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惑星撮影システムの見直し

ここ数年に比べると、木星土星も高度が上がってきて、まさに惑星シーズン到来!という感じ。SNS上にも素晴らしい写真がたくさん上がっていて、本当なら「よーし、ウチも!」というところなのですが、実は惑星の撮影に関して悩みを抱えていました。それはズバリ、


 写りが良くない!


ということです。


現在使っている惑星撮影システムは、基本的には2019年に構築したものです。
hpn.hatenablog.com



バローレンズには、惑星写真家として有名な熊森氏のサイトの記事で比較的評価の高いMEADE 5x TeleXtenderと同ファミリーのMEADE 3x TeleXtenderを使用。これに直接力がかからないよう*1、ボーグパーツを利用した「外骨格」で支える構造です。


上記記事では単純にボーグパーツを組み合わせただけですが、【6010】ミニボーグ鏡筒DX-Sにおいて摺動部での光軸ずれが起きる危険性を考慮し、実際にはさらに鏡筒バンド&アリガタでここを補強しています。


長大とはいえ、強度的にはしっかりしているはずですし、問題なくきれいな像が得られるはず……だったのですが、実際に撮ってみるとこれがどうにもorz


最大の問題は「光軸が合わせられない」ことで、焦点内外像を見ても軽く尾を引いたり楕円状だったりで、そもそも同心円状になりません。光軸が合わせられないのでは、いい像を得られるわけもありません。木星はボケボケ、土星の輪は妙な場所に偽の溝が現れたりと、口径が半分以下の屈折望遠鏡にも劣る写りです。


疑わしいのは【6010】ミニボーグ鏡筒DX-Sの摺動部での屈曲、またはバローの傾きないしセンタリング不良。しかし、これ以上手を加えるにしてもどうしたものやら……。【6010】ミニボーグ鏡筒DX-Sをただの延長筒に交換するくらいはできそうですが、このシステムの美点は「手持ちのボーグパーツのみで安上りに組める」という点にあるので、延長筒を買い足したのでは本末転倒です。


……というわけで、しばらく撮影を諦めかけていたのですが……先日ふと思い出しました。


 アイピースでの拡大撮影という手があるじゃないか!


アイピースを用いた拡大撮影というのは、バローレンズ&動画カメラという撮影方法が主流になる前によく使われていた方法で、用いるアイピース次第で非常に大きな拡大率を得ることができます。フィルム時代は、35mm判フィルムいっぱいに惑星を写すのが基本だったため、必要な拡大率は今よりも格段に大きいものだったのです。この方法で得られる合成焦点距離は、「接眼レンズ後面~撮像面までの距離」×「倍率」で表されます。


しかしここで、撮影に用いる鏡筒がEdgeHD800で焦点距離が2000mmもあること、また使うカメラがASI290MM/MCで1/3インチ型の極小センサーを搭載していることを考えると、合成焦点距離をきっちり計算するまでもなく、あまり倍率を上げることはできません。


そこで、まずは試しとして手持ちの拡大撮影アダプター、そしてNLV 20mmおよびNLV 40mmを使って以下のようなシステムを組んでみました。




拡大率はNLV 20mmを使ったものの方が高いはず。これで実際に撮影してみて、どの程度の大きさになるかを確認してみます。


というわけで、8月29日の夜、自宅前で土星を試し撮りしてみました。


撮影前には当然光軸調整を行うのですが、当たり前ですが焦点内外像が感動するほど同心円です(笑) 今までがいかにロクでもない条件で撮影していたかという……(^^;


撮影後は、AutoStakkert!でスタッキング後、Registax6でウェーブレット処理を行います。結果はこちら。



2023年8月30日0時26分14秒(日本時間)
セレストロンEdgeHD800+NLV 40mm SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=300, 30ms, 1500フレームをスタック
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=350, 30ms, 1500フレームをスタック



2023年8月30日0時47分58秒(日本時間)
セレストロンEdgeHD800+NLV 20mm SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=400, 30ms, 1500フレームをスタック
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=450, 30ms, 1500フレームをスタック

オールドスクールなやり方とはいえ、思った以上にいい写りです。アイピース拡大法もまんざら悪い方法でもないのでは……。


ただ、合成焦点距離については「帯に短しタスキに長し」という印象。FireCaptureで撮影すると惑星像の大きさからおおよその焦点距離が算出されるのですが、それによればNLV 40mmを使った場合は4900mm前後、NLV 20mmを使った場合は8800mm前後となります。


一方、光学系の分解能やカメラの画素ピッチなどから最適な焦点距離を算出すると、EdgeHD800+ASI290MM/MCの場合、2.5~3倍くらいの拡大率……つまり5000~6000mm程度の合成焦点距離が欲しくなります。

hpn.hatenablog.com

NLV 40mmを使った場合はギリギリ合格点とも言えますが……NLV 20mmのは明らかに拡大しすぎです。実際、撮影していても像が暗く、ゲイン、シャッター速度ともに全く余裕がありませんでした。


拡大率の上げ下げには、アイピースとカメラとの距離を調節すればいいのですが、NLV 20mmの場合、これ以上カメラを近づけることは構造上できません。40mmの場合、ボーグの延長筒を使えば距離を離せるので、もう少し拡大率を上げられますが……。


そこで思い出したのが、今まで使っていたバローレンズです。このシステムに組み込んでちゃんとピントが出るなら、それでOKなのでは……?


また、タイミングよく、システムを支えるためのアダプターとして、Baaderの2インチClicklock(シュミカセ2インチ用)の中古美品を、スターベースにて6600円という安値で入手することができました。




これを用いて上のようにシステムを組んでピントが出れば、万全なはずです。


そこで9月1日夜に上記システムで再チャレンジ。この日は風が比較的強く、シーイングも悪くて苦労しましたが……撮影、処理してみた結果はこちら。




2023年9月2日0時22分17秒(日本時間)
セレストロンEdgeHD800+Meade 3x TeleXtender SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=450, 10ms, 4500フレームをスタック
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=400, 30ms, 1500フレームをスタック

悪条件だった割にはまずまずの写りです。合成焦点距離はFireCaptureでの読み値で6700mm前後。ちょっと暗いですが想定の範囲内です。これか、もしくはNLV 40mmを使ったシステムで十分運用していけるでしょう。唯一面倒なのは、カラーとモノクロを切り替えるたびに、都度カメラを差し替えなければならない所で、ターレットの類を導入した方が簡単そうです。


それにしても、アイピースでの拡大撮影がここまで健闘するとは思いませんでした。下手な安物バローレンズを使うくらいなら、アイピースを今一度見直してみた方がいいのかもしれません。

*1:31.7mmスリーブの固定力が不安なので