今年は年初からひたすら天気が悪い印象で、この秋も東京は雨ばかりでしたが、11月に入ってようやく安定した晴れ間が出るようになってきました。14日土曜の夜も安定した快晴の予報。新月期の週末に、雲の心配をせずに済むのはいつ以来のことでしょう……?
撮影開始
この日は日没後にいつもの公園に向けて出撃し、20時ごろから撮影を開始します。予定としては、夜半前までアンドロメダ銀河ことM31を撮影し、その後、オリオン大星雲ことM42を撮影することに。
まずM31ですが、先日撮ろうとしたものの雲に妨害されたので、そのリベンジです。今回は、30秒、3分、15分の多段階露出で撮影を行います。中心部の潰れをわずかでも軽減しようという目論見です。
Gain0、15分露出の撮って出しはこんな感じ。
M31やM32の中心部付近しか見えないのは、まぁ想定通り。それでもよく見ると、M31の右上にM110もうっすらとですが確認できます。天頂近いので光害の影響は比較的少ないようで、バックグラウンドの傾斜はほとんど見られません。*1
23時ごろからはM42の撮影に移ります。こちらは、冷却CMOSを使うことで以前デジカメで撮ったものを超えられるかどうかのチャレンジ。空の条件にも左右されますが、できれば以前よりも分子雲をしっかり捉えたいところです。
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Gain0で露出はこちらも5秒、30秒、3分、30分の多段階露出。特に目玉は30分露出で、これだけしっかりかければ暗いものも写るだろうと。Gain0、30分露出の撮って出しはこんな感じ。
一見あまり写っていないように見えますが、レベル調整してみると……
光害や周辺減光に飲み込まれかけていますが、背景部分には分子雲に由来すると思われるムラが確認できます。これは期待が持てそうです。
3時過ぎには一通りの撮影が終わったので、薄明までの小1時間ほどを利用して、おおいぬ座の散開星団M41を撮影し、撤収となりました。。
さて、今回はこのメイン機材以外に、赤道儀化AZ-GTiを用いた「星野写真撮影システム」を持ち出しています。
構成は下からManfrotto 3/8''~1/4''ネジ変換用アダプター→低重心ガイドマウント→タカハシ V金具30°仕様→AZ-GTi。カメラ側はNorthanCrossのアリガタにSLIKのDS-30(アルカスイス互換クランプ)、SUNWAYFOTOのDPL-01(L型プレート)で固定、という具合です。カウンターウエイトシャフトはアイベル取り扱いのもの。
また、極軸設定のために、ビクセンのウェイト軸カメラ雲台と小型の自由雲台(エツミ E-2048 [ボールヘッドミニ])を介してPoleMasterを取り付けられるようになっています。
カメラはこちらに書いたような構成。オートガイドも可能です。
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これで、前半は年賀状に流用するためのおうし座付近の星野を、後半はHαのナローバンドでオリオン座付近を狙います。撮って出しの画像ですが……
おうし座の方は……光害カットフィルターを入れているとはいえ、そこは東京都心。まぁ、こんなもんでしょうか。後処理で化けることを期待しましょう。
一方のナローバンドの方ですが、なんと未処理のこの時点で、すでにバーナードループやエンジェルフィッシュ星雲が見えています。さすがの威力と言わざるを得ません。とはいえ、下から上へ光害によるカブリもはっきり出ていて、ナローバンドと言えども人工光などの影響がないわけではないというのも明確になった感じです。
心配されたオートガイドの具合ですが、キャリブレーション結果は、反転時にバックラッシュこそ見られるものの想像以上にマトモで、オートガイドの方も赤経側、赤緯側ともおおむね5秒角以内に収まっていました(赤経側RMS=3.03秒、赤緯側RMS=3.52秒)。この精度なら、200mmくらいまでなら十二分に使い物になりそうです。
リザルト~SIGMA 18-50mm F3.5-5.6 DC+EOS KissX5 SEO-SP3
帰宅して仮眠をとったのち、撮ってきた画像の処理を始めます。今回は珍しく多数の写真を撮ったので処理が大変です(^^;
まずは比較的手がかからないと思われる、赤道儀化AZ-GTiの成果物から。おうし座付近の星野です。
2020年11月15日 SIGMA 18-50mm F3.5-5.6 DC(f18mm, F3.5) AZ-GTiマウント
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出120秒×8コマ, ケンコー・トキナー PRO1D プロソフトン[A](W), IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ノーブランドCCTVレンズ(f25mm, F1.4)+ASI120MC+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理
