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EdgeHD800 オフアキシスシステム再調整


ASI2600MC Proが手元に届いて約1年になりますが、面倒でずっと後回しにしていたのがEdgeHD800のオフアキシスシステムの調整です。


EdgeHD800の場合、光学系内(バッフル内)に補正レンズが組み込まれているため、設計通りの性能を発揮させるには接眼部~センサーまでの距離をきっちり規定値に収める必要があります。EdgeHD800では、接眼部後端から133mmの位置にセンサーが来なくてはなりません。


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そこで、デジカメを使っていた頃は、上記のようなセッティングでセレストロン純正のオフアキシスガイダーを利用していました。まず、φ52mmフィルターがない場合ですが、

SCTアダプター25.3mm
オフアキシスガイダー本体29mm
M42(オス)Tマウント用カメラアダプター12.5mm
TスレッドスペーサーリングB11.55mm
Tリング(N) キヤノンEOS用10.8mm
EOS KissX544mm
133.15mm

となり、光路長はほぼ133mmとなります。これはセレストロンの推奨設定でもあります。


実際には、カメラ側にマウント内部に装着するLPS-P2-FFを装着することが多いので、光路長はその分伸びます。以下の記事を参照すると、LPS-P2-FFの場合、0.5mmほど伸びるようです。
hdv-blog.blogspot.com


とはいえ、ここで光路を0.5mm縮めるにはおそらくカスタムパーツが必要ですし、妥協せざるを得ないところでしょう。


一方、φ52mmフィルターを使おうとすると、いささか面倒になります。というのも、オフアキシスガイダー自体にフィルターを装着する機能がないためで、やむを得ずボーグの規格に変換してからカメラを装着する形になりました。

SCTアダプター25.3mm
オフアキシスガイダー本体29mm
M42(オス)Tマウント用カメラアダプター12.5mm
M42P0.75→M57AD【7528】8mm
フィルターBOXn【7519】15mm
M57→M49.8ADSS【7923】0mm
カメラマウント キヤノンEOS用【5005】10.8mm
EOS KissX544mm
144.6mm

これだと規定値を10mm以上もオーバーしていて、さすがに像の悪化が無視できません。フィルターとしてNebulaBooster NB1などを使うと、光路長はさらに0.8mmも伸びます。


実際、この組み合わせで撮ると、周辺部の星が細長く伸びているのがハッキリ分かります。しかし、幸い撮影対象は視直径が小さいものが多いのでトリミングで回避できますし、代替手段もないので、これで撮影していました。


ASI2600MC Proとの接続方法を考える


ASI2600MC Proでオフアキシスガイダーを使うにあたって、一番素直な方法は、デジカメをASI2600MC Proでそのまま置き換える方法です。ZWOではEOSシステムでカメラをそのまま使えるよう、「EOS-EFマウントアダプターII・ASIカメラ全般用」というものを販売しています。これを組み込んでデジカメと置き換えると、以下のようになります。


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フィルターを使わない場合の光路長は

SCTアダプター25.3mm
オフアキシスガイダー本体29mm
M42(オス)Tマウント用カメラアダプター12.5mm
TスレッドスペーサーリングB11.55mm
Tリング(N) キヤノンEOS用10.8mm
EOS-EFマウントアダプターII・ASIカメラ全般用26.5mm
ASI2600MC Pro17.5mm
133.15mm


φ52mmのフィルターを使う場合は

SCTアダプター25.3mm
オフアキシスガイダー本体29mm
M42(オス)Tマウント用カメラアダプター12.5mm
M42P0.75→M57AD【7528】8mm
フィルターBOXn【7519】15mm
M57→M49.8ADSS【7923】0mm
EOS-EFマウントアダプターII・ASIカメラ全般用26.5mm
ASI2600MC Pro17.5mm
144.6mm

といった具合です。


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なお「EOS-EFマウントアダプターII・ASIカメラ全般用」は前後二分割できて、そのうちのカメラ側リングの内部にφ48mmのフィルターを装着できるよう溝が切ってあります。ステップアップリングを使えばφ52mmのフィルターを付けられるので、これを使えば長すぎる光路長を短縮できるのでは……と言いたいところですが、内径がぎりぎりのため、これをやってしまうとマウント側のパーツがねじ込めなくなってしまい事実上使えません。


マウントアダプターの怪


ともあれ、これで一件落着……と思ったのですが、ふと思い立ってパーツの寸法を実測してみたところ……


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……!?


なんと、「EOS-EFマウントアダプターII・ASIカメラ全般用」のサイズが違います。公称値だと26.5mmあったはず……。
www.kyoei-tokyo.jp


この件をTwitterでつぶやいたところ、同じサイズの人や「26mmあった」という人、中には公称値通り26.5mmだったと言う人まで現れる始末。わけが分からないよ /人◕ ‿‿ ◕人\


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どうやら、フィルターが入ることをある程度想定してなのか、やや短めの長さを標準に作られていて*1、光路延長が必要な場合は同梱のシムリングで調整しろということだったようです。今さらながらシムリングの意味が分かりましたが……さすがにちょっと雑すぎやしませんかね、これ?*2 *3


とりあえずウチの場合、上記の光路長はそれぞれ0.7mmほど短くなるわけです。フィルター厚みによる光路長延長分がほぼ相殺されるのは不幸中の幸いですが……。


ASI2600MC Proとの接続方法再考


さて、ひとまずカメラがシステムに繋がることは確認できたわけですが、このカメラの場合、そもそもEOSマウントにこだわる必要はありません。パーツをうまく組み合わせれば、光路長超過の状態を解消できるかもしれません。


これについては、実は勝算が1つありました。「EOS-EFマウントアダプターII・ASIカメラ全般用」のカメラ側リング内部にフィルターが装着できることは上で書きましたが、一方、このリングとマウント側パーツの接続はM60のねじ込みになっています。そして、ボーグの延長筒にはM60のネジ山が。さらに、ボーグの延長筒はマウント側パーツより肉薄……。


そう、実は「EOS-EFマウントアダプターII・ASIカメラ全般用」のカメラ側リングにφ52mmのフィルターを装着した状態で、ボーグの延長筒をねじ込むことができるのです。


こうなれば、あとは簡単。電卓片手に手元ののパーツを取っ換え引っ換えして……こうだ!


