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Sky-Watcher MAK127SP簡易レビュー(外観編)

先日、関東地方もようやく梅雨が明けましたが、今年の天気はとにかく酷かったですね。特に東京都心では65年ぶりの新記録となる「33日連続降水」を記録したとかで、とてもじゃないけど星を見たり撮ったりできる状況ではありませんでした。

こうも天気が悪いと、蠢きだすのは悪名高い「ポチリヌス菌」……。


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で、暑さにやられて気絶しているうちにポチッてしまいました。Sky-Watcherのマクストフカセグレン鏡筒、MAK127SPです。


導入目的としては、AZ-GTiに載せての月、惑星観望。今まで、AZ-GTiには主にミニボーグ60EDを載せていたのですが、像が良くても所詮は口径6cm。焦点距離が短め(350mm)なのも相まって、高倍率での惑星観望には厳しいものがありました。


一方、AZ-GTiには5kgという積載重量の上限があります。この範囲内でなるべく大口径を……となると、口径5インチクラスのシュミットカセグレン/マクストフカセグレンが候補として挙がってきます。架台に無理をさせれば口径6インチクラスも視野に入りますが、価格が上がる上に、重量も増えて手軽さが失われそう。6インチクラスで5kg以内というと、笠井トレーディングが取り扱うニュートン反射「ZINGARO-6」などという変わり種もありますが、外光を遮るシュラウドが販売終了になっている上に、鏡筒の性格がそもそも高倍率を求める趣旨に合いません。


というわけで、残った候補はセレストロンのシュミットカセグレンC5とSky-WatcherのマクストフカセグレンMAK127SP。ちなみに後者のMAK127SPは、その昔ビクセンがMC127Lとして一時期販売していたものと同じものと思われます。


スペックを見ると、口径は両者とも127mmですが、焦点距離は前者が1250mmのF9.84、後者が1500mmのF11.8と、MAK127SPの方が長く暗い仕様になっています。F値が暗いのは写真撮影においては不利ですが、収差補正については一般に有利に働きます。今回の場合、写真用途はほぼ考慮に入れていませんので、F値の暗さは問題になりません。


両者の価格差も気になるところで、C5の方がおおむね1万円以上高くなっています。もちろん、ファインダーが6×30(C5)と等倍のドットサイト(MAK127SP)など付属品の違いもあるのですが、例えばファインダーについていえば、自動導入架台を使う以上、アライメント時に1等星さえ導入できれば十分。アイピースも、手持ちのを使えばOKなので重視するポイントではありません。一方で、MAK127SPにはキャリングケースが付いていて、保管や持ち運びを含め、なにかと便利そうです。


……と、まぁ、こんなわけでMAK127SPの購入に至りました。価格はシュミットのサマーセール中ということもあり、税抜わずか35000円。球面ばかりで作りやすい光学系とはいえ、恐るべきコストパフォーマンスです。


外観など


この鏡筒については、比較的初心者向けということもあってか、まともなレビューをあまり目にしません。そこで、簡単にですが概観してみようかと思います。


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鏡筒は直径約144mm、長さ約370mm(接眼部含む)と非常にコンパクトです。重量はファインダーやアイピースを除いて約3.3kg。軽いので持ち運びや設営も楽々です。本体はSky-Watcherの鏡筒に共通の、ラメの入った黒色できれいに塗装されていて、眺める分にはなかなかきれいです。しかし、暗いところで使う機材が黒というのは視認性が悪く、個人的にはあまり感心しません。熱も吸収しやすいはずで、筒内気流が特に問題になりがちなマクストフカセグレンの色としてはあまり歓迎できないかな、というのが偽らざる感想です。


ファインダー台座は、接眼部から見て鏡筒の左側にあります。このレイアウトだと、AZ-GTiのような片持ち経緯台に載せた時にファインダーが下側に来てしまいますが、これは仕方がないでしょう。ちなみに、AZ-GTiの最新ファームウェアでは架台右側に鏡筒を載せることができるようになっているので、これを適用するとファインダーが上側にある状態で使用することが可能になります。


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鏡筒の下側にはビクセン規格のアリガタが。アリガタには1/4インチのいわゆるカメラネジが4カ所にあけられていて、カメラ三脚への取付も可能になっています。


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存在感たっぷりのメニスカスレンズ。副鏡はこのレンズの内側をメッキする形で形成されています。いわゆる「グレゴリー型」と呼ばれるタイプです。この構造のため、シュミットカセグレンにあるような光軸調整ネジはこちら側にはありません。


