このひと月ほど、月齢と晴天、体調などがかみ合わず、惑星撮影すらなかなかできないでいます。こういうときなので、代わりにちょっと調べ物をしていました。
「デジカメで天体を撮影する場合、必ずしも高感度が向いているわけではない」というのは以前から指摘していることですが、これを補強する記事が、海外の有名な天文関連コミュニティ「Cloudy Nights」内にありました。どこかで読んだ覚えがあって探していたのですが、先日ようやく再発見しました。筆者はPHDの開発者でもあるClaig Stark博士です。
記事はこちら。
当然ながらすべて英語ですが、翻訳サービスなどを使えばおおまかな意味は取れるはず。分析は仔細にわたっていますが、要点は以下のような点。
- RAWファイルであっても、ダークノイズの低減、撮像素子の温度上昇に伴うS/N比低下の補償など、様々な信号処理が行われており、撮像素子からの生の出力というわけではない。
- 感度の変更はシグナルを電気的に増幅することで行われている。システムゲインは画像の輝度を1上げるのに必要な電子の数(単位:ADU*1)で表すことができるが、高感度域ではADUが1を切ってしまう。電子の数が離散的*2である以上、この感度域で撮っても情報が増えることはなく、あまり意味がない。
- 感度を上げると輝度が飽和しやすくなり、ダイナミックレンジが狭まる。
- 感度を下げすぎても低照度域の表現力が低下し、やはりダイナミックレンジが狭まる。
つまり、デジカメの性能を最大限に生かす最適な感度があるということで、ここで実験に用いているRebel XSi(=EOS KissX2)の場合、システムゲインが1e-/ADU程度となるISO200ないしISO400あたりが最適値になるということです。
私が利用しているEOS KissX5の場合、これがどうなるかですが、システムゲインの計測データや感度ごとのダイナミックレンジなどが同じくCloudy Nightsを含め、海外のサイトにありました。
https://www.cloudynights.com/topic/526808-canon-600d-testing-results/
https://web.archive.org/web/20170630210635/http://www.sensorgen.info/CanonEOS-600D.html
【追記 2020/10/27】↑大元のサイトは閉鎖されている上、詐欺サイトに繋がるので、こちらのURLを参照のこと
これを見ると、システムゲインの観点からは1e-/ADUに最も近いISO800が最適で、これより感度を上げても情報は増えないわ、ダイナミックレンジは狭くなるわで、ほとんど益はなさそうです。一方で、ISO800では飽和しやすくなっているのも確かで、ダイナミックレンジの観点からは感度を下げた方が有利そうです。
実際の撮影においては、ここに光害によるカブリの影響と光学系の明るさ、追尾精度などによる露出可能時間の上限などが絡んできます。
光害の激しい街なかからある程度明るい光学系を用いる場合、光害成分による飽和が露出時間の上限を決めてしまいます。このような条件下では、いかに飽和させずに露出時間を伸ばし、天体の光を取り込むことができるか重要になってきます。この場合、システムゲインが1e-/ADUを上回ってしまっていたとしても、ダイナミックレンジに優れた低感度設定*3を使い、露出時間を伸ばすことの方がメリットが大きいでしょう。
一方、暗い光学系を使用していて飽和の心配がなく、追尾精度の方が制限要因になってしまう場合などは、X5の場合ISO800までは引き上げてもOKということが言えそうです。このケースの場合、あまり低い感度で撮ると、電子利用効率の低さによる低照度域での表現力低下や、リードアウトノイズ*4の大きさが、淡い部分の表現に影響を与えてしまいそうです。