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毎年恒例

気づけば、今年も残すところあと3週間ほど。今年は年中通して悪天候に祟られた感がありますが、12月に入ってようやく冬型の気圧配置が頻出するようになり、関東は晴天の日が増えてきました。

9日金曜日の夜は月齢10の月があるとはいえ、快晴が続く予想。月は2時前に沈みますし、天文薄明は5時過ぎなので正味3時間程度は暗夜が続く計算です。そこで、日付が変わるころにいつもの公園に出撃しました。



狙いはいっかくじゅう座とおおいぬ座の境界にある散光星雲、通称「わし星雲」です。ここ数年、年賀状のネタとして干支にちなんだ天体を撮っている*1ので、酉年の来年はこれを使ってみようかと。ただ、特に翼に相当する部分は淡いうえに、南中時でも高度が40度程度と比較的低くて大気の透明度や光害の影響を受けやすいので、どこまで写せるのか未知数です。


今回はミニボーグ45EDIIを撮影鏡として初投入。レデューサー0.85×DGと組み合わせ、焦点距離276mmのF6.1 285mmのF6.3です*2。カメラがキャノンのAPS-Cなので、35mm判換算で約440mm 455mm相当。わし星雲は広がりが大きいため、手持ちの中で最も焦点距離が短い組み合わせを選びました。計算上は60EDとレデューサーの組み合わせ(焦点距離298mm、F5)でも画角内に収まりますが、フラット補正が決まりきらなかった場合のトリミングの余地を考えると、なかなか苦しいところです。正直なところ、もう少し明るさがほしいところで、本当ならミニボーグ55FLあたりが好適なのでしょう。


ともあれ、ないものは仕方がないので、月没を待って撮影を開始します。ここ最近やっているように、感度はあえて低めにセットして、露出時間を稼ぐ方向で。



2016年12月10日 Pentax K-5IIs+DA 17-70mmF4AL[IF] SDM(35mm, F5.6)
ISO800, 露出20秒×64コマ, ケンコー・トキナー PRO1D プロソフトン[A](W)使用
SiriusCompで合成処理

望遠鏡で撮影している間はやることがないので、手慰みに固定撮影&比較明合成でオリオン座などを狙ってみたり。真面目に比較明合成をやるのはほとんど初めてに近いですが、都心からでも案外カラフルかつ暗い星まで写るものですね。


本命のわし星雲の方は、薄明開始直前まで撮影を行い画像処理へ回します。



「撮って出し」の状態では、星雲は影も形も見えません。光学系がF6.1 F6.3とやや暗いということもあり、この環境下で露光時間10分くらいではまだまだ足りないということのようです。ここまで見えないケースはおそらく初めて。こいつは手強い……。



2016年12月10日 ミニボーグ45EDII+レデューサー0.85×DG(D45mm, f276mm f285mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO200, 露出600秒×16コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

それでも、なんとか翼を広げた鳥の姿を浮かび上がらせることができました。夏に比べると薄いとはいえ、天の川のど真ん中にある星雲なので微光星が多く、単純に星雲を強調しようとすると星像が飽和してギトギトした感じになってしまうので、星マスクを使うなどして悪影響をなるべく抑えるようにしています。


ちなみにこの星雲、日本では上記のとおり「わし星雲」という呼び名が広まっていますが、英語では「Seagull nebula」(かもめ星雲)と呼ばれています*3。形としては確かにカモメの方がそれっぽいですし、同じ「わし星雲」の愛称を持つM16と紛らわしいので、個人的には「かもめ星雲」の呼び方を推していきたいところです。

この星雲のカタログ番号としては「インデックス・カタログ」の「IC 2177」が知られていますが、IC 2177は実は鳥の「翼」に相当する部分に振られた番号で、「頭部」にはNGC 2327*4やvdB93(van den Bergh 93)、Sh2-292(Sharpless 292)、翼の南端の明るい部分にはSh2-297(Sharpless 297)といった具合に複数の番号が付けられています。

また、北側の翼の折れ曲がり付近にはNGC 2335、その南東にはNGC 2343という2つの散開星団があります。天の川の中ということもあって、なかなかにぎやかな領域です。


さて、一応撮れたとはいえ、露出は明らかに不足気味。天気がうまく合えば、年末の新月期に追加の撮影を行うかどうか……。考えどころです。

*1:2014年(午年):馬頭星雲(IC 434)、2015年(未年):おひつじ座、2016年(申年):モンキー星雲(NGC 2174)

*2:Twitter経由で教えていただいたのですが、45EDIIの焦点距離の公称値は325mmであるものの、実際には335mmとのこと。撮影範囲を確認してみると確かにそのようです。そうか、そんなに長くて暗かったのか……orz

*3:「Eagle nebula」という呼び方もされてはいるようです。

*4:南側の翼の折れ曲がった付近にある反射星雲をNGC 2327とする場合もあるようです。