しておおむね気温28℃、湿度80%あまりを維持しています。




https://www.sbs-smc.or.jp/memo/detail/14より)

熱中症の予防指標としてよく使われている「暑さ指数」で言えば「厳重警戒」のレベルで、夜間で日差しがないとはいえかなり危険です。


今まではペットボトル飲料や小型扇風機、保冷材などで対策を行ってきたのですが、いささか心もとないのは確か。そこで今回、思い切って「水冷服」を試しに購入してみました。


水冷服とは


「水冷服」というのはまだあまりなじみのない言葉かもしれませんが、ひとことで言ってしまえば文字通り「水で体を冷やす」服のことです。


暑さをしのぐための服としては、ここ数年ですっかり有名になった「空冷服」とか空調服とか呼ばれるタイプの服があります。


これは送風ファンが装備されたウインドブレーカーのようなもの*1で、外気をファンで服内部に送り込むことで涼しさを得ようというもの。「扇風機が内蔵された服」と考えれば直感的に分かりやすいかもしれません。


小さな送風ファンがついているだけなので軽く、バッテリーさえあれば長時間利用できるのが大きなメリット。着心地も、以前は風を孕んで動きにくいものが少なくなかったようですが、今はずいぶん改良されています。


ただ、扇風機と同じく汗の気化熱を利用して体温を下げているので、自分が実感しているよりも大量の汗を出していて、気づいたら脱水→熱中症になっていたという危険性はあります。また、当然のことながら、送られる風は外気の温度以下には下がらないので、あまりに暑いところだと効果が半減しかねません。


さらに、空冷服は背中側の腰付近にファンがついていることが多く、椅子に座ると吸気口がふさがれて効率が落ちる可能性があります*2。ファンの騒音もそれなりにするので、静かな場所だと気になるかもしれません。



一方の「水冷服」ですが、こちらは凍ったペットボトルなどを用いて冷やした水をポンプで循環させ、体を冷やすというアイテムです。構造としては、ベストの背中側に水タンクとポンプ、内側に冷水が通るチューブが通っているというのが一般的です。


身体が冷水で直接冷やされるため、発汗は抑えられますし、効果が外気温に左右されるようなこともありません。動作音も静か。ファンもないので、座っても吸気口がふさがれるような問題はありません。



ただしデメリットも。その最大のものは「持続時間が短い」という点で、氷が完全に溶けてしまうと効果がなくなってしまいます。多くの水冷服の場合、凍らせた600mLペットボトルを用いて連続運転を行うと、2時間程度で効果がなくなってしまいます。街なかであればコンビニで冷凍ペットボトルを購入することもできますが、一晩中使うことを考えるなら、ここをどうカバーするかが問題になってきます。



上記のようなメリット、デメリットを勘案した結果、水冷服の草分け的存在である山真製鋸(やましんせいきょ)の「ICEMAN PRO X Cooling System SET 2024」を購入しました。正規価格は恐ろしく高いですが、実売価格はおおよそ2万5000円程度でした。
yamashinseikyo.com


山真製鋸の本業は、名前の通り大工や職人を相手にしたチップソー(いわゆる回転のこぎりの類)の製造販売などですが、そこから派生して、高温下で作業する大工・職人等に向けて水冷服を最も早い時期に市場に投入した会社でもあります*3


現在では同社の製品を真似た安価な製品も出回っていますが、「元祖」だけに構造がしっかりしている&パーツごとの販売なども行っていて、万が一故障した場合でも安心感があります。これが同社の製品を選んだ理由のひとつです。



さて、山真製鋸の水冷服には

と3つのグレードがあります。


STANDARDとPROはいずれも冷凍ペットボトルを冷却剤として用いるもので、効果持続時間は上記のように600mLペットボトル1本あたり2時間程度となります。STANDARDとPROの違いはバッテリー容量で、STANDARDは3350mAh(連続稼働時間:約7時間)、PROは5200mAh(連続稼働時間:約12時間)となっています。


一方、PRO-Xは今年の新モデルで、冷却剤には専用の角型ボトルを凍らせたものを用います(従来通り冷凍ペットボトルも使用可能)。このボトルは容量が1000mLあり、効果持続時間が1本あたり3時間程度に伸びています。バッテリーは5200mAh(連続稼働時間:約12時間)です。
yamashinseikyo.com



