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VSD90SSレビュー(フラット&星像編)


さて、VSD90SSのレビュー第2回目です。


今回はフラット画像、および実際の星空を撮影してみて、どのような結果になるかを確認してみようと思います。あちこちですでに立派な結果が発表されているのでいまさらですが、普及価格帯の鏡筒との比較という面も含めて見ていただければ……。


比較対象の1つは同社のラインアップのうちで中堅に位置するED103S焦点距離795mm(F7.7)のスタンダードな2枚玉屈折です。製品名に「ED」とついているものの、使われているのはEDレンズ(S-FPL51相当)ではなく、より高性能なSDレンズ(S-FPL53相当)です。決して写真用の鏡筒ではありませんが、弱点も少なくオールマイティに使える鏡筒で、自分も長いこと愛用しています。


焦点距離から何から全く違うので本来は比較対象として適切とは言い難いのですが、同社の製品の中でVSD90SSに似たものはないので、やむをえずです。ただ、純粋に収差補正という面で言えば一般にF値が暗い方が有利なはずで、そこをVSD90SSが覆せるのかが注目です。


なお、自分の手元にあるものは、過去に「SDレデューサーHDキット」発売記念で行われた「SD改造サービスキャンペーン」によるドローチューブ交換、および「SD103SII鏡筒」「SD115SII鏡筒」の発売記念で行われた「スペーサー交換キャンペーン」により、現行製品の「SD103S II」相当になっています。以下、「ED103S」とあるところは「SD103S II」と読み替えていただいて結構です。

www.vixen.co.jp
www.vixen.co.jp


そしてもう1つは、今や一定の地位を築いたと言っていいAskarからFRA300 pro。口径60mm、焦点距離300mm(F5.0)の5枚玉ペッツバールアストログラフです。EDレンズ1枚を含んだ光学系で「5枚のレンズを適切な間隔で配置することにより、天体撮影の障壁となる諸収差の発生を極限まで抑えた」と謳われています。

hpn.hatenablog.com

奇しくもVSD90SSと同じく5枚玉で、F値も似たようなレンジです。5倍以上の価格差がありますが、どこまで食い下がれるでしょうか……?



なお評価は目視のほか、ASTAP(the Astrometric STAcking Program)を利用しています。

www.hnsky.org


ASTAPはプレートソルビング用のソフトウェアとして有名ですが、それ以外に画像のスタッキングや画像の評価も行うことができます。この手のソフトとしては、CCDWareの「CCDInspector」などが昔から有名ですが、ASTAPはほぼ同等の機能を無料で使えるので大いに助かります*1


フラットフレームの比較


まずはフラットフレームの比較です。使用カメラはASI2600MC Pro。APS-Cサイズの冷却CMOSカメラです。本当はフルサイズで比較したいところですが、手元にある最大サイズのセンサーがこれなので仕方ありません。


最初は、スタンダードな屈折鏡筒であるED103S(SD103S II)から。





上から順に、直焦点(焦点距離795mm(F7.7))、SDフラットナーHD使用時(焦点距離811mm(F7.9))、SDフラットナーHD+レデューサーHD使用時(焦点距離624mm(F6.1))です。


直焦点やフラットナー使用時の結果が想像以上にいいのに驚きます。最外周での減光率はせいぜい1~2%程度とかなり優秀です。F値が大きくて光学的にあまり無理をしていないのと、ドローチューブ交換が効いているのかもしれません。


一方、レデューサーを使った場合については、非常に分かりやすく周辺減光が出ています。四隅では10%ほども光量が落ちていて、フラット補正がないとかなり厳しい感じです。まぁ、レデューサーというのは普通こんなものでしょう。



次に、FRA300 pro。こちらはフラットナーやレデューサーが展開されていないため、直焦点のみです。



結果は……四隅で3%前後の光量低下。色分けのせいで周辺減光が激しいように見えますが、絶対値としてはそこまでではありません。F5という明るさを考えれば、まずまず標準的なところでしょうか?ただ、周辺にかけての光量の落ち込み方は比較的急で、フラット補正に苦労しがちなパターンではあります。「pro」の名を冠する以上、もう一息頑張ってほしかったというのが本音。



そして、本命のVSD90SS……






えぇと……なんですか、これ?(驚


上から順に直焦点(焦点距離495mm(F5.5))、レデューサーV0.79x使用時(焦点距離391mm(F4.3))、レデューサーV0.71x使用時(焦点距離351mm(F3.9))ですが、どれもほとんど減光パターンが変わらない上、光量低下も四隅でせいぜい1%程度と極めて低く抑えられています(明暗パターンではなく、数字をよく見てください)。同じ5枚玉のFRA300 proと比べると直焦点での差は圧倒的で、5倍の価格差は伊達ではないというところでしょうか。


特にレデューサーの結果は驚異的で、0.79xも0.71xもおよそ信じがたいレベルです。普通、レデューサーは光をグッと集める関係上、ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHDのように周辺光量が下がるのはほぼ避けられないのですが……。これなら「フラット補正が不要」というのもあながち嘘とは言い切れない気がしてきます。



