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部分日食

1月6日は2016年3月9日以来、久しぶりの部分日食。ちょうど冬型の気圧配置が強まる時期ですし天気は安泰……と思いきや、年明け以降の天気予報ではかなり微妙な情勢になってきていました。


不思議なことに、日食や月食といった天文現象にはこのところ天気に嫌われることが多く、天文趣味に復帰して以降のイベントをざっと思い返しただけでも

  • 2011年12月10日 皆既月食:〇晴れ。
  • 2012年5月21日 金環日食:△曇り。雲越しにどうにか観測可能。
  • 2012年6月4日 部分月食:×曇り
  • 2014年10月10日 皆既月食:△~×曇りのち雨。欠け始めだけ観測可能。
  • 2015年4月4日 皆既月食:×曇り
  • 2016年3月9日 部分日食:×雨
  • 2017年8月8日 部分月食:×曇り時々雨
  • 2018年1月31日 皆既月食:〇~△晴れのち曇り。最終盤は薄雲越しの観測。

……と、完全に晴天に恵まれたのは1回のみ。薄雲越しのもカウントに入れればだいぶマシですが、なかなかひどい勝率です。


さて、今回は高度の低い冬の太陽が相手のため、住宅が密集した自宅付近では観測ができません。そこで、いつも星撮りに使っている公園まで出かけていくことにしていたのですが……TVや新聞の天気予報にせよGPVやWindyなどの予測にせよ、揃いも揃って曇りの予報になっていて出かけるのがためらわれます。

昼間の観測になるので、可能であれば北極星がみえる夜明け前に赤道儀のセッティングを終えるつもりだったのですが、前夜はずっとベタ曇りで、かなり諦めモードに入っていました。


ところが、夜明け頃になると急に雲が晴れてきて、窓の外には金星が見えています。そこで慌てて機材を台車に積み込み、公園に出撃しました。

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到着したら機材を展開。場所が公園なので、見に来る人もいるだろうと予想して複数の観測機材を用意しました。内訳は左から

  • K-5IIs + DA17-70mmF4AL[IF]SDM(日食の全経過撮影用)
  • ミニボーグ60ED(SXP赤道儀に同架。観望用)
  • ED103S + SDフラットナーHD(SXP赤道儀に同架。撮影専用)
  • ミニボーグ45ED II(K型経緯台に搭載。観望用)
  • 10x42HG L DCF(観望用)

の計5台で、これに加えてアストロソーラーフィルターを挟み込んで自作した日食グラスも用意しました。

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ところが、機材を展開し終わる頃には太陽は再び雲の中。しばらくは待ちぼうけです。


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2019年1月6日8時44分56秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO100, 露出1/100秒


それでも、欠け始めのころには薄雲越しに太陽を捉えることができました。


しかし、雲がしばしば太陽を遮り撮影を邪魔します。K-5IIsでの経過撮影はこの時点で完全に断念。その後も晴れたり曇ったりで、全く撮影条件が安定しません。雲のかかり具合でシャッター速度が数十倍の単位で変化するので、忙しいと言ったらないです。

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それでも、食の最大に向けて徐々に雲の切れ間が増えてきました。この頃には公園にも人が増えてきて、「見せてください」という人も出てきました。

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そして食の最大の直前、ほぼ雲が取れて日差しが降り注ぎます。予報から考えたら奇跡的な巡りあわせです。



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2019年1月6日10時5分15秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO100, 露出1/500秒


というわけで、無事、食の最大付近の写真をゲット。月の縁を見ると、月の地形を反映した凹凸が見て取れます。案外地形が分かるものですね。


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この直後、雲は再び厚くなります。今度こそ雲が晴れそうな気配はありませんので、ここでお開きとなりました。まさに日食の進行を予見したかのような天気の移り変わりでした。


ちなみに、最終的に見に来た人は数人レベルで、道端で観測していた昨年の月食ほどには人は集まりませんでしたが、それでも見に来た人には貴重な体験をさせてあげられたのではないかと思います。

