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「銀河祭り」だ、やっほい!

先の土日は新月期と晴天が重なり、絶好の撮影日和……と思いきや、土曜日は東京23区に強風注意報が出るありさま。ネットを見てると遠征した方も多かったようですが、この日はさすがに出撃を見送らざるを得ませんでした。風が気になって気分もイマイチ乗りませんでしたし。


そこでやむを得ず1日ずらして翌日、いつもの公園に強行出撃してきました。次の日は当然平日なのでキツいのですが、そこにはあえて目をつぶります(ぉぃ


持ち出した鏡筒はED103S+SDフラットナーHD(焦点距離811mm)。本当は「春の銀河祭り」ということでEdgeHD800を持ち出したかったのですが、強風注意報が出ていないとはいえ、特に宵のうちはそこそこ風が強かったので安全策を取りました。SXP赤道儀がもう少し風に強ければなぁ……。


「銀河祭り」を開催するのは、おとめ座やかみのけ座がもう少し高く昇ってきてから。というわけで、宵のうちは小手調べにおうし座の超新星残骸「かに星雲」ことM1を。この天体は過去3回にわたってEdgeHD800でチャレンジしていますが、いずれも悪シーイングなどで写りが今ひとつ。今回はL-UltimateとLPS-D1でそれぞれ撮影して組み合わせるつもりですが……そこそこ風がある中でどうなることやら。


おまけに、撮影途中には「かに星雲」の方向にだけ雲がorz 雲に妨害されたのは正味20~30分ほどだったのですが、あとの撮影予定が詰まっているとやきもきします(^^;


ともあれ、10時ごろには「かに星雲」の撮影を切り上げ、いよいよ「春の銀河祭り」開幕です!



まずは、かみのけ座の系外銀河M85から。これは細部構造に乏しいレンズ上銀河なのでほどほどの露出で切り上げ、次いでM98 & M99、M88 & M91と流していきます。ここ最近の撮り方では「ひと晩に1対象」がスタンダードだったのですが、数を稼ぐこういう撮り方もこれはこれで楽しいものです。


それにしても寒いです。気温は日が落ちてから急降下して3℃ほどに。風速も常時3~4m/sあって、時折5m/sを超えるような風も吹き付けます。風速1m/sごとに体感温度は1℃下がると言いますし、一晩中0℃(体感温度)付近をウロウロしていたようなものでしょうか。


一応、真冬の寒さにも対応できるような装備をしてはいましたが、3月だとまだまだこういう寒さの日もあるのですね……。


リザルト


というわけで撮影結果です。まずは「かに星雲」M1から。通常の光害カットフィルター(LPS-D1)とデュアルナローバンドフィルター(L-Ultimate)で撮ったものは、それぞれこんな感じ。




LPS-D1で撮った方は「かに星雲」として図鑑などでもよく見る姿ですが、L-Ultimateの方は……



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予想外だったのですが、どうやら「かに星雲」のフィラメント全体としては、OIIIの成分が思った以上に強いようです。また、L-Ultimateでは硫黄由来の赤(SII:波長672.4nm)がブロックされてしまうこともあり、想像以上に青くなってしまったようです。*1


とはいえ、これはこれで結果なので、両者を合成して……はい、ドンッ!




2024年3月10日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
カラー画像:Gain100, 300秒×12, IDAS LPS-D1フィルター使用
ナローバンド画像:Gain350, 300秒×12, Optolong L-Ultimateフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0nほかで画像処理

フィラメントの強調された、なかなか不気味な姿になりました(笑) 今まで撮った「かに星雲」の中では最もくっきり写ってくれましたが、トータルの露光時間の短さとシーイングの悪さ、強風の影響*2で、分解能としてはもうひとつといった印象。見られる季節が冬場なのでなかなか難しいですが、シーイングがいいときに長焦点鏡で狙ってみたいものです。


次いでM85。




2024年3月10日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain100, 300秒×16, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0nほかで画像処理

楕円銀河と渦巻銀河の中間的な性質を持つと言われる「レンズ状銀河」と呼ばれるタイプの銀河です。「マルカリアンチェーン」などがある銀河の密集地帯からは北に外れていますが、「おとめ座銀河団」の一員です。地球からの距離は約6000万光年。




M85の左側(東側)には棒渦巻銀河のNGC 4394があります。この銀河と、M85のすぐ南にあるMCG+03-32-028という銀河はM85と相互作用していると言われています。



次はM98 & M99



2024年3月10日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain100, 300秒×24, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0nほかで画像処理




M98はかみのけ座にある渦巻銀河で、おとめ座銀河団の一員です。渦巻銀河をかなり傾いた位置から眺めた形となっています。


この銀河で特徴的なのは、他の多くの銀河が宇宙の膨張に従って遠ざかっている*3のに対し、約140km/sという速度で私たちの銀河に近づいてきている点です。これは、この銀河が銀河団とは別に大きな固有速度を持っていることを示しています。この速度から逆算すると、約7億5000面年前、現在では約130万光年離れているM99と相互作用した可能性があります。




M99は渦巻をやや斜めから見下ろした形の銀河です。腕がかなりはっきりしていて、歴史上、M51に次いで渦巻構造が観察された銀河でもあります*4


M99は腕の1本が大きく開いていますが、これはなんらかの重力作用によるものと考えられています。有力な候補の1つは上でも触れたM98との接近なのですが、2005年に「VIRGOHI21」*5と呼ばれる天体がM99の伸びた腕の先に見つかり、腕の歪みはこれの影響なのではないかという説が出てきました。VIRGOHI21は恒星を含まず、そのほとんどが中性の水素を含む暗黒物質ダークマター)からできている天体*6で、初の「暗黒銀河」の候補として注目されています。


ただ、VIRGOHI21の素性については、M98とM99とが接近したときに潮汐作用で放出された物質に過ぎないのではないか、といった異論もあり、いまだ議論が続いています。



そしてM88 & M91



2024年3月11日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain100, 300秒×24, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0nほかで画像処理