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オフアキの直後でM42を一旦M57に変換、ボーグの延長筒経由で「EOS-EFマウントアダプターII・ASIカメラ全般用」のカメラ側リングに繋いだ後、マウントアダプター付属の延長リングおよびオフアキ付属のスペーサーリングで光路長を稼いでいます。


SCTアダプター25.3mm
オフアキシスガイダー本体29mm
M42(オス)Tマウント用カメラアダプター12.5mm
M42P0.75→M57AD【7528】8mm
M57/60延長筒S【7602】
+ZWO EOS-EFマウントアダプターII後部
29.5mm
延長リング5mm
TスレッドスペーサーリングA6mm
ASI2600MC Pro17.5mm
132.8mm

機械的な光路長はこんな感じで、ここにフィルターを入れると0.5~0.8mmほど光路長が伸びることになります。これで、おおむね光路長133mmを達成できたことになります。


なお、M57/60延長筒S【7602】については、カメラ側リングにねじ込めるだけねじ込んでありますが、カメラ側リングのサイズや切られたネジの長さに不確定要素があるので、もしこの接続を真似しようという場合は、光路長を実測することをお勧めしておきます。



ちなみにオートガイダー側ですが、ビクセンの「接眼アダプター 42T→31.7AD SX」を装着した上で、StarlightXpressのLodestarを適当な深さまで突っ込んであります。Lodestar本体には安物の31.7mm接眼アダプターが別途ストッパー代わりに固定してあって、そこまで突っ込めばピントが合うようにしてあります。オートガイダー自体はそれなりに古いですが、筐体が31.7mmサイズで前後の調節がしやすい上、センサー面積も1/2型と比較的大きいため、オフアキ用として便利です。

*1:長くて無限遠にピントが合わないよりはマシだけど。

*2:「中華製品だしこんなもの」と言えばその通りなのですが、AliExpressあたりで売ってる有象無象の安物とは違うわけで、まさか公称値が全くあてにならないとは思いませんでした。

*3:光路長がここまでいい加減だと、カメラ側のフランジバック「17.5mm」というのもどこまで信用したものか……という気はしますが。

国内で簡単に入手できる望遠鏡一覧(口径15cm以下~25cmクラス編)


おかげさまでご好評いただいている「国内で簡単に入手できる望遠鏡一覧」、今回は口径10cmを超える鏡筒を取り上げたいと思います。前回はこちらから。
hpn.hatenablog.com


なお、表中では光学系ごとに色を分けていて、ピンクが屈折系、青が反射系、紫がカタディオプトリック系となっています。また、グレーの欄は、補正レンズ系を使用した際のスペックを示しています。

実売価格は、協栄産業やシュミット、ジズコなどでの販売価格を基本に。イメージサークルは、各メーカーの公表値を示していて、29mm以上でAPS-C、43mm以上で35mm判フルサイズの領域をほぼカバーすると考えてよいです。このイメージサークルを公表している製品については、基本的に撮影目的での使用を前提に考えていると思ってよいでしょう。

~15cmクラス


口径10cmを超えるこのクラスは、一般に市販される屈折望遠鏡としては最大口径になります。一方、反射望遠鏡やカタディオプトリック式の望遠鏡としては入門サイズ。昔はむしろハイエンドに近いサイズでしたが、製造技術の向上はこんなところにも及んでいます。小型で取り回しの良い鏡筒が多く、隠れた狙い目です。


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国内メーカーとしてこのクラスの鏡筒を出しているのは、ビクセンと高橋製作所のみです*1


ビクセンのSD115Sは、同社のSDシリーズの単純なスケールアップ版で、長所・短所とも同シリーズの他の機種と共通します。ただ、口径なりに大きく重くなった分、手軽さは下がり価格は上昇。このあたりのトレードオフをどう判断するかです。



高橋製作所のTSA-120は3枚玉EDアポクロマートで、「軽快さと鋭像を両立した」と謳っています。確かに光学性能は優秀で、鏡筒のみの重量も6.7kgと控えめです。タカハシの屈折というと、もっぱらFSQシリーズとTOAシリーズばかりが注目されがちですが、もう少し見直されてもいい鏡筒のように思います。


TOAシリーズは最高性能を誇る同社のフラッグシップ機。その鋭像はほぼ完璧と言っていいレベルで、憧れる人も少なくないと思います。このシリーズは口径130mmのTOA-130NS、接眼体強化型のTOA-130NFB、口径150mmのTOA-150Bからなります。いずれもEDガラス2枚を含む分離型3枚玉で、補正レンズを含め大変高性能です。ただ、その性能はストレートに価格に反映されていて、最も安いTOA-130NSでも、一式揃えるとすぐ100万円近くかかってしまいます。鏡筒重量も大きく、運用するには口径から受ける印象より1クラス上の赤道儀が必要になると考えておいた方がいいでしょう。


ε-130Dとε-160EDは双曲面主鏡と補正レンズを組み合わせた光学系で、その明るさが最大の特長です*2。特にこの2機種は、(ε-180EDと比べて)明るさがやや控えめで軽量なことから、扱いやすい製品になっています。また、4月1日には専用エクステンダーが発売になりました(ε-160ED用は今夏発売予定)。5群7枚のレンズを使用した贅沢な作りで高価ですが、適度に焦点距離が伸びて撮影対象がグッと増えそうです。


