本日、とうとうVSD90SSとのお別れの日がやってきました。またいつの日か、大きくなって帰ってこいよ~!(ぇ
さて、VSD90SSがウチに来てから約2週間ちょっと。VSD90SSを可能な範囲で使い倒したので、本レビュー企画のシメとして、評価をまとめてみようと思います。
まず、ハードウェアとしての鏡筒についてですが、従来のビクセン製鏡筒と比較してはるかにしっかりしています。太く頑丈なドローチューブはスムースに動きますし、ドローチューブクランプの使い心地も軽快で、気持ちよく撮影に移れます。ファインダー台座取付部が左右にあることや、アイピースやリングの固定ねじがすべてナイロンチップ内蔵なのも地味な評価ポイントで、使いやすさや安心感につながっています。さすがはフラッグシップ機というところで、撮影機材としての使い勝手は上々です。
ただ、あらゆる面ですべてが大絶賛……というわけでもなく。
最大の難点は、他の方も指摘されていますが、やはりフードおよびキャップの仕様です。暗い中で行うフードの付け外しは、ワンアクションとはいえやはりストレスになりますし、これをしないとキャップすらはめられない(やってできないわけではないけど非常に難しい)というのは、仕様としてさすがにどうかという気がします。
また、本体のつかみどころがないのもマイナスポイント。例えばケースから持ち上げる場合、鏡筒の前後を支えようとうっかりフード部分にも手をかけると、なまじフードが「ねじ込み式」なのが災いしてフードが不意に回転、鏡筒を取り落としそうになります。そのあたり、Askarなどの鏡筒のようにハンドルに他の機能を持たせたり、あるいは簡単にハンドルの付け外しが可能などなんらかのギミックがあると良かったのですが……。
一方、写真性能についてはほぼ言うことはありません。星像は隅々までほぼ完璧で、レデューサーを使ってもほぼ影響が出ないというのは、ほとんど信じられないレベルです。周辺減光もレデューサーの有無にかかわらず非常に小さく、しかも減光パターンが素直なのでフラット補正も簡単です。迷光の類も皆無。街なかでの撮影には非常に大きな力となるでしょう。
ただ、写真性能を保ったまま焦点距離を伸ばす手段がないのは惜しいところで、現時点で小さめの天体を撮影するには向きません。トリミングすればある程度カバーできるとはいえ、精細な表現にはやはり限界があるので、エクステンダーのようなものがあれば応用範囲はさらに広がると思います。まぁ、無理に1本にまとめる必要もないのですが(^^;
眼視性能については、こちらも非常に優れてはいるのですが、それだけに高倍率をかけにくいのが残念なところ。同社の「HRシリーズ」が終売になってしまったのは本当に痛いです。こちらも、VSD90SSの性能に見合うような高性能のバローが欲しいところです(あるいはHRシリーズの復活)。
……と、まぁ、こまごま不満点も書きましたが、総じて非常によくできた鏡筒だと思います。初心者でも扱いやすいユーザビリティと、難しいことを考えずとも十二分に性能を発揮してくれるだろうという安心感は大きくて、使っていて楽しい鏡筒でした。これが他の鏡筒だと、どうしてもどこかに「これで大丈夫かな?うまく撮れるかな?」という懸念が湧きがちで、なかなか「楽しむ」まで行かないのです。ほぼ全幅の信頼を置けるという意味で、道具として非常に優秀だと感じました。もちろん価格は非常に高いわけですが、それに見合うだけの性能は確かにあると思います。*1
しかし本レビューの期間中にも、他社から次々と優秀な光学系が発表されてきました。AskarのSQA55しかり、高橋製作所のFCT-65Dしかり……。いずれも星像は見事なもので、ここにきて各社の競争ステージがさらに一段上がった感じがします。ビクセンもVSD90SS以降、未発表のVSD70SSやSDP65SSなど楽しみな光学系が控えていますし、国産鏡筒の一角としてなんとかうまく戦い抜いていってほしいものです。
*1:とはいえ、初心者に無条件で勧められるかというとまた別問題。同じ金額で性格の異なる鏡筒を複数本(自分の場合7本!)買えることは念頭に置いておく必要があります。