目立つ銀河が3つ写っていますが、右端(西側)がM88、中央がM91、左端がNGC 4571です。




M88は見事な渦巻き構造を持つ銀河で、アンドロメダ銀河M31のミニチュアのようです。この銀河もM99と同じく、かなり早い段階でロス卿により渦巻構造が発見されています。シーイングのいいときに長焦点鏡で単独で狙ってみたいですね。




M91はおとめ座銀河団に属する棒渦巻銀河です。中央の棒構造は明瞭ですがが、それに比べると腕はそれほどハッキリしていません。これはM91がガスに乏しく、星の形成活動が不活発なためで、こうした銀河を「貧血銀河」と呼びます。このような銀河が、将来さらにガスを失い、星形成も低調になって、より不活発な「レンズ状銀河」へと進化していくのかもしれません。


M91は1781年3月18日、シャルル・メシエによって発見されました。この夜、メシエは実に8つの銀河と1つの球状星団を発見しているのですが、M91は発見した8個の銀河のうちで最後に記録されました。ところが、メシエがM91の位置を記録した際、M58を基準にしたつもりが誤ってM89を基準にしてしまったため、該当する位置に銀河がなく、長らく「失われた銀河」となっていました。


そのため「M91」については、メシエが銀河と間違えて彗星を記録した、M58を重複してカウントしてしまった、あるいはNGC 4571がM91である*7といった説がまことしやかに流れていたのですが、1969年にテキサス州フォートワースのアマチュア天文家ウィリアム・C・ウィリアムズが、この基準位置の誤りに気付き、ウィリアム・ハーシェルが独立に発見していた棒渦巻銀河NGC 4548がM91であることが明らかとなりました*8




ちなみに、ハーシェルが「M91の候補」として挙げたNGC 4571ですが、こちらも腕のハッキリしない渦巻銀河で、本物のM91と同様、ガスに乏しく星の形成活動が不活発だと考えられています。姿がおぼろげな上に11.3等とかなり暗いので、当時メシエがこれを発見できたかどうかはかなり疑問なように思います。






さて、これで都心から撮ったメシエ天体はようやく88個に到達。残り20%までこぎつけました。残っているのは散開星団が3つ(M11, M18, M26)、系外銀河が3つ(M74, M94, M102)、あとは全て球状星団です*9。どこかで「球状星団祭り」を開催しませんと……。

*1:かに星雲」は、この手の星雲にしては珍しくSIIの強度が高めです。ちなみに、SAO撮影を行ってパレットをいじると、もっと「ゲーミング」っぽくなります(笑)

*2:BXTで救うにしてもやはり限界があります。

*3:おとめ座銀河団自体、約1100km/sの速度で銀河系から遠ざかっています。

*4:1846年、第3代ロス伯爵ことウィリアム・パーソンズ(72インチ望遠鏡、通称「パーソンズタウンのリヴァイアサン」で有名)による。

*5:「VIRGO・HI・21」と読みます。VIRGO(ヴィルゴ)はおとめ座のこと、HI(エイチ・ワン)は中性水素のこと、21は中性水素原子が放射する波長21cmの電磁波を指します。

*6:なので、残念ながら光学的には観測できません。

*7:ウィリアム・ハーシェルはそのように考えていたようです。

*8:Sky and Telescope, 38(6), 1969, P.376

*9:興味の偏りが明らかです。

CP+ 2024

毎年恒例、CP+が今年もパシフィコ横浜で今週末まで開催されています。


完全にコロナ禍から脱した(脱したとは言ってない)中で、各社がどのような展示を行うのか注目……ということで、例年通り、天文関連製品中心にレポートしていきたいと思います。

ビクセン


まずは国内勢の雄、ビクセンから。今年は、入り口から比較的近いところにやや大きめのブースを構えていました。


ブースの一番目立つところに展示されていたのが「VSD70SS」。昨年発売されたVSD90SSのダウンサイジング版といった立場の製品です。


実際、VSD90SSの「口径90mm、焦点距離495mm(F5.5)」というスペックに対して、VSD70SSは「口径70mm、焦点距離385mm(F5.5)」ときれいに比例。レンズ構成も全く同じと言ってよく、接眼部や逆付けにしてコンパクトに収納可能なフードなども同じです。ただ、接眼部が太くなってしまう関係上、鏡筒バンドは前方に向かって絞られたようなデザインになっていて、あまり不格好にならないよう工夫されています。


あくまで参考出品扱いですが、それほど時間をおかずに出てくるのではないかと思います。


また、同時に展示されていたのがVSD90SS、VSD70SS共通の「VSDレデューサー V0.71」。その名の通り、焦点距離を0.71倍(F5.5→F3.9)に短縮するレデューサーです。曲率の強いレンズも使われていて、かなり高品質そうな印象です。「SDレデューサーHDキット」を出して以降、ビクセンの補正レンズはなかなか優秀なので、こちらも期待できそうです。



もう1つは「SDP65SS」。口径65mm、焦点距離360mm(F5.5)のSDアポクロマート屈折です。SDレンズとEDレンズを1枚ずつ含む4枚玉の鏡筒で、VSDシリーズのさらに弟分といった感じです。


面白いのは2通りの鏡筒が展示されていた点で、1つは通常の鏡筒同様、ドローチューブの抜き差しでピントを合わせるタイプ(写真上)。もう1つはレンズ群の方を前後させてピントを合わせるタイプ*1です(写真下)。後者は、接眼部に可動部がないために重量のあるカメラなどを付けても問題が起きにくいのが利点。また、フードの内部でレンズ群が前後するので鏡筒自体の全長は変わりません。ピントのロックは、鏡筒上部のネジでレンズ群の収まった内筒を押さえることで行います。構造としてはこちらが本命のようです。


似たような構造はWilliam OpticsがPleiades68などで行っていますね(あちらの方がもう少し凝った作り)。
www.astroshop-tomita.com