今回購入したセットには「ICEMAN PRO-X」本体(含 専用角型ボトル「チャージボトル5.0」1本)のほか、「チャージボトル5.0」2本、チャージボトル保存容器「エネチャージ」がセットになっています。計算上は、これで約9時間の冷却を維持できることになります。


自分の場合、観測場所が街なかなのでコンビニへのアクセスも良く、冷凍ペットボトルの入手は簡単なのですが、毎度となるとなかなか面倒ですし、ランニングコストも考えてこの選択になりました。


ICEMAN PRO-X本体



ICEMAN PRO-X」本体ですが、専用ボトルを使用する関係で、後ろ姿は余計な突起などもなくスッキリしています。そのまま椅子に座ってもあまり邪魔になりません*4。ベストの内側には冷水が通る青いチューブが走っていて、これが身体に接触して冷やします。


つまり、冷却効率はこのチューブがどれだけ身体に密着するかによるのですが、PRO-Xの場合、専用ボトルの形状が平たいために背中側がまっすぐになり、密着具合は比較的良好です。ペットボトルを用いるモデルの場合、背中側の背骨付近がボトル形状に沿って円筒形に出っ張ってしまい、密着度合いが低下しがちなのでそこはありがたいところです。


ただ、ぜいたくを言えば、登山用リュックにあるようなウエストベルトがついていればより密着度が上がるのに、と思います。まぁ、製品の出自を考えれば、腰のベルトに工具などをぶら下げた大工やハーネスをつけた職人あたりがユーザーとして想定されていそうなので、そこまでやると単純に邪魔ということなのかもしれません。




ベストには位置調整用のベルトが前面および側面にあり、これによりベストを身体に密着させられるとともに、前面の冷却位置を胸から脇まで移動させることができます。このうち前面のベルトについては、前身ごろに沿ってある程度上下にスライドが可能です。




背面を開けると、チャージボトルをセットする水袋が現れます。水袋本体は丈夫そうですし、チャック付きの上にスライドクロージャ―でも密封されるので、水漏れの心配はまずなさそうです。ボトルの交換は非常に簡単。ペットボトルを用いるタイプだと水袋のねじぶたがやや締めにくいらしいので、そこは明らかなメリットです。


ちなみに、持続時間は当然落ちますが、チャージボトルの代わりにペットボトルも使用可能です。




(取扱説明書より)

この水袋にはポンプとの接続口が上下2か所にあります。上図のように、ポンプから送り出された水は水袋上部から入り、凍ったチャージボトルで冷やされたのち、下から出ていきます。この構造のため、ベストを装着した状態で前屈するようにかがむと、ポンプに水が供給されずに空回りします*5。短時間なら問題ないと思いますが一応注意です。




ベスト側は、銀色の素材で断熱材をくるんだ構造で、なるべく氷温が維持されるようになっています。カバー裏にはメッシュポケットがあるので、チャージボトルの溶け防止に、ここに保冷剤を入れたりしても良さそうです。




ベスト前面には小さなポケットがあって、バッテリーはここに入れることになります。サイズ的には付属バッテリーにぴったりなのですが、ベルトを締めるとバッテリーが肋骨に当たって少々痛いのが難点です。ポケットの上下にあるベルトループを利用して小物入れの類を外付けし、バッテリーはそちらに入れた方がいいかもしれません。




ポケットに向けて伸びているケーブルには外径3.4mm、内径1.4mmのDCプラグがついていて、バッテリーはここに接続します。ここからも分かるように、本製品で用いるバッテリーは汎用品ではありません*6。悩みどころはまさにここで、通常のモバイルバッテリーを利用できた方が便利なのは確かです。ただ、万が一交換用バッテリーが必要になった場合も、実売価格5000円程度で手に入るので、実際にはそれほど心配はいらないでしょう。




