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国内で簡単に入手できる望遠鏡一覧(口径15cm以下~25cmクラス編)


おかげさまでご好評いただいている「国内で簡単に入手できる望遠鏡一覧」、今回は口径10cmを超える鏡筒を取り上げたいと思います。前回はこちらから。
hpn.hatenablog.com


なお、表中では光学系ごとに色を分けていて、ピンクが屈折系、青が反射系、紫がカタディオプトリック系となっています。また、グレーの欄は、補正レンズ系を使用した際のスペックを示しています。

実売価格は、協栄産業やシュミット、ジズコなどでの販売価格を基本に。イメージサークルは、各メーカーの公表値を示していて、29mm以上でAPS-C、43mm以上で35mm判フルサイズの領域をほぼカバーすると考えてよいです。このイメージサークルを公表している製品については、基本的に撮影目的での使用を前提に考えていると思ってよいでしょう。

~15cmクラス


口径10cmを超えるこのクラスは、一般に市販される屈折望遠鏡としては最大口径になります。一方、反射望遠鏡やカタディオプトリック式の望遠鏡としては入門サイズ。昔はむしろハイエンドに近いサイズでしたが、製造技術の向上はこんなところにも及んでいます。小型で取り回しの良い鏡筒が多く、隠れた狙い目です。


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国内メーカーとしてこのクラスの鏡筒を出しているのは、ビクセンと高橋製作所のみです*1


ビクセンのSD115Sは、同社のSDシリーズの単純なスケールアップ版で、長所・短所とも同シリーズの他の機種と共通します。ただ、口径なりに大きく重くなった分、手軽さは下がり価格は上昇。このあたりのトレードオフをどう判断するかです。



高橋製作所のTSA-120は3枚玉EDアポクロマートで、「軽快さと鋭像を両立した」と謳っています。確かに光学性能は優秀で、鏡筒のみの重量も6.7kgと控えめです。タカハシの屈折というと、もっぱらFSQシリーズとTOAシリーズばかりが注目されがちですが、もう少し見直されてもいい鏡筒のように思います。


TOAシリーズは最高性能を誇る同社のフラッグシップ機。その鋭像はほぼ完璧と言っていいレベルで、憧れる人も少なくないと思います。このシリーズは口径130mmのTOA-130NS、接眼体強化型のTOA-130NFB、口径150mmのTOA-150Bからなります。いずれもEDガラス2枚を含む分離型3枚玉で、補正レンズを含め大変高性能です。ただ、その性能はストレートに価格に反映されていて、最も安いTOA-130NSでも、一式揃えるとすぐ100万円近くかかってしまいます。鏡筒重量も大きく、運用するには口径から受ける印象より1クラス上の赤道儀が必要になると考えておいた方がいいでしょう。


ε-130Dとε-160EDは双曲面主鏡と補正レンズを組み合わせた光学系で、その明るさが最大の特長です*2。特にこの2機種は、(ε-180EDと比べて)明るさがやや控えめで軽量なことから、扱いやすい製品になっています。また、4月1日には専用エクステンダーが発売になりました(ε-160ED用は今夏発売予定)。5群7枚のレンズを使用した贅沢な作りで高価ですが、適度に焦点距離が伸びて撮影対象がグッと増えそうです。


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海外製品ですが、屈折系は口径10cm以下の鏡筒のスケールアップモデルが多くなっています。このクラスで多くのモデルを出しているのがSky-Watcherで、アクロマートのBK150750、BK15012、標準的なEDアポクロマートのEVOSTAR120ED、同150DX、写真用途を強く意識したEPRIT 120ED、同150EDと計6機種も揃えています。


アクロマートの2機種は基本的に眼視特化で、その集光力を生かして淡い天体を捉えてやろうという設計の鏡筒と思われます。とはいえ、最近はあぷらなーとさんが実践されているように、ワンショットナローバンドフィルターと併用して安価な写真鏡筒として生かす方法も出てきています。こうなると、かなりコストパフォーマンスは高いと言えるでしょう。
apranat.exblog.jp
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EVOSTARの2機種もED屈折として無理のない設計。なお、150DXのみ接眼部がラック&ピニオンになっています。重量のあるオプションを取り付けたとしても、ある程度安心だろうと思います。


ただし、BK15012とEVOSTAR 150DXは鏡筒長が1.2mを超える巨大さで、取り回しはかなり大変だろうと思います。


ESPRITシリーズの2機種は、パクリ元の高橋製作所のFSQ-130EDがなくなった今、貴重な写真特化大口径屈折となっています。FSQに比べると、イメージサークルが狭く暗いのが難ですが、Sky & Telescope誌のレビューなどを見る限り、性能は良好そうです。



