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3か月ぶりの出撃

散々書いてますが、この夏は天気が絶望的なまでに悪く、6月頭に網状星雲を撮ってから丸々3カ月、公園への出撃ができないでいます。梅雨前に導入した「BORG55FL+レデューサー7880セット」のファーストライトすらいまだにできない有様です。

2日の土曜も、日中こそ気持ちいい快晴だったものの、日が暮れると全天に雲が。しかしGPVでは夜半過ぎには雲が取れてくる予想でしたし、自分自身の見立てでも、おそらく昼間の熱気が抜ければ雲が取れるだろうと思っていました。

実際、21時頃から雲が徐々に取れてきましたので、手押し台車に機材一式を積み、1.5kmほど離れたいつもの公園まで出撃してきました。

この夜の月齢は12と大きく、月没は日付の変わった1時56分。天文薄明開始は3時46分ですから、暗夜の時間は2時間足らずしかありません。そこで、月没までの間はEdgeHD800を使って月明かりに邪魔されにくい惑星状星雲を撮影し、月が沈んだら鏡筒を55FLに載せ換えて同鏡筒のファーストライトを行うことにしました。


最初のターゲットはケフェウス座の惑星状星雲、NGC40。アマチュアの観測に適した天体を集めた「カルドウェルカタログ」にも収載されている天体です(Caldwell 2)。



2017年9月2日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO800, 露出30秒×64コマ, OPTOLONG CLS-CCD for EOS APS-C使用
セレストロン オフアキシスガイダー+Lodestar+PHD2によるオートガイド
Registax6によるウェーブレット処理&ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

青緑色に輝く惑星状星雲が多い中、このNGC40は真っ赤に輝いています*1。これは、この星雲が主に水素由来のHα腺を放っているためです(普通の惑星状星雲は電離酸素由来のOIII(青緑色)などの成分が多い)。

一方、中心星には水素の輝線がほとんど見られないことが知られています。これは、強烈な恒星風によって水素に富んだ外層が吹き飛ばされてしまい、高温の「星の芯」だけが見えている「ウォルフ・ライエ(WR)星」と呼ばれる天体に特徴的なスペクトルです。太陽の40倍以上の質量を持つ星の終末期の姿です。


視直径はここ最近撮影していたキャッツアイ星雲やまばたき星雲に比べると大きく(1.23分)、そのせいもあってか単位面積当たりの明るさはやや控えめな印象。その分、コマ当たりの露出時間も長めに取っています。微細構造を浮き上がらせるつもりであれば、もっと短い露出時間の方が良いかもしれません。


あと、今回の撮影についていえば、わずかに光軸が狂っていた模様。一応、いつも撮影前に光軸をチェックしてはいるのですが、目分量だとどうしても微妙な狂いが修正しきれません。「トライバーティノフマスク」「GoldFocus Plus Collimation」のようなツールがあった方がいいのかもしれません。




月が大きく傾いてきた夜半過ぎ、いよいよ鏡筒を55FLに載せ換えます……が、ここで問題が発生しました。


事前に検討していた55FLのセッティングは、上の写真のようにK-ASTECの鏡筒バンドの上下にアリガタを渡し、赤道儀への取付&ガイド鏡のマウントに使用するというもの。一見これで何の問題もなさそうなのですが、カメラを縦位置にするとヘリコイドの固定ネジがアリガタと干渉してしまうのです。可能性自体は念頭にありましたが、まさかここで食らってしまうとは……orz


仕方がないので、現場で急遽構成を組換え。M57/60延長筒L【7604】を取り外して、代わりにM57/60延長筒M【7503】とM57回転装置DX【7352】を組み込みます*2。これはこれで「ヘリコイドの固定ネジ」と「回転装置の固定ネジ」のそれぞれがアリガタに干渉しないよう位置を定めるのが大変だったりしたのですが、なんとか折り合いをつけることができました。

せめてヘリコイドの前後をバンドで留めることができれば、ヘリコイドの固定ネジを外してしまう選択も取れたのですが、アリガタ側の長穴の位置の関係でそうした留め方はできず……。手元にあったパーツをやりくりして組み上げた構成ですが、バンド間隔が狭くて安定性に欠けますし、ガイドシステムも大きすぎの印象。もう少しスマートなセッティングになるよう、パーツ構成を再考した方がよさそうです*3





思わぬところで時間を取られましたが、気を取り直して午前2時ごろから撮影再開。狙うはカシオペヤ座の散光星雲「ハート星雲」+「胎児星雲」(IC1805, IC1848)です。胎児星雲の方は、海外ではHeart nebulaと対になる形でSoul nebulaと呼ばれるのが一般的です(2つ合わせて「Heart & Soul nebulae」)。また、このあたりは星の形成が活発に行われている場所で、生まれたばかりの恒星の集団である散開星団が複数見られます。



2017年9月3日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出720秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

……というわけで、とりあえず形だけは出てきました。

他の星形成領域のご多分に漏れず、主にHα線で輝いているため眼視ではほとんど見えませんが、写真写りは比較的良い方と言われます。


しかし、なにしろ北天は渋谷・新宿からの光害がひどくて元々が鬼門中の鬼門。加えて、今回は薄明開始までの時間が限られていたため露出も短めにせざるをえず、なかなか厳しい写りです。おまけに、輝星の周囲にハロが出ているあたり、ピントも微妙にずれ気味な気が。



まぁ、元画像がこんななので、何をか言わんやですが……(^^; 星雲がほとんど見えないために構図もややずれていて、最終的な仕上げの段階でトリミングを行っています。


「RGB分割フラット補正」を行ってもなお暴れる背景を押さえ込み、ノイズをなだめすかし、最後は力業で何とかそれっぽくまとめましたが、できれば新月期にじっくり時間をかけて取り組みたいところです。

ただ、逆に言うと、この酷い状態からでもリカバリーできるのはこの光学系の素性の良さの表れでもあります。使い勝手や雰囲気もおおよそ掴めたので、次回使用時はそのあたりを踏まえて使っていこうと思います。




PowerShot S120, 5.2mm(F2.8)(35mm判換算24mm), ISO200, 15秒

一連の撮影が終わるころ、明け方近くにはISSがちょうど頭上のおうし座〜ぎょしゃ座のあたりを通過。コンデジで狙ってみましたが、周囲の星ともども、案外よく撮れるものです。

*1:海外では、これを赤い蝶ネクタイに見立てた「Bow tie nebula」という愛称がつけられていますが、日本人的にはどうも「梅干し」の方が真っ先に思い浮かびます(^^;

*2:念のため、出撃時にはいつも余剰パーツも持ち運んでいるのが吉と出ました。

*3:しかも、帰宅後にフラットフレームを取る段になって、アリガタが邪魔でELパネルを筒先に密着させられないことが判明。アリガタを外すことで事なきを得ましたが……ぶっちゃけ面倒くさいです。