もっとも、未だに2通りの鏡筒が展示されていることでも分かる通り、この鏡筒については、製品化はまだもう少しかかりそうな印象。デザイン含め、さらなるブラッシュアップに期待したいところです。


この鏡筒にもレデューサーは用意されています(0.8倍)。レンズ径が小さく見えますが、これでもフルサイズはカバーしているとのこと。この鏡筒では、ケラレの影響を抑えるために最終レンズ部分で光束を絞る設計になっていて、その分、レンズが小さくても大丈夫ということなのだと思われます。


なお、この鏡筒を含め「最近の鏡筒に対してレデューサーを用意するべきかどうか」については社内でも議論があるようです。たしかに、レデューサーを使うと一般的に周辺光量は低下しますし、像質も低下しがちです。そして単純に、光学設計も手間がかかる……。ならば、焦点距離がやや短めでフラットな光学系だけを用意しておいて、他の焦点距離が欲しければトリミングしたり、カメラを他のフォーマットのものに換えたり、あるいは単焦点のカメラレンズのように鏡筒自体を換えていけばよい、というのは一つの考え方かと思います。実際、自分もレデューサーの使用頻度はそれほど高くなかったりしますし……。


とはいえ、F値が明るくなるなどレデューサーに魅力があるのも確か*2で、案外さじ加減が難しい問題かもしれません。



光学系としてはこのほか、低価格のラインとして「SDE72SS鏡筒」「ポルタII-AE81M」とが展示されていました。


前者はSDレンズを用いたオーソドックスな2枚玉アポクロマートです。光学スペックは口径72mm、焦点距離432mm(F6.0)。たたずまいから海外製品のOEM*3 *4かと思いますが、デュアルスピードフォーカサーを標準装備していたり、合焦機構が(クレイフォードではなく)ラック&ピニオンだったりと結構本格的。


焦点距離を0.8倍に短縮するレデューサーやカメラの回転装置も用意されています。現在の低価格ED鏡筒であるED80Sfよりも力が入っている印象で、まずはこれで天体写真というものに親しんでもらおうという心づもりのようです。


ポルタII-AE81Mも、現行のA80Mfに比べて合焦機構がラック&ピニオンに進化。光学スペックは口径81mm、焦点距離910mm(F11.2)と極めてオーソドックスですが、なかなか使いやすそうです。


なお、この鏡筒のみ、レンズ間のスペーサーが昔ながらの錫箔になっていました。星像に「ヒゲ」が生えるため、写真を撮る場合には嫌われがちな錫箔ですが、この鏡筒の場合は眼視が主でしょうから、特に問題にはならないでしょう。


個人的に一番嬉しかったのは「直焦ワイドアダプター60DX for 48mm」の登場です。


これまで、冷却CMOSカメラを接続するにはEOS-EFマウントアダプターの類を介さざるを得ませんでした。この構成の場合、フィルターを直焦ワイドアダプター以降に入れることができず*5 *6、フィルターを交換する場合はいちいち補正レンズを取り外す必要がありました。また、EOSマウントアダプターの光路長*7や迷光の有無、スケアリングなどにも不安があり、EOS-EFマウントアダプターは使いたくないのが本音。いっそのこと、接続用の部品を特注しようかとも覚悟していたのですが*8、これが出てくれるなら話は別です。自由度が大きく上がるのは確実なので、早い登場を期待したいところです。


ビクセン製のオートガイドカメラ「VA225C」。型番からも分かる通り、ソニーの1/3型CMOS、IMX225を採用したガイドカメラです。価格は税込29700円。専用のオートガイドソフトで利用できるとはいえ、カメラ自体は極めてオーソドックスなもので、単純な価格面だけからいえば、同じスペックでSVBONYのSV905Cが13980円で買えてしまいます。ただ、初心者からすればガイド鏡*9やオートガイドソフトも含め、オールインワンで揃えられるというのは心強いだろうと思います。*10


こちらは「ウェイト軸アクセサリーホルダー」。モバイルバッテリーを搭載したり、側面のカメラネジ(1/4インチ)を利用して雲台&カメラを載せたりと、アレンジが自由になります。シュミットの「ShaftCube」と同じような発想ですね。
www.syumitto.jp


Celestronからは、スマート望遠鏡(電視観望専用機)「Origin Intelligent Home Observatory」*11。RASA光学系を用いた口径152mm、焦点距離335mm(F2.2)の鏡筒で、カメラはシュミカセで言うところの副鏡の位置にあります。


カメラはIMX178(1/1.8型)を用いた非冷却のもの。カメラが格納されているハウジングにはフィルタードロワーも装備されていて、1.25インチまたは2インチのフィルターが使用可能です。見ての通り、カメラが本体に「内蔵」されているわけではないので、将来的にはカメラの交換も可能な作りになっています。ここは他社製品に比べて大きな利点です。


本体後部には通信およびデータ取り出し用のLAN端子およびUSB端子が用意されています*12。また、架台は経緯台式ですが、将来的にはウェッジを追加して赤道儀として使用することも可能になる予定で、より安定した天体追尾が行えるようになるはずです。


本体にはそのほか、結露防止ヒーターや温度順応のためのファン、システム冷却用のファンも備えています。各種操作は専用アプリから。


昔から天体望遠鏡のコンピュータ化に積極的に取り組んできたセレストロンだけに、機能に隙はない感じですが、ハイスペックだけに価格も相当なものになりそう。海外では約4000ドルで予約販売されていますが、他のセレストロン製品の国内価格と比較すると、80万円を超えてきても不思議ではありません*13。ZWOのSeeStarあたりとは狙う市場がまったく違っているのは確かですが、さすがに値付けが強気に過ぎる気はします。


ここまで大がかりなら、高くなってもむしろ冷却カメラを採用した方が……とも思いましたが、さすがに敷居が上がりすぎでしょうか?