反射系は安価なニュートン式が多いですが、目を引くのは笠井/MicrotechのカセグレンとOrion Telescopes & Binoculars/Microtechのリッチー・クレティアン。いずれも台湾Guan Sheng OpticalのOEM品です。どちらも1000mm超えの焦点距離の割に軽量・コンパクトな鏡筒で、価格もお手頃です。用途としては、カセグレンの方は眼視、写真撮影ともこなせる万能機、リッチー・クレティアンの方はDSOの撮影に特化した鏡筒*3と言えるでしょう。



カタディオプトリック系は、セレストロンのシュミットカセグレンと、Sky-WatcherのマクストフカセグレンおよびそのOEMが目立ちます。このうちSky-WatcherのMAK127SPは私も所有していますが、安価・コンパクトながらも見え味は良好で気に入っています。詳しくはこちらを参照ください。
urbansky.sakura.ne.jp


ユニークなのはSharpstarの15028HNT。双曲面主鏡に補正レンズを組み合わせたイプシロン光学系のパクリ類似の光学系で、明るさもε-180EDに匹敵するF2.8を達成しています。Sky & Telescope誌のレビューによれば像も非常に優秀。カメラの回転が面倒、副鏡がコバ塗りもなくむき出しなど欠点・要改造点は存在しますが、ε-130Dとほぼ同額、ε-180EDのおよそ半額という安さで、カーボン鏡筒である点も含め、魅力を感じる人は多いと思います。


~20cmクラス


個人向け反射式/カタディオプトリック式望遠鏡の主戦場です。所有者の多い中型赤道儀で安定して運用できる上限がこのあたりではないかと思います。


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まずは国内メーカーから。ビクセンは同じ口径20cmに3機種を展開しています。すなわち、ニュートン反射のR200SS、マクストフカセグレンの変法であるVMC式のVMC200L、6次非球面鏡を用いたVISAC式のVC200Lの3つです。この3つは性格がそれぞれ異なっていて、うまく住み分けができています。


R200SSは歴史の長い鏡筒で、現在国産でほぼ唯一のニュートン反射となっています。F4と明るい一方、副鏡を支持するスパイダー等はガッチリしていて、光軸が狂いにくくなっています*4。また、コレクターPHやエクステンダーPHはなかなかの高性能で、写真鏡として様々な用途に幅広く使えるかと思います。眼視性能もF値の割には優秀です。


VMC200Lはマクストフカセグレンの変法で、筒先にメニスカスレンズを配置する代わりに、副鏡セルの内部、副鏡の手前にメニスカスレンズを配置しています。こうすることで、コストを抑えるとともに鏡筒全体の温度順応を速めています。設計としては眼視性能に重点を置いていて、中心部の像はまぁまぁ。一方で周辺部は非点収差やコマ収差が割と強く出ます。レデューサーVMCを用いても劇的な改善とまでは行かないので、素直に眼視中心で使うか、写真を撮るにしても惑星状星雲など、もっぱら視野中央を使うものに限定した方が満足な結果になるでしょう。


VC200Lは6次非球面鏡と補正レンズを用いて視野全体の収差を減らした設計で、「準リッチー・クレティアン」とも呼べるものです。35mm判全体に渡って星像はエアリーディスク以内に収まる高性能ぶりで、レデューサーHDもかなりの性能を示します*5焦点距離が比較的長いことから、惑星状星雲や系外銀河など、視直径の小さい天体の撮影に威力を発揮します。ただ、少し不安なのは製品のバラつきが大きそうなことで、「ハズレ」の個体を引くとピント合わせすら困難な場合もあるとか*6。17万円超のガチャは勘弁してほしいところですorz



高橋製作所は長焦点鏡のミューロンと短焦点で明るいイプシロンの2シリーズを展開しています。


ミューロンはドール・カーカム式と呼ばれる光学系で、凹楕円主鏡と凸球面副鏡を組み合わせたものです。視野中心部は原理上無収差で、惑星などの観測には絶大な威力を発揮します。一方、この光学系は、同じF値ニュートン反射と比べてコマ収差が極端に大きいのが欠点で、これが良像範囲を制限します。これを改善するのが「Mフラットナーレデューサー」で、これを装着することで収差が軽減されるとともにF値が多少明るくなります。とはいえ、イメージサークルAPS-Cサイズに制限されますし、決して明るい光学系ではないので、あまり写真向きの鏡筒とは言えないでしょう。


