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超新星 SN 2024gy

先週金曜の夜は色々な実験も行っていましたが、もちろん本命の撮影も行っています。本当の本命はまだ処理中ですが、もう1つは処理が終わりました。


おとめ座の系外銀河NGC 4216に出現した超新星 SN2024gyです。


このSN 2024gyは今年1月4日、板垣公一氏が発見した通算177個目の超新星*1で、その後の分光観測でIa型超新星*2であることが明らかになりました。


この日は本命の天体を撮影後、天文薄明開始まであと2時間ほどというところで望遠鏡をおとめ座方向に向けました。2時間あれば、系外銀河もまずまずよく写ってくれるはずです。


ところが。WindyやSCWの予想ではこの夜は終始快晴ということだったのですが……撮影し始めて1時間経つか経たないかで雲が一気に増えてきました。その後も雲は一向に取れる気配がなく、天文薄明開始まで1時間ほどを残して、あえなく撤収となりました。正味1時間ほどしか露出を稼げなかったので、果たしてまともに写っているのかどうか……。


ちなみに、機材を撤収した途端に再び快晴になったあたりは「お約束」です(^^;



撮影した画像については、常法どおりダーク引き、フラット補正を行い、ストレッチして……はい、ドンッ!




2024年1月13日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain100, 300秒×11, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0n、PixInsightほかで画像処理

緑色の印で示したのがSN 2024gyです。超新星のあるNGC 4216の銀河核にも匹敵しそうな明るさで、これがただ1つの星から放たれた光だと考えると、とんでもない明るさです。


ちなみに、NGC 4216は「おとめ座銀河団」の中にあるため、周辺には無数の銀河が写りこんでいます。軽く注釈を入れただけでもこの有様です(^^;




さて、ここまで来るとSN 2024gyの明るさを見積もってみたいというもの。昨年春にM101に出現したSN 2023ixfの光度を見積もったのと同じ方法で計測してみます。
hpn.hatenablog.com


ストレッチ前の画像からGチャンネルのみを抜き出し、画面中心付近かつ超新星と同程度の明るさの星を見繕って「カウント数-等級」間の関係を求めたのち、超新星に対して等級を逆算してみると……




SN 2024gyの明るさは約13等となりました。各所での報告を見ていると、おおよそ正しい値のようです。


そこで次に、これを元に超新星の絶対光度を求めてみます。NGC 4216までの距離はおよそ17メガパーセクSimbadのデータより)なので、ここから計算すると絶対光度は約-18等となります*3。ところが、Ia型超新星のピーク時の絶対光度は一般に-19等~-19.5等程度であることが知られており、それより1等以上も暗いことになります。


まだ増光のピークを迎えていないのか*4超新星の「個性」なのか*5、星間物質などのせいで減光しているのか、はたまたNGC 4216までの距離推定がそもそも間違っているのか*6……興味深いところではあります。

*1:なお板垣氏は、1月12日には早くも今年2つ目の超新星SN 2024wsをきりん座のNGC 2550Aで発見しています。どういうことなの……。

*2:元は赤色巨星白色矮星の連星で、赤色巨星からのガスが白色矮星上に限界を超えて降り積もった結果、破局的な核融合の暴走を引き起こす現象。絶対光度がどれもほぼ同じという特徴がある。

*3:計算方法は上記の超新星SN 2023ixfの記事参照。

*4:日本変光星研究会のサイトに観測データが上がっていましたが、1/7~15までで5点しか測定データがなく、これだけでは何とも言えません。

*5:同じIa型超新星でも明るさのバラツキがないわけではありませんし、中には著しく暗い場合もあるようです。 www.astroarts.co.jp

*6:もっとも、超新星の絶対光度が-19等になるためには、NGC 4216までの距離が27メガパーセクほどもなければダメなので、距離測定のズレがメインの理由ではなさそうです。

