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球状星団祭り

記事の順番が前後しましたが、先々週に引き続き、先週の金曜日もきれいな快晴で絶好の出撃日和でした。とはいえ、家の用事などもあって出撃は晩飯が終わってからになってしまい、いつもの公園に到着、機材を展開し終えたのは23時半ごろに。


この日の天文薄明開始時刻は翌午前3時ごろなので、使えるのは正味3時間ほどしかありません。この短時間で撮れるものと言えば……「アレ」しかあるまい……。



球状星団カーニバル

開  幕  だ  (AA略



こんなこともあろうかと、実は事前に、未撮影メシエ天体を赤経順に並べたリストを作ってあったので、撮影対象を決めるのは楽ちんです。


リストに従い、まずは鏡筒をへびつかい座のM107に向けます。撮影は30秒×60コマの計30分を基本に。星団なら淡いところもないし、最悪このくらいでも見られる程度にはなるでしょう。



次いで、同じくへびつかい座のM62、M19と進んでいきますが、いずれも南中時の高度が30度を切っていてなかなか厳しいです。地上のLED照明からの迷光が気になりますが……大丈夫でしょうか?*1


M14になると高度がぐっと上がりますが……


薄明開始直前のM28ではまたしても。いや、極端な強調処理は不要なはずだから、照明の影響が多少あっても大丈夫なはず……!


ともあれ、球状星団5つをまとめて収め、撮影終了です。


リザルト


仮眠後、さっそく画像処理に写ります。各星団の「撮って出し」をASIFitsViewerで自動レベル調整するとこんな感じ。


さすがに星団だけに、写りはしっかりしています。星の集中度合いの違いもあってか、見た目の明るさがカタログ上の等級とほぼ一致しているあたりは面白いです。


これらを並べ、ほぼ同一の手順で処理。最後に明るさの調整を行って……はい、ドンッ!



M107



M62



M19



M14



M28

2024年5月10~11日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
Gain300, 30秒×60, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsight、ステライメージVer.9.0oほかで画像処理

こうやってまとめて並べて見ると、一見同じように見える球状星団でもそれぞれ個性があるのがよく分かります。


M107は1782年4月にピエール・メシャンによって発見された天体です。1783年にメシャンが"Nouveaux Mémoires de l'Académie Royale des Sciences et Belles-Lettres"の編集者であるベルヌーイ宛に送った手紙*2の中に記述があり、将来的にはカタログに追加するつもりだったようです。これが彼によって発見された最後の天体で、1947年にヘレン・ソーヤー・ホッグによってM105、M106とともにメシエカタログに加えられました。


今回撮影した球状星団の中で最も星の集まり方が緩い星団で、球状星団の集中度合いを表す「シャプレー・ソーヤー集中度」では下から3番目のクラスXに分類されます。海外では"Crucifix Cluster"(十字架星団)という愛称がありますが、これはおそらく南北を逆にした時に、星団を含めた星々が十字架を描いているように見えるためでしょう。



(マウスオーバーで画像切り替え)

地球からの距離は約21000光年。銀河の中心からの距離は約9800光年です。



M62は1771年6月7日にシャルル・メシエによって発見された天体です。即座に位置の計測が行われていれば、カタログにおいてM49とM50の間に来たはずですが、位置の測定が1779年6月4日にずれ込んだため、この番号になっています。


特徴的なのはその姿で、大半の球状星団が対称的な構造をしているのに対し、この星団は星団の外形に対し、中心が明らかに偏っています。これは、この星団が銀河の中心から約5500光年という近距離にあるため、その潮汐力によって歪んでいるものと考えられています。性能の低い望遠鏡で見ると、まさに彗星が短い尾を引いているかのように見えることでしょう。「シャプレー・ソーヤー集中度」はクラスIVで集中度は高めです。地球からの距離は約21500光年です。



M19は1764年にメシエによって発見された天体です。一般に、球状星団はその名の通りきれいな球状をしているものが多いのですが、この星団は明らかに楕円形でかなり異質な見た目です。銀河中心からの距離が約6500光年と比較的近いため、上記のM62同様、その潮汐力で歪んだ可能性がありますが、一方で、ガスや塵によって星の光が遮られて見かけ上楕円形に見えるだけ、という説もあります。「シャプレー・ソーヤー集中度」はクラスVIII。地球からの距離は約21500光年です。



M14は1764年にメシエによって発見された天体です。こちらも、M19ほどではないにせよ横長の楕円形に見えます。ただ、銀河中心からの距離は約13000光年と離れているので、潮汐力で歪んだわけではないでしょう。やはり暗黒物質で星の光が遮られているせいでしょうか……?「シャプレー・ソーヤー集中度」はクラスVIII、地球からの距離は約30000光年です。


ちなみに、嘘か本当か知りませんが、SEDS Messier Databaseによれば「CCDで最初に撮られたのがこのM14」だそうです。*3

www.messier.seds.org



M28は1764年7月27日にメシエによって発見された天体です。天の川の中にあるので、背景には天の川の微光星がびっしりとあって写真全体として見ごたえがあります。


M19やM14と同様、これもわずかに楕円形に見えますが、銀河中心からの距離は約9850光年と離れているので、やはり潮汐力のせいではなさそうです。「シャプレー・ソーヤー集中度」はクラスIV。地球からの距離は約18300光年です。




さぁ、これで未撮影のメシエ天体は残り13個*4。あともう一息です。

*1:本当なら延長フードを付けたいところでしたが、この夜は風が強く、ガイドへの悪影響を考えて断念しています。

*2:https://hpn.hatenablog.com/entry/2024/04/21/192318#M102%E7%99%BA%E8%A6%8B%E3%81%AE%E6%92%A4%E5%9B%9E参照

*3:いつ頃の話なのかは分かりませんが、単純に「天体」ということなら1974年に100ピクセル×100ピクセル(!)のCCDを用いて月面の撮影が、1976年には天王星の撮影が400ピクセル×400ピクセルのCCDを用いて行われています。 www.newscientist.com

*4:単独で撮っていないものも混じっているので、なんとかしたいのが本音ですが。