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あれから10年も この先10年も

ついうっかり忘れていたのですが、この夏で、天文趣味に復帰してから丸10年になりました。実際に経ってみると、10年などというのは本当にあっという間です。


この10年の間には、機材などの進歩に加え、使っていた観測地が潰れたり、母親が脳内出血で倒れて介護が必要になったりと、公私ともに色々と変化がありました。きっと、この先10年も同様にいろいろと変化があるのでしょうけど、何とかついていきたいと思います。


機材の変遷


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初めて天体望遠鏡ビクセン/アトム スーパーミラーR-125S)を購入したのは中学の頃でしたが、大学の研究室に入るとあまりに忙しく、しばらく天文趣味から離脱していました。


ところがそれから十数年後、翌年に金環日食を控えて、やけぼっくいに火が付く形に。久々にカタログを収集したりして、望遠鏡を購入し直したのは2011年8月のこと。実質的に最初の1本目ということで、汎用性などを考えてビクセンのSXD-ED103Sを、拡大撮影カメラアダプターとTリング、月観測時の減光に使うムーングラス、赤道儀駆動用のバッテリー&接続ケーブルと合わせて購入したのが始まりです。


その後、デュアルスピードフォーカサーEOS KissX5(のちに天文改造)、オートガイダー(StarlightXpress Lodestar)、光害カットフィルター(LPS-P2)、レデューサーED(F7.7用)などを徐々に揃えていきました。


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2013年4月には、動作に何かと問題の多かったSXD赤道儀からSXP赤道儀に買い替え。このあたりでタガが外れたのか、同年10月にはEdgeHD800を導入。11月に惑星撮影用としてZWO ASI120MM/MCを購入と軍拡が続きます。


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2014年3月にはミニボーグ60EDを購入し、とうとう「BORG沼」に踏み込むことに。2014年秋にペンシルボーグ、2016年冬にミニボーグ45ED II、2017年6月に【6258】BORG55FL+レデューサー7880セットを購入し、現在に至る光学系がおおむね揃うことになりました。


架台については、2017年4月にミザールテックのK型経緯台、2019年5月にSkyWatcherのAZ-GTiを購入したくらい。このほかの大物といえば、2017年10月に購入したZWO ASI290MM/MC、2019年末に購入した冷却CMOSカメラZWO ASI2600MC Proくらいでしょうか。


かけてきた金額としては、ガチ勢の方々に比べればささやかなもののはずですが……それでも合計してみたくはないですね……(滝汗


周辺環境の変化


10年前、自宅前には住宅街の真ん中にしては珍しく広い駐車場があって、撮影はもっぱらそこでやっていたのですが、この土地が2013年春に分割・売却されてしまい、2014年にかけて住宅が次々と建つことになってしまいました。

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結果、1.5kmほど離れた公園まで手押し台車で機材一式を運ぶ羽目に。とはいえ、公園内は静かで見晴らしも良好ですし、結果的には良かったような気がします。



一方、環境の変化といえば照明環境の変化が大きいです。以前は光害といえば蛍光灯、水銀灯、ナトリウムランプといった輝線光源がもっぱらでしたが、特に東日本大震災以降、白色LEDが急速に普及した結果、光害の連続スペクトル成分が大きく増えたように思います。


フィルターの方も、光害環境の変化に合わせてワンショットナローバンドフィルターの類が増えてきましたが、これはこれで有効な対象が限定されるので、できれば光害を減らす=無駄な光の拡散を減らす方向で照明が進化してほしいと思います。


影技法、画像処理技法の変化


一番変わったのはここかもしれません(^^;


初めてDSOを撮影したのは、望遠鏡を買って約2か月後の10月末のこと。被写体は定番のオリオン大星雲(M42)でした。

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その時の写真がこちら。


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2011年10月29日 ビクセンED103S(D103mm, f795mm) SXD赤道儀
ペンタックスK-7(ISO200) 露出2分×6コマ ステライメージVer.6.5で画像処理