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海外製品ですが、屈折系は口径10cm以下の鏡筒のスケールアップモデルが多くなっています。このクラスで多くのモデルを出しているのがSky-Watcherで、アクロマートのBK150750、BK15012、標準的なEDアポクロマートのEVOSTAR120ED、同150DX、写真用途を強く意識したEPRIT 120ED、同150EDと計6機種も揃えています。


アクロマートの2機種は基本的に眼視特化で、その集光力を生かして淡い天体を捉えてやろうという設計の鏡筒と思われます。とはいえ、最近はあぷらなーとさんが実践されているように、ワンショットナローバンドフィルターと併用して安価な写真鏡筒として生かす方法も出てきています。こうなると、かなりコストパフォーマンスは高いと言えるでしょう。
apranat.exblog.jp
apranat.exblog.jp


EVOSTARの2機種もED屈折として無理のない設計。なお、150DXのみ接眼部がラック&ピニオンになっています。重量のあるオプションを取り付けたとしても、ある程度安心だろうと思います。


ただし、BK15012とEVOSTAR 150DXは鏡筒長が1.2mを超える巨大さで、取り回しはかなり大変だろうと思います。


ESPRITシリーズの2機種は、パクリ元の高橋製作所のFSQ-130EDがなくなった今、貴重な写真特化大口径屈折となっています。FSQに比べると、イメージサークルが狭く暗いのが難ですが、Sky & Telescope誌のレビューなどを見る限り、性能は良好そうです。



反射系は安価なニュートン式が多いですが、目を引くのは笠井/MicrotechのカセグレンとOrion Telescopes & Binoculars/Microtechのリッチー・クレティアン。いずれも台湾Guan Sheng OpticalのOEM品です。どちらも1000mm超えの焦点距離の割に軽量・コンパクトな鏡筒で、価格もお手頃です。用途としては、カセグレンの方は眼視、写真撮影ともこなせる万能機、リッチー・クレティアンの方はDSOの撮影に特化した鏡筒*3と言えるでしょう。



カタディオプトリック系は、セレストロンのシュミットカセグレンと、Sky-WatcherのマクストフカセグレンおよびそのOEMが目立ちます。このうちSky-WatcherのMAK127SPは私も所有していますが、安価・コンパクトながらも見え味は良好で気に入っています。詳しくはこちらを参照ください。
urbansky.sakura.ne.jp


ユニークなのはSharpstarの15028HNT。双曲面主鏡に補正レンズを組み合わせたイプシロン光学系のパクリ類似の光学系で、明るさもε-180EDに匹敵するF2.8を達成しています。Sky & Telescope誌のレビューによれば像も非常に優秀。カメラの回転が面倒、副鏡がコバ塗りもなくむき出しなど欠点・要改造点は存在しますが、ε-130Dとほぼ同額、ε-180EDのおよそ半額という安さで、カーボン鏡筒である点も含め、魅力を感じる人は多いと思います。


~20cmクラス


個人向け反射式/カタディオプトリック式望遠鏡の主戦場です。所有者の多い中型赤道儀で安定して運用できる上限がこのあたりではないかと思います。


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まずは国内メーカーから。ビクセンは同じ口径20cmに3機種を展開しています。すなわち、ニュートン反射のR200SS、マクストフカセグレンの変法であるVMC式のVMC200L、6次非球面鏡を用いたVISAC式のVC200Lの3つです。この3つは性格がそれぞれ異なっていて、うまく住み分けができています。


R200SSは歴史の長い鏡筒で、現在国産でほぼ唯一のニュートン反射となっています。F4と明るい一方、副鏡を支持するスパイダー等はガッチリしていて、光軸が狂いにくくなっています*4。また、コレクターPHやエクステンダーPHはなかなかの高性能で、写真鏡として様々な用途に幅広く使えるかと思います。眼視性能もF値の割には優秀です。


VMC200Lはマクストフカセグレンの変法で、筒先にメニスカスレンズを配置する代わりに、副鏡セルの内部、副鏡の手前にメニスカスレンズを配置しています。こうすることで、コストを抑えるとともに鏡筒全体の温度順応を速めています。設計としては眼視性能に重点を置いていて、中心部の像はまぁまぁ。一方で周辺部は非点収差やコマ収差が割と強く出ます。レデューサーVMCを用いても劇的な改善とまでは行かないので、素直に眼視中心で使うか、写真を撮るにしても惑星状星雲など、もっぱら視野中央を使うものに限定した方が満足な結果になるでしょう。


VC200Lは6次非球面鏡と補正レンズを用いて視野全体の収差を減らした設計で、「準リッチー・クレティアン」とも呼べるものです。35mm判全体に渡って星像はエアリーディスク以内に収まる高性能ぶりで、レデューサーHDもかなりの性能を示します*5焦点距離が比較的長いことから、惑星状星雲や系外銀河など、視直径の小さい天体の撮影に威力を発揮します。ただ、少し不安なのは製品のバラつきが大きそうなことで、「ハズレ」の個体を引くとピント合わせすら困難な場合もあるとか*6。17万円超のガチャは勘弁してほしいところですorz



高橋製作所は長焦点鏡のミューロンと短焦点で明るいイプシロンの2シリーズを展開しています。


ミューロンはドール・カーカム式と呼ばれる光学系で、凹楕円主鏡と凸球面副鏡を組み合わせたものです。視野中心部は原理上無収差で、惑星などの観測には絶大な威力を発揮します。一方、この光学系は、同じF値ニュートン反射と比べてコマ収差が極端に大きいのが欠点で、これが良像範囲を制限します。これを改善するのが「Mフラットナーレデューサー」で、これを装着することで収差が軽減されるとともにF値が多少明るくなります。とはいえ、イメージサークルAPS-Cサイズに制限されますし、決して明るい光学系ではないので、あまり写真向きの鏡筒とは言えないでしょう。