かなりお手軽な撮り方でしたし、処理も相応に適当ですが、思いのほかよく写った印象です。
よく見ると、カリフォルニア星雲(NGC1499)やモンキー星雲(NGC2174)も写っています。星の色を出すためにソフトフィルターを噛ませているため、細部はとても分かりませんが、存在が確認できるだけでも立派なものです。*2
レンズ自体、いわゆる「撒き餌レンズ」レベルの安価な互換レンズですが*3、開放で撮っているにもかかわらず極端な星像の崩れもなく、想像以上に優秀でした。
普段こんな場所で星雲などの写真を撮っといて言うのも難ですが、正直、格安レンズ&東京都心で星野写真がここまでモノになるとは全く期待していなかったので、嬉しい誤算でした。これなら、今後もそれなりに楽しめそうです。
次いで、Hαナローバンドによるオリオン座です。
2020年11月15日 SIGMA 18-50mm F3.5-5.6 DC(f35mm, F5.0) AZ-GTiマウント
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO800, 露出600秒×8コマ, OPTOLONG H-Alpha(7nm)使用
ノーブランドCCTVレンズ(f25mm, F1.4)+ASI120MC+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理
こちらも驚きの結果です。未処理の時点ですでに見えていたエンジェルフィッシュ星雲等の姿が、よりハッキリと浮かび上がってきました。比較的短時間の撮影にもかかわらず、馬頭星雲からのHα領域の広がりや、M42周辺のモヤモヤも見えていて、東京都心から撮ったとはにわかに信じられない絵です。
一方、光量が大幅に減少すること、R画素しか画像に寄与しないこともあって、像が相応に荒れているのも確か。今回、AZ-GTiのガイド精度が十分なことが分かったので、次回以降はよりしっかりと露出を与えてみたいと思います。
リザルト~ミニボーグ60ED+ASI2600MC Pro
さて、次はいよいよASI2600MC Proで撮った方の結果です。まずは処理が比較的簡単なM41から。
2020年11月15日 ミニボーグ60ED+マルチフラットナー 1.08×DG(D60mm, f378mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃, Gain=0, 露出120秒×8コマ, IDAS LPS-D1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理
先日も書きましたが、散開星団は星の数&星の色がものを言うので、光害まみれの都心からだと、きれいに撮ろうとすると意外と難しい対象です。星の数を増やすには露出を増やせばいいのですが、そうすると星の色が真っ白に飛んでしまい、非常に地味な絵面になってしまいます。光害が少なければ、短時間露出でも十分な数の星が写るはずなのですが……。
今回は仕方がないので、露出時間を短めにして撮影段階で色情報を落とさないようにした上で、処理段階においてレベル調整で微光星を強調、そしてデジタル現像の段階で色彩強調を行っています。このプロセスはあくまでもデジタル現像の一環なので、その効果は階調圧縮がかかる領域……つまり恒星などの輝度の高い部分に優先的に表れます。これによって、星の色がハッキリした星団の写真になります。*4
都心で撮った割には、まずまず見栄えのする仕上がりになったのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?とはいえ、やはり星団の写真は難しいです。
次はM31です。実はM31を撮ったのは2016年11月5日以来、4年ぶり。当時よりは機材も良くなっている上、腕も多少は上がっているはずなので、どこまで行けるでしょうか……?
2020年11月14日 ミニボーグ60ED+マルチフラットナー 1.08×DG(D60mm, f378mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃, Gain=0, 露出30秒×8コマ+180秒×8コマ+900秒×8コマ, IDAS LPS-D1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理
で、こうなりました(^^)
露出をたっぷり与えたせいか、写りは前回よりもはるかにいいですし、東京都心でここまで撮れればまずは十分じゃないでしょうか?色合いもかなり好みに仕上がりました。
今回は、前回と比べて光害の影響が少なく*5、そのあたりも有利に働いたようです。
多段階露出による白飛びの抑制については、効果は微妙……。とはいえ、腕をこれだけ強調すれば中心部が飛んでしまうのはある程度仕方のないところ。まったく何もしなかった場合(900秒×8コマのみをコンポジット後、強調)と比べると、飛び方が多少はマシになっているようなので、やっただけのことはあるのでしょう。
さて、そして大本命のM42です。今回は露出時間を前回よりさらに伸ばしてますし、写りに期待大です。どれどれ……。
……。
…………?
