PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

個人サイト「Starry Urban Sky」もよろしく。

Askar FRA300 proレビュー(外観編)

昨年末、「ボーグのレデューサー0.85×DG【7885】のイメージサークルAPS-Cに対してギリギリすぎる」というのを例に挙げつつ、「とりあえずは、現有戦力を大事に大事に使っていきたいと思います。」と書いたような気がします。


……というか、実際に記事が残っているので書いたんでしょう、多分(ぉぃ
hpn.hatenablog.com


この時、代替機として頭の中に思い浮かべていたのはAskarのFRA400+FRA400/500用 F3.9レデューサーでした。
www.syumitto.jp

FRA400は焦点距離400mm、F5.6の撮影用鏡筒です。レデューサーを加えると、これが焦点距離280mm、F3.9とかなり明るくなります。現在使っているミニボーグ60EDは、フラットナー使用時に焦点距離378mm、F6.3、レデューサー使用時に焦点距離298mm、F5.0なので、もしFRA400を選んだ場合はミニボーグ60EDの完全な置き換えという形になります。


しかし実際のところ、ミニボーグ60EDで不満があるのはレデューサー使用時のみ。価格面でも、FRA400+レデューサーとなると、税込で23万円近くなってしまいます。また、レデューサーを使う以上、FRA400でも周辺減光が未使用時よりきつくなるのは避けられませんし、都心での補正に耐えるかどうかも分かりません。


そこで白羽の矢が立ったのが、昨年8月に発売になったFRA300 proです。
www.syumitto.jp

こちらは焦点距離300mm、F5.0の撮影用鏡筒。まさに「ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG」とほぼ同等のスペックです。35mm判フルサイズに対応したイメージサークルを持っていますし、「ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG」の置き換えにはピッタリ。レデューサーは用意されていませんが、目的から言って使うつもりもありませんし、その意味で必要十分と言えます。価格も税込163900円と、FRA400+レデューサーと比べてずいぶん安くなります。


ただ、輸入品のため、「もう少し円高になったら多少安くなるんじゃないかな……」というためらいがあったのも事実。その結果、二の足を踏んでいたのですが……つい先日、シュミットで25日0時から「CP+展示品セール」をやるというお知らせが。


CP+での展示状態なら実際に目にしていて、あの状態なら新古品扱いとはいえ、そう酷いことにはなっていないはずです。25日0時を過ぎたころ、売り場を覗いてみると……FRA300 proがある!


……

…………

……………………ハッ!


いかん、いかん。どうやら気絶していたようです。再度ブラウザに目をやると……


アイエエエ!オカイモノ!?オカイモノナンデ!?*1


品物は、早くも翌日曜日の朝に到着。開けてみると、商品は実にきれいなもので、アリガタにわずかに固定時の傷がついている以外は、ほぼ新品同様でした。ちなみに価格は税込で132000円。普段の新品価格からすると3万円ほども安く、その意味では万々歳です。


レビュー(外観編)


ところが新機材を買ったせいか、買って以降ロクに晴れ間が現れません*2。仕方がないので、外観からレビューをしていきたいと思います*3


まずは全体的な外観ですが、ハンドルやアリガタがセットになったスタイルは同社のFMA230Sharpstar Z4と共通のもの。アリガタとのセットという意味ではビクセンFL55SSにも通じますが、真四角の脚が伸びているFL55SSと比べると、デザイン的にはこちらの方がずっと洗練されています。好き嫌いの範疇ではありますが、国内メーカーはもう少し見た目にも気を使った方が良さそうに思います。


鏡筒本体はマットな質感の白で塗装されており、鏡筒バンドなどは赤アルマイトで処理されています。差し色に赤を使うのはAskarのみならず、Sharpstarブランドなど嘉興鋭星光学儀器有限公司の製品に共通ですね。ZWOの冷却カメラも赤アルマイト仕上げなので、カラーリングがマッチしていい感じになるはずです*4


キャップは、同じく赤アルマイト仕上げのかぶせ式のもの。中国製の屈折望遠鏡には、たまにキャップがねじ込み式のものがありますが、付け外しはこの方が圧倒的に便利なので歓迎です。


