以前、回折格子と手元にあった廃材とで簡易分光計を製作し、光害のスペクトルを撮影してみたことがありました。
この時は、意外と蛍光灯由来の光害がまだまだ残っていて、伝統的ないわゆる「光害カットフィルター」はまだあった方が良さそう、という結論になりました。
この撮影を行ったのは2021年春のこと。あれから3年近くたち、自宅の周りでも街灯などのLEDへの置き換えはますます進んできました。水俣条約との絡みで2027年末には蛍光灯の製造が禁止されることも決まっていますし、現時点での光害の具合を見ておいても損はないでしょう。
幸い、2021年に使ったゴミ簡易分光計は残っていますので、これを用いて撮影してみます。
方法は当時と同じで、分光計を取り付けたコンデジ(PowerShot S120)を天頂方向に向けて撮影するだけ。撮影条件は「絞り開放(F1.8), ISO 80, 露出時間250秒(設定可能な最大値)」としています。これも2021年の時と同じです。
撮影後、レベル調整とノイズ除去処理を施して出てきた結果がこちら。
![](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/h/hp2/20240109/20240109144726.jpg)
同じデータを処理したはずなのに、以前と比べて2021年のスペクトルが汚いですが、元々のデータがノイズまみれ*1の上、同じ条件で処理したらどうしてもこれ以上キレイにならなかったので勘弁してください(^^;
まず、主な光害源となりうる蛍光灯とLEDのスペクトルについて。
蛍光灯はいわゆる「昼白色」のもので、街灯にもよく使われているものです。水銀由来の波長435.8nm(青)、546.1nm(緑)、蛍光物質由来と思われる波長610nm付近(赤)の強い輝線に加え、演色性を改善するために波長490nm付近(水色)、580~590nm付近(オレンジ)にもやや弱い輝線が見られます。
一方の白色LEDは近所の街灯のもので、エネルギーの高い青色LEDの光を使って蛍光物質を光らせる、という白色LEDとしては典型的なものです。波長460nm付近の青色に比較的鋭く大きなピークがあり、より長波長側に蛍光物質由来の幅広いなだらかなピークがあるという特性です。このLEDの光は、見て分かる通り「連続スペクトル」で、特定の波長の光のみを発する蛍光灯(輝線スペクトル)などとは全く異なります。
その上で光害のスペクトルを見てみると、2021年、2024年とも「LEDと蛍光灯(or 水銀灯, メタルハライドランプ)の混合」であることは間違いないのですが、2024年の方は水銀に特徴的な波長546.1nmの輝線がLEDの光害に比べて明らかに弱くなっています。*2
また、気のせいかもしれませんが、2024年の方が、青色LED由来の波長460nm付近の光強度が強くなっているように思えます*3。先日、光害について広く発信しておられる平松正顕氏がこんなツイートをされていましたが、これとも関係するかもしれません。
岡山・美星天文台で2006年から2023年まで空の明るさの変化を測定した論文。空の明るさそのものはあまり変わっていないけれど、波長450nmあたりの青色LEDの成分が徐々に明るくなってきている。照明器具が変わってきていることの証左。 https://t.co/Cd34YFB178
— Masaaki Hiramatsu / 平松正顕 (@parsonii) December 21, 2023
ともあれ、蛍光灯による光害が、緩やかに消滅に向かっているのは間違いないようです。今はまだ水銀の輝線も残っているので、「光害カットフィルター」をつける意味はあるとは思いますが、重要度は相当下がってきたように思います。2027年に蛍光灯が製造禁止となることを考えると、2030年頃には完全にお役御免でしょうか……?
一方、LEDによる光害……特に青い光の成分が増えていそうなのは気になるところ。波長の短い青色光は散乱されやすい*4ので空が明るくなり、天体の見え方には間違いなく悪影響です。連続光で輝く系外銀河や反射星雲、彗星のダストの尾などは、眼視でも写真でもますます捉えづらくなってくるでしょう。照明は、なんでもかんでも明るくガンガン光っていればいいというものではないと思うのですが……。
※ おやくそく
本記事はあくまで、素人のHIROPONが廃材を使って作成した簡素な分光計で撮影した結果であって、結果の正しさを保証するものではありません。画像処理(デジカメの内部処理含む)によるアーティファクトなどが紛れ込んでいる可能性も十分にあるので、その点は割り引いてください。