あと、「Smart DewHeater Controller」の国内販売がようやく決まったようです。昨年、セレストロン製の鏡筒用に結露防止ヒーターリングが発売されましたが、コントローラーだけはなぜか別。結果としてフルパワーで電力を垂れ流すしかありませんでした。フルパワーだと8インチ用でも12V・1.7A……つまり約20Wという消費電力なので、なかなかバカになりません。


しかしこのコントローラーがあれば、温度と湿度を監視しながら最適な出力にコントロールしてくれるので、だいぶ使い勝手は変わってくるはず。なんでこれを最初からセットで販売しなかったのか……orz


ただ、価格に関しては例によってかなりレートが高めなので、結構な金額になるのではないかと思います。アメリカでの価格が「Smart DewHeater Controller 2x」が259.95ドル、「Smart DewHeater Controller 4x」が439.95ドルなので、それぞれ5~6万円、9~10万円程度してもおかしくありません。


サイトロン


今年も大きなブースを構えたサイトロン


最大のトピックは開発中の新型鏡筒こと「SR2-001」と波動歯車装置採用の「SJX赤道儀でしょう*14


SR2-001は、口径75mm、焦点距離375mm(F5.0)のSD、EDレンズを含む6枚玉屈折です。


設計上のその像質はすさまじく、11波長*15を用いたスポットダイヤグラムにおいて、中心部の星像の「直径」が0.67μm、イメージサークル(フルサイズをカバーするφ44mm)の最外周でも1.31マイクロメートル。ストレール比も、中心が99.2%、最外周でさえ97.3%という驚異的な値を叩きだします。


当然、エアリーディスク径すら優に下回る数値で、こんな高性能が要るのかと疑問になるところですが、この高性能には大きなメリットが1つ。それは「温度変化によるピント位置の変化に鈍感になる」という点です。


一般に、撮影中に温度が低下していくと鏡筒やレンズの収縮でピント位置がずれてくるので、撮影中に何度かピントのチェックが必要になることが多いです*16。ところがこの鏡筒の場合、元々の結像性能が極めて高いので、ピントが多少ズレたとしても星像がエアリーディスクの範囲内に収まり、ピントがずれたように見えないというわけです。


この高性能を担保するため、レンズに施すコーティングはレンズの曲率などに合わせて一面ごとに最適化を行うという徹底ぶり。ラック&ピニオン式のドローチューブも、チューブ両脇にガイドレール(写真中央)を設け、重量級の機材を取り付けても歪むことがないようにしています。


と、ほとんど理想的ともいえる望遠鏡ですが、ひとつ断りを入れておくとすれば、現時点では「設計上では」という注釈がつくことを忘れてはいけません。スペックはあくまで理論上の値で、展示されているのもプロトタイプです。実際に量産に入ったとして、どの程度のバラツキで生産ができるものなのか……。工場の能力を疑うわけではありませんが、そこは注意しておく必要があるかと思います*17


それにしても、ビクセンサイトロンも「口径70mm前後、F5程度」という似たようなスペックを目標に定めてきたのは面白いところです。口径6cm以下だと性能的に物足りない、8~10cmを超えると中華勢とのガチンコ勝負になってしまいコスト的に厳しい……ということで、このあたりのスペックに落ち着いたらしいですが、市場が狭いわりに隙間を縫うようなかじ取りが求められて、なかなか難儀な業界だと思います(^^;




……そうそう。まったく関係ない余談ですがこの鏡筒の発表会の際、「天文リフレクション」の山口編集長に、ようやくリアルでご挨拶することができました。いつもありがとうございます。



(記念に頂いたステッカー)




閑話休題(^^;


SJX赤道儀は、最近採用例が急増している波動歯車装置(いわゆる「ハーモニックドライブ」と同様のもの*18)を採用した赤道儀です。




https://www.sightron.co.jp/cpplus2022/sightron_mount2.htmlより)

元々、「SJX赤道儀」は2022年のCP+において「Sky-Watcher AZ-GTiマウント」のファインチューニング版として発表されたものですが、今回登場したSJX赤道儀は全くの別物。おそらくですが、本家Sky-WatcherからAZ-GTiの赤道儀版とでも言うべき「Star Adventurer GTiマウント」が発売されたこともあり、企画内容を変更したのかもしれません。


さて、このSJX赤道儀、自重10kgに対し、積載可能重量はバランスウェイト使用時に20kgと、波動歯車装置採用の赤道儀らしい数字です。とはいえ、ZWOのAM5赤道儀の「自重5kg、積載可能重量最大20kg」のようなインパクトはありません。これはおそらく十分安全を見込んだ数字なのでしょう。海外製の赤道儀はえてして数字を盛りがちなので、その意味では誠実でかえって好感を持てます。


なお、赤道儀の外観、仕様はまだまだ変わりうる段階ですが、今のデザインは十分美しいように思います。ちょうど先日、Sky-Watcherの波動歯車装置採用の赤道儀の画像がXのTL上に流れてきましたが……




あくまでも主観ではあるもののなかなかアレな外観*19で、「機能が想像できるデザイン」というのは大事だなと痛感したところです(^^;


SR2-001+SJX赤道儀の足元には、小さな望遠鏡が鎮座していました。こちらは「D50」という、口径50mm、焦点距離540mm(F10.8)のアクロマート望遠鏡です(架台は別)。見ての通りの初心者向け望遠鏡ですが、SR2-001と同じくこちらも国産で、口径の割に良く見えるとのこと。おそらくそう無茶な値段にはならないはずなので、子供たちなど、初心者開拓に一役買ってくれるといいなと思います。この夏発売予定とのこと。


ブースの目立つところには、NEWTONYやMAKSYといったお馴染みの学習用天体望遠鏡が並んでいますが、その端っこにひときわ目立つ金ピカの鏡筒があります。古い天文ファンの方は、昔、テレビューで販売されていたRenaissanceという真鍮製の鏡筒を思い出すかもしれません。


実はこれ、Sky-Watcherの創業25周年にちなんで作られた記念モデル。仕様も特別で……


アイピースがねじ込み式だったり、


光軸調整装置が備わっていたりします(笑) もっとも、NEWTONYである以上、性能自体はアレだとは思いますが……(^^;



