先週、とある物品を購入しました。
SIGHTRONの「StellaScan 2x40 Mono」です。以前から買おうかどうしようか迷っていたのですが、サマーセールで安くなっていたのでつい(^^;
俗に「星座双眼鏡(単眼鏡)」などと言われている類の製品で、広視野・超低倍率なのが特徴です。同様の製品としては笠井トレーディングの「WideBino28」(2.3×40)、スコープテック&日の出光学の「星座望遠鏡」(1.8×40)、ビクセンの「SG2.1×42H」などがあります。「StellaScan 2x40 Mono」はこれらの中でも最も安価なものの1つです。
この機種、同スペックの双眼鏡も販売されていて、より暗い星まで見るならこちらを買った方が有利*1なのですが、こと自分の場合、医学的な理由で両眼視ができず*2、双眼鏡を除いても左目しか機能していない状態。それもあり、より安価でコンパクトな単眼鏡モデルを選択した次第です。
なお、これらの機種については「ほしぞloveログ」のSamさんが詳細なレビューをされていますが、一応「都心から使った場合」という視点で「StellaScan 2x40 Mono」について簡単に見ていきたいと思います。
hoshizolove.blog.jp
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「StellaScan 2x40 Mono」簡易レビュー
さて「StellaScan 2x40 Mono」ですが、内容物は単眼鏡本体とストラップ、レンズ拭き用のクロス、セミハードケース、説明書となっています。対物レンズや接眼レンズを覆うキャップの類はついていませんが、屋外だと紛失する可能性もあるので、そのあたりは一長一短です。
本体はアルミ材の削り出しで、価格に見合わぬしっかりした作りです。レンズはフーリーマルチコート。素性としてはかなり期待できそうです。
接眼レンズの径は17~18mm程度で、覗きやすさは十分かと思います。
この製品は一般的なオペラグラスと同様「ガリレオ式」*3と呼ばれる光学系で、その特性上、決まったアイレリーフというものが存在しません。スペックとしては製品ページに「アイレリーフ10mm、実視界24°」という記載がありますが、ここに書かれている「アイレリーフ」は設計上の目安でしょう。接眼レンズに目をこすりつけるようにして覗けば、おそらく24°より広い範囲が見えますし、逆に眼鏡をかけたままだと視野はもっと狭くなります。自分の場合、強度の乱視があるので眼鏡が手放せないのですが、その状態だと視野は20°程度ではないかと思います。それでも、一般的な双眼鏡と比べると圧倒的な広視野です。
昼間に風景を覗いてみると、視野の最周辺部にはさすがに歪みやボケが見られますが、それほど大きなものではありません。夜間はほとんど気にならないと思います。
そして週末、わずかな晴れ間を突いて実際に覗いてみたのですが、なるほど肉眼では見えない星まで良く見えます。星の色の違いも思った以上にハッキリと。それでいて視野が広いので、星座の形も比較的追いやすいです。都心からだと意外と見づらいカシオペヤ座のW字*4も、ちゃんと確認できました。
そしてなにより、都心で地味に助かるのは、赤道儀設置の目安になる北極星がぐっと確認しやすくなった点。これだけでも買った甲斐があるというものです。
なお、番外編的な使い方ですが、光学ファインダーの代わりにドットサイトがついている望遠鏡がありますが、この単眼鏡を通してドットサイトを覗くことで、一段暗い天体も直接導入できて便利です。都心だと、1等星ですらドットサイトのガラスを通すと暗くて見づらかったりするので……。上記の北極星の件も含め、観測時に首から下げておくと、何かと重宝しそうです。
ただ一方で、対物レンズが大きく、視野が極端に広いという構造上、迷光には極めて弱いです。街灯が近くにあると影響は非常に大きく、手などで外光を遮るいわゆる「ハレ切り」も、視野が広い分やりづらいので、なるべく街灯の少ないところ、もしくは街灯から影になるところで使うといった配慮は必要です。
「StellaScan 2x40 Mono」の限界等級
さて、この単眼鏡を用いた場合、どのくらいの暗さの星まで見えるのか気になるところかと思います。
一般に、肉眼での限界等級は以下の式で表されます。*5
