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散開星団祭り

先の月曜日は、低気圧の通過後ということで典型的な冬型の気圧配置に。関東は快晴になる予報だったので、週の頭の平日ですが色々予定を切り上げ、いつもの公園に強行出撃してきました。


この日選んだ鏡筒は、今年春に入手したAskar FRA300 pro。
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久しく出番がなかったシステムですが、こいつでプレアデス星団ことM45を周辺ごと、一晩かけて捉える予定です。あわよくば周辺の分子雲まで写ってくれれば……。唯一懸念があるのは、超強調するとライトフレームやフラットフレームに「日の丸」が現れる点。このパターンは補正が極めて難しいので、大したことなく済んでくれるといいのですが……。
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公園に到着したのは5時ごろ。天文薄明が終わる6時ごろにはスタンバイが完了して、いつでも撮影できる状態になりました。とはいえ、この時間ではM45の高度は20度にも達しておらず、光害が酷すぎて撮影には不向きです。


そこで、隙間時間を有効活用すべく、鏡筒をカシオペヤ座の散開星団M103周辺に向けます。


このFRA300 proをはじめとした高性能鏡筒で散開星団を撮影すると、えてして「白い点々が散らばっているだけ」の地味な絵になりがちなのですが、今回はこんなものを用意。


ケンコー・トキナー「PRO1D プロソフトン クリア(W)」です。このフィルターは「星景写真に最適」として販売されていますが、ソフト効果が「プロソフトン(A)」の約半分と弱いため、望遠域で使えるソフトフィルターとしても有用です。


これをフィルタードロワーに装着して使用します。代わりに光害カットフィルターは使用できなくなりますが、そこは甘受することに*1 *2。過去、プレセべ星団 M44に対して実験的に使用して好感触でしたし、おそらくはいい結果が得られるでしょう。
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20時ごろになって、M45の高度が40度近くなったら、フィルターを従来型の光害カットフィルターであるLPS-D1に変更し、本命の撮影を開始。あとはもう、明け方までひたすら撮り続けます。夜半以降は風も収まってきて、寒さもほどほどに。機材の動作も終始安定していて、穏やかに撮影が完了しました。


ちなみに撮影風景の遠景はこんな感じ。深夜の都心の公園とはいえ、周囲は住宅街なので人っ子ひとりおらず、まぁ静かなものです。そして明るい! (>_<)

リザルト


まずは処理が簡単そうなM103周辺からです。


モノが散開星団なので淡いものを炙り出すわけでもなく、あまり極端な処理は必要なさそうです。それでも、周辺減光や光害カブリの除去にはそれなりの手間が。一番面倒だったのはやはりフラット補正で、大した強調をするわけではないとはいえ「三色分解フラット補正」を余儀なくされました。撮影したコマ数が60コマなので、ファイル数が黙って3倍の180枚に……orz


仕方ないので、諦めて黙々と作業し……はい、ドンッ!



2023年11月13日 FRA300 pro(D60mm, f300mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain100, 60秒×60, ケンコー・トキナー PRO1D プロソフトン クリア(W)使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0nほかで画像処理


ソフトフィルターの効果で、期待通り星の存在感がある、華やかな画に仕上がりました。淡い箇所がほとんどないので、東京都心からの撮影でも処理は簡単です。*3


M103を含むこのあたりは、天の川の真ん中ということもあって散開星団が多く、この写真内にも複数の星団が写っています。



M103周辺の散開星団


M103は写真右下。青、赤、青の星の並びが特徴的です。上の方の青い星はストルーベ131(Σ131)という、7.3等と9.9等の二重星。一方、下の方の青い星はHD 9365という、M103よりもずっと手前にある無関係の星です*4。さもM103に属しているかのような顔つきをしていますが……(^^;


このM103よりも大きく明るいのがNGC 663。姿もいかにも星団らしいですし、しばしばM103と間違えられたりしています。ただ、M103と違って目立つ星の並びがないため、華やかさにはやや欠ける印象です。