ブラックミスト プロテクター試写

前回の続き、金曜日にやった実験の2つ目です。
hpn.hatenablog.com


散開星団の撮影は、「撮りやすさ」の割にきれいに仕上げるのが難しいもの。というのも、特に最近の高性能鏡筒だと星の光がきれいに1点に収束するため星像に色がつかず、ただの「白い点」がパラパラと散らばっているだけの恐ろしく地味な写真になってしまいがちなのです*1


ここを補うのが、光を適度に散らす「ソフトフィルター」の存在で、うまく使えば味気ない散開星団の写真が一気に華やかになります。その効果は過去に何度か示しています。
hpn.hatenablog.com
hpn.hatenablog.com
hpn.hatenablog.com


ただ、ソフトフィルターの効果は焦点距離が長くなるほど強くなるため、特に望遠鏡に取り付けて使うことを考えると、かなり弱めのソフトフィルターが必要になります。今、手元にあるソフトフィルターで効果が最も弱いのは「プロソフトン クリア」ですが、これだと焦点距離200~300mm@APS-Cくらいなら適正なものの、例えばED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(焦点距離624mm)と組み合わせると、効果がやや過剰なきらいがあります。
www.kenko-tokina.co.jp


そこで、もっと効果の弱いフィルターとして目を付けたのが、昨年発売された「ブラックミスト プロテクター」です。
www.kenko-tokina.co.jp




このフィルターは「ブラックミスト No.5」のさらに1/2の効果ということで、ソフト効果は極めて控えめ。ここまで効果が弱ければ、上記のような超望遠域でも使い物になるかもしれません。


そこで、これを購入して望遠鏡に取り付け、さっそくテストしてみることにしました。


対象はペルセウス座のM34。先月、「プロソフトン クリア」を用いて撮影したばかりの対象なので、効果を比較するにはうってつけでしょう。撮影条件は、フィルターを除いて前回と全く同じにしてあります。


こうして撮影した画像に対し、全く同じようにダーク引き、フラット補正、ストレッチを行って*2出てきた結果がこちら。




結果は一目瞭然で……ものすごく地味な画像が出来上がりました!orz


実は「ブラックミスト プロテクター」も、元画像を拡大してよーく見ると効果がまったくないわけではなさそうなのですが、ソフト効果が控えめに過ぎます。もっと強烈に明るい星が対象なら結果も違うのかもしれませんが、少なくとも普通の散開星団を撮る上では、ほぼ役に立たないと言ってしまって良さそうです。



……
…………
………………で、どうしよう、これ? (´・ω・`)

*1:昔の銀塩写真と異なり、デジタル機材ではイラジエーション(フィルムの乳剤層で光が拡散し、光源の周りに「光のにじみ」が発生する現象)が起こらないというのも大きいです。

*2:それ以外の色彩強調処理などは行っていません。

SQM値を測ってみた Ver. 2024

先の金曜日は、WindyでもSCWでも終日快晴の予想。ちょうど新月と重なって絶好の撮影日和だったので、いつもの公園に出撃してきました。


ところでこの日、西の低空にやや緑がかった青白い雲がたなびいているのを目撃しています。「夜光雲」っぽいちょっと妙な雲だな?とは思ったもののスルーしてしまったのですが……この日は種子島からH2Aロケット48号機が午後1時44分に打ち上げられていて、どうやらその痕跡が夜光雲として見えていたようなのです。打ち上げから数時間経っている上に、まさか東京から見えるとは思わず全くのノーマークだったのですが……実に惜しいことをしました。


閑話休題


もちろんこの日は本命の撮影も計画していたのですが……その前にいくつか実験したいことがありました。その1つがSQM値の測定です。


SQMというのはUnihedron社製の測光装置「Sky Quality Meter」のことで、夜空の明るさを「1平方秒あたりの等級」で表示することができます。ここから転じて「夜空1平方秒あたりの等級」のことを「SQM値」と言ったりします。