なお、ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHDやFRA300 proでは光量分布がきれいな同心円を描いているのに対し、ED103S直焦点やED103S+SDフラットナーHD、VSD90SS各ケースではやや偏心が見られます。光量変化が微弱なために強調されてる面は大きいですが、上が暗く下が明るいという傾向が共通していることを考えると、カメラ本体ないしマウントアダプターあたりで微弱なスケアリングのズレが発生している可能性はあります*2


星像の比較


次いで星像を比較してみます。使用カメラは変わらずASI2600MC Pro。ガイドエラーの影響を避けるために1分露出のワンショットのみとし、画像の中央および四辺、四隅をASTAPを用いて切り出して示しています。6248×4176ピクセルの画像からそのまま切り出している、いわゆる「等倍鑑賞」の状態なので、かなりの拡大率で眺めていることに注意です。


また、表示にあたってはASIFitsViewでオートストレッチを行っています。



まずはED103Sから。






フラットフレームと同様、直焦点、SDフラットナーHD使用時、SDフラットナーHD+レデューサーHD使用時と並んでいます。


直焦点においては周辺部の星像が分かりやすく楕円形に崩れていますが、これは2枚玉アポクロマートに典型的な収差の出方です。色収差や球面収差、コマ収差はきれいに補正されているのですが、レンズ設計の自由度はこの段階で使い切ってしまい、非点収差や像面湾曲はこれ以上補正しようがないのです。


これを補正するのがフラットナーやレデューサーで、実際、SDフラットナーHD使用時、SDフラットナーHD+レデューサーHD使用時の星像はいずれも非常に優秀なものとなっています(ただし、子細に見るとSDフラットナーHD+レデューサーHD使用時、四隅でわずかに内側に青、外側に赤という色ズレが見られます)。F値が暗めとはいえ、ここまで星像がきれいに整うというのは驚きです。


「SDレデューサーHDキット」のメーカー希望小売価格は61600円。絶対額として決して安いわけではありませんが、「レデューサーV0.79x」や「レデューサーV0.71x」の価格を考えればかなりのコスパの良さと言えます。焦点距離の長さやF値の暗さ、レデューサー使用時の周辺減光の大きさなど難点も多いですが、まんざら捨てたものでもありません。



次いで、FRA300 pro。



こちらもかなり優秀です。四隅でも星像の崩れはほとんど見られません。ただ、細かく見れば上のSDフラットナーHD+レデューサーHDのケースと同様、放射状のわずかな変形と外側への赤の色ズレが見られます。とはいえ、微細な違いなのは確かで、こちらも十二分にきれいな星像と言えます。



そしてVSD90SS。





こちらはレデューサーを用いたものを含め、文句のつけようがありません。星像は隅々まで真ん丸で、気になるような色ズレも一切なし。心配された「星割れ」*3も、大口径のレンズのおかげでまったく発生していません。しかもこれで、レデューサー使用時は今回の比較対象の鏡筒のどれよりも明るいのですから恐れ入ります。


なお、レデューサーV0.71x使用時のみ、右上隅で星像の乱れが見えますが、おそらくこれは上で触れたスケアリングのズレのほか、レデューサーの微妙な光軸ズレなどもあるのかもしれません。とはいえ、原因を探るのは大変ですし、借り物を変にいじって壊してもアレなので、ここは放置で。


で、レデューサーV0.79xとレデューサーV0.71xの優劣ですが……APS-Cで見る限り、フラットといい星像といい、どちらも甲乙つけがたい極めて優秀なレンズです。35mmフルサイズだと外周部で色々と差が出てきますが、そことわずかな明るさの違いに148500円 - 88000円 = 60500円の価値を見出すかどうか……。かなり悩ましい選択になるのは間違いありません。


……それにしても、今どきの鏡筒はどれをとっても本当に優秀ですね。



あと、ここまで優秀ならもしかして……と最後にちょっとしたイタズラ心が湧いたので、VSD90SSやレデューサーを用いた画像を焦点距離811mm相当にトリミング&拡大して、ED103S+SDフラットナーHDの画像と比較してみました。





【参考】ED103S+SDフラットナーHD


……なんと、それほど大きな差がありません!拡大率にすると1.5~2倍以上に当たりますが、十二分に「見れる」星像です。特にVSD90SS直焦点は、星像のキレを含め本当に見事なもの。レデューサーを用いたものを無理やりトリミング・拡大した場合はさすがに甘さを感じますが、それとて星の形が整っているので見苦しさは感じないでしょう。どうしても気になるなら、BlurXterminatorを使ってしまえば……。これなら、積極的にトリミングを使ったとしても十二分に楽しめそうです。

*1:CCDInspectorも30日間フル機能が使える試用版があったのですが、動作に挙動不審な点があり、今回は使用を見送りました。

*2:個人的には、カメラに取り付けているEOS-T2アダプターが(マウントの接続部含め)一番怪しいのではないかと思っています。

*3:口径食の影響で星の光芒が「割れた」ように写ってしまう現象。