10月は全般的に天気が悪く、紫金山-アトラス彗星(C/223 A3)を撮影した10月中旬を除いて雨 or 曇天続き。この月の新月期はまったく撮影できなかったのですが……11月に入って早々の3日は、前線通過後に移動性高気圧が張り出してきて久々に一晩中「晴」の予報が。そこで例によって、台車に機材を積んでいつもの公園に出撃してきました。
セッティングは日没頃に完了しましたが……連休の中日ということもあってか、子供の数がやたらと多いです(苦笑)*1
それでも、日が完全に落ちると潮が引くように人がいなくなり、いよいよ撮影開始です。
まずは、先月立派な姿を見せてくれた紫金山-アトラス彗星(C/2023 A3)から。
先月、地球に接近した際には太陽と彗星、地球との位置関係により非常に明るく見えていましたが、その「ボーナスステージ」も終わり、現在は接近前からの光度曲線に従って緩やかに減光中。とはいえ、並みの彗星から見ればまだまだ明るい類ですし、十二分に撮影対象です。
ダストリッチな彗星なのがあらかじめ分かっているので、撮影には通常の光害カットフィルターとは別に、赤外線フィルターであるサイトロン IR640 Pro IIを用いてみます。ダストの尾は満遍なく連続スペクトルで輝いているので赤外線でも写りますし、一方で光害成分は少ないので、カブリに悩まされることなく撮れるだろうという判断です。
ちなみにカメラの方は、以前に保護ウィンドウを「UV-IRカットフィルター」から「反射防止ガラス」に交換してあります。カメラにもよりますが、カラーカメラは赤外線をカットする仕様になっていることが多いので、もし真似しようという方がいればそこは要注意です。
彗星の撮影が終わったら、20時半ごろからL-Ultimateフィルターを用いてペルセウス座の「カリフォルニア星雲」ことNGC1499の撮影に入ります。実はこの対象、過去に何度か撮ったことがあるのですが、いずれもデジカメでの撮影の上、用いたフィルターもそれほど強力ではなく写りに不満がありました。
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……しかし、どうでもいいけど年末年始にしか撮ってない
さらにこの夜は、雨上がりで水蒸気が多いせいか大気の透明度が悪く、明るい対象でないと写りが悪そうというのもありました。カリフォルニア星雲自体は北アメリカ星雲などと同様、知名度の割に淡いのですが、比較の問題としてクエスチョンマーク星雲あたりと比べれば撮りやすくはあります。
しかしながら、最初の一枚の「撮って出し」をASIFitsViewでレベル調整した結果がこれ。撮影序盤は高度の低さ*2も影響したとはいえ、ナローバンドフィルターを用いてさえこれというのは、やはり空の状態の悪さが如実に表れています。なにしろ、この夜はこと座のベガでさえ輝きが弱々しかったくらいですから……。
が、夜半を過ぎてくると空の状態はだいぶ改善。このくらい写ってくれればなんとかなりそうです。
ちなみに今回は、フィルターを常法通りレデューサーの後ろに入れています。L-Ultimateは「F4以上推奨」ということで、これまではレデューサーの前方に無理やり取り付けていました。
しかしながら、この方法だとごくわずかにフィルターが傾いただけでも星像が激しく悪化する上、フィルターの交換がとにかく面倒。加えて、先日の調査で「F3くらいまでならまぁまぁ使えそう」ということが分かったので、マニュアル通りの普通の取り付け方に戻しました。撮れた写真を見る限り、大きな問題はなさそうです。
夜明け1時間半前くらいからは、星の色を生かすためフィルターを通常の光害カットフィルターであるLPS-D1に切り替えます。
同じく「撮って出し」をASIFitsViewでレベル調整すると、星雲の存在がうっすら分かりますが……L-Ultimateと比較するとその差は歴然。さすがはデュアルナローバンドフィルターといったところでしょうか。
リザルト
まずは紫金山-アトラス彗星(C/2023 A3)から。IRと通常光とで撮った結果はそれぞれこんな感じ。
一瞥してIRの方が圧倒的に写りがいいですが、これは撮影時の設定感度が異なるからという部分はあるかと思います。とはいえ、通常光ではここまで攻めた露出ができないのも事実*3なので、効果は確かにあると思います。
ちなみに、最初はこれらのそれぞれをメトカーフコンポジットして……などと考えていたのですが、彗星の動きが比較的小さく効果が薄いこと、その割に処理が面倒くさいこともあって早々に放棄しました。で、IR画像をL画像、通常光画像をRGB画像としてコンポジットしようとしたのですが、ここでちょっとした問題が。
IR画像の方が明らかに星が多い上、星像の大きさも違うものが多いのです。
赤外線は、多少の暗黒星雲は貫通しがちな上、当然のことながら青っぽい星(=赤外線で暗い星)は小さく、赤い星は大きく写るため、全ての星が必ずしもきれいには重なってくれないのです。まぁ、この点については事前に覚悟していたので、気にせずそのまま合成!そして……はい、ドンッ!
