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東京都心で分子雲!

こちらに書いたように、先の金曜の夜、職場での飲み会終了後にいつもの公園に出撃してきました。

この夜の本命はオリオン大星雲。撮るだけなら都心からでも簡単に写る冬の定番だけに、私も望遠鏡購入直後からたびたび撮っている被写体です。自分の撮影技術、画像処理技術がどこまで上がったかのベンチマークになっています。

一番最近に撮ったのは2015年の12月のこと。「都会の天文ファンに勇気を与える作例」とのコメントつきでボーグのブログでも紹介され、都心で撮影したものにしてはよく撮れたと自負しています。しかし当時に比べれば、淡い天体を撮影・処理する上での経験、ノウハウもたまってきていますから、今ならさらに上を目指せるはずです

そこで今回は「自分史上最高のオリオン大星雲@東京都心」を目指すつもりで臨みます。


この夜は透明度が大変によく、渋谷・新宿から10km圏内という東京都心のこの場所でも、深夜には3.5等くらいまでは確実に見え、プレセぺ星団も肉眼で位置がなんとなく分かるほど。風も穏やかで、年に数回あるかないかの好条件でした*1。これだけ条件が良ければ、やる気もがぜん湧くというものです。

撮影に入れたのは日付が変わる頃で、天文薄明開始まで4時間ほど時間が取れます。M42は輝度差が大きいので多段階露出が必要であることを考え、4倍ずつ露出に差をつけた1200秒(120秒ではない!)×8, 300秒×8, 75秒×8, 20秒×8のセットで撮影することとしました。単純合計で3時間半ほどの撮影時間です。


撮影自体はつつがなく終了し、帰宅後にELパネルでフラットを取得。さらに、気温が同程度だった翌日夜にダークを取得しました。ところが「さぁ、これから処理!」と撮影画像を開いたところで問題が発覚。300秒露出の8枚中6枚が、何らかの理由で大きく流れていて利用不可でしたorz

原因はPHD2のログを確認してみないと分かりませんが、この数枚の失敗の後はまたガイドが正常に戻っていることから、おおかた一時的にケーブルが引っ掛かったとか、そのあたりじゃないかと思います。


ともあれ、ないものは仕方がないですし、白飛びしやすい中心部は75秒露出のフレームなどで救えそうだったので、無事だったフレームで処理を行います。



1200秒露出の処理前画像はこんな感じ。ここ最近、「撮って出し」では影も形も見えないような淡い天体ばかり撮っていたので、処理前の段階で目的天体が見えると、なにかものすごい違和感を感じます(笑)


各秒のフレームごとにダーク引き、フラット補正、加算平均コンポジットを行った後、それぞれを加算コンポジット*2。光害カブリを除去して、レベル調整、デジタル現像、トーンカーブ調整などを行ってみると……



これはこれで、なかなか悪くない感じです。ここで仕上げに入ってしまってもいいのですが、画像の荒れもそれほどひどくないですし、もう少し攻められそうです。

Silver Efex Pro 2投入

そこで、Nik CollectionのSilver Efex Pro 2を投入してみます。このソフトは、以前こちらでも紹介したように非常に強力なツールなのですが、効果が強いだけに画像が荒れがちで、元画像の画質が良くないと悲惨なことになります。

しかし、今回は何とか耐えられそうな感じでしたので、RGB三色分解を行った後、各プレーンにそれぞれSilver Efex Pro 2の「高ストラクチャ(強)」処理を施し、再合成してみました。

そうして最終的に出てきた結果がこちら。



2017年11月25日 ミニボーグ60ED+マルチフラットナー 1.08×DG(D60mm, f378mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出1200秒×8コマ+75秒×8コマ+20秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1e, Silver Efex Pro 2ほかで画像処理

グッと迫力が増した上、背景になにやらモクモクしたものが……。そう、なんと周辺の分子雲まで見えているのです!

ひそかに「写ってくれないかな……」と期待していたのは確かですが、まさか本当に東京都心で、しかもデジカメで写せるとは思いませんでした。というか、東京都心でここまで撮った人っているんでしょうか……?


今回用いた光学系はF6.3、1コマ当たりの露出はISO100の20分が最長ですが、元画像の背景レベルからするともう少し露出時間を延ばす余地はありそう*3。さらに頑張れば、もっとハッキリ分子雲を炙り出すことができるのではないかと思います。

中心の明るく白飛びしてしまった部分の表現など、課題はまだありますが、とりあえず、現時点での「自分史上最高のオリオン大星雲@東京都心」は達成できたのではないかと思います。


ちなみに、カラーバランスや画質云々を抜きにして、Silver Efex Pro 2の「フルコントラストストラクチャ」でガッツリ強調してみると……



分子雲のモクモクの存在が、よりはっきり分かります。こんな撮り方でも写ってはいるのですから、撮影方法や画像処理方法など、まだまだ工夫や努力の余地はありそうです。

*1:その代わり放射冷却は厳しく、明け方前には望遠鏡運搬用の台車に霜が降りていました。

*2:多段階露出の場合、露出の異なるフレーム同士は「加算平均」ではなく「加算」でコンポジットします。加算平均でコンポジットしてしまうと、せっかく得た異なる階調の画像が均されてしまって意味がなくなります。

*3:1コマ当たり30分くらいまでは大きな問題なく行けそうな感じですが、この場合の撮影時間は多段階露出を考えない単純計算で4時間。これ以上の長さとなると、子午線反転の問題も頭に入れておかないとなりません。さらにその上となると、複数夜に渡っての撮影かツインボーグでしょうか……。