PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

個人サイト「Starry Urban Sky」もよろしく。

東京都心で分子雲 ふたたび!

先々週の週末、3年前に撮ったオリオン大星雲を超えるべく撮影に臨みましたが、ぶっといUSB3.0ケーブルが原因と思われるガイドエラーにより、肝心の長時間露出のコマのうち半分をロストするという、まさかの事態に。
hpn.hatenablog.com


f:id:hp2:20201124190047j:plain
そこで、毎週の出撃になりますが、21日土曜の夜にオリオン大星雲を撮り足してきました。


この日の月齢は6で、月は23時前には沈むので、撮影はその後ということになります。前回、30分露出のコマは4コマ確保しているので、せめてもう4コマは欲しいところ。天文薄明開始は翌日の4時55分で、撮影時間としては5~6時間ほど確保できるので、さらに露出を伸ばすことも頭をよぎったのですが……まずは前回の撮影分を完成させることが先と考え、自重しました。


今回は、前回の反省を生かしてケーブルを細いものに交換。
www.elecom.co.jp


長さが2mとやや短いので取り回しに気を使いますが、今回は目標が1つだけで大きな望遠鏡の動きはないですし、最初さえ届かなかったり引っかかったりしなければ、まぁ大丈夫でしょう。


f:id:hp2:20201124190223j:plain
撮っている間は例によって暇なので、この日も赤道儀化AZ-GTiとHαナローバンドフィルターを使って星野写真遊び。レンズを最も広角側の18mmにセットして冬の大三角を狙います。


一般に、ナローバンドフィルターに代表される干渉フィルターは、斜めから入ってくる光に対して透過波長が短波長側にシフトすることが知られています。これが、ナローバンド撮影において広角レンズがあまり使われない理由ですが、今回使用しているフィルターはマウント内に設置するタイプのもの。この場合、光学系の設計にもよりますが、画角による制限はかなり軽減されます。とはいえ、実際にどの程度の影響が出るのか、実際に見てみないと何とも言えません。


f:id:hp2:20201124190301j:plain
ISO800、10分露出の撮って出しを見る限り、ばら星雲やバーナードループだけでなく、もう少し外側にあるエンジェルフィッシュ星雲もうっすら確認できるので、それほど大きな悪影響はなさそうです*1。まぁ、冬の大三角の場合、Hα領域が三角内に比較的集中しているというのもありますが。


f:id:hp2:20201124190350j:plain
撮影は順調に進んでいたのですが、3時ごろになって北の空から雲が次々と流れ込んでくるようになりました。上空の風が強いのか、雲の動きは非常に速いのですが、雲が取れたと思ったらまたすぐ曇る、の繰り返し。このパターンは、長時間露出とは非常に相性が悪いです。30~40分ほど粘ってみましたが、一向に雲が取れる気配がないので、天文薄明開始を待たずに撤収となりました。


ちなみに、機材を完全に片づけ終わったころにきれいに晴れたのはお約束orz




帰宅後、仮眠をとってから処理に取り掛かります。まずは例によって処理が楽そうなHα画像から。


f:id:hp2:20201124190444j:plain
f:id:hp2:20201124190456j:plain
2020年11月22日 SIGMA 18-50mm F3.5-5.6 DC(f18mm, F3.5) AZ-GTiマウント
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO800, 露出600秒×8コマ, OPTOLONG H-Alpha(7nm)使用
ノーブランドCCTVレンズ(f25mm, F1.4)+ASI120MC+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理


さすがはナローバンド、以前苦労したクリスマス星団周辺のHα領域もあっさり見えています。
hpn.hatenablog.com


その他にも小さなHα領域が点在していて、カラー化したらかなり見栄えがしそうです。しかしこうして見ると、馬頭星雲やばら星雲、かもめ星雲がいかに明るいか、よく分かります。


例によって像の荒れはそれなりに酷い一方、ISO800だとこれ以上の露光は難しそうな感じもあり、もう少し感度を下げて露出時間を伸ばしてやった方がいいのかもしれません。



