PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

個人サイト「Starry Urban Sky」もよろしく。

はくちょう座ループ

ご無沙汰してました。気づけば前回記事は5月末ですか……。6月の新月期は天気が良かったものの、家の事情で撮影は行えず、ほとんど2ヶ月ぶりの更新です。こんなに間が空いてしまうと、撮影の仕方とか忘れてしまいそう……(^^;


ともあれ、15~17日の三連休、東京は天気にも恵まれ絶好の撮影日和。記録的な猛暑が懸念材料でしたが、何とかなるだろうと考えて16日の夜、いつもの公園に出撃してきました。


気分的には、久々にM16やM17を撮りたい気もあったのですが、これらを撮るのにちょうどいいED103Sは、現在スペーサー交換のためにビクセンへ送り返してしまっています。
www.vixen.co.jp


せっかく導入したFRA300 proの本格デビューも考えたのですが、ここは「BORG55FL+レデューサー7880セット」ではくちょう座の網状星雲全体……いわゆる「はくちょう座ループ」を捉えてみることにします。この領域は5年前にも撮っていますが、当時は撮影機材がデジカメだった上、ワンショットナローバンドフィルターの類もありませんでしたから、写りにどうしても限界がありました。
hpn.hatenablog.com


今回は輝線星雲に最適なL-Ultimateフィルターも手に入れてる上、システムへのうまい装着方法も見つけましたから、きっときれいに写ってくれるはずです。
hpn.hatenablog.com



比較的高度が低く、かつ光害の激しい宵のうちはL-Ultimateでのナローバンド撮影を行い……



天文薄明開始前の約1時間は、LPS-D1*1で恒星に重点を置いて撮影します。過去にも書きましたが、L-Ultimateのようなナローバンド系のフィルターだと星の色が壊滅的になる上、写る恒星の数が不自然に少ない、いかにも「ナローバンド臭い」絵になってしまうので、これを避ける目的です。



特に今回の構成の場合、フィルターを交換するために鏡筒をいちいちばらす必要があって面倒ですが、構図合わせはN.I.N.A.の「フレーミング」機能を使えば高精度で行えますし、手間をかける価値は十分にあるかと思います。


……それにしても暑いです!


上のグラフは東京都心のアメダスのデータをプロットしたものですが、一晩中ほぼ28℃前後をキープしています。アメダスの観測地点は、堀と緑に囲まれた「北の丸公園」内にありますから、これでも普通の都心部と比べたら1~2℃は低いはず。撮影場所の温度が30℃近くあったとしても驚きません。


今回は暑さに備え、保冷剤や大量の麦茶、スポーツドリンクを用意して臨んだのですが、それでも途中、頭痛など熱中症気味の症状が現れました。これではとても足りないは明らかで、今後は水冷服*2 *3などの対策が必要になってくるかもしれません。


リザルト


帰宅後、早速処理に取り掛かります。


まず、L-Ultimateを使った場合の撮って出し&ASIFitsViewでの自動レベル調整後の画像はこんな感じ。




さすがはデュアルナロー。超新星残骸に対しては特効といった感じで、実に良く写ります。


ただ、一般に「光害に強い」と言われるナローバンドですが、影響が皆無というわけではありません。例えば、高度が低い時のフレームを強調してみると……




左から右へと、ハッキリ光害によるカブリが見て取れます。街なかからある程度以上淡いものを狙うつもりなら、この点は気にしておいた方がいいでしょう。決して無敵のツールではないのです。




一方、LPS-D1を使った場合はこんな感じ。こちらは星の色重視で1コマ当たりの露出を控えめにしたのもあって、さすがに写りは控えめです。


これらを順次処理していきます。まずは各々フラット補正とカブリ補正で背景を均したのち、BlurXterminatorで先鋭化。


L-Ultimateの方は星雲に注目して、Silver Efex Pro 2の「高ストラクチャ(強)」で淡い部分を抽出。DeNoise AIでノイズ除去をかけた後、StarNet++で星を消しておきます。


一方のLPS-D1の方は、無理な強調はせずに星の色に集中して処理。StarNet++で作成した「星消し画像」との差分を取って、星だけの画像を作ります。

これを前述のL-Ultimateの画像と合わせて……こう!



2023年7月16日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D60mm, f200mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃
カラー画像:Gain100, 180秒×14, IDAS LPS-D1フィルター使用
ナローバンド画像:Gain300, 300秒×37, Optolong L-Ultimateフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0mほかで画像処理

はくちょう座ループ」は、数万年前に起こった超新星爆発により放たれたガスが秒速100kmという猛スピードで広がっている姿ですが、いかにも「ガス」という感じで、その様子がよく分かります。


全体の構成はこんな感じ。


Wikimedia commonsより)

上の図は人工衛星から紫外域で撮影されたものですが、ここで表されているガスはほぼ表現できている気がします。東側のベール(NGC6992)の外側の淡いガスもちゃんと見えています。また、「ピッカリングの三角形」付近でもつれるように絡み合うガスが非常に美しく、満足感が高いです。東京都心からこんなものが撮れるようになるとは……。


また、ちょっと変わったところでは、天の川の近くにもかかわらず小さな系外銀河が写りこんでいます。




NGC7013がそれで、明るさ11.5等、大きさ4分角×1.4分角の小さな銀河です。地球からの距離は約4000万光年。口径5cmちょっとの小さい望遠鏡なので、構造など詳しい様子は分かりませんが、銀河系の腕を超えてこんなものが写りこんでいるあたり、なかなか面白いものです。

*1:フィルターはL-Ultimateと同様、「52mm/48mm変換リング」を介した上、48mm→52mmのステップアップリングを用いて取り付けています。幸い、ケラれなどは発生しませんでした。

*2:ファンで風を送り込むいわゆる「空冷服」は、所詮発汗頼りなので脱水になる危険性はあるし、外気が暑いと追いつかない。

*3:幸い、都心ゆえ氷などの補給には問題ないので。