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3度目の正直

先週の金曜日、2月17日の夜は予報ではほぼ晴れ。



Windy、SCWともに夜半頃に雲が出る予報でしたが、そう長く曇っているわけでもなさそうですし、しばらくきれいな晴れ間も望めそうもないので、いつもの公園に出撃してきました。


幸い、風もほとんどなかったので、この日は長焦点鏡のEdgeHD800を持ち出しました。メインターゲットですが、春の銀河を狙うことも考えたのですがせっかくL-Ultimateを入手したことですし、過去2回狙って玉砕している惑星状星雲Abell 33を狙うことにします。



Abell 33は、アメリカの天文学者ジョージ・エイベル(George Ogden Abell, 1927~1983)が、パロマー天文台スカイサーベイ(Palomar Observatory Sky Survey, POSS)で得られたデータを基にまとめた惑星状星雲のリストに掲載されている惑星状星雲です。うみへび座のα星アルファルドの6度ほど北に位置します。


チェコ天文学者ルボシュ・ペレク(Luboš Perek, 1919~)とルボシュ・コホーテク(Luboš Kohoutek, 1935~)がまとめた惑星状星雲のリストにも掲載されていて、PK238+34.1という名称でも知られています。


手前にあるHD 83535という7等星と絶妙な位置で重なっていて、しばしば「天空のダイヤモンドリング」に例えられる美しい天体です。

sorae.info


データの上では13~15等くらいの明るさ*1なのですが、視直径が4.5分ほどと大きく広がっているため、単位面積当たりの明るさは非常に暗いです。


過去、IDASのセミナローバンドフィルターNebulaBooster NB1を用い、デジカメや冷却CMOSで狙いましたが痕跡レベルが精一杯。青色系の光害で満ち溢れている*2都心からだと、波長500nm付近のOIIIで青緑に輝く星雲はまさに鬼門です。

hpn.hatenablog.com
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しかし、今回はL-Ultimateがあります。半値幅3nmのこのフィルターなら、どうにかできそうな気がします。もし楽々写るようなら、将来的にはおおいぬ座の「ミルクポット星雲」ことSh2-308を狙える目も出てくるでしょう……。


宵のうちはAbell 33の高度がまだ低いので、小手調べとしてうさぎ座の球状星団M79を、通常の光害カットフィルターであるLPS-D1を装着して狙います。視直径の小さい地味な天体ですが、冬の空唯一の球状星団ですし、風の穏やかなこんな日に長焦点鏡で狙いたいところです。


30分ほどたつとAbell 33が高度30度以上に昇ってきたので、フィルターをL-Ultimateに入れ替え、望遠鏡をAbell33に向けます。ナローバンドだから余裕で写るだろう……と思ったのですが、撮って出しの画像を確認してみると……




HD 83535のゴーストかな?ヽ(。_゜)ノ


ASIFitsViewで自動レベル調整してもこのありさま。それでも、撮って出しの一コマで姿がしっかり確認できるだけまだすごいのですけど(^^;


まぁ、毎度おなじみのこんな空なので、写るだけ驚異的かもしれません(苦笑)


ナローバンドだけだと星像がボロボロになるので、夜半過ぎからはフィルターを再度LPS-D1に変更して撮影。こちらは星雲が写らなくて構わないので手短に済ませます。


……と、ここまでやって時間は午前3時ごろ。天文薄明開始までまだ2時間くらいはあります。何を撮ろうか考えた結果……


久々にうみへび座の系外銀河「南の回転花火銀河」ことM83を狙ってみることに。この夜は大気の透明度が悪く、南天低い系外銀河を狙うには条件的が良くはなかった*3のですが、以前撮影したときはデジカメだったので機材的には今の方が有利でしょうし、最悪、後日赤外で撮ったときのカラーデータにでもなれば上々でしょう。


夜明け近くには国際宇宙ステーションの見事な可視パスがあったりして、なかなか楽しい夜でした。


リザルト


翌日から、撮ったものを処理していきます。


まずは、処理が比較的簡単なM79から。



2023年2月17日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -10℃, Gain=400, 露出15秒×128コマ, IDAS LPS-D1フィルター使用
オフアキシスガイダー+StarlightXpress Lodestar+PHD2によるオートガイド
PixInsight, ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

2000mmの焦点距離をもってしても、つつましやかな星団です。カタログ的にはヘルクレス座の有名な球状星団M13の半分以下の視直径しかありませんから小さいのも当然ですが、一方で地球からの距離はM13が2万5000光年、M79が4万2100光年と倍近く違うので、実際のサイズにはそれほど大きな差はなかったりします。


球状星団は銀河の中心方向に多く見られますが、このM79はそれとは全く反対の方向にあります。これは、M79が本来の銀河系のメンバーではなく、銀河系の伴銀河である「おおいぬ座矮小銀河」に属していたためと考えられています。 NGC1851(はと座)、NGC2298(とも座)、NGC2808(りゅうこつ座)といったM79の比較的近くにある球状星団も、同様の経緯だと思われます。


星団の右下を、一直線に黒い筋が横切っているのが面白いところです。



次はこの夜の本命、Abell 33ですが……



2023年2月17日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
ナローバンド:Gain=400, 300秒×48, Optolong L-Ultimateフィルター使用
カラー:Gain=200, 300秒×24, IDAS LPS-D1フィルター使用
オフアキシスガイダー+StarlightXpress Lodestar+PHD2によるオートガイド
PixInsight, ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

こうなりました。


以前の「ぶよぶよしたなにか」と比べると、格段の改善。ようやく、ある程度それらしい姿になってくれました。もっとも、本音を言えばこれでもまだ露出が足りない感じで、難易度は相当なものです。この星雲でこれだと、さらに淡い上に高度が低い「ミルクポット星雲」はちょっとやそっとじゃ無理な感じです。


ちなみに、星雲の色がかなり緑によっていますが、ASI2600MC Proの感度は、OIII付近で緑の方が青より2倍ほど高いので、多分これで合っています。ダイヤモンドリングというよりマリモっぽいのが若干アレですが……(^^;;;



最後に、おまけで撮ったM83ですが



2023年2月18日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃, Gain=200, 300秒×12, IDAS LPS-D1フィルター使用
オフアキシスガイダー+StarlightXpress Lodestar+PHD2によるオートガイド
PixInsight, ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

さすがにあの劣悪な透明度と短い撮影時間では無理がありました。銀河の腕の淡い部分は完全に光害に飲まれ、無理やり処理したらごっそり犠牲に。腕にあるHα領域は思った以上に写ってくれていますが、どうにも美しくありません。想定の範囲内の結果ですが、カラーだけで成り立たせるなら、もう数晩は必要そうな気がします。

*1:これ自体、メシエやNGCの有名どころの惑星状星雲と比べるとかなり暗いのですが。

*2:光害の主成分となりつつある白色LEDは、波長470nm付近の光成分がもっとも強力です。

*3:低さの具合は、上の写真で望遠鏡がほぼ真横に寝ているのを見れば分かるかと。