一方、ブースの外周にはSky-Watcherの新製品がずらりと並んでいます。ただ、これらについては情報が少なく、スタッフ自身も不明な部分が多いということで、こちらもあまり詳しい説明はできません。


「Honders Advanced Camera 125」こと「HAC125」。口径125mm、焦点距離250mm(F2.0)のハイスピードアストログラフです。


「Honders」と言えば、Riccardi-Honders光学系のKlaas Honders氏が真っ先に思い浮かびますが、たぶんその「Honders」でしょう。Riccardi-Honders光学系といえばOfficina Stellareのハイスピードアストログラフ「RH Veloce」が有名ですが、筒先にカメラがあるあたり、Riccardi-Honders光学系とは全く関係なく、RASAのように主焦点を利用する光学系のようです。


鏡筒の底には光軸調整用のネジがあるだけで、非常にシンプルな外観です。


筒先から覗くと、カメラと補正板が見えます。取り付けられていたカメラはPlayerOneのSEDNA-M。1/1.8型CMOSであるIMX178を搭載したカメラです。おそらくこれをカバーする程度のイメージサークルはあるのでしょう。


補正板の反射を見る限り、補正板の曲率はあまり大きくなさそうです。


少し横から見ると、カメラが31.7mmスリーブに差し込まれているのが分かります。その奥にはギザギザの刻まれたリングが。ピントの微調整はここで行うのでしょうか?明るい光学系だけに、下手に主鏡移動式を採用すると光軸が傾きかねないので、こうした構造になっているのだと思いますが、ピント合わせはなかなか厄介そうではあります。


なお、これを見る限り中央遮蔽はφ40mmくらいはありそうで、仮にそうだとすると実効F値は3.3くらいにまで落ち込みます。多分価格はそれほど高くなく(というか、高くならないといいなぁ)、面白い鏡筒だとは思いますが、過度の期待は禁物なように思います。


片持ちフォーク式の「HAZ Alt-Azimuth Mount」赤道儀モードで25kg、経緯台モードで35kgの積載可能重量を誇る大型架台です。重心の低さもあって、安定感を感じます。


しかし……このスタイル、どこかで見たと思ったらAvalon InstrumentsのM-zero obsにそっくりですね……(^^;
www.avalon-instruments.com


こちらはセレストロンのNexStar のパクリ によく似た「LAZGT Mount」。本体重量8kg、積載可能重量12kgで、アリガタがビクセン/ロスマンディ両規格対応になっていることから幅広い鏡筒を載せることができそうです(構造上、長さには制限があります)。制御はSynScanのアプリなどで行うので、それこそAZ-GTiマウントと同じ感覚で扱えそうです。


架台部分だけ取り外して、前述のHAZマウントに載せて赤道儀として用いる方法も提案されていました。


今回のSky-Watcher関連の展示の中で最大のトピックの1つがこれ。Hα太陽望遠鏡の「Sun76」です。口径76mm、焦点距離630mm(F8.3)という仕様で、フィルターの半値幅は0.5Å以下を標榜しています。


エタロンの調整は、鏡筒中央部の銀色のノブを手動で操作して行います。ブロッキングフィルターは、天頂プリズム部分に内蔵されているオーソドックスな形式です。


Hα太陽望遠鏡は長らくCORONADOとLUNT SOLAR SYSTEMSの二社による実質的な寡占状態が続いていて、高値で安定してしまっています。高値には、中心コンポーネントであるエタロンフィルターの製造の難しさという側面も確かにあるのですが、決して健全な市場とは言い難いのも事実。そこに風穴を開けるという意味で、この鏡筒には非常に大きな期待がかかります。


ただ……案の定というかなんというか、「他社の特許に引っかかっているのではないか?」という疑惑がまだ残っているようで、実際の発売がいつになるのか?というか、そもそも発売できるのか?というのは不透明な状況にあるようです。うまくクリアできているといいのですが……。


昨年、トラバース自動導入経緯台を投入したACUTER OPTICSは、口径60mm、70mmという小口径マクストフカセグレンをフィールドスコープとして投入。


小口径にもかかわらず、安価な「グレゴリー式」ではなく「ルマック式」を採用*20しているようですし、F値も無理をしていない*21ので性能にも期待が持てそうです。


ブースの反対側に回ると、Askarの恐竜的進化の極北、「Askar 185APO」の巨体が姿を現します。写真だとその大きさがピンときませんが、下の架台が中型赤道儀ではなく、Sky-Watcherの大型赤道儀EQ8-R Proであることに注意。本当にとんでもないサイズです。


口径185mm、焦点距離1295mm(F7)、EDレンズ1枚を含む3枚玉で、全備重量17.2kgという……。昨年展示されていた151PHQも相当な大きさですが、あっさり上回ってきました。どこまで行くんだ、Askar……。


その横にはAskarやSharpstarの製品がずらりと。下段一番手前にあるのは新製品の「Sharpstar 50EDPH」。スペックは口径50mm、焦点距離275mm(F5.5)、EDレンズ2枚を含んだ3枚玉アポクロマートです。0.84倍の専用レデューサーも用意されていて、これを用いると焦点距離230mm(F4.6)まで明るくなります。


それにしても、以前もどこかで書きましたがAskar/Sharpstarの商品展開速度は驚くばかりです。「とりあえず出してみて、ダメだったら次」という、トライ&エラーというか、カニバリゼーション上等というやり方なのでしょう。分野は違えどスペースXにも通じるような手法ですが、こういう荒っぽいのは良くも悪くも日本企業には難しいでしょうね……。


ブースの片隅で展示されていた「ステップアップリング 36-48」「レデューサー0.75× アメリカンサイズ」


前者は、Askar FMA135の筒先に付けることで2インチフィルターの利用を可能にするもの。ちょうどいいリングは市販でなかったですから、こういう形でフォローしてもらえると助かる人も多いはずです。