さて、次は本命のオリオン大星雲です。今回はガイドもバッチリ決まって、星はきれいな点像なっています。これを14~15日に撮影した分と合わせて……こうじゃ!


f:id:hp2:20201124190656j:plain:w600
2020年11月15日, 22日 ミニボーグ60ED+マルチフラットナー 1.08×DG(D60mm, f378mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃, Gain=0, 露出5秒×8コマ+30秒×8コマ+180秒×8コマ+1800秒×8コマ, IDAS LPS-D1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理


ようやく、周辺のガスもかなりハッキリと浮き出てくれました。3年前にも思いましたが、東京都心でここまで撮った人って、あまりいないのじゃないかと思います。


今回は、ある程度仕上げたのちに3色分解して、Silver Efex Pro 2の「フルコントラストストラクチャ」でR, G, Bの各プレーンを処理したのち、再合成するという手順を踏んでいます。3年前にこの手順をやった時には、周囲のモクモクこそ見やすくなったものの、色合いがガタガタに崩れて作品としては難があったのですが、今回は極端な崩れもなく、割と自然な感じで仕上がりました。やっぱり、元画像の質は大事です。

*1:とはいえ、前回35mmでオリオン座を捉えた時と比べると写りが悪いので、影響が皆無というわけでもなさそうです。

初の複数同時展開

今年は年初からひたすら天気が悪い印象で、この秋も東京は雨ばかりでしたが、11月に入ってようやく安定した晴れ間が出るようになってきました。14日土曜の夜も安定した快晴の予報。新月期の週末に、雲の心配をせずに済むのはいつ以来のことでしょう……?

撮影開始


f:id:hp2:20201119183435j:plain

この日は日没後にいつもの公園に向けて出撃し、20時ごろから撮影を開始します。予定としては、夜半前までアンドロメダ銀河ことM31を撮影し、その後、オリオン大星雲ことM42を撮影することに。


まずM31ですが、先日撮ろうとしたものの雲に妨害されたので、そのリベンジです。今回は、30秒、3分、15分の多段階露出で撮影を行います。中心部の潰れをわずかでも軽減しようという目論見です。


Gain0、15分露出の撮って出しはこんな感じ。

f:id:hp2:20201119183508j:plain

M31やM32の中心部付近しか見えないのは、まぁ想定通り。それでもよく見ると、M31の右上にM110もうっすらとですが確認できます。天頂近いので光害の影響は比較的少ないようで、バックグラウンドの傾斜はほとんど見られません。*1



23時ごろからはM42の撮影に移ります。こちらは、冷却CMOSを使うことで以前デジカメで撮ったものを超えられるかどうかのチャレンジ。空の条件にも左右されますが、できれば以前よりも分子雲をしっかり捉えたいところです。
hpn.hatenablog.com


Gain0で露出はこちらも5秒、30秒、3分、30分の多段階露出。特に目玉は30分露出で、これだけしっかりかければ暗いものも写るだろうと。Gain0、30分露出の撮って出しはこんな感じ。

f:id:hp2:20201119183550j:plain


一見あまり写っていないように見えますが、レベル調整してみると……

f:id:hp2:20201119183607j:plain

光害や周辺減光に飲み込まれかけていますが、背景部分には分子雲に由来すると思われるムラが確認できます。これは期待が持てそうです。


3時過ぎには一通りの撮影が終わったので、薄明までの小1時間ほどを利用して、おおいぬ座散開星団M41を撮影し、撤収となりました。。




さて、今回はこのメイン機材以外に、赤道儀化AZ-GTiを用いた「星野写真撮影システム」を持ち出しています。

f:id:hp2:20201119183824j:plain

構成は下からManfrotto 3/8''~1/4''ネジ変換用アダプター→低重心ガイドマウント→タカハシ V金具30°仕様→AZ-GTi。カメラ側はNorthanCrossのアリガタにSLIKのDS-30(アルカスイス互換クランプ)、SUNWAYFOTOのDPL-01(L型プレート)で固定、という具合です。カウンターウエイトシャフトはアイベル取り扱いのもの


