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ウィルタネン彗星ふたたび & ちょっとした失敗

先週末、15日の夜は休日と快晴がうまい具合に重なってくれたので、いつもの公園に出撃してきました。


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最大のターゲットは、前回短時間露出で撮影していたウィルタネン彗星。淡いながらも尾が見えるような報告が上がってましたので、長時間露出でこれを狙います。また、ふたご座流星群の極大日翌日ということで、群流星の残党でも捉えられるかもしれないと思い、K-5IIs+DA 17-70mmF4AL[IF] SDMでの固定撮影で流星も同時並行で。こちらはタイマーレリーズを用い、ISO1600の5秒露出でメモリの許す限り連写を続けて放置です。


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彗星が西に傾いた夜半過ぎからは、鏡筒をED103Sに載せ換えてM81 & M82のペアを。ずいぶん昔に撮ったきりなので、今の手技で撮ったらどの程度まで行けるのか、楽しみなところです。もっとも、実はこの時点で致命的なミスを犯しているのですが……詳しくは後ほど。


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ともあれ、薄明開始まで粘って撤収です。ちなみに、明け方近くには東の空に水星も昇ってきていました(写真中央、フェンス直上。右上は金星)。高度が低いのでなかなか目にする機会もなく、久しぶりの再会です。



帰宅後、まずは流星が写っていないかどうか、K-5IIsの方の画像をチェックしますが……オリオン座の方向を向けていたこのカメラには、残念ながら1つも写っていませんでした。全部で1000コマ以上撮ったのにガックリですorz

この夜は他に観測していた方もいたようですが、Twitterを眺めている限り、極大日翌日のこの日は流星数は著しく少なかったようです。返す返すも前日が曇りだったのが悔やまれます。



次いで、ウィルタネン彗星です。こちらは、ガイド鏡の方で彗星核を直接捉えることができたので、これをガイド星として用いることで長めの露出を行っています。


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10分露出での「撮って出し」がこれですが、さすがに彗星との距離が近いだけに動きが恐ろしく速いです。恒星時追尾だと、短時間露出であっても撮り方によってはそれなりに影響が出そうな雰囲気です。


これを、彗星核を基準にコンポジットして出てきた結果がこちら。


46P/ウィルタネン彗星
2018年12月15日 ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出600秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2による彗星核ガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

結果としては、残念ながら短時間露出のものと大差ありませんでした。心眼で見ると、左上に向かってかすかな尾が伸びているような気がしないでもないような感じがなきにしもあらずと言えないこともないような……( ̄▽ ̄;ゞ

他の方々が撮った画像を見ると、分子雲をあぶりだせるようなレベルの空の暗さが必要そうな雰囲気で、光害まみれの都心からだとさすがに厳しそうです。露出時間をもっと攻めたり、枚数をより重ねればあぶりだせるのかもしれませんが……。



そして、M81 & M82ですが……ハッキリ言ってこちらは失敗でした。撮ったコマがことごとく流れているのです。極に近いので、元々ガイドの精度が要求される領域ではありますが、それにしても流れすぎ。多少暴れ気味だったとはいえ、オートガイドもちゃんと追尾していたように見えるのになぜ……。


と、ここで気づきました。撮影風景を撮った写真を見ると、ウェイトがシャフトの一番下についています。撮影開始時には上端近くにあったはず……。どうやら、かじかんだ手でウェイト固定用のネジを締め込んだために固定が甘く、どこかの段階でウェイトが下端まで落ちてしまったようなのです。

一般に、東側のコンポーネント(今回の場合はウェイト側)をやや重めになるように設定すると、ギアを西から東へと押し付ける力が常に働くので、結果としてギアがしっかりかみ合い、バックラッシュが低減される……という話はありますが、それにしても程度問題でしょう。これだけ激しくバランスが狂っていると、悪影響が出ても何らおかしくありません。