冷却カメラを用いての測定については、過去にも行っています。

hpn.hatenablog.com


が、以前のは撮影の有無とは関係ない単発のもの。実際に撮影を行う際の空の状態がどんなものなのか、という意味で改めて興味がわいてきたというわけです。ちょうど光害のスペクトルを見てみた直後でもありますし……。

hpn.hatenablog.com


方法自体は簡単で、露出時間を変えて撮影したフレームから空のカウント数を求め、同時に写りこんでいる任意の標準星の明るさをもとに、実際の「空の明るさ」(等級/平方秒)を求めるというものです。詳しくは、だいこもん (id:snct-astro)氏のこちらの記事をご覧ください。

snct-astro.hatenadiary.jp


データの取得


  • 使用カメラ:ASI2600MC Pro(ピクセルサイズ3.76μm)
  • 露光時間:1, 2, 4, 6, 8, 10秒
  • Gain  :100
  • 露光時刻:2024年1月12日 19:17(日没の2時間28分後)
  • 冷却温度:-20℃
  • 撮影領域:天頂付近


カメラがカラーの上、測光用のフィルター*1を用いているわけでもないので厳密には正確とも言い難いのですが、あくまで簡易測定なのでそこは勘弁ねがいます。一応、この方法で出てくる結果についてはそう突拍子もないものではなく、それなりの妥当性はあるのかなと思っています。


カメラはED103S(スペーサー交換済み)+SDフラットナーHD+レデューサーHD(焦点距離624mm)に接続し、ガイドしながら撮影。ピントはややボカして星像が飽和しないように注意しています。


データの解析



データの解析方法については、上述のブログ記事そのままです。計測対象の星は、写真中心付近にあって周辺減光の影響をほとんど受けていないと思われるGSC 02334-00203(8.05等*2)を用いました。


まず、夜空のカウントがこちら。


この近似直線の傾きから、夜空の明るさは

 L_{sky} = 49.19 [counts/(pixel \cdot s)]

となります。ただ、この値はピクセル当たりの明るさになっているので、平方秒あたりの明るさに変換します。


1ピクセルが見込む角度は

 θ_{pixel} = 3600 \times 2 \arctan \frac {SensorPixelSize}{2 \times FocalLength} = 3600 \times 2 \arctan \frac {0.00376}{2 \times 624} = 1.24 (秒角)

なので、

 L_{sky} ′ = 49.19 / 1.24^2 = 31.84 [counts/(秒角^2 \cdot s)]


一方、GSC 02334-00203のカウントがこちら。


この近似直線の傾きから、星の明るさは

 L_{star} = 95651 [counts / s]


となり、これらの値からSQM値は約16.7等と計算されます。


他の星を使ったり、Gチャンネルのみで計算してみたりもしましたが、どれもおおむね同程度の値になりました。


昨年冬の、環境省による「デジタルカメラによる夜空の明るさ調査」の結果を見ると、文京区や中野区で16.5~16.8等程度の値となっているので、数字としてはまずまず妥当な感じです。

www.env.go.jp


「夜空の明るさ」の数値と実際の星空の見え方との関係は、諸説あって何とも言えない部分はあるのですが……

例えば環境省などでも使われているこの図によれば、SQM値16.7等というのは、天頂付近でギリギリ3等星が見えるかどうかといったところ。ただ、実際には周辺の灯火の影響もあってか、もう0.5等ほど厳しくなるような感触があります*3 *4。ちなみに、一般に天体写真の撮影適地と呼ばれるようなところだと、SQM値は21とかなので50倍ほども明るいことになります。


まぁ、快晴の真冬でこれなので、どう見ても酷い空なのは間違いないですね ┐('~`;)┌

*1:例:https://kokusai-kohki.shop-pro.jp/?pid=124908641

*2:ガイドスターカタログ(GSC)の数値による。

*3:周囲が明るいので、暗順応が解除されてしまいがちなのも大きそうです。

*4:それこそ、LEDの影響増大による光害の青色化の影響もあるのかもしれません。