また、極軸設定のために、ビクセンウェイト軸カメラ雲台と小型の自由雲台(エツミ E-2048 [ボールヘッドミニ])を介してPoleMasterを取り付けられるようになっています。


カメラはこちらに書いたような構成。オートガイドも可能です。
hpn.hatenablog.com


f:id:hp2:20201119184222j:plain

これで、前半は年賀状に流用するためのおうし座付近の星野を、後半はHαのナローバンドでオリオン座付近を狙います。撮って出しの画像ですが……


f:id:hp2:20201119184323j:plain

おうし座の方は……光害カットフィルターを入れているとはいえ、そこは東京都心。まぁ、こんなもんでしょうか。後処理で化けることを期待しましょう。


f:id:hp2:20201115015622j:plain

一方のナローバンドの方ですが、なんと未処理のこの時点で、すでにバーナードループやエンジェルフィッシュ星雲が見えています。さすがの威力と言わざるを得ません。とはいえ、下から上へ光害によるカブリもはっきり出ていて、ナローバンドと言えども人工光などの影響がないわけではないというのも明確になった感じです。


f:id:hp2:20201119184629p:plain:w635
f:id:hp2:20201119184653p:plain:w635

心配されたオートガイドの具合ですが、キャリブレーション結果は、反転時にバックラッシュこそ見られるものの想像以上にマトモで、オートガイドの方も赤経側、赤緯側ともおおむね5秒角以内に収まっていました(赤経RMS=3.03秒、赤緯RMS=3.52秒)。この精度なら、200mmくらいまでなら十二分に使い物になりそうです。


リザルト~SIGMA 18-50mm F3.5-5.6 DC+EOS KissX5 SEO-SP3


帰宅して仮眠をとったのち、撮ってきた画像の処理を始めます。今回は珍しく多数の写真を撮ったので処理が大変です(^^;


まずは比較的手がかからないと思われる、赤道儀化AZ-GTiの成果物から。おうし座付近の星野です。


f:id:hp2:20201119184728j:plain
2020年11月15日 SIGMA 18-50mm F3.5-5.6 DC(f18mm, F3.5) AZ-GTiマウント
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出120秒×8コマ, ケンコー・トキナー PRO1D プロソフトン[A](W), IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ノーブランドCCTVレンズ(f25mm, F1.4)+ASI120MC+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

かなりお手軽な撮り方でしたし、処理も相応に適当ですが、思いのほかよく写った印象です。


f:id:hp2:20201119184759j:plain
f:id:hp2:20201119184811j:plain

よく見ると、カリフォルニア星雲(NGC1499)やモンキー星雲(NGC2174)も写っています。星の色を出すためにソフトフィルターを噛ませているため、細部はとても分かりませんが、存在が確認できるだけでも立派なものです。*2


レンズ自体、いわゆる「撒き餌レンズ」レベルの安価な互換レンズですが*3、開放で撮っているにもかかわらず極端な星像の崩れもなく、想像以上に優秀でした。


普段こんな場所で星雲などの写真を撮っといて言うのも難ですが、正直、格安レンズ&東京都心で星野写真がここまでモノになるとは全く期待していなかったので、嬉しい誤算でした。これなら、今後もそれなりに楽しめそうです。



次いで、Hαナローバンドによるオリオン座です。


f:id:hp2:20201119184913j:plain
2020年11月15日 SIGMA 18-50mm F3.5-5.6 DC(f35mm, F5.0) AZ-GTiマウント
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO800, 露出600秒×8コマ, OPTOLONG H-Alpha(7nm)使用
ノーブランドCCTVレンズ(f25mm, F1.4)+ASI120MC+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

こちらも驚きの結果です。未処理の時点ですでに見えていたエンジェルフィッシュ星雲等の姿が、よりハッキリと浮かび上がってきました。比較的短時間の撮影にもかかわらず、馬頭星雲からのHα領域の広がりや、M42周辺のモヤモヤも見えていて、東京都心から撮ったとはにわかに信じられない絵です。