ε-180EDはイプシロン光学系の中心モデルで、F2.8とシリーズ最高の明るさを誇ります。その分、光軸のわずかな狂いにも敏感で、扱いはそれなりにセンシティブですが、得られる像は極めて優秀で文句のつけようがありません。



国産と言えば、一応もう一つ。笠井トレーディングとバックヤードプロダクツが共同開発したNERO-200Nがあります。Ninjaシリーズで有名なバックヤードプロダクツお得意のGFRP製鏡筒が特徴的な製品で、惑星の眼視観測に徹底的に最適化した設計になっています。かなり尖った仕様の製品ですが、刺さる人には刺さると思います。


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次に海外製品ですが、こちらはSky-Watcherと台湾Guan Sheng OpticalのOEMによる安価なニュートン反射が二大勢力となっています。ニュートン式の場合、ある程度の性能を確保するだけなら比較的容易*7なので、価格での「殴り合い」になりがちです。いずれも普通に眼視で使う分には十分な性能を有していますが、一方でスパイダーや鏡筒が肉薄で歪みやすい、接眼部が貧弱などの問題を抱えていることも多く、撮影目的でヘビーに使おうとすると何らかの形で手を入れる必要が出てくるのがほとんどです。



ニュートン反射で独自路線を行くのは、英ORION OPTICSです。


英ORION OPTICSは、ミラーの高精度ぶりで知られるメーカーで、米Orion Telescopes & Binocularsとは全くの別会社です。ニュートン反射に関しては独自路線を行っていて、特徴的な鏡筒をいくつも出しています。価格帯としては高級品の部類ですが、極端にぶっ飛んだ価格というほどでもなく、強化オプションも豊富なのでマニアは検討の余地が十分あると思います。



また、ニュートン反射派生の光学系として、SharpstarとORION OPTICSが類似の鏡筒を出しています。


Sharpstarの20032PNTは、F3.8という短焦点ニュートン反射に補正レンズを組み合わせ、F3.2というイプシロン並みの驚異的な明るさを実現しています。公開されているスポットダイヤグラムを見る限り性能は良好で、温度順応用のファンや温度計も装備しています。鏡筒の素材は熱による膨張・収縮の少ないカーボンを採用。それでいて値段は40万円を切っているので、コストパフォーマンスは抜群です。


一方、ORION OPTICSのAG8も上記の20032PNTと類似の光学系で、このAGシリーズは口径40cmまでラインナップされています。出たのはこちらがずっと先ですが、さすがにコストでの叩き合いでは不利なようです。



ニュートン以外の反射系としては、笠井/Microtechの純カセグレン&リッチー・クレティアンが目立つ程度。それぞれ、口径15cmのシリーズと同様の特徴を有しています。価格的にも比較的お手頃で、長焦点鏡として魅力があります。



カタディオプトリック系で気を吐いているのはセレストロン。伝統的なシュミットカセグレンであるC8、補正レンズを組み込んだEdgeHD800、C8の主鏡をそのまま用いて明るいアストログラフに仕立てた8 RASAと、3機種をラインナップしています。以前は、ミードがライバル的な立ち位置で似たような製品をぶつけてきていたのですが、現在は本社の資金繰りや代理店交代のゴタゴタが尾を引いて、日本国内での存在感は極端に低下。このクラスの鏡筒はほぼセレストロンの独占状態になっています。


C8はセレストロンの草創期からの大ベストセラーで、周辺オプションもサードパーティー製を含めて極めて豊富。EdgeHD800は補正レンズによってC8の良像範囲を大きく広げた光学系で、主鏡を固定してミラーシフトを防ぐ「ミラークラッチ」の装備を含め、写真撮影を強く意識した構成になっています。詳しくはこちらもご覧ください。
urbansky.sakura.ne.jp


8 RASAは、元々短焦点なC8の主鏡に補正レンズを組み合わせることで、F2という他に例を見ない明るさを実現した撮影専用鏡筒。イメージサークルこそ22mmと小さいですが、構造的に大きなカメラを取り付けるのは難しい*8ので、バランスとしては適当なところでしょう。


ただ、セレストロンは代理店がサイトロンからビクセンに変更されて以降、国内販売価格が激しく上昇しています。EdgeHD800など、私が購入した2013年10月時点と比較すると2倍近くにもなっており、手を出しづらくなっているのが痛いところです。VMC200LやVC200Lとのカニバリゼーションを防ぐために値上げしたとは考えたくないですが……。



マクストフ系は、マクストフカセグレンがSky-WatcherのBKMAK180とそのOEM品、そしてORION OPTICSのハイエンド品のみ、マクストフニュートンがOrion Telescopes & Binocularsのもののみとなっています。このサイズになってくるとメニスカスレンズの重量がバカにならず、温度順応も厳しくなってくるので、納得できる結果です。以前は、笠井が扱っていた露インテス・マイクロ社が、多様な口径の高性能マクストフカセグレン、マクストフニュートンを比較的手ごろな価格で展開していましたが、同社が閉鎖された今となっては、なかなか難しいのかもしれません。


ちなみにOrion Telescopes & Binocularsのマクストフニュートンですが、モノとしてはSky-Watcherが海外で展開している製品のOEM。写真用途を意識しているためか、副鏡のサイズがφ64mmもあり、結果として中央遮蔽率が33%以上になっています。極小の副鏡により高い眼視性能を狙っていた、かつてのインテス・マイクロ社のマクストフニュートンとは性格が大きく違うので、その点は注意が必要です。


25cmクラス


このサイズになってくると、安定した運用には中型赤道儀では不足で、大型赤道儀が欲しくなってきます。システム全体もかなり大掛かりになってきて、移動観測で使える上限近いサイズと言えるでしょう。


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このクラスで国産で出ているのは、ビクセンのVMC260L、高橋製作所のMewlon-250CRS、CCA-250の3機種のみです。