付属の専用バッテリーです。電源のON/OFFのみならず、運転モードの変更(連続/20秒作動・45秒停止/20秒動作・90秒停止)もこのバッテリー上部のパネルで行います。しかしなんというか……ものすごく厨二くさいデザインです(笑) 一時話題になった「家庭科のドラゴン」を思い起こさせるデザインで、ヤンキー上がりの男の子が好きそうな……(偏見

www.famitsu.com




バッテリーの上面。左側には電源ボタン、中央に電源供給用のUSB-A端子と充電用のUSB-C端子があります。なお、このUSB-A端子は別売のヒートベストで使用するもので、本水冷服では使用できません。本水冷服用の端子は、これとは別にバッテリー側面にあります。右側に3つ並んでいるのは動作状態を示すインジケーターで、動作モードやバッテリー残量をLEDの点灯具合で示します。


電源ボタンは、短く押すとバッテリー残量表示、長押しで電源がON(連続作動)になり、そこから電源ボタンを短く押すごとに「20秒作動・45秒停止→20秒動作・90秒停止→連続→……」とモードが切り替わります。慣れれば操作は難しくありません。


チャージボトル5.0



ICEMAN PRO-X専用の角型ボトルです。容量は1000mL。一見、何の変哲もないポリエチレン製のボトルですが、肩がフタの位置よりも高くなっているのがミソで、これにより水を入れても強制的に肩の部分に空間が残ります。水を凍らせると体積が増えてボトルを破壊しかねませんが、この空間があるおかげでボトル破損の危険性が減るものと思われます。一方で、排水しようとボトルをさかさまにしてもここに水が残ってしまうという問題もあり、メンテナンス面を考えると悩ましいところではあります。




写真だと分かりにくいですが、ボトル内部には凍結時の変形を抑える補強バーが縦に2本走っていて、ボトルの前面と背面とを内部で繋いでいます。それなりに効果的ですが、変形を完璧に抑えるようなものではないので、過度の期待は禁物です。とはいえ、肉厚なのも加わって全体として非常に頑丈なボトルではあります。




フタはポリエチレン製のものに加え、内ブタとしてシリコンゴム製のキャップが装備されていて、水漏れはほぼ完ぺきに抑えられます。


エネチャージ




チャージボトル用の保存容器です。「真空二層構造ステンレス」ということなので、いわゆる魔法瓶に近い構造ですね。




容量5.5Lで、チャージボトル5.0なら2本入りますが、余裕があるので500mLペットボトルがあと1本くらいは入りそうです。実際、チャージボトル2本だけだとかなり空間が開いているので、実運用時は隙間に氷や保冷剤でも詰めておいた方が良いかもしれません(重いけど)。


外形は直径約18cm、高さ約31.5cm、重量1.9kgとなかなかの大きさなので、そこは注意が必要です。




一部の偏った層に分かりやすい比較画像(笑)


ちなみにMAK127SP(左)の重量(除 ファインダー、アイピース)が約3.3kgなので、エネチャージにチャージボトル2本を入れると、これを上回ることになります。(本体1.9kg+チャージボトル約1kg×2 = 約3.9kg)


実使用時の感想


日中や熱帯夜の散歩時に、この水冷服を何度か実際に使用してみました。


電源を入れると氷水の循環が始まり、ベストの密着した部分がハッキリと分かる程度に涼しくなります。とはいえ、氷水はチューブや服を介して接触しているため、飛び上がるほど冷たいわけではなく、温度的には快適です。


身体を動かし始めるとさすがに暑さを感じますが、背中や脇が冷やされているため、発汗は幾分抑えられる印象です。ただ、皮膚が刺激に慣れてしまう関係もあってか、長時間背負っていると冷たさを感じにくくなってきます。これは「REON POCKET」のような冷却デバイスでもしばしば指摘されるところです。

pc.watch.impress.co.jp
(↑ちょっと古い記事ですが……)


しかしこの製品の場合、あくまで「冷感グッズ」である「REON POCKET」と違って身体が絶対的に冷えますし、ちょっと身じろぎしたりベルトの締め方を変えればチューブの接触位置が変わって冷感も復活するので大した問題ではありません。


氷水が循環している関係上、チューブは結露しますが服がビショビショになるほどではなく、十分に許容範囲。「実際に冷たいものが背中にある」という安心感も大きく、総じてなかなか快適です*7


背中には約1kgのチャージボトルと200mLの冷却水を背負っていることになるわけですが、恐れていたほど重さは感じません。ただ、ベストを身体に密着させなければならない関係上、若干の窮屈さは感じます。ここはある程度仕方のないところでしょうか。