後者は、CMOSカメラのノーズピースなどに付けて鏡筒の焦点距離を0.75倍に短縮するもので、どうしても視野が狭くなりがちな電視観望において効果を発揮すると思います。先端にはフィルターねじも完備。この手の製品はこれまで、笠井トレーディングが取り扱っている「31.7mmアイピースレデューサー」くらいしかありませんでしたから、それと比べて実際の性能がどの程度なのか、気になるところです*22


新製品の「SCT-33/AD-SWカーボン三脚」。4段の非常にコンパクトな三脚ですが、脚の最大径は4cmと太く、見た目以上にがっしりしています。小さくたためるので海外遠征などには重宝するでしょう。


サイトロンの数ある展示品の中で、ひときわ異彩を放っていたのがこれ。星見専用めがね「Stellar Glass」です。暗いところでは人間の目のピントが合いにくい点*23に着目し、あえて弱い凹レンズ(-0.25ディオプター程度)を噛ませることで、強制的に無限遠にピントを合わせてやろうというメガネです。スタッフ曰く「逆ハズキルーペ」。近くのものを見やすくするルーペの逆、という意味で、まさに言いえて妙だと思います。モノは樹脂素材で軽く、本家のハズキルーペと同様メガネの上からでも掛けられます。


発想がユニークで、実際に星まつりで体験してもらった時には大好評だったとのことです。ただ惜しむらくは、暗いところでこそ効果を発揮するツールゆえ、明るいCP+の会場では効果がほとんど分からなかったこと。同様の理由で、都心や都会近郊の明るい空では効果がちょっと減弱するんじゃないかという気がします。


いわゆる「スマート望遠鏡」(電視観望専用機)の先駆けの1つであるvaonisは新モデルの「VESPERA II」と、「HESTIA」とを展示していました。


VESPERA IIは、口径こそ50mmと旧モデルと同様なものの、焦点距離が200mmから250mmへと変わり、一方でセンサーがIMX462(1/2.8型、1920 x 1080ピクセル)からIMX585(1/1.2型、3840 x 2160)に大きく進化しています。


スマート望遠鏡はこのセンサーの進化が地味に痛いところで、光学系に比べて画像系が陳腐化しやすいのです。特に、VESPERAシリーズは価格が決して安くない*24ので、製品としてなかなか厄介だと思います。


一方のHESTIA。こちらは逆に思い切った製品で、HESTIA自身には口径30mmの光学系しか載っておらず、天体追尾のためのモータすらありません。使い方は簡単で、手持ちのスマホをこのHESTIAにセットし、専用アプリから撮影するだけ。あとはアプリの側で撮った画像の位置合わせ、スタッキングを自動で行い、最終的な画像を得るという猛烈な力技です。


ただ、太陽や月は問題なくとも、特に星雲や星団の撮影にはスマホ自身のカメラ性能が大きく影響してくるので、現時点でサポートされているスマホは限られています。方法としては安価なのでしょうけど、振り切る方向が極端というかなんというか……。




ZWO


今回初出展のZWOは、スマート望遠鏡のSeeStarやAMシリーズの赤道儀、惑星撮影用カメラなどを中心に展示していました。協栄産業が協力していて、自分が訪れたときには、ブログの担当者であるむらちゃん(id:KYOEI-TOKYO)こと村上さんがブースに立っておられました。残念ながら新製品は特になし。


ASI461MM Proのセンサーは初めて見ましたが、44×33mmというデジタル中判サイズは改めてとんでもなく大きいです。いい画像が撮れそうだけど、光学系に要求するものが高そうな上、隅々までの補正が死ぬほど大変そうです(^^;


隣のASI2600MC Pro(APS-Cサイズ)と比べると、開口部の大きさが一目瞭然です。


ボーグ


ボーグは今回もケンコー・トキナーのブース内にコーナーを設けていました。



展示内容は基本的に昨年と同様。最終的な製品版となったBORG72FL軽量望遠レンズセット【6271】BORG36E電子観望鏡筒【3694】BORG55FL電子観望鏡筒【3695】が展示されていたのが一応新しいところでしょうか。


ボーグのブースの向かい側には、昨年も展示されていたケンコーとの共同企画品MOEBIUS 55が展示されていましたが、このシリーズに関しても特に新しい展開はまだないようです。この製品については価格の高さがネックで、特に、ビクセンサイトロンが初心者向け製品に力を入れてきた現状では、立場が厳しいと言わざるを得ません。「本機ならでは」のメリットを訴求するには、ボーグパーツとの互換性を打ち出すくらいしかなさそうですが……ボーグの情報発信機能は相変わらず死んでいるも同然ですし、そうこうしているうちにボーグの存在感自体が地盤沈下している感じは否めません。


一応、ボーグの新製品は出ていますし、事業として生きてはいますが……そもそもがトミーテックの事業としては傍流もいい所ですし、色々と厳しそうな感じはします。


ケンコー・トキナー


ケンコー・トキナーは大所帯だけに、事業ごとに複数のブースを設けていました。こちらは上述のボーグも入っていた、カメラレンズ、フィルター類以外の製品を主に扱うブース。


並んでいたのは、Sky-WatcherからのOEM品である昔ながらのSkyExplorerシリーズとMeadeの低価格帯ライン、スカイメモといった従来品ばかりで、目新しいものはありません。さすがに、もう少しやる気を見せてくれるとありがたいのですが……。


一方のフィルター関連ブース。こちらにはいくつか面白いものがありました。


まずは昨年末に発売された、「カメラレンズ版バーティノフマスク」とでも言うべきフォーカシングツール「ナイトフォーカス」(写真中央)。これはフィルター表面にバーティノフマスク上のパターンが複数刻まれたもので、バーティノフマスク同様、星像に発生する光条を目安にピントを合わせるものです。