その北側にはNGC 654。この星団の傍らにはHD 10494という7等星があって目立ちます。このHD 10494ですが、驚くことに同星団の一員で、いわゆる「黄色超巨星」と呼ばれるタイプの星です*5。超巨星の寿命が短いことを考えれば星団自体もかなり若く、実際、NGC 654の年齢は約1400万年と言われています。


写真の左上にはIC 166という暗い散開星団がありますが、この星団は他の星団に比べて明らかに赤いです。星団の年齢自体が約10億年と比較的古めなのに加え、実際の位置が銀河系のペルセウス腕の向こうということで、天の川のチリによる減光で赤っぽく見えているのです。*6



さて、一方のM45ですが、トータルのコマ数は実に150コマに及びました。例によってこれを三色分解して、ガンマを変えながらちまちまフラットを当てていきます。こ、これは面倒すぎる……orz


さらに、考えないといけないのは「光害カブリの向き」です。一般に光害は地平線に近い方がきついのですが、今回のように撮影がほぼ一晩に及ぶと、南中前後で「天体に対する地平線の位置」が大きく変化します。特にM45のように天頂近くまで昇る天体の場合、南中の前後でカブリの向きが正反対になります。



例えばこれは、フラット補正後に南中前後のコマをそれぞれコンポジットしたもの(のG画像)ですが、南中を挟んでカブリの向きがきれいに正反対になっているのが分かります。何も考えずに、これらを一緒くたにしてしまうと、カブリの傾斜が一様にならず、補正の難易度が猛烈に上がってしまいます。


そこで、南中前と後とで撮影したコマを二分し、それぞれでコンポジット&カブリ補正。その上で「加算合成」を行います。「加算平均」ではなく「加算」にするのは、南中前後でコマ数や画質が違う場合を考えてのこと。加算平均にしてしまうと、最も質の悪いコマに全体の質が引きずられてしまいます。


こうして、どうにか平坦っぽい画像を手に入れましたが、カブリが取れると例の「日の丸」がきれいに消えてないことが発覚。フラット補正の際にガンマを弄った分の誤差がどうしても浮き上がってきてしまいます。PixInsightのDBEなどを駆使しつつ必死に誤差を均し、可能な限りの強調を加えて……はい、ドンッ!(2回目)



2023年11月13日 FRA300 pro(D60mm, f300mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain100, 180秒×150, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0nほかで画像処理


M45は過去にも撮影していますが、その時と比べると反射星雲(分子雲)がもう少し広い範囲まで写っており、まずまず粘った甲斐があった感じです。
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とはいえ、LEDによる光害があふれる東京都心だと、これ以上はなかなか難しそうというのも事実。複数夜を使ったり、もっと明るい光学系*7を使えば別ですが、一晩だとこのあたりが限界でしょう。


水俣条約との絡みで2027年末には蛍光灯の製造が禁止されるとのニュースが先日流れました*8が、となるとLEDによる光害は酷くなることはありこそすれ、減ることはちょっとなさそう。今後、この場所からこれ以上淡い反射星雲(分子雲)を写すのは難しくなってくるのかもしれません。

*1:物理的に使用できないわけではありません。フィルターボックスを2段重ねにしたりすれば使えます。

*2:パーツのやりくりで使用できなくもないのだけど、そこまでするメリットはないと判断。

*3:手間がかからないとは言ってない。

*4:M103は6500~8000光年ほどの彼方にあるのに対し、この星は390光年ほどの近傍にあります。

*5:この星団で2番目に明るい星より20倍も明るいあたり、この星の異常さが際立ちます。

*6:夕日が赤く見えるのと同じ理由。

*7:フラットの難易度がさらに爆上がりして、また別の問題が発生しそうですが。

*8:「蛍光灯、27年末で製造禁止 水銀規制の水俣条約会議で合意」 www.47news.jp