ε-180EDはイプシロン光学系の中心モデルで、F2.8とシリーズ最高の明るさを誇ります。その分、光軸のわずかな狂いにも敏感で、扱いはそれなりにセンシティブですが、得られる像は極めて優秀で文句のつけようがありません。



国産と言えば、一応もう一つ。笠井トレーディングとバックヤードプロダクツが共同開発したNERO-200Nがあります。Ninjaシリーズで有名なバックヤードプロダクツお得意のGFRP製鏡筒が特徴的な製品で、惑星の眼視観測に徹底的に最適化した設計になっています。かなり尖った仕様の製品ですが、刺さる人には刺さると思います。


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次に海外製品ですが、こちらはSky-Watcherと台湾Guan Sheng OpticalのOEMによる安価なニュートン反射が二大勢力となっています。ニュートン式の場合、ある程度の性能を確保するだけなら比較的容易*7なので、価格での「殴り合い」になりがちです。いずれも普通に眼視で使う分には十分な性能を有していますが、一方でスパイダーや鏡筒が肉薄で歪みやすい、接眼部が貧弱などの問題を抱えていることも多く、撮影目的でヘビーに使おうとすると何らかの形で手を入れる必要が出てくるのがほとんどです。



ニュートン反射で独自路線を行くのは、英ORION OPTICSです。


英ORION OPTICSは、ミラーの高精度ぶりで知られるメーカーで、米Orion Telescopes & Binocularsとは全くの別会社です。ニュートン反射に関しては独自路線を行っていて、特徴的な鏡筒をいくつも出しています。価格帯としては高級品の部類ですが、極端にぶっ飛んだ価格というほどでもなく、強化オプションも豊富なのでマニアは検討の余地が十分あると思います。



また、ニュートン反射派生の光学系として、SharpstarとORION OPTICSが類似の鏡筒を出しています。


Sharpstarの20032PNTは、F3.8という短焦点ニュートン反射に補正レンズを組み合わせ、F3.2というイプシロン並みの驚異的な明るさを実現しています。公開されているスポットダイヤグラムを見る限り性能は良好で、温度順応用のファンや温度計も装備しています。鏡筒の素材は熱による膨張・収縮の少ないカーボンを採用。それでいて値段は40万円を切っているので、コストパフォーマンスは抜群です。


一方、ORION OPTICSのAG8も上記の20032PNTと類似の光学系で、このAGシリーズは口径40cmまでラインナップされています。出たのはこちらがずっと先ですが、さすがにコストでの叩き合いでは不利なようです。



ニュートン以外の反射系としては、笠井/Microtechの純カセグレン&リッチー・クレティアンが目立つ程度。それぞれ、口径15cmのシリーズと同様の特徴を有しています。価格的にも比較的お手頃で、長焦点鏡として魅力があります。



カタディオプトリック系で気を吐いているのはセレストロン。伝統的なシュミットカセグレンであるC8、補正レンズを組み込んだEdgeHD800、C8の主鏡をそのまま用いて明るいアストログラフに仕立てた8 RASAと、3機種をラインナップしています。以前は、ミードがライバル的な立ち位置で似たような製品をぶつけてきていたのですが、現在は本社の資金繰りや代理店交代のゴタゴタが尾を引いて、日本国内での存在感は極端に低下。このクラスの鏡筒はほぼセレストロンの独占状態になっています。


C8はセレストロンの草創期からの大ベストセラーで、周辺オプションもサードパーティー製を含めて極めて豊富。EdgeHD800は補正レンズによってC8の良像範囲を大きく広げた光学系で、主鏡を固定してミラーシフトを防ぐ「ミラークラッチ」の装備を含め、写真撮影を強く意識した構成になっています。詳しくはこちらもご覧ください。
urbansky.sakura.ne.jp


8 RASAは、元々短焦点なC8の主鏡に補正レンズを組み合わせることで、F2という他に例を見ない明るさを実現した撮影専用鏡筒。イメージサークルこそ22mmと小さいですが、構造的に大きなカメラを取り付けるのは難しい*8ので、バランスとしては適当なところでしょう。


ただ、セレストロンは代理店がサイトロンからビクセンに変更されて以降、国内販売価格が激しく上昇しています。EdgeHD800など、私が購入した2013年10月時点と比較すると2倍近くにもなっており、手を出しづらくなっているのが痛いところです。VMC200LやVC200Lとのカニバリゼーションを防ぐために値上げしたとは考えたくないですが……。