ライブビューを見ると、たしかに明るい照明の周りに光条が発生しているのが分かります。


ただ、このツールはレンズ前面のフィルターねじにねじ込む形になるため、取り付け、取り外し時にレンズに触れてピントや構図が狂ってしまう可能性があります。そこを解決するのが写真右の「スクエアコンバージョンフレーム」(昨年末発売済み)と、写真左の「マグネティック・マウント・システム」です。


「スクエアコンバージョンフレーム」は、丸型フィルターを角型フィルターホルダーにセットできるようにするためのアダプターで、これを使えばレンズにひねる力が加わらないため、ピントがずれる心配が大きく減ります。


また、「マグネティック・マウント・システム」は、レンズ側に「マグネットベースリング」、フィルター側に「コンバージョンリング」をあらかじめ取り付けておくことで、フィルターをマグネット着脱式に変換することができるというもの。これならピントや構図がずれる心配がほとんどありませんし、手袋などをしていてもスムーズにフィルター交換ができます。「ナイトフォーカス」だけではなく各種ソフトフィルターなどと組み合わせても便利に使えるでしょう。


こちらは、レンズ後面に装着するソフトフィルター「リア プロソフトン」。ポリエステル製のシートで、好きな形、サイズにカットして使用します。レンズ後面にセットするので、前玉が突出したいわゆる「出目金レンズ」でも使用可能。ソフトフィルターを広角レンズで用いた際に見られる、周縁部の星が楕円形に歪んでしまう現象も回避できます。


ソフト効果は強さは弱、中、強の3種類がセットで、弱が「プロソフトン クリア(W)」相当、中や強が「プロソフトン[A](W)」くらいの強さになるのではないかとのことでした。


マルミ光機


フィルターと言えば、マルミ光機も星景写真撮影用として、ケンコーと同じようなマグネット着脱式のソリューションを展開していました。


同社は以前から「マグネットスリムフィルター」として、ケンコーの「マグネティック・マウント・システム」と同様なマグネット着脱式のシステムを展開していますが、今回アピールしていたのが「マグネットスリム星景キット」です。


マグネットベース(写真左端)には、色素系光害カットフィルターであるStarScapeフィルターが装着済み(というか、StarScapeフィルターがマグネットベース化されている)。これと、白色系の拡散粒子がガラスに混ぜ込まれているソフトフィルターの1種「ホワイトパウダーミスト1/2」(左から2番目)、「ホワイトパウダーミスト1/4」(同3番目)、専用キャップ(写真右端)がセットになっています。


それぞれは個別に購入することも可能で、ホワイトパウダーミストフィルターには、さらに効果の弱い「ホワイトパウダーミスト1/8」というのもあります。なお、このセットを含め、「マグネットスリムフィルター」は67mm、77mm、82mmの3サイズで展開しています*25。これ以外のサイズに対してはステップアップリングで対応します。


マグネットタイプなので、手袋をしていたり、暗闇でも着脱が簡単。こういうソリューションが各社から出てきたのは歓迎したいところです。




と、例によって長くなりました*26が、めぼしいのはだいたいこんなところでしょうか。今回感じたのは「星景写真への関心の高まり」で、次のチャレンジングな目標として一般の写真愛好家に認識された印象があります。




ケンコーやマルミ光機が星景写真用のフィルターやツールを押し出してきたのもそうですし、そもそも会場で配られている「写真・映像用品年鑑」に星景写真の特集記事が組まれるくらいです(上写真)。


ただ、こうして星景写真にチャレンジする人が増えてくると、問題を起こす人たちが一定数現れてくるのも避けがたい事実。先日は、星空保護区に指定された福井県大野市南六呂師地区において観光客のマナーの悪さがニュースになっていましたが、こうした事態があちこちで起こってくる可能性も否定できません。
www.fukuishimbun.co.jp


撮り鉄問題」の二の舞は勘弁なので、業界(特に、天文関連に比較的疎いカメラ業界)には早い段階からマナー啓発に努めることをお願いしたいです。そして天文ファンの側も、初心者への啓発を折に触れ心がけていきたいところです。


あと、望遠鏡業界についてはビクセンサイトロンともに非常に元気で、今後の実際の製品発表がとても楽しみです。期待しています。

*1:カメラレンズで言えば、おそらく「全群繰り出し式」に相当します。

*2:もっともこれも、「カメラの感度を上げればOK」という面もあります。

*3:というか、フォーカサーの所に「Made in China」とハッキリ書かれてますね。元はこれでしょうか?http://www.sky-rover.com/showproject.asp?ProdNum=262

*4:最初、Sky-WatcherのEVOSTAR 72ED IIあたりかと思いましたが、よく考えると焦点距離が異なる上、合焦機構もあちらはクレイフォードなので別物です。

*5:一応、EOS-EFマウントアダプター内にφ48mmフィルターを設置できますが、交換が面倒なのは一緒です。

*6:フィルターホイールと、それ用のEOSアダプターを買えば可能ではあります。

*7:自分の個体をノギスで測ると、26.5mmの部品長があるはずのところ、25.8mmしかありませんでした。

*8:もし出ていなければ、こちらからビクセンに提案するところでした。

*9:現在の「暗視野ファインダーII」はガイド鏡として使用可能です。

*10:露骨な「囲い込み」と言ってしまえばその通りなのですが。

*11:どうでもいいけどビクセンさん、特設ページの製品の綴りが全部「Intell"e"gent」になってるのですが……(^^;(https://www.vixen.co.jp/activity/cpplus2024/origin/など) 25日に見たら直ってました。気が付いてくれたのかな?