ただし
これは1990年のB. Schaeferの論文に掲載されている式から導出されるものですが、パラメータが非常に多く、その設定によっては上記の式とは全く同じになりません。とはいえ、大きな違いはないでしょう。また、この式が成り立つのはSQMが18.4より暗い場合*6ですが、SQM = 16あたりまで外挿してもそう変な数字にはならなさそうです。
実際、SQM = 16から数字をプロットしてみるとこんな感じ。
SQM (等/平方秒) | 限界等級 |
---|---|
15 | 1.23 |
16 | 2.17 |
17 | 3.08 |
18 | 3.95 |
19 | 4.76 |
20 | 5.48 |
21 | 6.10 |
22 | 6.62 |
実感としても、おおむね合っているような気がします。
次に、「StellaScan 2x40 Mono」を用いた場合の限界等級です。
「StellaScan 2x40 Mono」について、その「ひとみ径」*7を計算してみるとにもなります。人間の瞳孔は最大に開いても直径7mmと言われているので、せっかく集めた光が無駄になっているようにも思えますが、言い換えると「どのように覗いても、その時の瞳孔径で見える最大光量を得られる」ということでもあります。つまりこの状態では、単眼鏡はいわば「覗き窓」の役割をしていて、「どの程度暗い星まで見えるか」は単眼鏡の倍率に依存します。
というのも、恒星は点光源なので倍率を変えても明るさは変わりませんが、「背景」である空は面積を持った光源なので、倍率を上げるとその分、面積当たりの明るさが薄まり暗くなる……つまり、倍率が高くなるほど背景の明るさだけが下がり、暗い星まで見えてくるというわけです。
「StellaScan 2x40 Mono」の場合、倍率は2倍なので、背景の明るさはになります。等級にすると約1.5等下がる計算です*8。
SQMが16.1と泣きたくなるほど酷いウチの場合*9、これがになります。上記の式と照らし合わせると、SQM = 17.6の場合の限界等級は3.61等となり、実感とそれほど差がない結果となります。
理科年表によれば、2等星以上の明るさの星の数が88個、3等星以上の明るさの星の数が278個とのことなので、見える星の数はざっくり3倍以上にもなります。星の密度としてはそれほど変わりませんが、1等星や2等星の位置でおおよその星座の場所や大きさを推測するしかない都心の空からすると、それなりのインパクトではないかと思います。
もうひとつのお買い物
ちなみに、同時に買ったもう一つは「Northern Cross 35mmファインダー台座」。
直径32mmの鏡筒まで取り付けられるので、現在こちらがガイド鏡として利用しているペンシルボーグ25(直径32mm)にジャストフィット。以前はBORGから純正のファインダー脚が出ていましたが、既に終売してしまっているので地味に困っていました。
脚は一般的なファインダー用アリミゾに取り付け可能。鏡筒の固定力も予想以上にしっかりしている*10ので、色々と使い道が広がりそうです。
*1:両眼視の場合、単眼視より約1.4倍(等級で言うと約0.37等)暗いものまで見えると言われています。
*2:両眼視機能が成長する幼少期に、遠視に伴う調節性内斜視&下斜筋過動を患っていたため。現在も下斜筋過動&外斜視が残っています。
*3:接眼レンズに凹レンズを使用した光学系。一般的な天体望遠鏡は接眼レンズに凸レンズを使用した「ケプラー式」。
*4:一番暗いε星セギン(W字の東端の星)が3.4等なので、肉眼で都心からだと厳しいです。
*5:http://www2e.biglobe.ne.jp/~isizaka/nstar/sw/pupil/pupil1.htm
*6:おそらく、これ以上の明るさになると暗所視が保てないため。
*7:「口径÷倍率」で求められる数字。対物レンズからの光は、この数字を直径とする円内に集中する。
*8:等級は1変わるごとに明るさが2.5倍違う。なので、log2.5 4≒1.5]
*10:リングを介して鏡筒をネジ止めするこのタイプは、大昔にガイド鏡固定に使っていた同様の構造の「サブスコープ脚」(ビクセン)の固定力がいまいちだったこともあってあまり印象が良くなかったのですが……。ガイド鏡の重さとのバランスでしょうか?