フードは引き出し式で、引き出したときの鏡筒全長は35cmちょっと。一方、縮めると全長30cmほどにまで短くなります。もっとも、口径の割に鏡筒が太い(直径約82mm)上、脚やアリガタ、ハンドルがあるので、印象としてそこまでコンパクトになるわけではありません。


フード内側の艶消しは必要十分といった感じですが、フードのヘリの部分のみツルツルした触感で処理が若干異なります。光を反射する感じでもないので大丈夫だと思いますが、どうしても気になるという人は植毛紙でも貼っておくとよいでしょう。


レンズ構成はEDレンズ1枚を含んだ5枚構成。レンズは当然マルチコートで、透明度は「並」程度でしょうか。前群である3枚玉を支えるレンズセルは重厚で、光軸合わせのための調整機構などは見当たりません。これはすなわち、組付け時の精度だけで十分な性能が出せるということで、工作精度の高さを伺わせます。


一方、5枚構成ともなると温度順応にそれなりの時間がかかりそうな気がしますが、このあたりは実際に使ってみてどうかでしょう*5


最後方のレンズは鏡筒の最後端に。有効径は44mmほどと比較的大きく、口径食による「星割れ」などは起こりにくそうですが……これも実際のところは試してみてからですね。


内部の艶消しはまずまず。後方の艶消しが今一つに見えますが、おそらくは壁を照らすような光束は入ってこないという判断なのでしょう。とはいえ、品名に「pro」を冠するなら、実用上の意味はなくてもこだわってほしいところではありますね、気持ち的には(笑)。




Wikipediaより)

なお、本製品は光学系として「ペッツバールアストログラフ」を謳っていますが、本来のペッツバール光学系は「前群で色収差と球面収差を補正」、「絞りで非点収差を抑制」、「後群でコマ収差を補正」という構成です。これだと像面湾曲が残るので、これにフラットナーを組み合わせると、収差が良好に補正された望遠鏡が出来上がります。



FSQ-106EDの光路図
(西條善弘「デジタル天体写真のための天体望遠鏡ガイド」誠文堂新光社(2012)より)



FRA300 proの光路図

FSQ-106EDPなどはこの発想で作られた望遠鏡で、高橋製作所はこれを「改良ペッツバール型」と呼んでいます。FRA300 proもこの類……というか、レンズ構成図を見る限り、完全分離2枚玉であったFSQ-106EDの前玉を、EDレンズ1枚を含む3枚玉にしたものと考えてよさそうです。


もっとも、作りからするとFSQを含め古典的なペッツバール光学系からはかけ離れていて、アポクロマート屈折にコマコレクターとフラットナーを組み込んだもの」と考えた方が実態に近そうな気がします。



34mm幅のアリミゾを備えたファインダー台座はM4のボタンキャップボルト2本*6で固定されていて、鏡筒の左右どちらにも付け替えることができるようになっています。ただ、見ると分かる通り、台座の後端に切り欠きがないので、ビクセンのファインダー脚のように突起がある場合は、最後まで差し込めないので要注意です。


フォーカサーはラック&ピニオン式で、当然のように減速装置付き。モーターフォーカサーを装着するためのネジ穴も備えています。太さ2.5インチのドローチューブには回転装置が備わっていて、その回転具合は節度があって十分な精度を感じられるものです。


中央に見える銀色の小さな手回しネジはフォーカス固定用のもの。ごく標準的な構成ですが、つまみ部分が小さい上にアリガタとの間にあって少々操作しづらいので、もう少しつまみの大きなネジに交換してもいいかもしれません(ネジの規格はM4)。


ドローチューブには目盛が振られています。繰り出し可能量は2cmほどと決して大きくありませんが、実質的にはレンズ群後端からの距離を調節するだけの役割なので、このくらいあれば十分とも言えます*7。そもそもが写真撮影に特化した鏡筒なので、眼視は考慮に入っていないのでしょう。適宜、延長筒などを用いれば眼視も不可能ではないとは思いますが……。


