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夜半の三日月

脳内出血で倒れた母の介護だったり、そもそも天気がイマイチだったりで、直焦点撮影はGW前後からついぞご無沙汰だったのですが、20日金曜の夜は久しぶりにスッキリと晴れそうな予報。そこで、月没の頃を見計らっていつもの公園に出撃することにしました。


とはいえ、出撃するまでが一苦労。これまで望遠鏡の置き場は1階の玄関脇の部屋だったところ、母が車椅子で移動する関係で家をリフォームした結果、機材一式が全て2階に追いやられてしまいました。その上、玄関自体も、上がり框への階段や手すりを増設した結果、台車を乗り入れることができなくなってしまいました。

結果、階段を何往復もして全重量数十kgの大荷物を屋外へ運び、これを高く持ち上げて台車に載せる羽目に。今はまだ大丈夫ですけど、この先、体力が落ちてきたらとてもこうはいきません。何かうまい手を考えないと……orz

ともあれ、どうにか機材を運び出して夜半前には公園に到着。何を撮るかですが、Twitter上でのやり取りから、はくちょう座の「クレセント星雲」(三日月星雲)ことNGC6888を狙うことにしました。ちょうど天頂付近に昇っていて、光害の影響も比較的少ないはずです。



クレセント星雲は比較的小ぶりな散光星雲ですが、近くにはサドル(はくちょう座γ星)周辺に広がる散光星雲(IC1318)があり、淡いガスが広がっています。もしうまく撮れればこれらを捉えることも可能でしょうから、光学系として焦点距離がやや短めな、ED103S+レデューサーHD(焦点距離624mm, F6.1)を用いることとしました。実はこれがレデューサーHDの事実上のファーストライトになります。「SDレデューサーHDキット」を購入したのがちょうど1年前ですから、どれだけ寝かせていたんだという話ではありますが……(^^;




標的天体が主にHα線で輝いていることから、フィルターはOPTOLONG CLS-CCDを選択。露出は1コマ当たりISO100の15分としましたが、撮って出しでもこの程度。カットする光の量が多いせいか背景レベルの上がり方は鈍く、もっと露出量を稼ぐことはできそうです。


数ヶ月ぶりの撮影ということで、忘れ物も含め何かトラブルが発生するかもと心配していたのですが、特にそうしたことは起こらず。手順は案外しっかり身についているものです。

ただ、午前1時ごろまで、撮影している自分の目の前でカップルがイチャイチャし続けていて、しまいにはスマホのライトをつけて自撮りを始める始末。ライトの光が機材をモロに照らすのでやめてほしかったのですが、声をかける勇気もなかったので、体で光をブロックしつつ大爆発を念入りに祈っておきました。


予定していた枚数を撮影後、薄明開始までの間に、ちょうどバーストを起こしていると言われていたパンスターズ彗星(C/2017 S3)を狙ってみようかとも思っていたのですが、撮影場所からは北東側の低空が狙えないことが分かり断念。代わりにコマ数を追加して撮影終了としました。


その後、例によってゴリゴリ処理をやって出てきた結果がこちら。



2018年7月21日 ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出900秒×8コマ, OPTOLONG CLS-CCD for EOS APS-C使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

ナローバンドで撮影した場合に比べるとコントラストが低いですが、網状星雲のミニチュアのような姿が浮かび上がってきました。

クレセント星雲は、中央のウォルフ・ライエ星WR 136からの高速な恒星風と、同星が赤色巨星だった約40万年前に放出された低速の恒星風が衝突した姿です。Hα線などのナローバンドで撮ると、三日月形というよりはつぶれたカブトガニのような楕円形に見えます。この写真でも、心眼レベルですが、淡いガスが楕円形に広がっているようにも見えます。

また、主に北側の背景がうっすら赤く色づいていますが、これはカブリではなく、サドル周辺の散光星雲の最外縁部。Hα線のナローバンドで撮ると存在がハッキリわかるようですが、最微等級3等程度の空で非冷却デジカメを使ってここまで写れば御の字でしょうか。


なお、今回はディザリングを利用して撮影し、コンポジット時にσクリッピングを行うことで、ダークフレームの減算を省略してみました。ホットピクセルの消え方を見る限り一定の効果はありそうで、カメラのアンプノイズが目立たない場合は有効そうです。