寒いときは、指先に力が入りづらいことも考えて、ネジの締め込みをいつも以上にしっかり確認するべきでしょう。加えて、もっと力を入れやすいネジに交換することも考えた方が良さそうです。グリップの大きなスターノブとか、代替品は色々と考えられそうです。

ウィルタネン彗星

8月末以降、東京は新月期の夜の天気が異常に悪く、天体写真からは長らくご無沙汰だったのですが、10日の夜は珍しく雲がほとんどない快晴。しかし残念ながら平日の上、家族の食事も用意しないといけないので「近所の公園までプチ遠征」というわけにもいかず……。

ですが、時期的にちょうどウィルタネン彗星が地球に接近していて見ごろということもあり、食後早々に玄関先に機材を展開しました。

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我が家の玄関は西向きで隣家との間隔も狭く、おまけに上空は電線が多数這っているので視界は良くありません。それでも、短時間露出で追えば電線を回避することもある程度可能でしょう。


機材設置前に、念のためウィルタネン彗星があるはずの位置を10×42の双眼鏡で確認しましたが、姿は全く見えません。一応、4等級に達しているはずなんですが…。以前、ラブジョイ彗星(C/2014 Q2)ホームズ彗星、百武彗星が、都心のこの場所からでも双眼鏡で楽々見えたのとは対照的。見かけ上、アンドロメダ銀河(M31)*1より淡いのは確かです。空の暗いところなら多少は見えるんでしょうけど、見栄えは悪そうですね。


ともあれ、撮影開始。使用機材はミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(f=298mm, F5)です。試しにISO6400、露出5秒で撮ってみると、下のように彗星のコマがあっさりと写りました。視認のしづらさに比較して写真写りは結構良さそうです。


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その後はISO800、露出1分に切り替えてまずは32コマを確保。さらに撮り足そうかと思ったところで、彗星が上空の「電線密集地帯」に突入してしまったので、ここで撮影終了です。


今回は、素直に恒星時で追尾しておいて、後から「メトカーフコンポジット」で彗星核基準での位置合わせを行う予定で撮りましたが、STAR BOOK TENの彗星追尾機能*2を用いたノータッチガイド、あるいはPHD2の彗星追尾機能*3などを使って長時間露出するのも面白いかもしれません。


撮影した画像は、ダークフレーム、フラットフレーム、フラットフレームのダークフレームともどもステライメージ8(SI8)に放り込み、自動処理でメトカーフコンポジットを行います。以前のレビューの通り、基本的にはダメダメなSI8ですが、この機能だけは優秀です。

SI7ではあらかじめ彗星の移動量をステラナビゲータで調べたり、画像上の方位を指定する必要があったりとかなり煩雑なものでしたが、SI8では彗星の名前とカメラ名、焦点距離さえ入力しておけば後はすべて自動でやってくれます。方位などはおそらくPlate solvingの要領で割り出しているのだと思いますが、今まで試した限りでは失敗はまずなく、本当に優秀です。自動化が進みすぎていて、何をやっているのかが外からでは全く分からないのが気持ち悪いところではありますが……。


そしてコンポジット後の画像を処理して出てきた結果がこちら。


46P/ウィルタネン彗星
2018年12月10日 ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5(未改造), ISO800, 露出60秒×32コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.8.0fほかで画像処理

いかにもイオンリッチな、緑色のコマが浮かび上がってきました。

尾はちょうど地球と反対方向に伸びているため、目立たないのが残念なところ。それでも、空の暗いところで撮った写真には尾が捉えられているので、長時間露出をかければ見えるのかもしれません。

*1:こちらは双眼鏡で視認できます。

*2:STAR BOOK TENにあらかじめ軌道要素を入れておいた状態で彗星を導入すると、彗星の固有運動に合わせて自動追尾してくれます。

*3:1つは、伝統的なメトカーフガイドに準じた方法で、赤経赤緯の各方向への変位量をあらかじめ調査、入力しておいて、それに基づきガイドする方法、もう1つはライブビューで彗星像を捉え、一定時間手動追尾して彗星の動きを学習させる方法です。後者はきっちり集光していて、かつかなり明るい彗星でないと難しそうです。