一方、光量が大幅に減少すること、R画素しか画像に寄与しないこともあって、像が相応に荒れているのも確か。今回、AZ-GTiのガイド精度が十分なことが分かったので、次回以降はよりしっかりと露出を与えてみたいと思います。


リザルト~ミニボーグ60ED+ASI2600MC Pro


さて、次はいよいよASI2600MC Proで撮った方の結果です。まずは処理が比較的簡単なM41から。


f:id:hp2:20201119185002j:plain
2020年11月15日 ミニボーグ60ED+マルチフラットナー 1.08×DG(D60mm, f378mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃, Gain=0, 露出120秒×8コマ, IDAS LPS-D1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

先日も書きましたが散開星団は星の数&星の色がものを言うので、光害まみれの都心からだと、きれいに撮ろうとすると意外と難しい対象です。星の数を増やすには露出を増やせばいいのですが、そうすると星の色が真っ白に飛んでしまい、非常に地味な絵面になってしまいます。光害が少なければ、短時間露出でも十分な数の星が写るはずなのですが……。


今回は仕方がないので、露出時間を短めにして撮影段階で色情報を落とさないようにした上で、処理段階においてレベル調整で微光星を強調、そしてデジタル現像の段階で色彩強調を行っています。このプロセスはあくまでもデジタル現像の一環なので、その効果は階調圧縮がかかる領域……つまり恒星などの輝度の高い部分に優先的に表れます。これによって、星の色がハッキリした星団の写真になります。*4


都心で撮った割には、まずまず見栄えのする仕上がりになったのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?とはいえ、やはり星団の写真は難しいです。



次はM31です。実はM31を撮ったのは2016年11月5日以来、4年ぶり。当時よりは機材も良くなっている上、腕も多少は上がっているはずなので、どこまで行けるでしょうか……?


f:id:hp2:20201116233416j:plain
2020年11月14日 ミニボーグ60ED+マルチフラットナー 1.08×DG(D60mm, f378mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃, Gain=0, 露出30秒×8コマ+180秒×8コマ+900秒×8コマ, IDAS LPS-D1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

で、こうなりました(^^)


露出をたっぷり与えたせいか、写りは前回よりもはるかにいいですし、東京都心でここまで撮れればまずは十分じゃないでしょうか?色合いもかなり好みに仕上がりました。


今回は、前回と比べて光害の影響が少なく*5、そのあたりも有利に働いたようです。


多段階露出による白飛びの抑制については、効果は微妙……。とはいえ、腕をこれだけ強調すれば中心部が飛んでしまうのはある程度仕方のないところ。まったく何もしなかった場合(900秒×8コマのみをコンポジット後、強調)と比べると、飛び方が多少はマシになっているようなので、やっただけのことはあるのでしょう。



さて、そして大本命のM42です。今回は露出時間を前回よりさらに伸ばしてますし、写りに期待大です。どれどれ……。

f:id:hp2:20201119185156j:plain

……。


f:id:hp2:20201119185212j:plain

…………?


f:id:hp2:20201119185236j:plain

くぁwせdrftgyふじこlp


なんと、8コマ撮った30分露出のコマのうち、後半半分の4枚が見事に流れていますorz 一体何事……!?


f:id:hp2:20201119185317j:plain

そこで、ステラナビゲータを使って当時の撮影状況を再現してみると、星が高度方向に流れているのが分かります(図は赤道座標。紫のラインが撮影時間帯における高度・方位線)。となると、心当たりが1つだけ。


f:id:hp2:20201119185337j:plain

USB3.0ケーブルです。


この夜は複数の撮影対象&撮影時間が長くなりそうということもあって、PC置き場などの自由度を上げるために3mと長いケーブルを使っていました。ところがこれが、シールドの関係で硬く、太く、重いのです。像が流れているのが撮影の後半……すなわちM42の高度が下がってきてからということを考えると、ケーブルの硬さや重みのせいでカメラが下に引っ張られ、像の流れにつながったのだろうというのは想像に難くありません。