氷の持ちですが、公称では連続運転で3時間持つことになっていますが、炎天下で使った感じではもう少し短そうな感じです。ただ、当然ながら外気温などにも左右されるので、何とも言えない部分はあります。それでも連続運転で2時間以上はほぼ確実に持ちそうなので、特に自分の当初の目的である夜間に使う分には問題ないでしょう*8。夏の一晩なら予備ボトルと交換しながらで十二分に持ちそうです。


使用後には水をしっかり抜いて乾かす必要がある*9など、メンテナンスが面倒なのは確か。しかし結局、この水冷服を買って以降なんだかんだで日中にもちょいちょい使ってますし、今のところ買ってよかったと思います。

*1:現在では長袖、半袖、ノースリーブなど様々なデザインのものがあります。

*2:特に、Helinoxのように包み込まれるような座り心地の椅子だと危ない気がします。

*3:特許も取得しています。https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7273426/15/ja

*4:背もたれによりかかると、さすがに異物感はそれなりにあります。冷却チューブがつぶれる恐れもあるので、背もたれに全体重をかけるような座り方は止めておいた方が無難でしょう。

*5:「秋水」の事故を思い出したのは内緒(笑) ja.wikipedia.org

*6:おそらく供給電圧の兼ね合いかと思います。

*7:当然ながら、エアコンと違って外気が暑いことは暑いので、おのずと限界はありますが。

*8:夜間なら連続運転ではなく間欠運転でも十分そうな気がしますし。

*9:水袋から水を抜くのはもちろん、チューブも分解して水を抜かなければなりません。

梅雨入り前の駆け込み撮影

例年ならとうに梅雨入りしている時期ですが、関東はいまだにその気配すら見えません。晴天の日も予想以上に多く、13日木曜の夜も快晴の予想が出ていましたので、平日ですがいつもの公園に強行出撃してきました。


もっとも、この日は上弦直前の月が夜半近くまで残る上、夏至間近ということで翌2時37分には早くも天文薄明が始まってしまい、大した撮影時間は取れません。そこで、月明りの影響を比較的受けづらく、かつ短時間で撮影できる天体に対象を絞ることにします。


……必然的に「メシエ天体リスト」を埋めるのに格好の環境ですね ( ⩌⩊⩌)✧


まずは夏の空の「地味天」の1つ、散開星団M18から。地味過ぎて「オメガ星雲」M17とセットで撮られることが多い対象ですが、あえて単独で狙ってみます。そのあとは同じく「地味天」の散開星団M26、対照的に華やかな散開星団M11と移っていきます。


ひと通り散開星団を撮影した後は、「プロソフトン クリア」フィルターを取り外して、いて座の球状星団を狙います。M69、M22と撮影していきますが……さすがに地上高度が低いです。時刻的に南中を過ぎてしまっていることもあり、高度は軒並み20度前後。果たしてこれでどの程度写るでしょうか……。


そうこうしているうちに、気づけばあっという間に天文薄明開始。ここで撤収となりました。さすがは夏至直前。早めに引き上げられるのは体力的にはありがたいですが、少々物足りないというのが偽らざる感想です(^^;


ちなみにこの日は、先日買い足したガイド鏡のテストも兼ねて、赤道儀化AZ-GTi+「BORG55FL+レデューサー7880セット」も同時展開していました。さそり座のM6 & M7を狙うつもりだったのですが……極軸設定に手間取り、撮影する頃には天文薄明直前で高度が10度ちょっとというありさま。光害が酷く、星の写りが悪すぎて構図確認もろくにできず、後で確認すると方向が赤経方向にずいぶんとずれていました。



2024年6月14日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D60mm, f200mm) 赤道儀化AZ-GTiマウント
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出60秒×5コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
32mm F4ガイドスコープ+Lodestar+PHD2によるオートガイド
PixInsight, ステライメージVer.9.0oほかで画像処理

それでも一応、星は点像になっていますし、ログに異常も見られなかったので、ガイドシステムの動作としては十分と見ていいでしょう。


リザルト


というわけで、本命の方の撮影結果です。撮影順にまずはM18から。



2024年6月13日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
Gain100, 60秒×24, ケンコー・トキナー PRO1D プロソフトン クリア(W), ZWO UV/IRカットフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0oほかで画像処理