VMC260Lは、おおまかにはマクストフカセグレンの変法という意味でVMC200Lと同じですが、光学設計自体はVMC200Lの拡大版ではなく、副鏡セル内のレンズ構成が全く違います。合焦機構も、VMC200Lがラック&ピニオン式なのに対し、VMC260Lでは主鏡移動式を採用しています。結像性能はVMC200Lよりはるかに優秀で、写真用途にも十分に耐えると思います。


タカハシの2機種はいずれも電動フォーカサーを備えた高級機で、焦点距離の長さで使い分ける感じです。いずれも素晴らしい性能を誇りますが、値段が値段なので、そうそう手を出せるものでもありません。


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海外製品はおおむね20cmクラスの鏡筒をそのまま拡大したものが多く、特筆すべきものは多くありません。口径25cmを超えてから新しく出てきたシリーズとしては、ORION OPTICSのODK10くらい。光学系はMewlon-250CRSと同じく修正ドール・カーカムですが、F値はこちらの方が明るくなっています。標準状態ではMewlon-250CRSより10万円ほど安く、いいライバルになりそうです。




こうしてみると、革新的な鏡筒により中華系企業の躍進が目立った10cm以下の屈折に比べ、このクラスの鏡筒だと昔ながらの安価な中華製ニュートン反射が幅を利かせていて、「革新」という意味ではやや停滞しているような感じもします。表面的には「中華系企業が強い」という同じ結論ですが、中身はだいぶ違う印象です。


とはいえ、GSOのクラシカルカセグレンや、Sharpstarの20032PNTみたいな鏡筒も出てきていますし、まだまだ中華系企業には伸びる余地がありそうな気がします。国内メーカーは……うん、まぁ……その……頑張れ。

*1:BORG107FLを「口径10cm以上」とみなせばトミーテックも入りますが、ここでは10cmクラスに分類しています。

*2:カタディオプトリックに分類していいのかどうか悩ましいところですが、補正レンズ使用が前提になっているので、ここではカタディオプトリックとして扱います。

*3:副鏡が大きい=中央遮蔽が大きく、回折によるコントラスト低下が大きいため。この鏡筒の場合、中央遮蔽率は直径比で50%にも達します。一般に、中央遮蔽率が30%を超えると惑星観測時の像に悪影響が目立ってくると言われるので、50%というとかなりのもの。その代わり、周辺光量は豊富になって写真には向きます。

*4:一方で、回折で生じる光条がキツい、コントラスト面で不利、といった弊害も出ますが、トレードオフの関係なので仕方ないと思います。

*5:イメージサークルが36mmとなっていますが、これは定義が「良像範囲、かつ周辺光量60%以上を確保」する範囲となっているためです。良像範囲だけなら44mmを確保しています(周辺光量は47%)。

*6:https://6018.teacup.com/enyoou/bbs/6899など

*7:硝材は安価な青板ガラスで十分だし、主鏡の放物面さえ研磨できれば、あとはどうにでもなります。

*8:カメラを副鏡の位置に取り付けるので、カメラが大きいと遮蔽が大きくなり、明るさがスポイルされてしまいます。

国内で簡単に入手できる望遠鏡一覧(口径6cm以下~10cmクラス編)

今を去ること7年半前、EdgeHD800を購入する際に口径20cmクラスの望遠鏡について、横並びにまとめて比較・検討したことがありました。
hpn.hatenablog.com


この記事、いまだにそれなりのアクセスがあって、「望遠鏡のスペックを一覧にする」ということに需要があるのが分かります。ちょうどGW中で暇なので、2021年5月現在、国内で比較的簡単に手に入る鏡筒について簡単にまとめてみました。


今回は口径6cm以下から口径10cmクラスまでのまとめです。


~6cmクラス


私が子供のころ(3~40年前)は、入門用の望遠鏡と言えば口径6cmというのがお約束でしたが、製造技術が向上して口径8cmあたりが入門用の定番となった現在、このクラスの望遠鏡は「撮影目的」が主戦場になった感があります。


加えてここ数年、中華系企業が品質面でも長足の進歩を遂げ、魅力的な製品をどんどん投入してきています。これまで光学系に関しては「日本のお家芸」的な所があったと思うのですが、現在の勢力図はどんな感じでしょうか。


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まずは国内メーカーの製品の一覧です。なお、グレーの欄は、補正レンズ系を使用した際のスペックを示しています。また実売価格は、協栄産業やシュミット、ジズコなどでの販売価格を基本にしています。


ちなみにイメージサークルについてですが、各メーカーの公表値を示していて、29mm以上でAPS-C、43mm以上で35mm判フルサイズの領域をほぼカバーすると考えてよいです。このイメージサークルを公表している製品については、基本的に撮影目的での使用を前提に考えていると思ってよいでしょう。*1


面白いことに、トミーテックのBORG36EDを除き、ほぼすべてがフローライトを用いた鏡筒になっています。一般にフローライトは色収差補正に絶大な威力を発揮しますが、とにかく高価なのが難点。高性能ぶりのアピール&少しでも利幅を稼ぐためにこうした製品構成になっているのかとも勘ぐりたくなりますが、結果として、補正レンズを含めて10万円を大きく超えるような高価格帯に貼りついてしまっています。個人的には、裾野を広げる意味でも、もう少し手に取りやすい価格帯の鏡筒があっても良さそうに思います。


この中で目を引くのは、高橋製作所の「FS-60CB+レデューサーC0.72×」(口径60mm、焦点距離255mm(F4.2))、トミーテックの「BORG55FL+レデューサー7880セット」(口径55mm、焦点距離200mm(F3.6))、ビクセンの「FL55SS+レデューサーHD」(口径55mm、焦点距離237mm(F4.3))という、似通ったスペックの鏡筒です。「焦点距離200mm前後、F4付近」というのが一種のスイートスポットなのでしょう。