マクストフ系は、マクストフカセグレンがSky-WatcherのBKMAK180とそのOEM品、そしてORION OPTICSのハイエンド品のみ、マクストフニュートンがOrion Telescopes & Binocularsのもののみとなっています。このサイズになってくるとメニスカスレンズの重量がバカにならず、温度順応も厳しくなってくるので、納得できる結果です。以前は、笠井が扱っていた露インテス・マイクロ社が、多様な口径の高性能マクストフカセグレン、マクストフニュートンを比較的手ごろな価格で展開していましたが、同社が閉鎖された今となっては、なかなか難しいのかもしれません。


ちなみにOrion Telescopes & Binocularsのマクストフニュートンですが、モノとしてはSky-Watcherが海外で展開している製品のOEM。写真用途を意識しているためか、副鏡のサイズがφ64mmもあり、結果として中央遮蔽率が33%以上になっています。極小の副鏡により高い眼視性能を狙っていた、かつてのインテス・マイクロ社のマクストフニュートンとは性格が大きく違うので、その点は注意が必要です。


25cmクラス


このサイズになってくると、安定した運用には中型赤道儀では不足で、大型赤道儀が欲しくなってきます。システム全体もかなり大掛かりになってきて、移動観測で使える上限近いサイズと言えるでしょう。


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このクラスで国産で出ているのは、ビクセンのVMC260L、高橋製作所のMewlon-250CRS、CCA-250の3機種のみです。


VMC260Lは、おおまかにはマクストフカセグレンの変法という意味でVMC200Lと同じですが、光学設計自体はVMC200Lの拡大版ではなく、副鏡セル内のレンズ構成が全く違います。合焦機構も、VMC200Lがラック&ピニオン式なのに対し、VMC260Lでは主鏡移動式を採用しています。結像性能はVMC200Lよりはるかに優秀で、写真用途にも十分に耐えると思います。


タカハシの2機種はいずれも電動フォーカサーを備えた高級機で、焦点距離の長さで使い分ける感じです。いずれも素晴らしい性能を誇りますが、値段が値段なので、そうそう手を出せるものでもありません。


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海外製品はおおむね20cmクラスの鏡筒をそのまま拡大したものが多く、特筆すべきものは多くありません。口径25cmを超えてから新しく出てきたシリーズとしては、ORION OPTICSのODK10くらい。光学系はMewlon-250CRSと同じく修正ドール・カーカムですが、F値はこちらの方が明るくなっています。標準状態ではMewlon-250CRSより10万円ほど安く、いいライバルになりそうです。




こうしてみると、革新的な鏡筒により中華系企業の躍進が目立った10cm以下の屈折に比べ、このクラスの鏡筒だと昔ながらの安価な中華製ニュートン反射が幅を利かせていて、「革新」という意味ではやや停滞しているような感じもします。表面的には「中華系企業が強い」という同じ結論ですが、中身はだいぶ違う印象です。


とはいえ、GSOのクラシカルカセグレンや、Sharpstarの20032PNTみたいな鏡筒も出てきていますし、まだまだ中華系企業には伸びる余地がありそうな気がします。国内メーカーは……うん、まぁ……その……頑張れ。

*1:BORG107FLを「口径10cm以上」とみなせばトミーテックも入りますが、ここでは10cmクラスに分類しています。

*2:カタディオプトリックに分類していいのかどうか悩ましいところですが、補正レンズ使用が前提になっているので、ここではカタディオプトリックとして扱います。

*3:副鏡が大きい=中央遮蔽が大きく、回折によるコントラスト低下が大きいため。この鏡筒の場合、中央遮蔽率は直径比で50%にも達します。一般に、中央遮蔽率が30%を超えると惑星観測時の像に悪影響が目立ってくると言われるので、50%というとかなりのもの。その代わり、周辺光量は豊富になって写真には向きます。

*4:一方で、回折で生じる光条がキツい、コントラスト面で不利、といった弊害も出ますが、トレードオフの関係なので仕方ないと思います。

*5:イメージサークルが36mmとなっていますが、これは定義が「良像範囲、かつ周辺光量60%以上を確保」する範囲となっているためです。良像範囲だけなら44mmを確保しています(周辺光量は47%)。

*6:https://6018.teacup.com/enyoou/bbs/6899など

*7:硝材は安価な青板ガラスで十分だし、主鏡の放物面さえ研磨できれば、あとはどうにでもなります。

*8:カメラを副鏡の位置に取り付けるので、カメラが大きいと遮蔽が大きくなり、明るさがスポイルされてしまいます。