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梅雨明け!

【追記 2021/7/21】
画像にもう一手、処理を加えてみました。記事末尾をご覧ください。


6月14日に梅雨入りしてから約1か月、関東地方は7月16日に梅雨明けとなりました。今年の梅雨はかなり本格的で、期間中は星などほとんど見えなかったのですが、梅雨明け後初の土曜日、17日の夜はWindyによれば快晴の予報。月は夜半前に沈みますし、天文薄明開始は2時55分なのでそこそこ撮影時間は取れそうです。そこで、晩御飯終了後、いつもの公園に出撃してきました。


撮影候補は、北アメリカ星雲&ペリカン星雲、はくちょう座γ星サドル付近、らせん状星雲といったあたり。一応、雲が出ていた場合に被写体を切り替えられるよう、鏡筒はミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55とED103S+SDフラットナーHDの両方を持参しました。しかし、公園についてみると雲ひとつない快晴。そこで、今まで撮ったことのない対象ということで、はくちょう座γ星サドル付近の散光星雲を狙ってみることにしました。


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機材を広げて撮影態勢に移ったのが23時過ぎ。この時間帯だとまだ西の空に月が残っているので、Hαのナローバンド撮影から先に始めました。相手は純然たる散光星雲なので、NebulaBooster NB1フィルターで撮影したカラー画像にHαナローバンド画像をブレンドする計画です。


この夜は緩い南風がありながらも、温度、湿度ともそれほど高くなく実に快適。大気の透明度もこの季節にしては高く、「いい写真が撮れるぞ、これは……」と期待していたのですが……


多摩地区にお住いの星屑 BBさんから不穏なツイートが。


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西の地平線近くを確認してみると、たしかに雲が沸いています。


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しかし一方で、ひまわり8号の赤外線画像では何も見えず。意外と薄いんでしょうか……?


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ところが、0時半を過ぎるとこちらでも雲が沸き始めてきました。南風に乗って、ちぎれ雲が南から北へと高速で動いてきます。雲自体の厚さはそれほどでもないし、動きも速いので極端に大きな支障にはなりませんが……。


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どうにかHα画像こそ予定の8コマを撮り終えましたが、雲はますます多く、厚くなるばかり。カラー画像は撮影できていないですが、この夜は諦めるしかないでしょう。


撤収することにして、身の回りの小物から片づけていたのですが……あれ?雲量減ってる……?


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1時半くらいになるとハッキリと雲が取れてきて、そのうち元通りの快晴に。慌ててフィルターをNB1に交換し、撮影再開です。とはいえ、撮り始めたのが1時45分ごろ。天文薄明開始が2時55分なので、1コマ15分とすると5コマ確保できるかどうかといったところです。まぁ、今回のターゲットはほぼ真っ赤な散光星雲ばかりなので、カラー情報といっても大したものは要らないでしょう。


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ところが、撮影再開して1時間も経たないうちに、再び雲が。今度は雲量も多いし、取れるには時間がかかりそうです。もうすでに天文薄明開始まで30分を切っていたこともあり、やむをえずここで撮影終了となりました。確保できたカラー画像はわずか3コマ。果たしてこれで作品になるでしょうか……?


リザルト

まずは、一番心配なカラー画像から。撮って出しはこんな感じ。


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さすがはNB1フィルター。撮って出しの段階で散光星雲の姿が見えています。これだけ写っていれば上出来です。確保できたコマ数は少ないですが、星雲はHα画像に任せるとして、こちらはあまり強調するつもりはないので何とかなるでしょう。


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次いでHα画像ですが……こちらはさすがの写り。ナローバンドだけに光害によるカブリもほとんど見られません。結構淡いところまで写っていそうで、処理が楽しみです。



カラー画像の方は、いつものように三色分解フラット補正&カブリ除去を行いますが、この時点ではあえて三色合成せずにR, G, B各画像のままとします。一方のHα画像の方も、Rチャンネルのみ抜き出しフラット補正&カブリ除去。その後、単純にHα画像のRチャンネルとカラー画像のG, B画像とを合成し、処理してみた結果……


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……うん、悪くはないんですが、星の数が明らかに少なくて、ものすごく「ナローバンドくさい」です。天の川に近い場所なので、本当なら微光星がもっとたくさんあるはず。さすがに少々不自然な感じがします。写真中央付近にある、黄色超巨星であるはずのサドルの色も気に入りません。


そこで、Hα画像については、Rチャンネルのみ抜き出しフラット補正&カブリ除去を行った後、先にレベル調整やデジタル現像を行って星雲を強調。一方、カラー画像側のG, B画像についても、フラット補正&カブリ除去後、Hα画像と同程度にレベル調整、デジタル現像を施します。


これらを合成したのち、マスク処理による星雲強調や星の白飛びの抑制、星雲のシャープネス処理、色調整などを行って、出てきた結果がこちら!


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2020年8月19日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃
カラー画像:Gain100, 900秒×3, IDAS NebulaBooster NB1フィルター使用
Hα画像:Gain400, 600秒×8, Astronomik Hα 6nmフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0cほかで画像処理

うむ、ずいぶんそれっぽくなりました。サドルの東側には星雲の濃い領域があり、暗黒星雲が複雑に入り組んでいます。この領域は、蝶が羽を広げたようなその形から「バタフライ星雲」と呼ばれています。また、サドルの西側には微光星に埋もれるように水素のフィラメントが漂い、非常に美しいです。


惜しむらくは、こんなに淡いところまで写ると思っていなかったため、構図が少し東側に寄ってしまったことでしょうか。カメラをもう少しだけ西(右側)に振った方がバランスが良くなった気がします。


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こちらは天体名を記載したもの。なお、Bで始まるのは、暗黒星雲についてまとめられた「バーナードカタログ」のナンバーです。*1


左下にはメシエ天体であるM29、右下にはクレセント星雲(三日月星雲)ことNGC6888が写り込んでいます。NGC6888は3年前に単独で撮影したことがありますが、当時はデジカメを使用していた上、フィルターもOPTOLONGのCLS-CCDと、ナローバンド系のフィルターに比べると透過波長幅の広いものだったので、あまり写りは良くありませんでした。今回は、楕円形に広がるガスが内部構造含めよく分かります。


それにしても、東京都心でこれだけ写ってくれると本当に痛快です。緊急事態宣言で遠征が難しくなっていますが、街なかでじっくり腰を据えて撮影に取り組んでみるのも悪くないと思います。



【追記 2021/7/21】

前記画像にもう少し手を加えてみました。


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前記画像を三色分解後、Nik CollectionのSilverEfex Pro2で「高ストラクチャ(強)」をそれぞれ適用し、再合成します。とはいえ、そのままだとシャープネスが効きすぎて目に優しくないので、星像を調整したり、輝星の周りに発生しがちな黒縁を抑制しています。


ガスの流れや微光星がよりハッキリして、見栄えがするようになったかと思いますが、どうでしょうか?