M18はいて座にある明るさ7.5等、視直径9分角ほどの小さな散開星団です。星の数が少ない上、周囲には天の川の微光星がびっしりとあるため、カタログ番号が若い割にまったく目立ちません。「オメガ星雲」M17の「添え物」的に扱われてしまうのも仕方ないところかもしれません。


しかし、こうやって単独で撮ってみると、周囲に点在する暗黒星雲も含め、案外きれいなもの。ちなみに左下(南東)が明るくなっているのは、この方向に天の川がひときわ明るい領域「いて座スタークラウド」があるため。また、右上(北西)にはHII領域であるIC4701がうっすらと見えています。



2024年6月14日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
Gain100, 60秒×24, ケンコー・トキナー PRO1D プロソフトン クリア(W), ZWO UV/IRカットフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0oほかで画像処理

お次は、たて座にある明るさ8.0等、視直径15分角ほどの散開星団M26。そもそもたて座自体が地味な上、こちらもM18同様、天の川の微光星に埋もれて目立ちません。それでも、ささやかなその姿は、華々しさこそないものの「いぶし銀」の輝きといった趣です。


また、たて座のこのあたりは「スモールスタークラウド」と呼ばれる天の川の明るい領域で、周囲に暗黒星雲が走っているのも興味深い眺めです。



2024年6月14日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
Gain100, 60秒×24, ケンコー・トキナー PRO1D プロソフトン クリア(W), ZWO UV/IRカットフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0oほかで画像処理

散開星団の最後は、同じたて座にある「野鴨星団」ことM11。こちらはM26とは対照的に明るく(5.8等)華やかな星団です。球状星団と見紛うほど星が密集していて、散開星団の密集度としては最も高い部類に属します。


英語圏では、この密集した星々を「群れを成して飛んでいる鴨」に見立てて"Wild Duck Cluster"という愛称で呼んでいて、日本でもこれを直訳した「野鴨星団」という呼び方をされることがあります*1が、正直、それほど普及している感じはしません……というか、どこをどう見ると「群れを成して飛んでいる鴨」に見えるのか、さっぱり分かりません(笑)


この星団も天の川の濃いところにあるため、背景には微光星暗黒星雲がたっぷりで、写真に撮るとにぎやかです。また、右上(北西)にあるオレンジ色の恒星HD174208と青いHD174005との取り合わせも、にぎやかさに花を添えています。


それにしても、さすがは天の川中心部というべきか、暗黒星雲がそこかしこに漂っているのは迫力ですが、都心で分かる程度に写るというのも嬉しい誤算。冷却カメラ様様です(^^)


お次は球状星団




2024年6月13日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
Gain300, 30秒×60, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0oほかで画像処理

M69は視直径が小さい上、南の空低いために見逃されがちな天体です。カタログ的には視直径9.8分*2となっていますが、明るいコアの部分は3分角ほどしかなく、本当なら長焦点鏡を使いたいところです。それでも、ぽつんと輝いている感じは、これはこれで味があります。



2024年6月13日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
Gain300, 30秒×60, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0oほかで画像処理

対照的に、こちらは巨大なM22。明るさ、大きさとも有名なヘルクレス座のM13にも匹敵します。球状星団の密集度合いを示す「シャプレー・ソーヤー集中度」では、全12段階のうちのVIIに相当し、ほどほどの密集度合いということになります。


無数の星が集中している様子は、まさに圧巻というほかありません。どうしてこんな構造が出来上がったのか、本当に不思議でなりません。




撮影済みのメシエ天体は、これでようやく100の大台に到達しました。残り8個。今年中にはなんとかコンプリートできるでしょうか……?

