PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

個人サイト「Starry Urban Sky」もよろしく。

梅雨明け!

東京は6月6日に梅雨入りして「この先1月半は休業状態だな……」と思っていたのですが、なんとわずか20日後の6月26日に梅雨明け発表。しかもこれ、曜日の関係で発表が26日になっただけで、実質的には24日には明けていたのではないかと思われます。


そしてそれ以降は「梅雨明け10日」の言い回し通り、晴天と猛暑が続いています。特に26日は、日が暮れてからも雲一つない快晴だったので、夕食後にいつもの公園に出撃してきました。


梅雨明け後とはいえ、時期的には夏至を過ぎたばかりなので暗夜の時間帯は非常に短く、天文薄明終了が20時49分、天文薄明開始が翌27日の2時39分と、6時間を切る程度しかありません。特にこの日は現地に到着したのが22時ごろだったので、設営にかかる時間も考えると正味3~4時間程度しか撮影に使えません。


そこで今回は、久々に都心からでも撮影しやすい対象を狙うことにします。このところさそり座の「カラフルタウン」だの天の川だの、どう考えても都心からでは「無理・無茶・無謀」な対象ばかり狙っていたので、ちょっとした息抜きです。限界を攻めてばかりいると、やっぱり少なからずストレスがかかって疲れるのです(^^;


というわけで、まずは小手調べに、天頂付近に昇っているヘルクレス座球状星団M13から。この対象は2012年、2013年と撮影していますが、なにしろ10年近くも前のこと。機材も違えば画像処理ツールや自身の腕も違うわけで、以前よりはいい写りになるのではないかと期待したいところです。
hpn.hatenablog.com
hpn.hatenablog.com


撮り終えたらフィルターを汎用のLPS-D1からデュアルナローバンドのNB1に交換し、次なる目標であるはくちょう座の網状星雲NGC6992-5にカメラを向けます。NGC6992-5は一般に「はくちょう座ループ」と呼ばれる超新星残骸のうち、東側に見えるガス領域で、比較的明るく写真に捉えやすいものです。


夏の撮影対象としては定番のひとつで、自分も2013年、2016年、2017年と撮影しています。
hpn.hatenablog.com
hpn.hatenablog.com
hpn.hatenablog.com


ただ、これも当時とはフィルターが違いますし、なによりカメラが違います。当時はデジカメだったので、良く写すには「あえて感度を下げて長時間露出し、画像処理エンジンによるノイズリダクションを回避する」という手段が必要だったのですが、冷却CMOSならそれは必要ないはず。「高ゲイン・短時間露出・多数枚」でもきれいに撮れるはずで、微細構造を炙り出すには有利でしょう。


ともあれ、撮影しているうちにあっという間に天文薄明が近づき、3時前には撤収しました。屋外にいたのは4~5時間で、気温も終始25度前後でしたが、撮影終了時には弱い頭痛も出て軽い脱水症状に。麦茶などで水分補給はしていたのですが、特に熱帯夜が続くきょうびの都心での撮影では、深夜と言えども熱中症、脱水症状に十分な対策が必要そうです。


リザルト


まずはM13からです。撮って出しだとこんな感じ。




わずか30秒の露出ですが、そこは点光源の恒星。星雲と違ってあっさり姿が確認できます。露出が短いので星像も飽和していませんし、これは期待できそうです。


ダーク・フラット補正後にオートストレッチで色調を整え、レベル調整やデジタル現像、そして弱くシャープネスをかけて……こう!



2022年6月26日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃
Gain=300, 30秒×64, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0fほかで画像処理

ちなみに縮小前のサイズだと中心部はこんな感じ。



球状星団特有の粒状感はまずまず出ているのではないでしょうか?


球状星団は、ガイドミスと飽和にさえ気を付ければ、街なかからでもそこそこ見栄えのする写り方をしてくれるのが楽しいところです。



次いで網状星雲。こちらはデュアルナローバンドフィルターにうってつけの対象なので、写りが気になるところです。撮って出しだとこう。




軽く強調してみると……




フィルターのおかげで星雲の姿は確認できるとはいえ、決していい写りとは言えません。「高ゲイン・短時間露出」とはいえ、60秒/コマだと厳しいでしょうか……?


とはいえ、試してみないと始まりません。確保した64コマをコンポジットし、いつものような各種強調処理を施すと……こう!



2022年6月27日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃
Gain=300, 60秒×64, IDAS NB1フィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0fほかで画像処理

さすがはデュアルナローバンドフィルターの威力、かなりきれいに網状星雲のガスが浮かび上がっています。また、短時間露出の恩恵か、ガスの微細構造も比較的きれいに。長時間露出だと、どうしてもこのあたりが寝ぼけ気味になるのでありがたいところです。


ちなみに……2013年、デジカメで「高感度設定・短時間露出・多数枚」の戦略を取ってみたことがあるのですが、これがもうボロボロでした。フィルターが違うとか非冷却だとか、条件が大きく違うので同列に比較はできないのですが、デジカメの場合はRAWでも画像処理エンジンによるノイズリダクション等の処理を受けてしまうため、おそらくは淡い星雲像はかき消されてしまい、「高感度設定・短時間露出・多数枚」はどうしても不利に働きます。


しかし冷却CMOSの場合、画像処理エンジンが介在しないため「高ゲイン・短時間露出・多数枚」でもシグナルがちゃんと積算され、まともな絵が得られるわけです。もちろん、究極的に淡い対象など、必ずしもうまく行く場合ばかりではないでしょうが、ガイドの難易度が下がるなど恩恵も大きい*1ので、うまく利用していきたいものです。

*1:逆に、処理枚数が劇的に増えてしまうなどデメリットもあるので、そこはうまく見極めたいところです。