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晴れの週末二連荘 2日目~秋の系外銀河

先日のエントリーからちょっと間が空きましたが、9/30夜の惑星状星雲撮影に引き続き、10/1夜はいつもの公園に出撃してきました。


この日は前日に引き続き、EdgeHD800を使用。秋の小さな系外銀河を狙う予定です。系外銀河を狙うということで、光害カット効果の高い赤外線撮影を併用するつもり。赤外線でL画像を、通常の光害カットフィルターでRGB画像を取得すれば、ある程度それっぽい画像が得られるはずです。赤外線を使用するので、カメラはASI533MC Proを使用。いつも使っているASI2600MC Proは、保護ガラスがIRカットフィルターになっているので赤外線撮影に使えないのです。


今回の撮影ではフィルター交換が必要になってくるので、オフアキの構成を再度見直して以下のようにしました。

SCTアダプター25.3mm
オフアキシスガイダー本体29mm
M42(オス)Tマウント用カメラアダプター12.5mm
M42P0.75→M57AD【7528】8mm
フィルターBOXn【7519】15mm
M57/60延長筒SS【7601】12mm
M57→M36.4AD【7522】9mm
Tスレッド延長リング5mm
ZWO冷却カメラ17.5mm


これでバックフォーカスは133.3mm。EdgeHD800のバックフォーカスの規定値は133mmですが、フィルターが入ると必要光路長がやや伸び、LPS-D1の場合で+約0.8mmほど。結果、規定値より0.5mmほど短くなってしまいますが、特に今回は中心部しか使いませんし、おそらくそれほど大きな問題は出ないでしょう……出ないといいなぁ(^^;


この日の天文薄明終了は18時51分、月没は20時47分なので、月が沈むまでの暇つぶしに、こぎつね座の惑星状星雲M27を撮影。明るい星雲なので、撮影はかなり気楽です。もっとも、明るい惑星状星雲と言っても、前日に撮影したNGC7027やNGC7662に比べると淡いので、1コマ当たりの露出時間は30秒とやや長めに。それでも2時間も積み重ねればそれなりになるでしょう。



月没後は、フィルターを赤外線透過フィルター、次いでLPS-D1に交換し「ステファンの五つ子」を狙います。




「ステファンの五つ子」はペガスス座にある小さな銀河群で、その名の通り5つの銀河が狭い範囲に密集して見えているものです。視等級が13.9~16.7等と暗いので、果たしてどこまで写るでしょうか……?


1時ごろからは「宇宙に咲く一輪のバラ」としてハッブル宇宙望遠鏡の写真で有名になった、相互作用銀河Arp273を狙ってみます。
hubblesite.org





Arp273はアンドロメダ座にある天体で、UGC1810とUGC1813が重力的に作用を及ぼし合っている姿です。こちらもそれぞれ13.9等、15.2等と暗い上、淡い腕の部分まで写らないとバラに見えないので、なかなか難物でしょう。


ところが、薄明まであと1時間ほどというところで西から雲が襲来。気象衛星からの画像を見ると雲は当分取れそうもないですし、ここで強制終了となってしまいました。惜しむらくは、フィルター交換の関係でArp273は可視光から撮影していた点で、赤外線画像は4コマしか確保できませんでした。さて、果たしてこれでまともな作品に仕上がるものでしょうか……?


リザルト


というわけで、撮影結果を。まずは「亜鈴状星雲」M27からです。



2022年10月1日 EdgeHD800(D203mm, f2035mm) SXP赤道儀
ZWO ASI533MC Pro, 0℃
Gain=500, 30秒×240, IDAS NebulaBooster NB1フィルター使用
オフアキシスガイダー+StarlightXpress Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

1コマ当たりわずか30秒の露出ですが、積み重ねでかなり良く写っているように思います。撮って出しでも御覧の通り。




ここまで明るいと処理も色々と楽です。また、この天体については同じフィルターを使い、3年前にもデジカメで狙っていますが、処理の簡単さや淡いガスの写り具合は大違い。
hpn.hatenablog.com

改めて天体用冷却CMOSの威力を実感しました。



お次は本命の1つ「ステファンの五つ子」。



2022年10月1日 EdgeHD800(D203mm, f2035mm) SXP赤道儀
ZWO ASI533MC Pro, 0℃
IR:Gain=400, 600秒×8コマ, SIGHTRON IR640 Pro IIフィルター使用
RGB:Gain=200, 600秒×8コマ, IDAS LPS-D1フィルター使用
オフアキシスガイダー+StarlightXpress Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

幸い、色と形が分かる程度には写ってくれました。




5つの銀河が密集していますが、このうちNGC7320だけは地球からの距離が約4000万光年と手前にあり、その他の4つは約3億光年かなたの天体です。なお、後ろの銀河と比べて手前のNGC7320がかなり青っぽいので「赤方偏移の影響か?」と思いたくなりますが、これは単にNGC7320での星形成が活発で、若い星が多いためではないかと思われます。


NGC7318Aと7318Bは激しく衝突していて、その衝撃波が離れた位置に星形成領域を作り出しています。また、NGC7319はMGC7320Cと相互作用していて、両者の間は潮汐尾で繋がっています。



そしてArp273。



2022年10月2日 EdgeHD800(D203mm, f2035mm) SXP赤道儀
ZWO ASI533MC Pro, 0℃
IR:Gain=400, 600秒×4コマ, SIGHTRON IR640 Pro IIフィルター使用
RGB:Gain=200, 600秒×8コマ, IDAS LPS-D1フィルター使用
オフアキシスガイダー+StarlightXpress Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

赤外線画像の枚数が少ないのでどうなるかと思いましたが、どうにかバラの姿が分かる程度には写ってくれました。「バラの花」の方がUGC1810、茎の方がUGC1813です。地球からの距離は、こちらも約3億光年。今見えている光が出発したのは、地球で言うと石炭紀ペルム紀の頃。そんな光を、都心の光の洪水の中からアマチュア機材で捉えられるというのはまさにロマンです。




それにしても、赤外線撮影の効果たるや凄まじいものがあります。撮影時のGainが違うとはいえ、通常の光害カットフィルターを用いたのもの(右)と全体の輝度をおおまかに揃えた上で比べると、写りのレベルがまるで違います*1。ただし、対象は連続光で輝く天体に限られ、波長によってはチリやガスを少なからず透過してしまうので、理屈の上では暗黒帯・暗黒星雲や反射星雲も基本的に苦手。ほぼ銀河専用*2になってしまうのが惜しいところです。



ところで今回、M27を撮影しているときに声を掛けられ、公園のご近所の複数家族とちょっとした「プチ観望会」状態になっていました。MAK127SP+AZ-GTiで月、土星木星と案内して大いに盛り上がったのですが、こういう場面でこの手の手軽な機材があるとやはり便利です。来月の月食の時も、こんな感じで盛り上がれると嬉しいのですが。

*1:あくまでも「おおまかに」なので、かなり雑な参考値ですが。

*2:銀河の暗黒帯のコントラストが落ちるという話もあります。