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なんと、8コマ撮った30分露出のコマのうち、後半半分の4枚が見事に流れていますorz 一体何事……!?
そこで、ステラナビゲータを使って当時の撮影状況を再現してみると、星が高度方向に流れているのが分かります(図は赤道座標。紫のラインが撮影時間帯における高度・方位線)。となると、心当たりが1つだけ。
USB3.0ケーブルです。
この夜は複数の撮影対象&撮影時間が長くなりそうということもあって、PC置き場などの自由度を上げるために3mと長いケーブルを使っていました。ところがこれが、シールドの関係で硬く、太く、重いのです。像が流れているのが撮影の後半……すなわちM42の高度が下がってきてからということを考えると、ケーブルの硬さや重みのせいでカメラが下に引っ張られ、像の流れにつながったのだろうというのは想像に難くありません。
次からは配置の自由度を犠牲にして細めのケーブルを使う*6か、アクティブリピーターケーブルを架台付近に取り付けつつ、カメラ~リピーターケーブル間を短いケーブルで結ぶか、あるいはあえてUSB2.0で接続するか……*7 *8。とにかく、何らかの対策は必須になりそうです。*9
というわけで、30分露出のコマは流れのない4コマ分しか使えませんが、ないものは仕方ありません。残りのコマを合成して……こう!
2020年11月15日 ミニボーグ60ED+マルチフラットナー 1.08×DG(D60mm, f378mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃, Gain=0, 露出5秒×8コマ+30秒×8コマ+180秒×8コマ+1800秒×4コマ, IDAS LPS-D1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理
Silver Efex Pro2による強調処理なども噛ましたのですが、残念ながら、今回は周辺の分子雲をハッキリと表現するには至らず……。よく見ると写っていないことはないのですが、やはり一番肝心の長時間露出のコマが半減してしまったのが痛かったです。
というわけで今回は、ガスのうねりをやや強調する方向に。その分、色合いはあっさり目ですが、これはこれで悪くない気がします。それにしても、この領域は明暗差も非常に大きくて表現が本当に難しいです。一方で、どこに着目して処理するかで表現が大きく変わってくるので、その意味で非常に面白い領域でもありますね。
*1:「というか、全体が一様に光害まみれやんけ」というツッコミは禁止です(笑)
*2:一方で、オリオンの脇の下あたりにあるはずのアトラス彗星(C/2020 M3)はほとんど分かりませんでした。ソフトフィルターのせいでそもそも像がにじんでいるはずなのに加え、青緑~緑色は光害の色と比較的近い(最近はそうとも言い切れないけど)ので、光害カットフィルターや画像処理の巻き添えを食って消えがち、面積があって等級の数字ほど明るくない……あたりが原因じゃないかとは思ってます。とりあえずLPS-P2だとCN由来の波長388nm、C2由来の波長405nmあたりの光はカットされてしまいます。
*3:中古でわずか3000円ちょっと
*4:実際には、さらに「マトリックス色彩補正」を弱くかけています。
*5:当時の記事を見ると、前回撮影時の夜は快晴だったものの湿度が高めで、大気の透明度も悪かったようです。……ああ、思い出してきました(T_T)
*6:細いUSB3.0ケーブルは、シールドが弱いため最大でも2mまでのものしかありません。
*7:USBは規格上、後方互換性があるので、USB3.0の機器をUSB2.0のケーブル等で繋ぐことは可能です。
*8:ASI2600MC Proのデータサイズは、1枚当たり6248px×4176px×16bit=417466368bit=52183296byte≒52.2MBです。一方、USB2.0の帯域は480Mbps=60MB/sなので、1秒もあれば読み出しができます。ピント合わせが少々厄介そうですが、非現実的と言うほどの遅さでもありません。
*9:その意味で、機器間を短いケーブルで繋げば済むASIAIR PROのようなソリューションは魅力的ではあります。