オートガイドなし、光害カットフィルターなしの状態で撮影したものです。


未改造のカメラなので、Hα線由来の赤い色が弱いのは仕方ないのですが、そもそもピントが甘い、周辺減光や光害カブリをごまかすために背景を真っ黒に落とすなど、まさに「初心者あるある」のオンパレードです。


これを今の自分の技術で「お色直し」してみたのがこちら。


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背景は真っ黒に落とさず、星雲は可能な限りあぶり出し。周辺減光もできるだけ補正した結果、消え失せていた「ランニングマン星雲」も浮かび上がり、元画像の酷さの割にはまずまず見られる画像になったかなという感じです。このあたりのテクニックは明らかに向上した部分です*1


そして、同被写体の最新の結果がこちら。


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2020年11月15日, 22日 ミニボーグ60ED+マルチフラットナー 1.08×DG(D60mm, f378mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃, Gain=0, 露出5秒×8コマ+30秒×8コマ+180秒×8コマ+1800秒×8コマ, IDAS LPS-D1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

機材もカメラも何もかもが違うので、単純に比較するのもアレですが、撮影技術の向上と合わせれば、都心でもこのくらいは行けるぞという……。


ASI2600MC Proの最適撮影条件を詰め切れてない感じもあるので、まだもう少し伸びしろはありそうな気がします。また、せっかく購入したPixInsightについても、ロクに使いこなせていない*2ので研究していきたいところです。


これまで撮影した天体


参考までに、この10年間で撮影してきた天体を一覧にしてみました。まずはメシエ天体から。


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撮影したメシエ天体は全部で61個。ようやく半数を超えましたが、「撮りたいものを撮りたいときに撮る」というスタンスなので、なかなか数が増えません。撮り直しもしばしばやるのでなおさらです。


また、この表では天体の種類別に色分けしてありますが、明らかに球状星団散開星団の数が少ないです。単に撮るだけなら簡単な対象ですが、微光星を写しつつ、かつ星の色を出すのが難しいこと、目に見えない淡い対象をあぶりだす楽しみに乏しいことあたりが、なかなか食指が伸びない原因かと思います。今後、このあたりは積極的に改善していきたいところです。


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次いでカルドウェル天体。この「カルドウェル天体」というのは、イギリスのアマチュア天文学者パトリック・アルフレッド・カルドウェル=ムーア(Sir Patrick Alfred Caldwell-Moore, 1923~2012)が1995年、アメリカの天文雑誌Sky & Telescope誌で発表したもので、アマチュアの小望遠鏡でも観察しやすい109個の天体をリストアップしたものです。このうち、日本本土から観測できるのは80個ほどになります。


こちらはまだまだ穴だらけ。撮影できたのは23個と、ようやく1/4を超えましたが先は長いです。


一覧表をよく見てみると、愛称がついたものを多く撮っていることが分かります。愛称がついたものは、明るいものや形の面白いものが多く、被写体として映えるからでしょう。


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最後はその他の天体。おとめ座銀河団の銀河などを撮影した時に背景に小さく写り込む、いわゆる「粉銀河」の類までカウントしているので、数だけは148個とそれなりに行ってます。とはいえ、逆に言えば都心でもこのくらいの数の天体は写ってくれるわけで、希望のある結果ではあります。



2018年に同様にカウントした際には、メシエ天体が49個、カルドウェル天体が18個でしたから、ここ3年でメシエ天体が+12個、カルドウェル天体が+5個。なにしろ東京都心という悪環境下で撮っているので、露出がたっぷり必要で、一晩に1~2個の天体を撮るのがせいぜいということを考えると、ペースとしてはまずまずという気がします。


とはいえ、せめてメシエ天体くらいはコンプリートしたいところ。上でも書きましたが、どこかで「散開星団祭り」でも開催した方がよさそうですね(笑)

*1:こうしてみると、過去に撮ったものも、改めて処理するとずいぶん良くなるものがまだまだありそうな気がします。

*2:各種パラメータが主に非光害地での撮影に最適化されているようで、デフォルトの設定ではなかなか良い結果になりません。パラメータの意味を理解した上で数値を詰めること、そして超光害地向けのフローを確立するのが非常に大変です。