新年初撮り

みなさま、新年あけましておめでとうございます。


この年末年始は、休みに入ったとたんに母の介護がどっと圧し掛かってきて、とても「今年の振り返り」などをやってる余裕はなかった*1のですが、どうにか3日の夜は時間が取れそうだったので、いつもの近所の公園に行ってきました。

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「前半戦」の狙いは、いっかくじゅう座~おおいぬ座の境界付近に位置する「かもめ星雲(わし星雲)」。ここは2年前にミニボーグ45ED II+レデューサー0.85×DG(焦点距離285mm, F6.3)で狙っていますが、想像以上の淡さであぶり出しに恐ろしく苦労した記憶しかありません。

hpn.hatenablog.com


しかも、焦点距離の短さ=視野の広さを期待して45ED IIを投入したものの、カタログ上の焦点距離(325mm)と実際の焦点距離(335mm)に食い違いがあり、ミニボーグ60ED(焦点距離350mm)を使った場合と大差ない&より暗いというオマケつき。そこで、ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(焦点距離298mm, F5)で撮り直しというわけです。


前回はISO200, 600秒×16コマという条件でしたが、今回はISO100, 900秒×8コマで狙います。総露出時間では劣りますが、1コマ当たりの露出時間が伸びている分、淡いところの表現力は勝っているはずです。


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一連の撮影が終わったら、鏡筒をED103Sに交換してM81 & M82を狙います。これは前回のリベンジ。先日はバランスウェイトがトラブルを起こしたせいで、ガイドがめちゃくちゃになってしまいましたが、今回はバランスウェイトも固定ネジがしっかり締まるよう改良しましたし、大丈夫なはずです。

実際、ガイドは順調で、今回は1コマ当たり20分の露出を与えていますが、大きく流れるような事態は避けられました。


なお、この夜はしぶんぎ座流星群の極大日。撮影中は天頂付近をぼーっと眺めていたのですが、かなり明るい流星を数個目にすることが出来ました。この流星群は出現ピークが鋭く、極大時刻の前後数時間しか見られないこと、そして極大時刻が日本時間の4日午前11時ごろと予報されていたことからあまり期待していなかったのですが、思った以上によく飛んだ印象です。空の暗いところであれば「1時間当たり30個程度」という予測は十分に達成したのではないかと思います。


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夜明けごろには、虹色に染まった東の空に金星、木星、月が並んだ美しい光景が見られました。ちょっとしたご褒美といったところでしょうか。



機材を撤収して帰宅、睡眠後、さっそく画像処理に取り掛かります。まずは「かもめ星雲」から。撮った画像を開いてみると……


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ええ、ええ。分かっていましたとも(T_T)


案の定というかなんというか、淡くて姿がほとんど見えません。かろうじて見えるのは南端のSh2-297のみ。淡さとしてはカシオペヤ座のハート星雲 IC1805 & 胎児星雲 IC1848ケフェウス座のIC1394ぎょしゃ座の勾玉星雲 IC210あたりとどっこいどっこいといった感じでしょうか。IC天体はどれもこれも、都心で撮るには淡すぎて困ります。


それでも画像処理を進めた結果、出てきた結果がこちら。


かもめ星雲(わし星雲) IC2177
2019年1月4日 ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出900秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

前回撮影時に比べると、比較的容易に*2翼を広げた「かもめ」の姿が浮き上がってきてくれました。今回はフラットが割とよく決まってくれたこともあり、視野全体をほぼフルに使うことが出来ています。南側の翼の折れ曲がり部分の西側(写真右側)にあるSh2-293やSh2-295も見えていますし、都心からデジカメで撮ったにしてはまずまずうまくいった方ではないかと思います。

この冬、さらに時間があればHαでも狙ってみたいところです。



次いで、M81 & M82を処理。この処理をしたのは日食のある日の明け方になります。日食を前に空の具合が気になって眠れなかったので……(^^;


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1コマ当たり20分も露出をかけただけに、撮って出しでも2つの銀河の存在がハッキリわかります。ちょっと強調しただけでもM81の腕が確認できますし、期待できそうです。

