火曜日夜に行った実験の続き、2つ目は冷却CMOSにおける撮影条件の検討です。
これまで本ブログでは、デジカメでの撮影について、淡いところまで写すという目的においては、短時間・多数枚露出よりも長時間・少枚数露出の方が有利であることを指摘してきました。
これは設定感度を上げても全く同じことで、結局のところ、撮像素子に一定以上の光が当たらない限りシグナルは得らない、という原理に基づく話で、シグナルのない画像を何枚重ねようとも「ゼロを何倍してもゼロはゼロのまま」……つまり淡い部分は写らないというわけです*1。
加えてデジカメの場合、RAWで撮影したとしても画像処理エンジンの介在が避けられません。画像処理エンジンはノイズ除去などにおいて重要な役割を果たしていて、暗い部分のトーンを意図的に落としたり、周辺の画素の色で塗りつぶすなどしてノイズを目立たなくします。乱暴と言えば乱暴な方法ですが、日常の写真ならあまり問題になりません。
ところが、本質的に露出不足にならざるをえない天体写真の場合、こうした処理が挟まることで、淡い星雲や微光星の表現が犠牲になってしまいます。
しかし一方、天体撮影用のCMOSカメラには画像エンジンが基本的に存在しません。だとすると、もしかしたら短時間・多数枚露出でも長時間・少枚数露出に匹敵する画像が得られるかもしれません。
そこで、長時間・少枚数露出と短時間・多数枚露出とを撮り比べてみることにしました。光学系は光害カットフィルターのテストと同じくミニボーグ60ED+マルチフラットナー1.08×DG。カメラはEOS KissX5 SEO-SP3(ISO100)またはASI2600MC Pro(Gain=0, 0℃)を用い、240秒露出の1枚撮り、60秒露出の4枚コンポジット、15秒露出の16枚コンポジットで写りを比較します。なお、光害カットフィルターについては、EOS KissX5とASI2600MC Proで共通で使用できるIDASの「Night Glow Suppression filter NGS1」を用いています。
まずはEOS KissX5 SEO-SP3の結果から。被写体はM16中心部、いわゆる「創造の柱」付近です。
センサー温度が35℃近くまで達していた上、撮って出しなのでかなり写りが悪いですが、それでも、240秒露出のものに比べて15秒露出×16の画質が著しく悪いのは一目瞭然です。念のため、ここから星雲をあぶりだして同程度に見えるように調整してみましたが……
短時間・多数枚露出のものの写りが悪いのは変わりません。これまでの結果を追認する結果で、圧倒的に「長時間・少枚数露出≫短時間・多数枚露出」でした。
次に、ASI2600MC Proの結果です。
こちらも、撮って出しの時点で、星雲の写りが明らかに1枚当たりの露出時間に比例しています。こちらも星雲をあぶりだしてみると……
思ったほど差がないようにも見えますが、やはり240秒の1枚撮りが画質面で最も秀でています。画像処理エンジンが介在しないせいか、KissX5の結果に比べると差が少ないように見えますが、それでも階調の表現などに明らかな差が見られます。
実際、画像のヒストグラムを見てみると、1枚当たりの露出時間に比例してヒストグラムの幅も広がっていて、画像処理の余地も広がっていることが分かります。*2
また、「コンポジットをするとS/N比が上がる」と言われますが、この結果を見る限り、シグナルの低さがノイズの低さを打ち消してしまっている印象です。
……というわけで、やはり冷却CMOSにおいても「長時間・少枚数露出≫短時間・多数枚露出」という原則は変わらないようです。もっとも、1枚当たりの露出を伸ばすと撮影難度は上がりますし、一方でデジカメに比べて低照度域での表現力は勝っているような感じがするので、バランスの見極めが重要かと思います。