Pierro Astro ADC MK3簡易レビュー

先日、うっかり気絶して海外サイトに注文したものが届きました。

Pierro Astro ADC MK3

Pierro Astro社のADC MK3……大気分散補正用のいわゆる可変ウェッジプリズム(ADC, Atmospheric Dispersion Corrector)です。価格はおおよそ300ユーロ程度だったかと思います。


仕様としては、プリズムは溶融石英、プリズム頂角の可変幅は0~2.5度となっています。透過波長域の広い溶融石英の採用に加え、コーティングもUV域を透過する仕様になっていて、UVによる金星の観測*1を妨げないようになっています。


ADCとしては、実は2年ほど前にZWOのADCを購入して手元に持っています。これに加えて倍以上の価格がするPierro Astro製のものを購入したのは、ZWO製ADCの使い勝手に大きな不満があったからです。
hpn.hatenablog.com
hpn.hatenablog.com


ZWOのADCは、白い目印を地平線方向に合わせたのち、そこを中心につまみを手動で対称に開き、補正量を調整します。ところが、そもそもつまみをきっちり対称に開くのが難しく、補正方向が勝手に傾きがち。さらに、開いたところでキッチリ止めるには微妙なネジの締め具合が必要など、操作性にかなり難がありました。


一方、Pieero AstroのADCは、補正方向と補正角の調整を別々に行えます。補正方向はノブの位置(緑矢印)で、補正角はノブ自体を時計の竜頭のように回す(青矢印)ことで調整します。この構造なら補正方向がずれることはありませんし、プリズムの開き方の対称性も保たれます。前世代のMK IIまではZWOのADCと同様の構造でしたが、MK3になってこの構造になったのが購入の決め手でした。


Pierro AstroとZWOのADCの比較です。プリズムハウジングのサイズは同程度。接続規格は、Pierro Astroのは望遠鏡側がM48メスネジ(M48 P0.75)、カメラ側がT2オスネジ(M42 P0.75)となっています。ZWOのものは、プリズムハウジングの両端ともT2メスネジとなっていて、アダプターを介して31.7mmスリーブが使用できるようになっています。

接続方法はZWOの方が柔軟ですが、31.7mmスリーブでの接続だとたわみが発生する可能性があり、Pierro Astroではあえてこれを採用していません。

ちなみにPierro Astroのプリズムハウジングの両端には、それぞれ重厚な金属製のねじ込み式フタがついています。高級感はありますが、取り付け、取り外しが面倒ですし、こんなところにコストをかけるくらいなら普通にプラスチック製のフタでいいように思います(^^;

プリズムの有効径はPierro Astroの方がやや大きいように見えますが、差は大きくありません。材質はZWOがBK7相当の光学ガラスなのに対し、Pierro Astroのは上で書いたように溶融石英です。BK7は通常のガラス同様、紫外線を吸収してしまうので、その点は溶融石英に軍配が上がります。ただし、この特性を十分に生かすためには光学系全体として紫外線に対して透明でなければならず、純反射系以外ではなかなか活用が難しいのではないかと思います。

作りについては、さすがに倍以上の価格差があるだけにPierro Astroの方が圧倒的に優秀。プリズムのコバ塗りもしっかりしています。一方の、私が買ったZWOのADCは初期ロットということもあり、プリズムに接着剤がはみ出していたりと「いかにも」なチャイナクオリティだったりします。まぁ、実用上問題はなかったのですが……。


と、期待を持たせる作りですが、残る問題は接続方法。現在の惑星撮影システムはBorgのパーツ群をやりくりして組み上げていますが、カメラ側はM42P0.75→M57AD【7528】を使えばいいとして、望遠鏡側はM57メスをM48オスに変換しなければなりません。とりあえず、光映舎で変換リングを比較的安く扱っていたので発注してみましたが……さて?

*1:可視光で金星を見ても模様はほとんど見えませんが、UV域で金星を観察すると雲が見える場合があります。