また、今回はガイドの流れもなし。ネジ部分を改良したバランスウェイトがちゃんと働いてくれたおかげです。逆に言うと、バランスが狂っただけでガイドに露骨に悪影響が出るので、特に長時間露出を狙う場合はキッチリとバランスを取るべきでしょう。

そして、これらをコンポジット処理してあれこれ強調処理等を行った結果がこちら。


M81 & M82
2019年1月4日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出1200秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

M81は姿こそいいものの、腕が淡くて存外苦労するのですが、今回は前述のとおり最初から腕が見えていましたので、あまり極端な強調処理をせずに済みました。昔撮ったものでも腕を抽出できてはいたのですが、かなり無理をしたせいで画像が荒れてしまっています。それに比べればだいぶきれいになったかと思います。

また、M82の方は中心部から噴き出すジェットもわずかながら見えています。これも、機会があればHαで撮ったものを重ねてみたいところです。


ちなみに、暗い空で丁寧に撮られた写真を見ると、この領域には極めて淡い分子雲が広がっています。しかし、さすがに東京都心からこの程度の撮影条件では抽出は無理。もし捉えようとしたら一体どのくらいの露出が必要になるのか、見当もつきません。

*1:家族全員の食事を朝昼晩と準備してるだけでも、ものすごい勢いで時間が溶けていきますorz

*2:あくまで比較論です。

SX系バランスウェイトの改良

先のエントリではウェイトの固定力不足に泣かされたわけですが、原因が寒くてネジをしっかり締め込めなかったことにあるのは明らか。つまり、しっかり締め込めるネジに交換すればもうこんなことは起こらないはずです。

というわけで、まずは現状を確認することにしました。


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SX系で用いられているバランスウェイトです。黒いヘッドのついた固定ネジが見えています。このヘッド、直径36mm程度の樹脂製で、側面にペットボトルのフタのような刻みがついています。この溝が締め込み時のグリップ力を発生させることになるわけですが、ヘッド自体が小ぶりのために指先でつまんで回さざるを得ず、力をこめにくい構造になっています。

このネジを、例えばより大きめのスターノブがついたものに交換すれば、格段に締め込みやすくなるはずです。


そこで、規格を確認するためにネジを引き抜いてみたのですが……

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思いのほか面倒な構造になっていましたorz

ネジが切られているのは根本付近の1cmほどで、その先はただの丸棒になっています。丸棒部分の長さは約2.4cm。さすがにこんな格好のネジは普通には売っていません。


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ウェイト本体の方を見ると、ネジの丸棒部分が入る箇所にはネジ山が切られていません。例えば全長にネジが切られているようなものを差し込もうとしても、おそらくこの部分を通過できないでしょう。

力技としては、やすりで該当する箇所のネジを削ってしまうという手もなくはないですが、さすがに労力がバカにならないうえに、そもそも工具が手元にありません。


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そこで、発想の転換。1パーツで完全再現するのは諦めて、「ネジ」と「丸棒」の2つのパーツに分割することにします。丸棒をネジでシャフトに押さえつけて固定する形です。シャフト側の穴が解放されているので、一見丸棒が落ちてしまいそうに感じますが、ウェイトシャフトが通る穴の直径は20mmなので、丸棒の長さがそれより長ければ脱落の心配はありません。


本来のパーツの寸法を取ってみると、ネジの規格はM6、丸棒部分の直径は4mmということが分かりました。そこで、これに合わせてパーツをホームセンターで調達することにしました。

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そして揃った面々。ステンレスのM6、長さ20mmの六角ボルト、スターノブ、φ4mm・長さ25mmのステンレス丸棒です。


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まずは丸棒をウェイトのネジ穴に入れ……


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スターノブを取り付けた六角ボルトを取り付けて完成。作業としてはたったこれだけです。


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スターノブは従来のノブと比べるとずっと大きく、しっかりしています。これなら、寒さで多少手がかじかんだところでキッチリと締め込むことができそうです。