次からは配置の自由度を犠牲にして細めのケーブルを使う*6か、アクティブリピーターケーブルを架台付近に取り付けつつ、カメラ~リピーターケーブル間を短いケーブルで結ぶか、あるいはあえてUSB2.0で接続するか……*7 *8。とにかく、何らかの対策は必須になりそうです。*9



というわけで、30分露出のコマは流れのない4コマ分しか使えませんが、ないものは仕方ありません。残りのコマを合成して……こう!


f:id:hp2:20201117182426j:plain
2020年11月15日 ミニボーグ60ED+マルチフラットナー 1.08×DG(D60mm, f378mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃, Gain=0, 露出5秒×8コマ+30秒×8コマ+180秒×8コマ+1800秒×4コマ, IDAS LPS-D1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

Silver Efex Pro2による強調処理なども噛ましたのですが、残念ながら、今回は周辺の分子雲をハッキリと表現するには至らず……。よく見ると写っていないことはないのですが、やはり一番肝心の長時間露出のコマが半減してしまったのが痛かったです。


というわけで今回は、ガスのうねりをやや強調する方向に。その分、色合いはあっさり目ですが、これはこれで悪くない気がします。それにしても、この領域は明暗差も非常に大きくて表現が本当に難しいです。一方で、どこに着目して処理するかで表現が大きく変わってくるので、その意味で非常に面白い領域でもありますね。

*1:「というか、全体が一様に光害まみれやんけ」というツッコミは禁止です(笑)

*2:一方で、オリオンの脇の下あたりにあるはずのアトラス彗星(C/2020 M3)はほとんど分かりませんでした。ソフトフィルターのせいでそもそも像がにじんでいるはずなのに加え、青緑~緑色は光害の色と比較的近い(最近はそうとも言い切れないけど)ので、光害カットフィルターや画像処理の巻き添えを食って消えがち、面積があって等級の数字ほど明るくない……あたりが原因じゃないかとは思ってます。とりあえずLPS-P2だとCN由来の波長388nm、C2由来の波長405nmあたりの光はカットされてしまいます。

*3:中古でわずか3000円ちょっと

*4:実際には、さらに「マトリックス色彩補正」を弱くかけています。

*5:当時の記事を見ると、前回撮影時の夜は快晴だったものの湿度が高めで、大気の透明度も悪かったようです。……ああ、思い出してきました(T_T)

*6:細いUSB3.0ケーブルは、シールドが弱いため最大でも2mまでのものしかありません。

*7:USBは規格上、後方互換性があるので、USB3.0の機器をUSB2.0のケーブル等で繋ぐことは可能です。

*8:ASI2600MC Proのデータサイズは、1枚当たり6248px×4176px×16bit=417466368bit=52183296byte≒52.2MBです。一方、USB2.0の帯域は480Mbps=60MB/sなので、1秒もあれば読み出しができます。ピント合わせが少々厄介そうですが、非現実的と言うほどの遅さでもありません。

*9:その意味で、機器間を短いケーブルで繋げば済むASIAIR PROのようなソリューションは魅力的ではあります。

都会からの星雲・星団撮影 ~撮影編~

「都会からの星雲・星団の撮影」という点に絞って、その勘所を紹介するこのシリーズ、第2回目はいよいよ撮影についてです。


なお、必要な機材や、都心から狙うのに適した撮影対象について解説した、第1回目の記事はこちら。
hpn.hatenablog.com


デジカメの感度について


天体を撮影しようとした場合、みなさんはデジカメの感度をいくつに設定しているでしょうか?IS3200とかISO6400とか、結構高感度にしている人が多いのではないでしょうか?


