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久々の撮影

大体全国的にそうだったと思うのですが、この夏は天候がとにかく不安定でした。たまに晴れたとしても、いつ雷雨が襲ってくるか分からない状態で、とても落ち着いて天体撮影をできる状況ではありません。


記録を見返して見ると、最後の撮影は2ヶ月前の7月30日。しかも、このときも頻繁な雲の襲来に悩まされ、正味40分しか撮影できませんでした。一晩きれいに晴れていたとなると、6月26~27日までさかのぼらないといけません。
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2ヶ月も「お預け」されていると「星欲」がもう限界……!となって、WindyやSCWで晴れ間が予想されていた25日夜、夕方から強行出撃したのですが……


……Oh


ものの見事に曇ってしまい、あえなく撤退。しかも撤退後に晴れるという「お約束」までついてきてダメージ倍加ですorz



しかし、一度「撮影するぞ」モードに入ってしまったものを収めるのは難しく(^^; 翌日、再度出撃してきました。平日?いや、まぁ何とかなるでしょう(ぉぃ


この夜は、夜半前にみずがめ座の「らせん状星雲」ことNGC7293を、夜半以降はプレアデス星団ことM45を狙う予定。というわけで、まずは南の低空に望遠鏡を向けたのですが……。


……なんで撮ろうとする方向にだけ雲が出るのさorz 最近の「誘導気象兵器」(笑)は高性能すぎて困ります。


それでも、幸い21時半過ぎには雲も抜け、撮影を開始できました。撮ったコマを軽く強調してみると、一応星雲も見えますが……




写りはお世辞にもよくありません。NGC7293自体がそもそもかなり淡い上、この夜は大気の透明度が悪く、とどめに南中高度が低くて光害の影響を受けやすいのですから、たとえデュアルナロー系のNB1フィルターを使っていたとしてもこんなものでしょう。それでも、デジカメと比べると弱いシグナルも余さず記録してくれますから、姿が見えていればなんとかなります。


夜半過ぎからは、フィルター交換(NB1→LPS-D1)および光学系を組み替えて(SDフラットナーHD→レデューサーHD)M45を……の前にペルセウス座二重星団 h-χをちょこっと。有名な天体ながら、2013年に撮って以来、どういうわけかカメラを向ける機会がなく……。当時から10年近くたって、今撮ったらどのようになるのか、個人的にちょっと楽しみです。
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そして1時ごろからM45の撮影を開始。この対象を撮るときは、季節的なものか大気の透明度が悪いことが多く、なかなか満足な写りにならないのですが、今回はどうでしょうか……?




撮ったものを強調してみると、メローペやマイア周辺の反射星雲はなんとか確認できます。あとはカメラの性能に期待でしょうか。


この調子で明け方まで……と行きたいところでしたが、3時を回ったころから雲が出始め、あっという間に全天曇り空に。ここで撤収となりました。


ちなみに、撮影中はAZ-GTi+MAK127SPで木星&火星を観望。この夜はシーイングが良く、恒星の周りのジフラクションリングも終始ハッキリ見えていました。火星は黄雲におおわれて模様が不明確でしたが、自分の腐った目でも極冠や子午線の湾(アリンの爪)が確認できました。12月1日の最接近に向け、順調に視直径が大きくなってきています。撮影できなかったのが残念ですが、こればかりは機材が足りないですし仕方がないでしょう。


リザルト


翌日以降、画像処理に取り掛かります。まずは処理が比較的簡単な二重星団から。



2022年9月27日 ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃
Gain=100, 60秒×16, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

天の川の中にあるだけに、背景の星々と相まって実に美しい星団です。空がある程度暗ければ肉眼でも存在が分かり、その存在は昔から知られていました。かつては星座の中を動き回る「惑星」に対し、単純に星座の中を移動しない天体を「恒星」としていたため、右側の密集度の高い方にh(エイチ)、左側の密集度の低い方にχ(カイ)という恒星用の符号(バイエル符号)が振られています。


今回も星団の写真のご多分に漏れず、星の色に注意しながら処理しましたが、所々にある赤い星がいいアクセントになっています。これらはいずれも二重星団に属する赤色超巨星です。星団の年齢は1400万年程度しかありませんが、これらの星は質量が大きいために進化が速く、あっという間に晩年に差し掛かっているのです。



写真の範囲内だけでも、そうした赤色超巨星が7つもあります。数百万年もすれば、これらのいくつかは惑星状星雲や超新星残骸になっているかもしれません。



次は「らせん状星雲」NGC7293。こちらはとにかく淡い上に、光害の影響がきつくて処理に難儀します。それでも何とか無理やり処理して……こう!



2022年9月26日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃
Gain=100, 900秒×8, IDAS NB1フィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

淡いとはいえサイズが大きいので、存在感だけはやたらとあります。ちょうど環状星雲M57の拡大版といった感じです。それもそのはず、M57は地球から2500光年ほども離れているのに対し、NGC7293はわずか650光年という至近距離にあるため大きく見えるのです。


以前、デジカメで撮った時と比べると描写は雲泥の差で、淡い天体に対する冷却CMOSの強さを感じます。
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そしてプレアデス星団M45。星団を取り巻く淡い反射星雲がメインともいえるもので、慎重なフラット補正が求められます。ところが、当然のことながら星団&反射星雲が中央にあるため、どこからどこまでがガスでどこまでが周辺減光か、判別が非常に困難です。


「RGB分割フラット補正」の段階では、ガンマフラット時のガンマ値を0.01単位で変えながら、各色ごとに最適値を探ります。そうして、おおよそフラットになったと判断したところでカブリを除去し、あれこれ処理を加えて……こう!



2022年9月26日 ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃
Gain=100, 600秒×14, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

星雲の強調には、例によって三色分解の上、Nik CollectionのSilver Efex Pro 2の「高ストラクチャ(強)」を用いています。ある程度の品質の素材が必要ですが、効果が過激すぎず、使いやすいフィルターです。


デジカメで撮った過去の写真と比べると、ガスの淡いところまである程度しっかり表現できていて、その意味では満足です。ただ一方で、連続スペクトルで輝くLED照明が広く普及してきた結果、反射星雲の撮影がますます難しくなってきたのも確かなところ。この手の天体に対しては、赤外線フィルターの効果も限定的ですし「無理・無茶・無謀」を押し通すなら今のうちかもしれません(^^;


あと、やはりED103S(SD103S)の錫箔は邪魔です。対物レンズ用の円形絞りを自作して追加するのは手ですが、口径が絞られて明るさがもったいないです。81Sみたいにスペーサー交換をやってくれるといいのですが……。
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