2024年11月3日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D60mm, f200mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
L画像:Gain300, 100秒×24, サイトロン IR 640 PRO IIフィルター使用
RGB画像:Gain100, 100秒×24, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsightほかで画像処理
全盛期と比べるとはるかに小さいものの、大彗星だった片鱗を感じる予想外に立派な姿です。画角と比較すると尾の長さは依然として3度近くもあり、なかなかのものです。このときの地球との距離は約1.06天文単位。10月13日には約0.47天文単位だったので、わずか半月ほどでずいぶん離れたといえます。
ちょっと興味深いのは尾がたなびく方向で、10月13日にはコマを先頭にした時に左側に尾が広がっていたのに対し、今回のは右側に広がっています。これは、この間に地球が彗星の軌道面を横切ったことで、彗星の見える面が変わったためです。こうした点に気づけると、天体の動きに立体感が感じられて面白いと思います。
地球から見た彗星の姿勢変化(10/12~11/3)
(StellaNavigator/アストロアーツ)
さて、お次はカリフォルニア星雲。L-Ultimateである程度写っていたので、処理すれば何とかなりそうな気はしますが……。
処理の手順はいつも通り。L-Ultimateで撮影した方はフラット補正後、GraXpertによるカブリ&ノイズ除去、SPCCによる色調整、BXTによるデコンボリューションを行い、さらにStarNet2により星と星雲とを分離します。分離した星雲はストレッチをかけた上でR, G, Bの各チャンネルに分け、それぞれに対してSilverEfex Pro 2の「フルダイナミック(強)」で強調処理を。
一方、LPS-D1で撮影した方はStarNet2で星と星雲を分離するところまでは一緒です。その後、星のみの写った画像の彩度を大きく上げ、星の色を強調。これを前述の星雲の画像と合成して……はい、ドンッ!
2024年11月3日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D60mm, f200mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
カラー画像:Gain100, 300秒×16, IDAS LPS-D1フィルター使用
ナローバンド画像:Gain300, 300秒×66, Optolong L-Ultimateフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
PixInsightほかで画像処理
カリフォルニア星雲のいわゆる「カリフォルニア」っぽい所だけではなく、その先の淡い領域や周辺の分子雲までしっかりと写ってくれました。「カリフォルニア」部分は色がやや白っぽいですが、これはおそらく、このあたりに赤いHαに加え青緑色のOIIIの成分が比較的多いためでしょう。
この星雲を光らせているのは写真中央付近に見えるペルセウス座ξ星で、太陽の約30倍の質量を持ち、表面温度約35000度、明るさは可視光の範囲で太陽の12700倍、紫外線まで含めると太陽の263000倍という、極めて活発な青色巨星です。この星は元々、ペルセウス座ζ星付近を中心とする「ペルセウス座OB2アソシエーション」という星団の一員なのですが、近接した恒星の超新星爆発など何らかの原因で星団を飛び出し、現在も猛スピードで宇宙空間を飛び続けています。
カリフォルニア星雲は、たまたまこの領域にあった分子雲がペルセウス座ξ星からの強烈な放射を受けて輝いているもので、この星雲の広がり方を見るとその仕組みが納得できます。また、ペルセウス座ξ星が飛び去ってしまえば、この星雲もいずれ輝きを失ってしまうでしょう。