実際、天体写真の講師をやっているような方でも、「最近のデジカメは高感度になったので、短時間の露出でも星雲などが撮れます」、「短時間露出を多数枚重ねれば、長時間露出と同じ効果が得られます」などと公言する方が少なくありません。


アストロアーツのこの記事の記述もそうですね。
www.astroarts.co.jp




しかし……この際、ハッキリ断言します。大嘘です。



デジカメは自由に感度を設定できます。これだけ見ると、感度の数字を上げた方が暗いものまで写りそうな気がします。実際、感度の数字を上げれば暗いところでも短いシャッター速度で撮影できるので、普通の場面で疑うことはあまりありません。


しかし、考えてみてください。銀塩写真の場合、感度を変えるには基本的にフィルムを高感度のものに交換していました。ところがデジカメの場合、もちろん撮像素子を交換するわけではありませんから、感度をいくつに設定しようが基本性能は全く変わらないはずなのです。



では、「感度設定」では何を変えているのかというと、カメラ内部でのシグナル増幅率を変えているのです。デジカメの撮像素子に光が当たると、それに応じて電気シグナルが出ますが、このシグナルを増幅することで実際の感度が上がったかのように見せているのです。感覚的には、銀塩写真でいうところの「増感現像」に近いでしょうか。


撮像素子が光を受け取ってシグナルを出すまでのプロセスは変わりませんから、例えば淡い星雲などを対象とした場合、そもそも撮像素子がシグナルを出すのに十分なだけの光を受け取れなければ、感度をいくら上げても写りません。一方で、明るい部分については、シグナルを増幅している分、より白飛びしやすくなります。


また、シグナルを増幅すると必然的に各種のノイズも増幅されてしまいますから、デジカメの場合、一般に画像処理エンジンでのノイズ除去などの処理も同時に行われます(たとえRAWで記録していたとしても、です)。このプロセスにおいて、淡い光などはノイズもろとも消されてしまうことがしばしば起こりますし、ディテールも消失気味になります。


こうしたことを考えると、一発撮りのJPEGで画像を仕上げる場合を除き、基本的には「低感度設定で撮るべき」となります。生理的にはなかなか気持ち悪いですし、撮って出しだとほとんど写っていないように見えるのですが、RAWを確認してみるとちゃんと写っているハズです。嘘だと思うなら、同露出時間で低感度設定と高感度設定とをRAWで撮り比べてみましょう。レベル調整してみるとほとんど差がないのが分かると思います。



その上で、です。ウェブや教本での指示に従ってISO1600やISO3200などの高感度に設定して*1街なかから撮影すると、あっという間に白飛びしてしまって、いくらも露出時間がかけられないと思います。ところが、ここで例えばISO100で撮影すれば、白飛びを避けつつ、16倍や32倍の露出時間を取れるわけです。上で書いたように、デジカメから出てくる画像は、究極的には「1コマのうちにどれだけの光を撮像素子に当てられたか」に影響されますから、感度を下げて露出時間を伸ばした方が圧倒的に淡い部分の写りが良くなります。また、白飛びしにくい分、星の色の表現についても低感度の方が有利です。


「短時間露出を多数枚重ねれば……」という意見もありますが、ゼロを何倍してもゼロはゼロのまま。短時間露出でそもそも写っていないものは、いくらコンポジットしても浮き上がってきませんから、決して長時間露出のものに及びません。


f:id:hp2:20160611224202j:plain
感度設定による写り方の違い
感度をISO100~1600まで振り、トータルの露出時間が同じになるようにコマごとの露出時間と撮影枚数を設定し、撮影を行いました。撮影後の画像はそれぞれの条件に合わせたダークを引いたのち、加算平均コンポジットしています。それ以外の調整は一切行っていません。低い感度設定で1枚当たりの露出時間を伸ばしたものの方が、トータルの露出時間が同じでも明らかにいい写りです。


f:id:hp2:20160611224217j:plain
感度設定による写り方の違い その2
上の写真を、星雲が同程度に見えるようにレベル調整してみましたが、やはり低感度で撮ったものの方が高画質です。