一方、高橋製作所のFS-60QやFOA-60、FOA-60Qは思い切って眼視目的に全振りした鏡筒で、メーカーから提供されているスポットダイアグラムを見る限り、極めて高い性能を実現しています。とはいえ「6cm」という口径に限界があるのも厳然とした事実で、いずれにせよかなりニッチなニーズに向けた鏡筒と言えます。


トミーテックのBORG36EDは、このクラスの国産鏡筒として唯一のEDアポクロマートですが、元々は鏡筒径45mmの「コ・ボーグ」として展開していたものを鏡筒径60mmの「ミニボーグ」の規格に落とし込みなおしたもの。ボーグならではの拡張性の面では有利ですが、デザインが正直美しくなく、物欲を刺激しないというか、イマイチ魅力に欠けるのが惜しいところです。



次は海外製品です。


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この中で最も異質なのは、Sky-WatcherのEVO GUIDE50EDです。本来ガイドスコープとして販売されているものなので、ここで「望遠鏡」として取り上げるのもどうかと思ったのですが、光学系としてEDガラス(しかも、フローライトに匹敵する特性を持つと言われるS-FPL53)を採用した本格派で、それにも関わらず税込24200円と、比べるもののない安さです。焦点距離も短く、電視観望など小フォーマットのCMOSカメラと組み合わせるような用途では、入門用として最適と言っていいと思います。


笠井トレーディングとOrion Telescopes & Binocularsの製品は中国メーカーのOEM品で、他社からも同等の鏡筒が出ていたりします。これらやTeleVueの製品は、F値を見ても分かる通り、やや眼視に振った設計になっています。


一方、William OpticsやSharpstar、Askar*2の製品は写真用途を狙っているのが明確です。F値は5以下とおおむね明るく、イメージサークルも35mm判をカバーできるものが多いです……というか、イメージサークルのサイズを公表している時点で、ほぼ写真撮影前提ですね(^^;


最近登場したこれらの鏡筒ですが、光学系はいずれもレンズ間に大きな空隙を設けて設計自由度を上げたものばかりです。こうした設計は高性能を狙えるものの、実際の製造時に光学エレメントの芯出しなどに問題を抱えることが多く、従来は避けられがちだったところ。しかしこれを量産に持ってこれたということは、それだけ中国企業の製造・検品能力が上がったということを示しています。


また、レデューサーやフラットナーなどの補正光学系についていえば、以前の中国企業の鏡筒は2インチ差し込み型の汎用品を使うケースが多かったのですが、これらの写真用鏡筒に関してはねじ込み式の専用品が用意されています。この形の方が性能を出しやすいのは明らかで、こんなところからも本気度が伺えます。


加えて、価格はいずれも10万円以下と国産鏡筒に比べて圧倒的に安価です。


私が「BORG55FL+レデューサー7880セット」を買った2017年頃には、焦点距離200mm前後の撮影用鏡筒となると他にほぼ選択肢がなかった*3ので自動的にこれになりましたが、今なら上記の撮影用鏡筒に走りそうな気がします。特にAskarの2本は、スペックや仕様を見ても完全に「ミニボーグ殺し」で、「本家」のトミーテックに元気がない今、市場を一気に持って行ってしまうかもしれません。


なお、Askarの2本については、口径こそ小さいものの、焦点距離が短くかつ補正レンズもセットになっているという点で、小フォーマットのCMOSカメラと組み合わせての電視観望にも最適でしょう。


8cmクラス


現在において入門用に相当する口径の望遠鏡です。また、サイズや重量が控えめなため小型の架台でも運用しやすく、気軽に運用できるクラスでもあります。その人気のためか、口径 ~6cmクラスと比べて一気に種類が増えています。


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まず国内メーカーの製品ですが、光学系で分けると6機種となります。


この中でビクセンはラインナップの幅が最も広く、アクロマートのA81M、安価なEDアポクロマートであるED80Sf、同社SDアポクロマートのメインストリームであるSD81Sと、バランスが取れています。価格も比較的手を出しやすいレンジに収まっていて、いい意味で「無難 of 無難」といった雰囲気です。


なお、ラインナップのうち、ED80SfだけはSky-WatcherのBKED80 OTAWのOEM品となっています。仕様が他のビクセン鏡筒と異なるので同社のオプションが使えないことがありますし、また接眼部がクレイフォード式*4で強度に劣るため、重いカメラを取り付けたりするのには向いていません。納期を含めた入手性を別にすれば、標準で微動装置がついている分、BKED80 OTAWを買った方が良さそうに思います。



高橋製作所のラインナップは、大きく分けると汎用性のあるFC-76Dと写真用鏡筒のFSQ-85EDPの2種類。このうちFC-76Dは眼視により重きを置いたFC-76DCUと、接眼部強化により大型オプションの装着に対応したFC-76DSの2つに分かれます。どちらも同社製品の中では比較的手を出しやすい価格です。


FSQ-85EDPは、性能に定評のあるFSQ-106EDPの弟分といった存在で、天体写真に本格的に取り組もうとする人向けの構成になっています。ただ、イメージサークルはFSQ-106EDPよりずっと小さいので、35mm判以下のフォーマットで運用した方が快適そうに思います(イメージサークル自体は35mm判をカバーします)。



トミーテックはBORG72FLをラインナップ。「天体望遠鏡」としてのセットが用意されていないあたり、同社が写真撮影を強く意識しているのが分かります。F値が比較的明るく、軽量で取り回しも楽ですが、フローライトを採用している分、絶対的な価格としては決して安くはありません。性能自体はいいので、「組み立て式望遠鏡」としてのボーグに魅力を感じるかどうかがカギになります。



