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都心からの「淡いの」チャレンジ

さて、先日レナード彗星を撮影した夜、明け方まで何をやっていたかの話です。
hpn.hatenablog.com


3日金曜の夜は、新月期かつ貴重な週末の晴れ間ということで、天文薄明終了を狙って出撃しました。この時期は18時ごろには天文薄明が終了し、そのあと5時ごろまで11時間も暗夜が続く上、冬型の気圧配置になれば関東はほぼ晴れっぱなしなので、寒いのを除けば天体撮影には絶好のシーズンです。


まずは小手調べ


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この夜は、先に書いた通り空がやや霞んでいたものの、風が穏やかだったので長焦点鏡を用意。宵のうちは光害も酷いので、撮りやすい相手ということで、EdgeHD800でアンドロメダ座の「青い雪玉星雲」ことNGC7662を狙います。


ラッキーイメージングで高解像度を狙うべく、短時間露出でガンガン撮影していきますが……散々撮り終わったところで痛恨のミスが発覚!


光軸調整に使ったトライバーティノフマスクを取り除き忘れてました orz


いつか絶対こういうミスをやらかすだろうという確信がありましたが、ここで出たのは不幸中の幸い。本気での撮影でなかった分、精神的ダメージは最小で済みました。


……まぁ、そんな心構えで撮ってるからミスるんでしょうけど ┐('~`;)┌


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あ、そうそう。撮影云々とはまったく関係ないですが……NGC7662の愛称、「青い雪だるま星雲」としている資料が案外あって、StarBook TENでもそうなっています。しかし、元々の英語の愛称が"Blue Snowball Nebula"なので、「青い雪玉星雲」が正解。おそらく語呂の関係で「雪玉」→「雪だるま」に変化してしまったのでしょうけど、どうにも座りの悪さを感じるのは自分だけでしょうか……?


いざ本命


さてさて、気を取り直して21時過ぎから「本命」の撮影に取り掛かります。


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狙いは、ぎょしゃ座の「勾玉星雲」IC405 & 「おたまじゃくし星雲」IC410周辺。このあたりは2017年、「BORG55FL+レデューサー7880セット」を使い始めた直後に撮っていますが、被写体として比較的有名な割に非常に淡く、当時は炙り出しに相当苦戦した覚えがあります。
hpn.hatenablog.com


この夜は、この界隈をHαのナローバンドで、たっぷり時間をかけて捉えてやろうという算段。ちなみに、別の夜に同じ構図を通常通りカラー撮影しているので、これとブレンドすることで、カラー画像において淡い星雲の再現を狙います。なんとなく、ナローバンドを使うと負けた気がするのですが、武器は武器なので使わないと損です。



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撮影条件はGain=300の10分露出。撮り始めの段階では、いかにナローバンドといえど光害の影響を強く受けていましたが……



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夜半になって対象が天頂付近に昇り、光害そのものも落ち着いてくると、背景がぐっと落ち着いてきます。未調整の撮って出しだと何が写っているのか分かりにくいですが、ほんの軽くレベルを調整するだけで、星雲がガッツリしっかり見えてきます。これなら写りに期待できそうです。



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なお、別の夜に撮ったカラー画像の方はこんな感じ。光害カットフィルターのLPS-D1を噛ませた上でのGain=100, 10分露出ですが、案の定というかなんというか、撮って出しでは星雲はほとんど見えません。とはいえ、軽くレベル調整すると星雲が写っているのはしっかり確認できるので、以前デジカメで撮影したときに比べればはるかにマシです。また、ナローバンドでの撮影に比べると、恒星が圧倒的に明るく、多数写っているのに注目です。


結局、カラー画像は10分露出(Gain=100)を16枚、Hα画像は10分露出(Gain=300)を32枚確保しました。


リザルト


撮影した画像については、カラー画像は例によって三色分解後に、Hα画像はRチャンネルのみ抜き出した後にそれぞれフラット補正し、その後に光害カブリを除去。レベル調整等で各画像の明るさをおおよそ揃えたのち、RチャンネルとHα画像を「比較明」でブレンドします。これにより、RチャンネルにHα画像由来の星雲が載るとともに、ナローバンド撮影特有の恒星の存在感のなさが軽減できます。


R+Hα, G, Bを再合成したあとは、StarNet++で星と星雲を分離し、個別にあれこれ強調処理等を加えたうえで再構成して……こう!



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2021年12月2日、3日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
カラー画像:Gain100, 600秒×16, IDAS LPS-D1フィルター使用
Hα画像:Gain300, 600秒×32, Astronomik Hα 6nmフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0dほかで画像処理


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注釈入り


……いや、自分で言うのもなんですが、東京都心からこれは、ちょっとすごくないですか!?


赤い星雲が写っているのは、Hα画像をブレンドしているから、まぁ当然として、勾玉星雲の中心部(vdB 34)やIC417周辺の反射星雲まで写っているのはビックリです。反射星雲は、恒星からの光をチリなどが反射しているだけなので全般に暗く、また青い色の成分が比較的多い*1ために光害に紛れやすく、都心からは極めて写りにくいのです。


勾玉星雲中心部の反射星雲は以前から憧れの存在でしたので、今回の結果には大満足です。


また、StarNet++により星と星雲とを別々に処理できたので、星の色をある程度残すことができたのも収穫の1つ*2。また、天の川の領域なので、うかつに強調処理を行うと星がうるさくなりがちですが、そのあたりもある程度うまくコントロールできたように思います。


これはまた、俄然やる気が出てきました。これからも天体撮影の極北を進みますよー!(ぇ

*1:レイリー散乱は短波長の光ほど起こりやすいので。

*2:もっと色を強調することもできたのですが、実際にやってみるとあまりにけばけばしく不自然だったので、自重しました。