ちなみに、事情は天文用に発売されているCMOSカメラなどでも同様です。画像処理エンジンによる悪影響こそないものの、Gainを上げてもCMOSの特性が変化しないのは同じなので、Gainを下げて長時間露光するようにした方が有利です。*2


この話題については、過去にこのブログで実験方々、何度も言及していますので、そちらも参照してください。

hpn.hatenablog.com
hpn.hatenablog.com
hpn.hatenablog.com


ただし、明るい惑星状星雲についてだけは例外です。惑星状星雲はその形の複雑さが魅力的なところですが、長時間露出をしてしまうとシーイングの影響で像がブレる上、肝心の中心部が白飛びして細かい構造が写らなくなってしまいます。


これについてはある程度感度を上げ、短時間露出で多数枚を撮影したのち、惑星写真と同様にスタッキング→ウェーブレット処理などに持っていくのが正解でしょう(詳しくは後日解説予定です)。


望遠鏡の設置


さて、こうした事情を踏まえたうえで、次はいよいよ撮影です。


望遠鏡の設置場所は、前回も述べたとおり、なるべく上空の障害物がない場所を選びます。特に、惑星状星雲以外は、上に書いたように基本的に長時間の露出が必要になるので、大きく開けた場所が理想的です。


f:id:hp2:20171216173645j:plain

設置等については通常の天体撮影と同様です。ただし長時間露出が必要になるので、ブレやガイドエラーが起きないよう、なるべく固くしっかりした地面に設置します。また、三脚の脚を伸ばすと振動の原因になりますから、できるだけ縮めた状態で使います。


赤道儀の極軸は、望遠鏡の焦点距離にもよりますが、なるべく慎重に合わせましょう。比較的短い焦点距離なら極軸望遠鏡で合わせる程度でも十分ですが、できればPoleMasterのような電子極軸望遠鏡、SharpCapやPHD2に装備されている極軸設定支援機能、伝統的なドリフト法*3などを用いて可能な限り正確に追い込んでおきたいところです。


実際の撮影


ここまでしっかり準備ができたら、撮影に入ります。まずは散光星雲や反射星雲、系外銀河の場合です。


撮影自体は通常のガイド撮影と同じで、それほど特別に変わったことはありません。ただし、1枚当たりの露出時間が長いので、十分なガイド精度が必要です。……と言うと、精度を上げようとして、ガイドカメラの露出時間を短くして頻繁に修正を行おうとする方が少なくないのですが、これはかえって逆効果。シーイングによる星像のちらつきを追いかけてしまって、ガイド精度が低下することさえあります。*4


一般的な赤道儀の場合、ガイドカメラの露出時間は2~4秒程度が適切です。このくらいの時間を取ると、星のちらつきがならされて、安定したガイドが可能になります。また、利用されている方は意外と少なそうですが、PHD2の「ガイドアシスタント」機能を使うと、赤道儀やその夜の空の状態から、適切なガイドパラメータをアドバイス、設定してくれます。数分~10分ほど時間を取りますが、かなり優秀で便利な機能なので積極的な利用をお勧めしておきます。


撮影にかける時間ですが、私がデジカメで星雲や系外銀河を撮影する場合、ISO100~200に設定した上で「1枚当たりの露出時間15分×8枚」というのを一つの目安にしています。これでワンセット2時間です。とにかく街なかで撮る場合、露出時間は暗いところで撮るよりも余計に必要ですから、天体数は欲張らない方が良いです。せいぜい一晩に1~2天体がいいところでしょう。