次は海外製品です。


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まず笠井トレーディングの製品ですが、これらはいずれも中国企業OEM製品で、他社製品でもしばしば見かける鏡筒です。他社同等品を含めて各所での評価を見る限り、性能は決して悪くなく、特に眼視性能については十分満足のいくもののようです*5。ただし、「『既に数台の望遠鏡を所有し、ある程度の知識と経験を有する天文愛好家』=『マニア』の方々のご購入を前提として開発・選定した」という同社のスタンスを考えると、全くの初心者にはお勧めしづらい部分があります*6。ある程度経験のある方が、買い替え、買い足しをする場合に候補に挙がってくる感じでしょうか。


SVBONYは、格安天文機材で最近存在感を急速に高めているブランドで、望遠鏡についても他社に比べて安価な値付けが目立ちます。鏡筒の供給元はおそらく笠井などと大同小異だと思いますが、SV503シリーズはピント調節機構がラック&ピニオンだったり、70ED用のフラットナー*7がねじ込み対応だったりと、少なくともカタログ上では想像以上にしっかりしている印象です。使われているEDレンズがS-FPL51ですし*8、補正光学系も簡素な構成なので性能に過度の期待は禁物ですが、ライトな使い方なら必要十分な感じがします。ただし、説明書類にあまり期待ができないのは海外製品の常で、検品等についても上記の笠井取り扱いのものと共通する部分があります。初心者にはそのあたりの敷居が高いでしょうか。


Explore ScientificとTeleVueは両社とも広角アイピースに強みを持つメーカーで、望遠鏡も眼視性能に重きを置いています。ただ、決して安くはないですね(^^;


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アメリカのOrion Telescopes & Binocularsは、数多くの天体望遠鏡等を扱っていますが、そのほぼすべてが中国企業OEM製品です。コストパフォーマンスは比較的良好ですが、古くからの製品だと作りが値段相応に粗かったり、接眼部が強度不足だったりと、問題があるものも少なくありません。その中でちょっと異質なのが「EON 85mm ED-X2 F6.6」。ちょっと調べてみるとすぐ分かるのですが、台湾Long Perng社「S560G-A 85mm triplet f/6.6 refractor」OEM品で、以前「天リフ」で詳細なレビューが上げられた「Founder Optics FOT85」のほぼ同等品なのです。
reflexions.jp


フォトビジュアル望遠鏡として見た場合の性能は優秀で、価格こそそれなりにするものの、もっと注目されていい鏡筒のように思います。



Sky-Watcherは、安価なアクロマートから本格的な写真用鏡筒まで幅広い品揃え。中でもSTARQUEST80は、等倍ファインダー、アイピース2本、天頂ミラーも含めて12000円という驚きの価格です。F値の明るいアクロマートなので色収差はそれなりにあるはずですが、トイグレードの怪しい望遠鏡に比べたらはるかにまともですし、初心者が「お試し」感覚で購入しても大きく後悔することはないでしょう。


BKED80 OTAWとEVOSTAR72EDIIは写真撮影にも対応した2枚玉EDアポクロマート鏡筒で、製品としてはEVOSTARの方が新しいものになります。コストパフォーマンスは例によって良好で、特にEVOSTARについては、4万円台でこのクラスのEDアポクロマートが手に入ると思えば破格と言っていいでしょう。ただし、これらの接眼部はすべて安価なクレイフォード式で、強度や精度に過度の期待は禁物です。


ガチな撮影を目指すならESPRIT 80ED。エアスペースタイプ3枚玉EDアポクロマートにフラットナーを追加した光学系で、回転装置を組み込んだ鏡筒の構造といいFSQのパクリ「プアマンズFSQ」といって差し支えないようなものになっています*9。FSQと違ってレデューサーのような補正光学系が純正品で用意されていないこと、そしてイメージサークルが狭いのが難点ですが、後者についてはAPS-C以下のサイズのセンサーなら何の問題もないと思います。



そして、ガチな撮影という意味で、Sky-Watcher以上に存在感を発揮しているのがやはりSharpstarとAskar。これだけの品質、明るさのものをこの価格で提供できるというのは、まさに驚異以外の何物でもありません。特にAskarのFRA400は、標準でフラットナーを内蔵し、35mm判フルサイズをカバー。さらにレデューサーを併用すれば、F3.9まで明るくなるという高性能ぶりで、マニアも十分に満足できるものになっていると思います。



10cmクラス


屈折望遠鏡としてはサイズ、価格、性能のバランスが良く、人気のあるクラスです。また、小口径のマクストフカセグレンもこのレンジに入ってきます。


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まず国内メーカーですが、ビクセンアクロマートのA105MII、SDアポクロマートのSD103S、写真性能を追求したAX103Sの3機種構成となっています。


A105MIIについては、アクロマートでF値を大きくせざるをえない関係上、かなり長大な鏡筒になっています。鏡筒長が1mを超えると手軽な感じではなくなってきますし、価格もそこそこして、ちょっと立ち位置の難しい鏡筒です。もし自分なら、この金額を出すなら口径を落としてED屈折か、反射/カタディオプトリック系に行くと思います。


SD103Sは自分も使っています*10が、眼視、撮影共に無難にこなす万能機。補正レンズ類も優秀です。泣き所は同社SDシリーズに共通の「光路に飛び出している錫箔」で、これが撮影時の星像に悪影響を及ぼします。これさえなければ諸手を上げてお勧めできるので、惜しいところです。詳しくは以下のレビューをご参照ください。
urbansky.sakura.ne.jp


AX103Sは3枚玉SDアポクロマートにフラットナーを組み合わせた光学系で、結像性能は非常に優秀です。ただ、写真用を謳っている割にはF値が暗く、ピント微動装置が標準装備でないなど、価格も含めて考えると若干のちぐはぐさは否めません。ただ、ピント微動装置が標準装備でないのは国産鏡筒に多い仕様ですし*11F値が暗い点についても、優秀なレデューサーHDが登場した今ではあまり問題にならないかもしれません。