*1:SkySafariなどをはじめとした海外製アプリの普及も影響していそうです。

*2:SEDS Messier Databaseより

ガイド鏡追加

普段、撮影時のガイド鏡としてはBORGの「ペンシルボーグ25」(生産完了品)を用いています。口径25mm、焦点距離175mmのF7と少々暗いですが、導入当時(2014年)としてはそれほど高価というわけではなく、星像も申し分ないので現在まで便利に使用しています。


一方、赤道儀化AZ-GTiを同時展開する場合、比較的広角のカメラレンズを使用していたこともあり、これまでは焦点距離25mm, F4のノーブランドCSマウントレンズをガイドに用いていました。
hpn.hatenablog.com


しかし、焦点距離200~300mmくらいのレンズを用いる場合を考えると精度的にやや不安を覚えます*1し、焦点距離が短すぎてPHD2の「マルチスターガイド」を有効にできないのも難です。


そこで先日、ガイド鏡を追加購入しました。


シュミットの「ショップオリジナル 32mm F4 ガイドスコープ」です。価格は数量限定特価で税込4980円と激安。モノとしてはおそらくAstroStreetで扱われている「32mm F4 マルチファンクションガイドスコープ」と同じものです。


パッと見は鏡筒がカーボン製っぽく見えますが、カーボン風の模様が付いた外装が張ってあるだけで本体は総アルミ製です。価格の割に作りはしっかりしていて、本体のガタが問題になることはまずなさそうです。


鏡筒は二重構造になっていて、ねじ込み式の内筒を繰り出すことでピントを合わせます。ねじのピッチは細かく、かなりしっかりとピントを合わせることができます。合焦後は、赤いロックリングを締めこむことで内筒を固定する仕組み。ファインダーでしばしば見かける方式ですね。


全部バラすとこんな感じ。ねじ込み部分は7cm近くもあるので、スティック型のガイドカメラを最奥まで押し込むような使い方をしない限り、ピントが合わないことはまずないと思います。


接眼部は31.7mmスリーブ。加えて、外周にはM42, P0.75のねじが切ってあるので、TマウントやZWOなどのCMOSカメラを直付けできます。まぁ、このねじで固定してしまうとガイドカメラの角度が固定されてしまう*2ので、素直に31.7mmスリーブを使った方がいいとは思いますが……。


対物レンズはおそらく1群2枚の標準的なアクロマートレンズ。安価とはいえ、コーティングはしっかりされています。ちなみに、フタは金属製のねじ込み式のものがついてきます。ふとした拍子に取れてしまう心配がないとはいえ、付け外しはちょっと面倒ですね。


また、これに伴い、フード内部にはM42, P0.75のねじ溝が切られています。


後述するように像質は「もうひとつ」というところなので、このねじを利用して口径を絞ったり*3色収差やシンチレーションの影響低減用に赤~近赤外のフィルターを装着してもいいかもしれません。


脚部にはミニアリガタが1/4インチカメラねじで取り付けられていて、一般的なファインダー台座に装着可能になっています。


このアリガタを外すと、10mm間隔で開けられた1/4インチのねじ穴が3つ現れるので、これを利用した柔軟な取り付けが可能です。


例えば「BORG55FL+レデューサー7880セット」に同架するとこんな感じ(例として、StarlightXpressのLodestarをガイドカメラとして装着しています)。ここで使われている、同じくシュミットで取り扱いのあるアリガタは10mm間隔で長穴が開けられているので、ベストマッチです。
www.syumitto.jp


さて、気になる像質ですが、ASI290MCを用い、ペンシルボーグ25と撮り比べるとこんな感じ。



ペンシルボーグ25


32mm F4 ガイドスコープ

焦点距離が違うので拡大率が違うのはともかく、F4という明るさもあってか像はそれなりに甘いです*4。実際、夜間に使ってみても星像はややぼってりしていました。


とはいえ、ガイド鏡に良像が求められるわけではありませんし、一通りちゃんと写ってくれれば十分でしょう。このご時世、これが5000円を切るのですから、ありがたいことです。

*1:PHD2を用いる場合、撮影鏡とガイド鏡の焦点距離の比が10:1くらいでも問題なくガイドできますが、余裕があるに越したことはありません

*2:オートガイドの仕組み的には、赤経赤緯の方向とガイドチップの縦横をなるべく一致させた方が精度が出ます。

*3:写真の「T2-1.25" フィルターアダプター」を装着すると、口径は28mmとわずかに絞られ、F4→F4.6となります。

*4:ペンシルボーグがアクロマートの割に優秀過ぎるというのもあるのですが。