*12:中身はぶっちゃけ、Raspberry Pi 4 Model Bそのものです。

*13:100万円オーダーという声も聞こえてきました。

*14:ちなみに、写真で望遠鏡の横に立っているのが、SR2-001の開発者、傳甫でんぽ淳 氏。珍しいお名前なので調べてみたら、全国でも10~20人程度しかいない苗字だそうです。

*15:一般的には5波長程度を用います。測定波長が増えるほど、条件としては厳しくなります。

*16:たとえば写真派の間で人気のあるタカハシのFSQ-106EDなどは、このピント移動が比較的大きいことで有名で、高性能なこの鏡筒の数少ない泣き所の1つになっています。

*17:理論上の設計値では素晴らしい値を叩きだしたものの、実際の製造技術が及ばずグダグダになったミザールのアルテア-15のような例もありますし(笑)

*18:歯にものが挟まったような表現になっているのは「ハーモニックドライブ」が(株)ハーモニック・ドライブ・システムズ登録商標なため。表現から察せられるように、この赤道儀ではおそらく「ハーモニックドライブ」を使っているわけではありません。

*19:全体が茶筒っぽい上に、その「茶筒」の上にアリガタが直接乗っていて、視覚的にどうしても不安定な感じがしてしまいます。

*20:「グレゴリー式」では、筒先のメニスカスレンズの裏面にメッキをして副鏡の代わりにしますが、「ルマック式」では副鏡を別パーツとして作りこみます。一般に、ルマック式の方が光学系を最適化しやすい分、性能を出しやすいと言われます。

*21:F値の暗いは七難隠す」と言いますし。

*22:実は出所が一緒、というオチもありえますが(^^; 情報によれば、自社生産品とのことです。

*23:暗さそのものに加え、瞳孔が開くことで被写界深度が浅くなるのじゃないかと思います。

*24:Unistellarの製品なども同様です。

*25:ちなみにケンコーの「マグネティック・マウント・システム」は49/52/55/58/62/67/72/77/82mmと幅広い径に対応予定なので、汎用性ではこちらに軍配が上がります。

*26:トータルで2万字近くなっちゃった orz

コンデジ更新

今月頭ごろ、近所の家電量販店に行った時のこと。普段は覗かないデジカメ売り場に足を運んだところ、キヤノンのハイエンドコンパクトPowerShot G7 X MarkIIが約8万円で販売されていました。


同機種は1インチセンサーを搭載した高級機で、発売は2016年4月のこと。2019年にPowerShot G7 X MarkIIIが登場した後も併売が続いていましたが、今年に入って生産・販売が終了となっていました。
asobinet.com


実は、これまで普段使いしていたPowerShot S120(2013年9月発売)は酷使でだいぶ傷んできています(塗装の剥げ、鏡胴部の打痕、擦り傷 etc.)。この買い替えをしばらく前から考えてはいたのですが、PowerShot G9 XやG9 X MarkIIはタッチパネル中心の操作系に不満、G7 XやG7 X MarkII、同MarkIIIはサイズの大きさがちょっと気になる……と、決め手に欠ける状態が続いていたのです。


しかし、G7 X MarkIIがいよいよ販売終了となると気になってきます。販売終了後の相場は明らかな上昇傾向で、中古価格も釣られて上がってきているようです。加えて、「コンパクトデジカメ」というジャンル自体が絶滅寸前で、今後さらに魅力的な選択肢が現れることは期待しづらい状況……。


……一瞬の気絶の後、気づくと手元にはPowerShot G7 X MarkIIがありました。あれぇ……?





前後のサイズ感はS120と同程度(S120:100.2×59mm G7 X MarkII:105.5×60.9mm)。




しかし、厚みはチルト式モニターのせいもあって、さすがにG7 X MarkIIの方が上(S120:29mm G7 X MarkII:42.2mm)。重さもS120の217gに対して319g(いずれもバッテリーパック・メモリーカード含む)と1.5倍ほど重くなっています。


その代わり、操作系はボタンやダイヤルを中心としたもので、タッチ中心のG9 X系のような違和感はありません。なお、メニュー体系はEOSのそれに近いものになり、見通しが良くなりました。


肝心の撮像素子&映像エンジンはS120の「1/1.7型裏面照射型1210万画素CMOS, DIGIC6」から「1.0型裏面照射型2010万画素CMOS, DIGIC7」に進化。レンズはS120の「35mmフィルム換算24~120mm(F1.8~5.7)」に対し、「35mmフィルム換算24~100mm(F1.8~2.8)」となっていて、テレ端がやや短いものの明るさでは上回っています。



F4.5, 1/1250秒, ISO125, ピクチャースタイル:ニュートラ


F5.6, 1/1250秒, ISO125, ピクチャースタイル:ニュートラ


画質についてはさすがに上々で、ややホワイトバランスの反応が敏感なきらいがあるものの、大きな不満はありません(リンク先にて「オリジナルサイズを表示」をクリックすることで縮小なしの画像が見られます)。


そして気になる高感度特性ですが……S120と比較するとご覧の通り。



G7 X MarkII


S120



G7 X MarkII


S120

S120ではISO3200でディテールがやや怪しくなり、ISO6400以上はブログサイズでも「緊急用」の雰囲気が強くなってきますが、G7 X MarkIIでは限界がちょうどほぼ一段分上がった印象です。ISO12800でも、目的次第で十分使い物になるでしょう。



しかし……コンデジは今後どうなってしまうのでしょう?


最近ではスマホのカメラ性能がさらに大きく上がり、夜間の撮影さえ難なくこなす機種も増えました。しかしながら、スマホの画像センサーは1/2.55型や1/3.4型など小型でありながら画素数の多いものが多いです。一般的に、小センサーかつ画素数が多いと画素当たりの受光面積が小さくなり、ノイズ量が増えるなど画質が低下します。また、そもそもレンズが小口径なので、解像度的にもおのずと限界があります。


スマホの場合、こうした画質低下や解像度の不足をソフトウェアで補っている*1わけですが、遠目で見たときは問題がなくても、よく見ると解像感が場所によってバラバラだったり、細部が溶けてしまっていたりと不自然なケースが少なくありません。


その意味で、一眼ほど大げさではなく、スマホほど表現が不自然ではないコンデジは貴重ではあるのですが……やっぱり手軽さや使い勝手の面で、市場から駆逐されてしまうのでしょうか……?(されてしまうんだろうなぁ……)

*1:AIの一般化で、この傾向はさらに強まると思います。