高橋製作所は眼視を重視したFC-100DC、フォトビジュアルを意識した接眼部強化型のFC-100DF、結像性能をさらに向上させたFC-100DZ、そして写真派の定番であるFSQ-106EDPという製品構成です。FC-100Dシリーズの製品はいずれも優秀な性能で、価格も同社の製品としては比較的抑えめです。ただ、鏡筒バンドすら別売りだったり、補正レンズ類が全体的に高めだったりと、他のタカハシ製品同様、最終的には意外と出費がかさむ可能性があるのには要注意です。


FSQ-106EDPは写真派にとって定番中の定番だったFSQ-106EDのマイナーチェンジ版で、接眼部が使いやすくブラッシュアップされたもの。その代わりFSQ-106EDは受注終了となりました。実質的な値上げとも言えるでしょうか……。光学系は従来のままで、その高性能ぶりは万人の認めるところです。温度変化によりピント位置がずれやすいという弱点はあるものの、レデューサー使用でF3という明るさも唯一無二で、「いつかはFSQ」と思っている人も少なくないはずです。とはいえ、誰もが「本体のみで税込60万円超」という金額を気軽にポンッと出せるわけもなく、一生モノとはいえ、そこが泣き所ではあります。



トミーテックは90FLと107FLの2本立て。「90FL+レデューサー7872セット」以外は熱による膨張・収縮が少ないカーボン鏡筒がおごられており、光学性能も優秀です。ただ、その分割高になっている感じは否めません。2019年中に発売予定だった107FL用レデューサー「EDレデューサー0.7×DCQC」が大幅に遅れているのも気になるところで、昨今のトミーテック自体の元気のなさも含め、不安を感じないというと嘘になります。


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海外製品については8cmクラスの鏡筒と同シリーズのものが多く、その意味で特筆するものは少ない感じです。それにしても、相変わらずAskarの製品は出色のデキです。同社の他の製品同様、アストロカメラとして捉えるべき製品ですが、66mmものイメージサークルを確保してこの価格というのは破壊的と言っていいと思います。また、小フォーマットでの使用が前提なら、ESPRIT 100EDも悪くない選択肢だと思います。なお、レデューサーについて純正品はありませんが、例えばStarizonaからはESPRITシリーズでの使用を想定して開発されたApex ED 0.65x Reducer Flattenerが出ているので、こうしたものを利用すると良いと思います(イメージサークル30mm)。


一方、「眼視」という目線で見てみると、写真の場合と同様、3枚玉アポクロマートなどの方が性能的に有利なのは確か。しかし、レンズ枚数が多いと温度順応に時間がかかる場合があり、手軽な観望には向かない面があります。むしろコストを抑えた2枚玉EDアポクロマートの方が安定した性能を発揮させやすいですし、眼視の場合は主に視野中心部しか使いませんから、イメージサークル内の像の均質性を追及しても仕方ありません。その観点から言えば、最近の中華鏡筒は「レンズが多い方がエライ」的なインフレが起こりつつあるような気もしています。海外市場の特性なのかもしれませんが、「ドライバいっぱい載せれば高級なんだろ」と言わんばかりのイヤホンの恐竜的進化とも通じる部分がありそうです。


なお、節冒頭で触れた口径9~10cmのマクストフカセグレンですが、これらはいずれもSky-Watcherブランドを展開する南通斯密特森光電科技有限公司(Nantong Schmidt Opto-Electrical Technology)のOEM製品です。非常に歴史の長い鏡筒で、製造技術としては枯れきっているため、性能は安定しています。焦点距離が長くて高倍率を出しやすいので、月・惑星の観望に好適で、都心のような所でも楽しむ余地が大きいです。ただし、倍率が高くなりやすい分、架台はしっかりしたものを使いたいところ。あまりにやわい架台だと、振動ばかりが目立って不快です。

*1:公表していないからといって、撮影用途を想定していないわけでもないあたりがややこしいところですが(例:ボーグの各製品)

*2:Sharpstar、Askarともに嘉興鋭星光学儀器有限公司のブランド

*3:FL55SSは未発表、FS-60CBは補正光学系や鏡筒バンド、ピント微動装置等を含めるとそこそこ高額になるので。

*4:ドローチューブ側のレールとピントノブ側のローラーとの摩擦でドローチューブを前後させる方式。ギアでドローチューブを前後させるラック&ピニオン式と比べると、ギアの噛み合い具合によるバックラッシュがない、安価で製造できるといった利点がある一方、摩擦だけでドローチューブを支える構造のため、接眼部に重たい部品、カメラ等を装着するとスリップしてしまうという弱点があります。

*5:写真性能については、フラットナーやレデューサーが2インチ差し込み式の汎用品である以上、おのずと限界があるかと思います

*6:同シリーズの別鏡筒ですが、このような例もあります。https://tenmontyu2.exblog.jp/26922250/ 大手メーカーと違って検品にどうしても漏れが発生するため、こうしたことはたまに発生するのですが、不良品を不良品と見抜けるくらいの経験は必要です。また、説明書類も最低限です。

*7:というより、焦点距離が0.8倍になるあたり、レデューサーというべきでしょう。

*8:安価なEDアポクロマートによく使われている硝材で、フローライトやS-FPL53に比べると、対物レンズに使用した時の色消し性能は一般にやや落ちます。

*9:ファインダー台座ごとくるくる回ってしまう回転機構まで真似しなくてもとは思いますが。

*10:正確には「『デジタル対応SD改造サービス』を行ったED103S」。ED103SのドローチューブをSD103Sと同じものに交換したもので、ED103SとSD103Sの違いはドローチューブ内の絞りの位置だけなので、実質的にSD103Sと同じです。

*11:今時どうかとは思うのだけど。