ASI2600MC ProのようなCMOSカメラを使っていくにあたって、イメージングソフトに何を使うかは大きな問題です。
一眼レフなどと違い、CMOSカメラの場合は本体に操作部分がほとんどありません。つまり、ソフトが唯一のインターフェイスになるわけで、この使い勝手がカメラの使い勝手に直結してしまいます。できるだけ使い勝手が良く、また機能的に過不足ないものを選びたいところです。
とはいえ、CMOSカメラ用のイメージングソフトについては、今まで惑星撮影用にFireCaptureをメインにしていて、あとはSharpCapをちょっと触ったくらい。DSO*1撮影用のイメージングソフトを選ぶにしても、あまりに不案内です。そこで、Twitterで簡単なアンケートをしてみました。
【緩募】冷却カメラ(ASI2600MC Pro)の制御ソフトをどうしようか思案中。個人差はあるだろうけど、どれが使いやすいだろうか…?実際に使っている方も含めてご意見を伺えれば。「その他」の場合は、別途ソフト名を教えていただけると助かります。
— HIROPON (@hiropon_hp2) 2020年5月2日
なお、動画撮影については、今回は度外視。
圧倒的に人気だったのが「APT(Astro Photography Tool)」でした。機能が豊富な割に安価(18.70ユーロ)で、しかも課金しない状態でも大半の機能が使えるというコストパフォーマンスの良さが好まれたようです。
「MaximDL」は冷却CCDの時代からの定番で、高価ながらもその実績と機能の豊富さが支持された形でしょうか。一方、国産の「ステラショット 2」は案外票が伸びない結果になりました。初代の「ステラショット」がCMOSカメラに対応しなかったこと、比較的新しいソフトで実績に乏しいこと、セット販売されている無線制御デバイス「GearBox」を中心にバグが多発し信頼性に疑問符が付いたこと、などが嫌気された理由でしょうか。
「その他」ではASIAIR Proのようなハードのほか、「SharpCap」や「Astroart 7」、「N.I.N.A.(Nighttime Imagaing 'N' Astronomy)」、「INDI + EKos」などが挙がっていました。みなさん、案外色々な環境を試されているようです。
そこで、教えていただいたソフトを中心に、その動作や使い勝手を確認してみました。自分なりの判断にはなりますが、何かの参考になれば幸いです。
ASIStudio
https://astronomy-imaging-camera.com/software-drivers
ZWOが自社製品用に無料で配布しているイメージングソフトです。惑星撮影用の「ASICap」、DSO撮影用の「ASIImg」、ライブスタック用の「ASILive」の3つのソフトに分かれていて、「ASIStudio」自体はその入り口にすぎません。
"We recommend customer to install this video capture software to test and get familiar with your camera."(カメラをテストして慣れるために、このビデオキャプチャソフトウェアをインストールすることをお勧めします。)と書いてある時点で分かるとおり、機能としては最低限で、あまり細かい設定はできません。ただ、逆に言うと最低限のことはこのソフトで出来るわけで、初心者には優しくできています。
ASICap
惑星撮影用のモジュールです。一番昔からあったソフトだけに、これのみ日本語化されています。使い方は簡単で、機能が少ないこともあって、わざわざマニュアルを見るまでもない感じです。
ASIImg
DSO撮影用のモジュールです。これも、操作パネルを一見しただけで使い方が分かる単純なソフトです。ただ、単純なだけに、ゲインの設定が「Low」、「High」の二択しかない、撮影シークエンスをセットする機能すらなくが限定的(露出秒数はドロップダウンリストで選択する形)など、かなり機能面での不足を感じます。あくまでも動作確認用と捉えた方が良さそうです。
ASILive
最近人気の出てきた「ライブスタック」専用のモジュールです。ライブスタックというのは、撮影した各コマをリアルタイムでコンポジットしていく機能です。リアルタイムで星雲の姿を浮かび上がらせることができるので、気軽な観望や観望会での使用に向いています。
こちらも機能は極めてシンプルで、あまり細かい調整はできません(ダーク補正やフラット補正は可能)。高機能を求めるならSharpCapなどを使うべきです。とはいえ、手軽さを取るならこれはこれで「あり」かと思います。
SharpCap
もともと惑星撮影用のソフトから発展してきた、非常に高機能のイメージングソフトです。フル機能を備えたSharpCap Proを使うには、年1600円が必要になります。ライブスタック機能が極めて強力で、愛用者も少なくありません。
ただ、このソフトは機能を後からどんどん追加してきた関係もあってか、インターフェイスがやや煩雑になってしまっている印象があります。実は惑星撮影用にSharpCapを使おうとしたこともあったのですが、どうも使い勝手になじめず、FireCaptureに流れてしまった過去があります。
用途などが変われば印象も変わるかと思ったのですが、どうも自分には合わないようです。
APT(Astro Photography Tool)
https://astrophotography.app/index.php
アンケートで最も人気のあったイメージングソフトです。上にも書きましたが、機能が豊富な割に安価(18.70ユーロ)で、しかも課金しない状態でも大半の機能が使えます。機能面での不満はほとんどありません。
使い勝手ですが、各機能のメニューはタブで整理されていて分かりやすいです。あまり迷うことなく使える見通しの良さも好感が持てます。操作性もよく練られていて、特に"Ringy Thingy"と呼ばれるインターフェイスは、マウス操作のみで数字を入力できてなかなか便利です。
ただ、唯一弱点を挙げるとすればメニューの文字の小ささです。大画面で使う分には問題ないのですが、普段撮影に使っているLet'sNote CF-NX2(12.1インチ、1600×900ピクセル)の画面で使うと、文字はおおむね2mm以下と芥子粒のようになってしまいます。老眼の進んだこの目*2には厳しいです。
Windows 10の側でスケーリングを調整する手もありますが、これはこれで画面が狭くなり、使い勝手に影響します。
このあたりは開発元も気にしているのか、一応、「Tools」→「APT Setting」→「Advanced」に「Bigger UI Font」というチェックボックスが用意されています。これをオンにしてみると……
確かに文字は大きくなるのですが、今度は文字がボタンに収まりきらず、かなり見苦しくなってしまいます。読めないボタンも慣れてしまえば問題ないのでしょうけど、快適さに欠けるのは否めません。
N.I.N.A.(Nighttime Imaging 'N' Astronomy)
今回、アンケートで教えていただいて初めて知ったのですが、オープンソースで開発が進められているイメージングスイートです。フリーウェアにもかかわらず、単なるキャプチャソフトにとどまらない多彩な機能を持っています。
例えば、スカイアトラスを参照して目標天体の出没の確認や導入を行えますし、写真データを基にした構図確認も可能。もちろんプレートソルビングにも対応しています。
しかも、現在Nightly Buildの段階ではあるものの、1.10からは日本語にもほぼ完全対応しています。訳も不自然な部分はほとんどありません。APTと違って文字が見やすく、各種の表示もグラフィカル。タブによる分類で、機能の見通しがいいのも助かるところです。機能面でもAPTに全く負けていないように思えます。
使い勝手等の感じ方については個人差がありますし、好き嫌いといった個人の嗜好も反映されるので優劣は付けづらいのですが、私としてはN.I.N.A.が非常に使いやすそうに感じました。しばらくはこのソフトで運用してみようかと思います。