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GW前半は「荒れ模様」

世の中、コロナ禍のせいで何かと暗くなりがちですが、こういう時こそ「ご近所遠征」が力を発揮するとき。いくら単独行とはいえ、遠くに遠征というのはさすがにマズいですが、徒歩で行けるご近所圏内ならあまり心配なし。というわけで、まずは先週末、久々に快晴ということでいつもの公園に出撃しました*1


この日は天気こそいいものの、終始強めの風が吹いていました。そこで、焦点距離は欲張らず、ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(f = 624 mm)とミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(f = 200 mm)を持ち出すことにしました。序盤は系外銀河の集団を、夜半過ぎからは昨年来の課題であるアンタレス周辺を狙うつもりです。


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まず最初は、しし座の腹側にあるM95, M96, M105のトリオを狙うことにします。この領域は7年前に撮りましたが、当然のことながら、当時とは撮影方法も画像処理方法も違うので、どこまで表現することができるか楽しみです。
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一方で、光害の主因は水銀灯や蛍光灯からLEDに移っているでしょうし、撮影した季節も違う(以前は2月)のはマイナス要因です。このあたりがどう出るでしょうか?


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撮って出しを見てみると、案の定真っ白。この日は風が強かったので、大気中のチリが吹き飛ばされることを期待してたのですが、やはり冬とは違ってそううまくは行きません。


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2020年4月25日 ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出1200秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

これを仕上げてみたのがこちら。一応、それぞれの銀河は確認できます……が、個人的にはもう少しきれいに写ってほしいところ。仕上がりとしては7年前と大差なく、正直、期待外れの結果です。やはり、上で書いたマイナス要因が大きく効いていそうな気がします。



夜半頃からは、アンタレス周辺の撮影に移ります。


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昨年撮影にチャレンジした時、街灯からの迷光に悩まされたので、南に低い対象を撮る際には上の写真のような遮光システムを使っています……というほど立派なものではなく、自在クリップを介して植毛紙を貼ったスチロール板を三脚に取り付けただけのものです。それでも、街灯からの直射光はしっかり遮れるので、実用上は十分です。


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ところが、この日は上にも書いたように風が強く、スチロール板がひらひらと煽られて全く役に立ちません。仕方がないので、上のように有りものの厚布(三脚カバーを展開したもの)をかぶせて遮光できる面積を増やすとともに、重さを増して煽られにくくしたのですが……風は強くなる一方で*2、ついには三脚ごと吹き飛ばされてこちらに倒れてくる始末。直そうと思って席を立てば、今度は椅子が吹き飛ばされ……。これではとても撮影どころではありません。やむなく撤収と相成りました。


どんなに空が晴れていても、風が強いと撮影にならないという一例でした orz




次いで29日の昭和の日。この日も朝から雲1つない快晴でした。風も穏やかで、25日夜に強風で撮り損ねたアンタレス周辺のリベンジのチャンス……というところでしたが、大気中にチリや水蒸気が多いようで、青空が明らかに白っぽいです。


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Windyの予報を見ても、PM2.5の濃度はそれなりに高そうで、大気の透明度にはあまり期待できません。


そこで予定変更。夜半頃の月没を待って、久々にへび座の「わし星雲」ことM16を狙うことにしました。


M16を撮るのはおよそ4年ぶり。フィルター以外、機材は当時と全く同じですが、撮り方等は当時から変化しています。先のM95, M96, M105では、最終的な画像が7年前からあまり変化がありませんでしたが、こちらはどうでしょうか?
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この夜は予想通り大気の透明度が最悪で、さそり座で見えるのはアンタレス(1.1等)とジュバ(2.3等)のみ。はくちょう座もデネブ(1.3等)とサドル(2.3等)しか見えないというありさまでした。おそらく最微等級は、天頂付近でも良くて2.5等くらいしかなかったのではないかと思います。高度が下がると空は猛烈に明るくなり、沈みかけの北斗七星など、升の部分を構成するドウベ(1.8等)、メラク(2.3等)、フェクダ(2.4等)でさえほとんど見えなくなってしまいます。こんな状態で無理にアンタレス周辺なんかを狙わなくてよかったです。


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とにかく透明度が悪くて光害の影響も非常に大きいため、NB1フィルターを使っているにもかかわらず、撮って出しの状態でこの白さ。都心といえども、ここまで酷い空はあまり記憶にありません。こんな状態で果たして4年前を超えられるのでしょうか……?


天文薄明に食い込みながらも必要枚数を確保*3後、フラット補正、コンポジットを施して……出てきた結果がこちら。


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2020年4月30日 ミニボーグ60ED+レデューサー 0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出900秒×8コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

うん、あの酷い空で撮ったにしては上出来じゃないでしょうか?ある程度淡いところまで、どうにか抽出できました。4年前と比較すると、使っているフィルターが違うとはいえ差は大きく、撮り方含めてさすがに進歩はしたかなと思います。


なお、左下には楕円形の星雲、Sh2-48が見えています。また、M16のすぐ右上には散開星団が見えていますが、これにはTr 32(Trumpler 32)というカタログナンバーが振られています。天体カタログについては、こちらの過去記事も参照ください。
hpn.hatenablog.com



冒頭でも書きましたが、外出自粛の雰囲気の中、街なかの自宅近くで天体撮影する方も徐々に増えているようです。個人的には嬉しい限りで、対象さえ選べば、ちょっとした工夫とテクニック次第で遠征先で撮るのにも負けないような写真を撮ることができるのだ、ということを、この機会にもっと広く知ってもらえればと思います。


フードの迷光処理


昨年アンタレス周辺を撮影した際、街灯からの直射光が悪さをしていたのは記事にも書いた通りですが、この迷光のパターンをよく見るとうっすら縞模様になっています(下図)。ミニボーグのフードの内側には、迷光防止のために同心円状に細かい溝が切られているのですが、どうもここで反射した光が迷光となっていたようです。


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フードからの迷光(白矢印の部分)


今まで作業が面倒そうでほったらかしにしていたのですが、ここは一念発起。フードの内側に植毛紙を貼ることにしました。とはいえ、両面テープなどを使って直接フードに植毛紙を貼り込むと、失敗した時が面倒ですし、剥がすと糊が残ってしまうだろうところも嫌な感じです。そこでひと工夫。手元のクリアファイルを利用して、以下のように植毛紙をセットしました。


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これならやり直しは何度でもできますし、フードにもダメージが残りません。この方法でミニボーグ55FLと同60EDのフードを処理しました。


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作業前後を比較してみると、植毛紙を貼った方が明らかに反射光が減っていて、一応の効果はあるようです。


なお、ここで使った植毛紙は東急ハンズで「パイロンロール」という名前で売っているもので、1091mm幅×1mで税別800円という安さです。裏面に糊などはついていませんが、望遠鏡専門店等で植毛紙を買うよりずっと安上がり。今まであちこちで使ってますが不満らしい不満もなく、お勧めです。

*1:案の定というかなんというか、この日も29日も、行き帰りを含めた全工程で、人っ子ひとり出会いませんでした。

*2:おそらく、瞬間的には10m/s近く行っていたのではないかと思います。

*3:天文薄明開始後に撮ったコマが、一番背景が暗かったのはここだけの内緒。多分、高度が上がって光害の影響が軽減されたせい。