これを基準に、鏡筒の明るさや天体の高度、光害の状態などを参考に露出時間等を増減しています。F6~F8くらいの鏡筒+従来型光害カットフィルターだと、これで背景のピークがおおむねヒストグラム横軸の2/3近くまで上がってきます。かなり高くて不安になるかもしれませんが、星雲の階調はピークの右端にへばりついた形になっていて飽和の心配はありません。この場合、星の色や階調はある程度犠牲になってしまいますが、街なかで星雲を撮ろうと思えば、ここはある程度仕方ありません。


f:id:hp2:20201029233037j:plain
天体写真のヒストグラム
天体写真のヒストグラムを見た時、大きく見える山はほぼ背景とノイズです。そして、この「背景+ノイズ」より明るい領域が天体の描写に使われます。これが広いほど階調の表現力は増しますが、露出を抑えて背景レベルを下げると、その分天体からのシグナルも弱くなってしまいます。この兼ね合いで「適正露出」が決まります。星雲の階調が恒星に比べて狭いことに注意。


なお、EdgeHD800(F10)のように暗い鏡筒を使う場合やワンショットナローバンドフィルターを用いる場合、私は様子を見ながら感度を最大ISO800まで上げています。これは以下の理由によるものです。

  • EOS KissX5の場合、ISOの数字が上がるほど光の利用効率が高まり、ISO800の時に1e-/ADU……すなわち光電子1個当たり1のシグナルが出て最大効率になる。*5 *6 *7
  • 感度を上げても、露出時間内に白飛びする危険がない。
  • 感度を下げてさらに露出時間を伸ばすと、その分、追尾の難易度が増す(含 天候の急変)


ともあれ、光害によるバックグラウンドの上昇を見つつ、最大の露出時間を得られる条件を探る必要が出てきます。その場合、構図確認を兼ねて、まずは高感度で試し撮りをしてみるのが有効です。ISO6400で撮るとISO100のおよそ60倍の感度なので、15秒@ISO6400がちょうど良さそうなら15分@ISO100が最適露出と簡単に算出できて便利です。



一方、星団(散開星団球状星団)の場合ですが、こちらは星の色を極力残すため、1枚当たりの露出時間は短めにします。普通はせいぜい1~2分、どんなに長くても5分以内でしょうか。球状星団の場合は、星の密集した中心部が飽和しやすいので短時間露出のコマを確保する一方、周辺の暗い星も拾い上げるために比較的長時間の露出を行ったコマも確保しておきたいところです。このように複数のパターンで露出を行っておく(多段階露出)と、最後の画像処理の段階で中心部、周辺共に両立出来て便利です。



明るい惑星状星雲については、上でも書いたように短時間露出でとにかく撮りまくります。特に明るいものであれば5秒もあれば立派に写るので、あとはひたすらコマ数を稼ぐのみです。とりあえず百数十コマ~数百コマもあれば、ウェーブレット処理に十分耐えられるでしょう。比較的暗い惑星状星雲については、散光星雲に準じた撮り方になります。



……と、また長くなってきたので今回はここまで。次は画像処理についてです。

*1:これらの情報源では空の暗い条件下での設定を紹介している場合が多く、街なかのような明るい場所での条件と食い違いが生じるのは仕方がない面もあります。

*2:CMOSカメラの場合、カメラによってはGainを上げても副作用があまりない場合がありますが、光害地の場合は背景が飽和しやすくなって露出時間が制限されかねないため、光害の状態にもよりますが低感度にしておいた方が無難です。

*3:https://urbansky.sakura.ne.jp/guide-trouble.html参照

*4:そもそも論として、細かく高速な動きをオートガイドで修正することは不可能です。極軸の設置ズレに伴う星の移動、ピリオディックモーションによる星のふらつきなど、ゆっくりした星の動きのズレを追尾するのがオートガイドの役目です。

*5:いわゆるユニティゲインに相当。これ以上感度を上げても、計算上1個以下の電子に対してシグナルが出ることになってしまい、ほぼ無意味。

*6:ユニティゲイン等の情報については、運が良ければ海外の掲示板などに情報があったりするので、探してみてください。

*7:最も効率がいいなら常にISO800で撮れば……と考えたくなりますが、ISO800で飽和するような条件でもISO100なら8倍は露出時間を確保できるわけで、強い光害のある条件下では低感度の利点が勝ります。ここで例に出したケースでは、ISO100だと露出時間がやたらと伸びてしまうため、やむを得ずISO800まで上げています。