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超新星SN 2023ixf

去る5月19日、おおぐま座の系外銀河「回転花火銀河」ことM101に超新星が発見されました。発見者は「新星ハンター」として世界的に有名な板垣公一氏で、氏にとって実に172個目の超新星発見となります。


超新星は見る見るうちに増光し、アメリカ変光星観測者協会(AAVSO)への報告によれば現在は11等程度で見えているとのこと。*1




M101は地球からおよそ7メガパーセク(約2300万光年)の位置にありますが、これほど近くで超新星爆発が見られたのは、2014年1月に同じくおおぐま座のM82で発生したSN 2014J*2以来のことです(地球までの距離:約1200万光年)。

hpn.hatenablog.com


せっかくの珍しいイベントですし、11等の明るさなら東京都心からでも容易に捉えられそうなので早く撮影したいところでしたが……東京は18日ごろからずっと雨や曇りが続き、なかなか撮影の機会が訪れません。


しかし、24日は待ちに待った快晴!月齢的にも、邪魔な月は夜半前に沈みます。WindyやSCWでは多少雲が出そうな予報でしたが、梅雨前ですし、この機を逃すと次いつ撮影できるか分からない……ということで、いつもの公園に強行出撃してきました。


到着直後は巻層雲(いわゆる薄雲)がやや厚めにかかっていて、撮影は厳しそうな感じでしたが、ほどなくして雲が取れたので撮影開始。




撮ってみると、1コマ目からあっさり超新星が写っています。周囲の星と比較してもかなりの明るさのようです。


ひとしきりM101を撮影したのち、天文薄明開始までまだ少し時間があったので、今まで撮ったことがあるようでなかった、へびつかい座球状星団M10を撮影。しかし、途中から雲が急に厚くなり始め、薄明開始前に強制終了となりました。


リザルト

撮影結果ですが、とにかくこの夜は、湿度の高さも相まって空の透明度が非常に悪く、M101自体の写りはあまり良くありませんでした。それでも超新星の存在はハッキリ分かるので、M101本体をきっちり仕上げるのは諦める代わりに、昨シーズンに撮影したM101の写真と比較してみました。



2022年4月9日, 2023年5月24日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
Gain=200, 300秒×24, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0mほかで画像処理

M101の腕の中、巨大なHII領域であるNGC5461のすぐ近くで超新星が発生したことがよく分かります。



さて、これだけでも記録としては貴重なのですが、せっかく発生した超新星ですので、その明るさをざっくりと見積もってみます。


上の写真では1コマ当たり5分の露出を与えていて、恒星像は飽和しがちになります。これでは明るさの見積もりができませんので、別途、露出を60秒に抑えたコマを確保しておきました。


これをダーク補正、フラット補正したのち現像。これを3色分解して、Gプレーンのみをマカリィに読み込みます。マカリィはFITS画像を解析することができるソフトウェアで、解析をしようと思うと何かと重宝します。*3

makalii.mtk.nao.ac.jp


なお、Gプレーンのみを使うのはV等級を意識してのこと。もっとも、カメラがカラーの上、本当のVバンドフィルターを使っているわけでもなく、さらに光害カットフィルター(LPS-D1)まで噛んでいるので、所詮「なんちゃって」ではあります(^^;


マカリィに画像を読み込んだら、超新星や光度の近い任意の恒星について「開口測光」を用い、星像部分のカウントを記録します。


同時に、ステラナビゲータで恒星の光度をチェック*4し、これと上記カウントとをプロット。近似曲線*5を求めて、ここから超新星の明るさを推定します。


結果は……ででん!(c)あぷらなーと



SN 2023ixfの明るさはおおよそ10.96等……ほぼ11等となりました。かなり荒っぽい光度の求め方ですが、AAVSOへの報告結果とも矛盾せず、案外まともな結果になりました。雑な方法とはいえ、ざっくりと光度が見積れるだけでも面白いのは確かです(^^)



ここまで来たら、絶対等級まで見積もってしまいましょう。絶対等級Mと見かけの等級mの間には以下の関係があります。


 M = m + 5 − 5 \log_{10} d


ここでdは天体までの距離(パーセク)です。


M101までの距離は約7メガパーセクSimbadより)なので、dに7000000、mに11を代入すると、絶対等級Mはおよそ-18等となります。


もしこの超新星が「Ia型超新星*6であれば、最大光度時の絶対等級は-19~-19.5等程度になるはず*7ですが、それより一段暗い数字です。


これはこの超新星が、大質量星が一生の最後に重力崩壊を起こして爆発する「II型超新星と呼ばれるタイプだからです。「Ia型超新星」はそのメカニズム上、爆発の規模はほぼ一定ですが、「II型超新星」の場合は爆発する恒星の大きさなどによって、おおよそ-17~-22等くらいまで明るさに幅があります。一般に、超新星のタイプはスペクトルから判断されるのですが、今回は絶対等級からも「Ia型ではない」ことが裏付けられた形です。*8 *9


あとは、この明るさがどのくらい続くかというのが興味深いところ。II型超新星はバラエティが大きく、最大光度に達してから単調に暗くなっていくもの、最高光度近い明るさを長期間保つものなど様々です。継続して観測すると面白いかもしれません。


おまけ

SN 2023ixfを撮影後、薄明までの合間で撮影したM10を軽く処理。



2023年5月25日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃
Gain=300, 30秒×48, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0mほかで画像処理

地球からおよそ14300光年離れた場所にある球状星団で、実際の直径は83光年ほど。カタログ上の視直径(20分角)はヘルクレス座にある北天最大の球状星団M13に匹敵し、かなり立派な姿です。雲に邪魔されて30分以下の撮影時間しか取れませんでしたが、6.6等とまずまず明るいため、東京都心からでもよく写ってくれました。また、球状星団はBlurXterminatorが良く効くので、なかなかシャープに表現できたと思います。

*1:なお、グラフを見ると分かりますが、増光途中はB等級の方がV等級より明るく、青っぽく見えていたことが分かります。ピークに達して多少時間のたった現在は、B等級とV等級にほとんど差がなく、青みはだいぶ減っているはずです。

*2:Ia型超新星

*3:ちなみに以下の操作は、計測を含めてステライメージにも「ツールバー」→「光度測定」に機能が備わっています。

*4:カタログはGSC-ACT(ガイドスターカタログ)を使用

*5:等級は対数スケールなので、近似曲線も対数曲線になります。

*6:巨星と白色矮星との連星系において、白色矮星に降り積もったガスが限界質量を超えて爆発を起こすもの

*7:星間物質等の影響を受けない場合

*8:フェイスオンの銀河なので、銀河中の星間物質による減光はほとんど考えなくて良いはず。

*9:もちろん、言えるのはせいぜいここまでで、同じ「重力崩壊型」であるIb型、Ic型、II型の区別は当然スペクトルを見ない限り不可能です。