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MAK127SPの写真適性

金曜夜、曇りがちだったWindy(ECMWF)の予測に反して良く晴れたので、以前から試してみたいと思っていた計画を発動しました。

その計画というのは、Sky-Watcherの比較的安価なマクストフカセグレン「MAK127SP」で惑星状星雲を狙うことです。


MAK127SPは口径127mm、焦点距離1500mm(F11.8)のグレゴリー型マクストフカセグレン*1です。Sky-Watcherの鏡筒の中ではミドルローくらいのクラスの鏡筒ですが、価格は比較的安く4万円台で入手可能です。


詳しくは、以前レビューを書いてるのでこちらの記事をどうぞ。
urbansky.sakura.ne.jp


この鏡筒、接眼部の31.7mmアイピースアダプターの外側にはM42 P0.75のネジが切られていて、一般的なTリングを介するなどしてカメラの取付が可能ですが、F値の暗さからも分かる通り、基本的にはDSO*2の撮影に使う鏡筒ではありません。せいぜい月・惑星くらいでしょうか。


しかし、単位面積当たりの明るさが高い惑星状星雲を相手にするなら話は別。F値の暗さは大した問題になりませんし、焦点距離が長いので小さな惑星状星雲も拡大して写せます。また、光軸が狂いにくい*3上に軽くて(3.3kg)安価。これが使い物になるようなら、初心者にも福音となるでしょう。


機材のセットアップ


赤道儀として、今回は普段使いしているSXP赤道儀を使用しました。もっとも、1コマ当たりの露出時間はせいぜい数秒なので、もっと安価な赤道儀でも使い物になるはず。実際に試してはいませんが、赤道儀化AZ-GTiとかでも何とかなりそうな気はします。


カメラは、システム全体の軽量化を考えてASI533MC Proを。この目的ならより高解像度のASI183MC Proでもいいかもしれません(自分は持ってないけど)し、気温が低ければ惑星撮影用の非冷却カメラの利用もありかもしれません。


MAK127SPとの接続には、今回はBORGのパーツを使用。具体的には接眼部のM42 P0.75のネジに「M42P0.75→M57AD【7528】」を付け、この後ろに「フィルターBOXn【7519】」を、そして「M57→M36.4AD【7522】」で再度M42 P0.75のネジに戻しています。こんな面倒なことをしたのは、φ52mmのデュアルナローバンドフィルターしか持っていないため。もしφ31.7mmのフィルターを持っているなら、「T2-1.25″ Filter adapter」を利用してカメラ側にフィルターを内蔵させた上で、接眼部に直結させてしまった方がスッキリします。


1コマ当たりの露出時間が短いのでオートガイドは必ずしも必要ではありませんが、なるべく収差の少ない視野中心部を使いたいこと、また、コンポジット時の位置合わせのトラブルを避けるため、今回はオートガイドを利用しました。


MAK127SPの場合、接眼部の規格が少々特殊なのでオフアキシスガイダーは利用するのが困難です。そのため、オートガイドには外付けのガイド鏡を使うしかありません。今回は普段ガイドに使用しているペンシルボーグ25+ASI120MM(焦点距離175mm)を用いました。撮影鏡の1/9程度の焦点距離しかなく、精度的にはさすがに不足気味ですが、おおよそ同一方向に向けておくだけならこれで十分です。


実際の撮影


機材のセットアップが終わった時点で撮影に入ります。


今回は、惑星状星雲を超短時間露出・多数枚で撮影したのち、Registaxで構造を炙り出す、いわゆる「ラッキーイメージング」の手法で撮影を行います。そのためには1コマ当たりの露出時間はなるべく短くしたいところ。そこで、カメラのGainはASI533MC Proで設定できる最高値の500とし、露出時間を1~2秒程度に抑えることにします。


ピント合わせはバーティノフマスクを用いて慎重に。本機のフォーカスノブには微動装置がなく微妙な操作は難しいのですが、F値が暗くて合焦範囲が広いこともあり、マスクを使えばピント合わせは十分可能です。


この状態で、まずはりゅう座の「キャッツアイ星雲」ことNGC6543を撮影開始。輝度が高いので、わずか1秒の露出でも写るのですが、焦点距離1500mm&小フォーマットのセンサーを用いてもこのサイズ。

強調前



強調後



これは高解像度のカメラが欲しくなりますね。


そのうち、星雲が西に傾いて電線密集地帯に入ってきたので*4、640コマ確保したところでターゲットをはくちょう座の「まばたき星雲」ことNGC6826に変更し、撮影を続けます。

強調前



強調後



こちらも2秒露出でばっちり。サイズもキャッツアイ星雲よりはちょい大きいでしょうか。こちらは768コマ確保したところで撮影終了です。


なお、撮影中はわずか数十m離れたところを電車が何度も通過したので、振動の影響が心配だったのですが、システム全体が軽量なためか、振動はほとんど問題になりませんでした。EdgeHD800を持ち出すとこのあたりに気を遣うのですが、そうしたところも気軽で助かります。


リザルト


翌日、早速画像処理にかかります……とはいえ、キャッツアイ星雲が640コマ、まばたき星雲が768コマもあるので処理が大変です。


多数枚を自動で処理できる、ステライメージ9の「コンポジットパネル」はこういう時にこそ力を発揮するのでしょうけど、この枚数ともなると処理時間がそれなりにかかる上、自動位置合わせに100%の信頼が置けない以上、安心して任せることができません。