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なお、副鏡の直径はおよそ35mmほどなので、像のコントラストに影響を与える中央遮蔽率は35÷127×100=27.6%……と考えたくなるところです。しかし、上の写真でも見えている通り、副鏡の周囲には遮光のためにラッパ状のバッフルが設けられているため、実際のこの数字はもう少し大きくなります*1


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試しに、鏡筒を白い壁に向け、接眼部にカメラを押し当てて主鏡のシルエットを撮ってみると、副鏡の影はかなり大きく写ります。測ってみると、実質的な遮蔽率は40%近くありそうです。純粋な惑星観測用としては、遮蔽率は30%前後に収まっていることが望ましく、ここまで遮蔽率が大きいとコントラストに悪影響が出るのは避けられないかもしれません。


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鏡筒の後端には光軸調整ネジと思しきものが見られます。六角レンチで回転可能な、3本セット×2のネジ群です。ただ、本鏡筒のピント合わせは主鏡移動式なので、ニュートン式よろしく、このネジで主鏡の傾きを直接調整できるとも思えません。接眼部のスケアリングを取る、あるいはピント調節機構ごと主鏡を傾けるためのネジでしょうか……?


もっとも、付属のマニュアルには光軸はめったに狂わないこと、万が一狂った場合はメーカーに送り返して対応すること、といった内容が書かれており、ユーザー側で光軸を調整することは想定されていないようです。そもそもマクストフカセグレンの場合、光学エレメントは全て球面の上、F値も暗くて光軸の狂いには鈍感にできていますから、いずれにしても光軸調整の必要性はほとんどなさそうに思います。


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接眼部には31.7mm対応のアイピースアダプターが取り付けられています。アダプターの末端にはM42 P0.75のネジが切られていて、一般的なTリングを介してカメラの取付が可能です。


鏡筒本体とアダプターとは、M45.6 P1.0のネジを利用したスピゴット式での接続となっています*2。シュミカセで一般に使われる2インチネジでの接続ではないので注意が必要です。また、開口部が2インチ以下という点でも分かるとおり、アダプター等で2インチアイピースを取り付けられたとしても、おそらくケラレてしまってフルな視界は得られなさそうです。まぁ、元々が広視界を期待する鏡筒でもないので、実用上は問題ないでしょう。


それにしても、45.6mmという半端な数字はどこから来たのでしょう?インチ起源のような気もしますが、インチで表しても1.8インチとイマイチ中途半端。向こうの人の考えることはよく分かりません……( ̄w ̄;ゞ


付属品


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次は付属品を見ていきます。同梱されていたパーツは、等倍ファインダーと天頂ミラー、「SUPER25」および「SUPER10」とシールが張られたアイピース2本、そしてプラスドライバーとキャリングケースです。パーツは、光学エレメントを含めすべてプラスチック製となっていますが、価格を考えれば仕方のないところでしょう。


アイピースは、それぞれ焦点距離25mmと10mmで、MAK127SPに取り付けた時の倍率はそれぞれ60倍、150倍となります。欲を言えば、低倍率側はもう少し低い方が視野が確保されやすくて望ましいのですが、視野を広くしようとするとレンズも大きくなりがちなので、バランス的にはやむを得ないところでしょうか。


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レンズは、表面の反射を見る限りモノコートのようです(左:SUPER25, 右:SUPER10)。レンズ構成はよく分かりませんが、色々調べてみるとSUPER10の方はどうやらケーニッヒ式の模様*3。ケーニッヒ式のアイピースなんて初めて見ました。SUPER25の方はケルナー式でしょうか?


内面のつや消しはお世辞にも優秀とは言えませんが、このあたりも価格相応かと思います。


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キャリングケースはクッションもしっかりしてますし、ポケットもいっぱいあって実用性は高そうです。等倍ファインダーを取り付けた状態では鏡筒を収納できないのが惜しいところですが、トータルの価格を考えれば驚異的です。鏡筒の原価はいったいいくらなんだ……orz


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この他、入っていたのは英文マニュアルと、それを和訳したもの。きわめて簡素なもので、もし全くの初心者がこれを手にした場合、正しく使えるかどうか若干の不安が残ります。このあたりは、さすがにビクセンなどに一日の長がある感じです。

*1:参考:http://www7a.biglobe.ne.jp/~tomoyu/inst/co407.htm

*2:ネジの規格は梅原貴志さん(@TakaUme0616)にTwitter経由で教えていただきました。ありがとうございます。

*3:http://www.asahi-net.or.jp/~EP3N-KIZM/astro/scope/eyepiece2.htm