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ビクセンFL55SS発売

https://www.vixen.co.jp/post/180723a-2/

昨日、ビクセンからフローライト採用のフォトビジュアル鏡筒「FL55SS」の発売が発表になりました。実際の発売は27日(金)から。専用フラットナー、レデューサーも同時発売です。

この鏡筒は今年のCP+でも展示されていたので、実際にご覧になった方も多いかと思います。口径55mm、焦点距離300mm(F5.5)のフォトビジュアル機で、ビクセンとしては実に30年ぶりのフローライト鏡筒です。定価は税別10万8000円。実売価格は10万円を切ってくるでしょうから、価格的にはBORG55FL天体鏡筒セット【6155】(直販価格9万100円)とほぼ同じくらいでしょうか。とはいえ、この鏡筒を眼視で使おうという人はあまりいないはずで、フラットナーやレデューサーとセットで購入するケースがほとんどかと思います。


専用フラットナー「フラットナーHD for FL55SS」は焦点距離が1.04倍に伸びますが、フルサイズ版での周辺光量が96%に達するという性能で、APS-C機ならフラット補正はほぼ必要ないかもしれません。スポットダイヤグラムや実写画像を見る限り、周辺の星像も優秀でなかなかの高性能です。

専用レデューサー「レデューサーHDキット for FL55SS」の方は上記フラットナーと同時に使用する形になっていて、ちょうど汎用の「SDレデューサーHDキット」と同じ方式です。焦点距離を0.79倍に短縮し、焦点距離237mm(F4.3)の明るい鏡筒となります。フルサイズ版での周辺光量は86%と十分に高く、星像の良さも考えあわせると、こちらもかなりの高性能と言って差し支えないかと思います。


ただ、性能の高さはそのまま価格に跳ね返ってきていて、「フラットナーHD for FL55SS」が税別36000円、「レデューサーHDキット for FL55SS」に至っては税別86000円とかなりの高額商品になっています。汎用の「SDフラットナーHDキット」(税別27000円)や「SDレデューサーHDキット」(税別56000円)と比べても高くなっていますが、このあたりは純粋に見込み出荷数の差が反映されているのではないかと思います。性能を考えればやむを得ない値段だとは思いますが、CP+の時点でレデューサーの予価が6万円前後と言っていたことも合わせ、議論を呼びそうな値付けではあります。

しかし一方で、このクラスは各社のカメラレンズに加え、FS-60CB(高橋製作所)やBORG55FL(トミーテック)などライバルも多く、中途半端なものを出しても勝算は薄いでしょうから、この判断は「アリ」だろうと思います。

ほめられない部分も

明確に「写真用」と言ってしまって良さそうなFL55SSですが、それだけに気になるところも。


最も気になるのは合焦部のチープさです。他の鏡筒と同じ機構を採用していて、微動装置の類は標準装備になっていません。以前、「BORG55FL+レデューサー7880セット」について必要なピント精度を計算したことがありましたが、この時の計算式を当てはめるとおおよそ±30μm程度の精度は必要になる計算で、微動装置なしでは追い込みはとても不可能です。価格が高くなるとはいえ、標準で何らかの手当は必要だったのではないかと思います。

また、三脚座からスライドバーに至る造形があまりに不格好。このあたりは個々人の美的感覚も関係するので一概にダメ出しもできませんが、四角いブロックを後付けしたような三脚座と、本体に比べて長大なスライドバーはお世辞にも美しいとは言えません。スライドバーについては、取り付けるカメラによって重心位置が大きく変わるので仕方ない部分はありますが、三脚座と合わせてもう少しうまく処理できなかったかと思ってしまいます。

せっかくの三脚座も、武骨な割にアルカスイス規格非対応で、残念なところです。

勝負の行方は?

ちょうど「天文リフレクションズ」さんの方でFS-60CBやBORG55FLとの比較がまとめられていますが、価格面で後塵を拝しているのは確か。一方で、性能面では相当に期待させるものがあり、公平な目で見れば他の機種を凌駕する可能性は十二分以上にあると思われます。実機によるレポートを待ちたいことろです。


……しかし、公平に見てもらえないのが現在のビクセンの苦しいところ。高橋製作所はこれまでの実績の積み重ねから、高級機を出しても文句は言われませんし、ボーグは豊富な作例に加えて、社長の中川氏が紡ぎだす「物語」が優秀ゆえ、スポットダイアグラム等がなくても性能を信じてもらいやすい土台ができているように感じます。

ところがビクセンの場合、かつての高コストパフォーマンス(性能はそこそこだけど安価で手に入れやすい)のイメージが強くて、高級機を出すと「高い!」と反発され、安価な機種を出すと「子供だましのおもちゃ」と蔑まれ……と苦労の絶えない位置に落ち込んでしまった感があります。SkyWatcherなどの中華系機材が、かつてのビクセンよろしく高コストパフォーマンスで暴れまわっているのも頭の痛いところ。

そこから脱却すべく、AXD赤道儀やVSD100F3.8鏡筒などの高級路線を積極的に推し進めてきているのだと思いますが、少なくとも自分の周りを見る限り、ブランドイメージが改善したという感覚は残念ながらありません。*1


無責任な外野の声ですが、思い切ってProとかAdvancedといった名前をつけたラインを新設して*2、入門機や普及機ときっぱり切り分けてしまった方が、「ビクセン」というブランドに染みついた「中庸な性能、低価格」という印象を拭い去ることができそうな気がします。製品開発自体も吹っ切れそうです。

*1:世代的なものもあるのかもしれませんが

*2:イメージとしては、シグマのArtシリーズとかそんな感じ。