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みたび光の国

先のエントリーの続きです。

hpn.hatenablog.com



トラブルに見舞われながらも散開星団の撮影を終え、M78の撮影に移ったのが21時過ぎ。ここから夜半までは、写野内に写りこんでくるバーナードループの表現を意図して、L-Ultimateを用いた撮影を行います*1。露出時間は短めになってしまいますが、L-Ultimateでの撮影はあくまで補完的なものですし、コントラストも高くなるはずなので、おそらくなんとかなるでしょう。



そして23時過ぎからは、フィルターを通常の光害カットフィルターであるLPS-D1に交換して、ひたすら撮影を続けます。


しかし、冬型の気圧配置にもかかわらず、最微等級はイマイチさえません。3等行ってないんじゃなかろうか……。写真を撮っても御覧の通り。

……
…………
………………昼間の青空かな?


LED照明による光害悪化の影響なのは容易に想像できる所で、反射星雲の撮影はますます難しくなりそうな予感がします。


3時ごろになるとM78は西の空に大きく傾き、高度も30度程度に。ここでM78の撮影は終了しました。



さて、ちゃんと撮れたかどうかが心配なところですが……L-UltimateとLPS-D1でそれぞれ撮影したものを、ASIFitsViewにてオートでレベル調整表示したものがこちら。



狙い通り、L-Ultimateで撮った方(左)はバーナードループがハッキリ見えています。逆に、M78本体の写りはLPS-D1と比べてかなり控えめ。これはM78が「星の光を単純に反射、散乱しているだけ」の反射星雲であることが関係しています。反射星雲の場合、電離した水素原子が輝いている散光星雲(輝線星雲)と違い、Hα線だけを強力に放射しているわけではないので、ナローバンドではどうしても写りが悪くなってしまうのです。恒星の写りが悪いのと根は同じです。


これらをそれぞれフラット補正し、各種処理を加えていって……はい、ドンッ!




2023年12月17日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
カラー画像:Gain100, 300秒×42, IDAS LPS-D1フィルター使用
ナローバンド画像:Gain350, 300秒×16, Optolong L-Ultimateフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0n、PixInsightほかで画像処理


反射星雲と散光星雲、暗黒星雲が入り乱れて、実に美しい領域です。深夜でも3等すら怪しい東京都心で、よくぞここまでカラフルに写ってくれたものだと思います。プレアデス星団を撮った際にも書きましたが、LEDによる光害が広がる中、街なかからこの手の天体が撮れるのは今のうちかもしれません*2ので、街撮り派の方はできる限り早めに記録しておくことをお勧めします(^^;


しかし……ほぼ全面に渡って分子雲が広がっているせいで、フラット補正の際に「本当にフラットになったのか?」の判別が困難だったのには参りました。色々と弄ってはみたものの、やればやるほど正解が分からなくなって、テキトーなところで諦めてしまったのが正直なところです。多分、BやGチャンネルの周辺はフラットになりきってないんじゃないかな……(^^;




ウルトラマンの故郷「光の国」の所在地として有名なM78は、二重星であるHD 38563によって周辺の分子雲が照らされているもの。実のところ、ウルトラマンの「M78星雲」は「M87」(おとめ座の系外銀河)の誤植で、実際のM78は宇宙人の住めるような環境ではなさそうなのですが、光輝いている様子はいかにも「光の国」という感じで個人的には好きだったりします(^^)


M78周辺にはナンバリングされた複数の星雲がありますが、その実態は、ひとつながりの分子雲の所々を星々が照らしているものです。


また、M78の南西には"McNeil's Nebula"と呼ばれる星雲が「ありました」。2004年1月23日、アメリカのアマチュア天文家Jay McNeilはM78近傍に、これまで記録のなかった新たな反射星雲を発見しました*3。記録をさかのぼって調べてみると、1966年10月には撮影されていたものの、それ以外の時期には記録されていませんでした。さらに調べると、この星雲はV1647 Oriという変光星によって照らされた反射星雲であることが明らかとなり、星雲が見えたり消えたりするのは、この星の変光のためだろうと考えられるようになりました。


ところが、2018年になると星雲はすっかり姿を消してしまい、それ以降は観測されていません。この写真でもその姿は全く見えませんが、いずれまた見える日が来るのでしょうか……?

*1:宵のうち、かつM78の高度が低い中、ナローバンドなら光害に比較的強いというのも大きな理由

*2:光害は酷くなりこそすれ、改善はしなさそうですし……

*3:発見に用いられたのは口径わずか3インチ(76mm)の望遠鏡でした。このような小型機器で新発見がなされるのは極めて珍しいです。