接眼部のアダプタは、「M42 P0.75mm」「M48 P0.75mm」「M54 P0.75mm」の3種類が付属しています。このうち、M48アダプタのみ蓋が用意されています。また、同じくこのM48アダプタのみ、ネジの基部に「はかま」があって、その分、バックフォーカスが減っています。具体的には、M42, M54アダプタでは「アダプタ後端から71mm」ですが、M48アダプタでは「アダプタ後端から67mm」となっています。


なお、アダプタ自体の取り付け部はM76 P1.0mmという規格になっています。自分の場合、ボーグのパーツ(フィルターボックス等)を流用したいので、アダプタを特注することにしました。一応、M42アダプタを使えば取り付けることはできるのですが、ケラレる恐れが拭いきれない*8ので……。


鏡筒バンドは工具なしに開閉が可能なもので、使いやすさは上々です。内側には薄いフェルト地っぽいシートが張られていました。シートの厚みがないので、沈み込んだりは心配しなくて良さそうです。


鏡筒バンドの上には、M4のキャップボルト2本でハンドルが取り付けられていますが、このハンドルは34mm幅のファインダーアリミゾと、アルカスイス互換アリガタを兼ねたレールになっています。これを利用してガイド鏡などを同架できるというわけです。



なお、ハンドルの固定ボルトの間隔は約11mm。一見、ハンドルを取り外して他のアリガタなどを取り付けられそうな気もしますが、鏡筒バンド側に凹凸があることや、ボルト径が小さいこと、事実上の1点支持になってしまうことなどから、あまりお勧めはできません。基本的にはそのまま使うものでしょう。


本製品には長さ30cmのビクセン規格アリガタ(ドブテイルバー)が最初から付属していて、望遠鏡の前後バランスがとりやすいようになっています。このアリガタは、鏡筒バンド側の三脚座とM6キャップボルトで固定されています。


キャップボルトを外すと三脚座の底面があらわに。ここにはM6のネジ穴8個と、中心に1/4インチ……いわゆる「カメラネジ」のネジ穴が開いています。一応、カメラ三脚にも固定できるようにはなっているわけです(使うかどうかは別として)。


だったら三脚座がアルカスイス互換になっていれば……というところですが、さすがにそこまでは行かず。どうしてもアルカスイス互換で接続したければ、鏡筒をさかさまにしてハンドル側を利用すれば外見上固定はできますが……鏡筒バンドやアリガタ含めた総重量は3.1kg。これにカメラ等を加えればすぐ5kgくらいにはなりそうですし、強度的にとてもお勧めできません。


鏡筒バンドと三脚座の固定はM4のボタンキャップボルト*9です。



カメラ装着時の前後バランスを考え、これを外して三脚座を逆付けすることもできますが、フォーカス固定ねじとのクリアランスがギリギリになって操作性が悪くなるので、どちらを取るか悩ましいところです。




と、外観はだいたいこんなところ。かつての中華鏡筒に見られた安っぽさやいい加減さは一切見られず、品質的には日本製に一歩も引けを取らない感じがします。


ただ、適材適所とはいえ、鏡筒周りの分解にM2.5、M3、M4、M6と4種類もの六角レンチが必要なのはあまり感心しません。ファインダー台座のM2.5は仕方がない部分はありますし、アリガタへの固定に使うM6以外は、まず分解する必要がないところなのでいいと言えばいいのですが、こうも規格が混在すると製造自体面倒そうです。ある程度統一した方が、メーカーも楽だと思うのですが……(^^;

*1:???「欲しい時が買い時だ。古事記にもそう書かれている」

*2:???「新機材を買うと天気が悪くなるものだ。古事記にも(ry」

*3:後述の通り、特注の接続リングが未納入という事情もありますが。

*4:向こうのパーツは赤が差し色として使われることが多い気がしますが、縁起がいいとかそうした理由があるんでしょうか……?

*5:とはいえ所詮は小口径なので、実用上、問題はほとんど生じないと思いますが。

*6:使用する六角レンチはM2.5用

*7:センサまでの規定長は、ドローチューブを縮めた状態でM48アダプタ後端から67mm。レンズは鏡筒側に固定されているので、ドローチューブにはバックフォーカスを調節する役目しかありません。

*8:一度フラットを撮ってみた感じ、APS-Cではそう大きな問題はなさそうでしたが。

*9:使用する六角レンチはM3用