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今さら初撮影

お久しぶりです。年明け以降、天候の巡りだったり体調だったり忙しさだったりがうまくかみ合わなくて、なかなか天文関連に時間を割けなかったのですが、この週末は久々に穏やかな晴れ予報。上弦の月も夜半には沈みますし、この金曜夜、夜半過ぎにいつもの公園に出撃してきました。


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時期的には春の銀河がぼつぼつ狙い目ですが、翌土曜日は強風という予報もありましたし、Windyの予想でも強風域との境界付近で風の強さを判断しかねたことから、「対系外銀河砲」のEdgeHD800ではなくED103Sの方を持ち出しました。


狙うはM58, M89, M90のトリオ。これをED103S+SDレデューサーHDで狙う予定です。焦点距離は624mmと系外銀河を狙うには控えめですが、画角的に3つの系外銀河がきれいに収まりますし、M58やM90は視直径も比較的大きいので、それなりに見栄えがしてくれるでしょう。


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ちなみに、こうした構図決定の時に役に立つのがイメージングソフトであるN.I.N.A.の「フレーミング」機能。「NASAスカイサーベイ」などによる実際の画像を元に構図を決定できる機能で、自宅などで事前に確認しておけば、出先でもキャッシュされた画像を元に結果を再確認できます。ここから対象の導入もワンタッチで行えますし、プレートソルビングと組み合わせればより精密に構図を追い込めます。非常に便利なので、N.I.N.A.を使っているならぜひとも利用したい機能です。


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今回は、撮影時のケーブルの取り回しにちょっと工夫を加えています。以前、3mのUSB3.0ケーブルを使用して撮影したところ、ケーブルの重さ&硬さのためにカメラが引っ張られ、像が流れてしまったことがありました。そこでサンワサプライUSB3.0アクティブリピーターケーブル KB-USB-R303を導入してみました。
www.sanwa.co.jp


これを望遠鏡のピラー部分に100均で購入したゴムバンドで固定し、ここにカメラからのUSB3.0スリムケーブルを繋ぐ形です。これならカメラに余計なテンションがかかることもなく安心です。難点があるとすれば、アクティブリピーターケーブルが異様に硬い点と、ACアダプターを挿す方向が本体と直交している点、ACアダプターのケーブルが1mと短い点で、このケーブル自体の取り回しは決して良くありません。1度設置してしまえば動かすことはないので問題ないのですが、もう少しデザインは考えてほしいところです。


また、こちらは少し前からやっていたのですが、電源についてもシガーソケットをバッテリーから延長・分岐したうえ、同じく100均で購入した小物入れ&フック*1を利用してピラー付近から取れるようにしています。こちらも余分なテンションがかかることがないので快適です。*2


撮影の方は、おおむねいつも通り1コマ15分で。8コマ確保した時点でまだ3時頃だったので、天文薄明開始までの残り2時間で何か別のものを撮ろうかとも思ったのですが、他の銀河を撮るにも焦点距離が中途半端すぎるので断念。結局、明け方までそのままコマを追加して終了となりました。


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撮影途中には、並行して赤道儀化AZ-GTiにBORG55FL+レデューサー7880セットとEOS KissX5 SEO-SP3を載せてプレセぺ星団 M44を撮影。ガイド付きなら計算上は200mmも利用可能なはずですが、実際のところどんなもんでしょうか……?


リザルト


さてリザルトです。


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まずはM58, M89 & M90の「撮って出し」ですが……うむ、期待にたがわぬ(?)真っ白具合です。とはいえ、系外銀河の中心部はしっかり見えていますし、渦巻銀河のM58やM90については腕の部分も確認できます。ここまで見えていればあとは簡単。ゴニョゴニョとアレコレやって……こうじゃ!



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2021年2月20日 ED103S+SDレデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃, Gain=0, 露出900秒×16コマ, IDAS LPS-D1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0bほかで画像処理

こうしてみると、東京都心のど真ん中で撮った割に、なかなかの迫力です。また、元画像の画素数が多いのでトリミング耐性も高く、それぞれの銀河を等倍で切り出してもそれなりに見栄えがします。


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M58


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M89


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M90

また、このあたりは系外銀河の密集地帯にあるので、背景には無数の銀河が写り込んでいます。「Astrometry.net」でメシエ、NGC、ICに限って同定しただけでもご覧の通り。


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PGC(Principal Galaxies Catalog)に収載の系外銀河などまで対象を伸ばすと、さらに凄まじい数になります。こういうのを1つ1つ拾い上げて調べてみるのも楽しいものです。



そしてもう1つ。赤道儀化AZ-GTiの結果ですが、まずはガイド状況の確認から。

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露出時間は1分と短いですが、撮れた写真を確認してみるとほぼ全コマ点像になっているようです。目論見通り、APS-Cの200mmでも十分に使い物になりそうです。


そして、これらをコンポジットして仕上げた結果がこちら。


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2021年2月20日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) AZ-GTiマウント
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出60秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ノーブランドCCTVレンズ(f25mm, F1.4)+ASI120MC+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0bほかで画像処理

うむ。55FLがシャープな分、全面にわたって星がほぼ点像で、猛烈に地味です。デジタル現像時の色彩強調や「マトリックス色彩補正」で極力色情報を持ち上げましたが、どうしても限界があります。望遠レンズでの使用に向いた、効果がごく弱いソフトフィルターがあるといいのですが……。以前、広角レンズでの星野撮影で使ったPRO1D プロソフトン[A](W)では効果が強すぎます。


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お遊びとして、上の画像を加工してソフトフィルター風に処理してみる*3と、見かけが派手になってだいぶそれっぽくなりますが……ここまでやってしまうと、天体写真としてはちょっとアレな気がしなくもありません。

*1:上の写真で右側に白く写っているもの

*2:実はこちらについては、EdgeHD800を使う際、温度順応ファン「TEMPest」への電源供給をスムーズに行うのが最大の目的。TEMPestの電源ソケットは外径φ5.5mm、内径φ2.1mmのごく一般的なもの(DC2.1)なのですが、どうも国内のプラグだと微妙にサイズが合わず中途半端な接触不良に。海外製品に付いてきたケーブルだとサイズが合うのですが、こちらは長さに限りが……という理由での窮余の策です。

*3:レイヤを複製し、一方にガウスぼかし→ぼかしたレイヤに対し、レベルの自動調整→トーンカーブを調整して暗めの星のぼかしを目立たないように→彩度を下げたのち、重ね合わせのモードを「明るいところ」に→レイヤの透明度やトーンを調整