仕方がないので旧インターフェイスで現像&コンポジットを行いますが……こちらはこちらで各種バッチ処理を一度に行える枚数に制限があり、ウチの環境では370枚が限界でした。ちなみに、ステライメージ8でも同様の制限はありました。
hpn.hatenablog.com


制限される枚数は、どうやら画像の画素数などにも影響される模様*5。空きメモリは十分にあったので、単純なメモリ量の問題ではなさそうですが……。


いずれにせよ、ここで立ち止まっていては処理が進まないので、枚数を適当に等分して処理し、Registax6でウェーブレット処理をして出てきた結果がこちら。


まずはキャッツアイ星雲 NGC6543。



2022年7月22日 MAK127SP(D127mm, f1500mm) SXP赤道儀
ZWO ASI533MC Pro, 0℃, Gain=500, 露出1秒×640コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
Registax6、ステライメージVer.9.0fほかで画像処理
中央部をトリミング

ちなみにEdgeHD800で撮影したときのがこちら。



2021年6月10日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃, Gain=450, 露出2秒×320コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
ガイドなし
Registax6、ステライメージVer.9.0bほかで画像処理
中央部をトリミング

どうでしょう?焦点距離の関係で迫力がやや不足気味なのは仕方ないとしても、案外よく写ってるのではないでしょうか?しかも、EdgeHD800の方は光軸ずれの影響で星が尾を引いてしまっているのに対し、MAK127SPの方はそうしたものが見られません。


そしてまばたき星雲 NGC6826。



2022年7月23日 MAK127SP(D127mm, f1500mm) SXP赤道儀
ZWO ASI533MC Pro, 0℃, Gain=500, 露出2秒×768コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
Registax6、ステライメージVer.9.0fほかで画像処理
中央部をトリミング

こちらもEdgeHD800で撮影したときのものと比べると……



2017年8月12日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO800, 露出10秒×154コマ, OPTOLONG CLS-CCD for EOS APS-C使用
セレストロン オフアキシスガイダー+Lodestar+PHD2によるオートガイド
Registax6、ステライメージVer.7.1eほかで画像処理
中央部をトリミング

カメラや撮影条件、画像処理方法などが異なりますが、こちらも遜色ない写りと言ってしまって差し支えないような気がします。4万円台の筒でここまで写ってくれれば十分でしょう。




わずか4万円台で入手可能なMAK127SPですが、写りは想像以上です。筒先にメニスカスレンズがあるとはいえ、色収差はほとんど分からないレベルですし、その他の収差についても、周辺部で中央に向けて星が尾を引くような収差が見られますがそれほど大きなものではありません(上図)。そもそも、今回のように視直径の小さな対象を撮るのであれば、トリミングしてしまえばいいので気にする必要もありません。また、主鏡移動式の合焦装置を持つ鏡筒の場合、撮影中も重力によって徐々に主鏡が傾き、星が流れてしまう現象が起こりうる*6のですが、本機の場合は主鏡が比較的軽量なこともあり、そうした現象は見られませんでした。


今回のように明るい惑星状星雲を狙う場合、軽くて安価、性能も十分ということで、初心者でも十分に楽しめるのではないかと思います。同様に、球状星団も視直径が小さく短時間露出で写るので、こうした天体には向いていると言えます。


しかし、ならばどんな天体でも撮れるかというと、なかなかそういうわけにもいきません。まず、焦点距離が長いので視野が狭く、散光星雲や散開星団のように大きく広がる対象には不向きです。また、視直径が小さいということで系外銀河も気になるところですが、こちらはF値の暗さが障害になります。



例えば上の写真は、4分間追尾した結果を位置合わせなしにそのままコンポジットしたものですが、ガイド鏡でのガイドがほぼ完璧だったにもかかわらず、赤経方向に微妙に流れています*7。系外銀河のように淡い対象を狙う場合、ある程度の長時間露出は必要ですが、わずか4分のガイドでこれなので、きっちり星を点に止めようとするとなかなか大変です。ガイド鏡の焦点距離をもう少し伸ばすか、レスポンスの速い架台が必要になってくるでしょう。こうなってくると、初心者には少々手に余るかなという印象です。


まぁ、この程度の流れは気にしない、というのも1つの解ですが(^^;

*1:マクストフカセグレンおよびその形式については、笠井トレーディングのサイトにあったこちらの記事が詳しいです(リンク先:Internet Archive)。

*2:Deep Space Object. 星雲や星団など

*3:光軸の調整機構は主鏡のみにありますが、この口径だと主鏡は比較的軽いので、よほど強い衝撃を加えない限りまず狂いません。

*4:キャッツアイ星雲自体は視直径が小さいので電線の隙間から十分撮れるのだけど、ガイドの方が視野に電線が入ってくると乱れる。

*5:ステライメージ8で、今回のASI533MC Proの画像を読み込んでみましたが、369枚で限界が来ました。EOS KissX5の画像では259枚で限界が来たので、直接的ではないにせよメモリ周りに原因がありそうな気がします。

*6:EdgeHD800に主鏡を固定する「ミラークラッチ」がついている理由の1つがこれ。それでもなお主鏡の傾きを抑えきれません。

*7:おそらく、赤道儀のピリオディックモーションと、それを補正するガイドの動きに起因。