My new gear……
年末に「めちゃくちゃマイニューギアりたい~」と心の声が漏れていましたが、年始早々、やってしまいました。
はい、OptolongのL-Ultimateフィルターです。正規代理店のシュミットには残念ながら在庫がないようだったので、やむをえず海外通販で。PayPalのレート換算が渋い上、関税3700円がプラスされましたが、かかった費用としては56120円でビミョーに安く買えました*1。
www.syumitto.jp
ご存じの通り、このフィルターはOIIIおよびHαの波長域における半値幅が3nmと、驚異的な性能を誇るデュアルナローバンドフィルターです。これに近いもので自分が持っているのはIDASのNebulaBooster NB1フィルターですが、こちらはHβ~OIII領域の半値幅が32nm、Hα領域の半値幅が20nmもあり、「セミナローバンドフィルター」とでも言うべき性質のものです。
L-Ultimateの場合、そこらのナローバンドフィルターを上回る半値幅の狭さ*2ですし、街なかであっても散光星雲や惑星状星雲、超新星残骸には無類の強さを発揮するでしょう。
ただし、干渉フィルターは一般に、入射する光の角度が大きくなると透過する光の波長域が短波長側にシフトするという問題があります。透過波長の半値幅が狭いL-Ultimateでは特に顕著で、F4以上の暗さの鏡筒での使用が推奨されています。
ウチでは「BORG55FL+レデューサー7880セット」(F3.6)が該当しますが、レデューサーの手前に付ければBORG55FL自体のF値は4.5ですし、なんとか使えるでしょう……。
ぐぬぬ……裏返しでの装着かorz(知ってた)
ナローバンドフィルターには裏表がありますし、そもそもL-Ultimateのフィルター枠には表側にネジが刻まれていないのでレデューサー先端への装着は不可能。かといって、後方では「F4以上」というフィルターの使用条件を満たせません。多少ケラレる可能性は出てきますが、薄い「M48メス⇔M48メス」の接続リングを調達してレデューサー先端に装着するしかなさそうです。
なお今のところ、この鏡筒以外はみなF4以上なので、使用に大きな問題はなさそうです。
出撃!
というわけで、一晩中晴天が予想された先週金曜、20日の夜にいつもの公園に出撃してきました。
せっかくL-Ultimateが届いたのですから、それに適した散光星雲や惑星状星雲を狙いたいところ。一方で、明け方にはZTF彗星(C/2022 E3)も狙いたいので、そこそこの時間で撮影が切り上げられるのが理想です。
そこで、ネタのタイミングとしては少しズレたものの、クリスマス星団周辺を狙うことに。この時期、対象は天文薄明が終わる18時半ごろには高度が30度を超え、一方で2時半ごろに高度30度を切りますから*3、それ以降はZTF彗星の撮影に向かえるというわけです。
この領域は2017年末にデジカメで撮影していますが、知名度の割におそろしく淡く、炙り出すのにものすごく苦労した覚えがあります。
hpn.hatenablog.com
しかし、冷却CMOSカメラ+デュアルナローバンドフィルターなら、比較的容易に捉えられるでしょう。デュアルナローバンドフィルターは光害にも強いので、宵のうちから撮影を始めます。
一方、クリスマス星団を取り巻く散光星雲中には、「Fox Fur Nebula(キツネの毛皮星雲)」の愛称で知られる反射星雲があります。反射星雲は一般にナローバンドでは写りにくいので、これについては伝統的な光害カットフィルターであるLPS-D1を用いた撮影で補うことに。こちらは夜半近く、光害が落ち着いてからの撮影です。
そして2時半過ぎからはZTF彗星(C/2022 E3)の撮影。あらかじめ計算しておいた彗星の天球上での移動量をPHD2に入力し、彗星追尾の状態で撮影を行います。天文薄明開始まで2時間半ほどあるので、特に光害の激しい北天*4でもまずまず写ってくれるのではないでしょうか……?
リザルト
まずは、処理が比較的容易だったZTF彗星(C/2022 E3)から。
2023年1月21日 ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain=100, 300秒×30, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド(彗星追尾)
ステライメージVer.9.0kほかで画像処理
「2時間半も露出を与えたのだし、イオンの尾もバッチリだろう」と軽く考えていたのですが、いざ処理を始めて見ると尾は想像以上に淡く、炙り出すのに一苦労。今回は上記の通りLPS-D1を用いたのですが、「彗星用」を謳うCometBPあたりと比べると透過する波長域が広く、光害の影響をより強く受けてしまいます。そのあたりが苦戦した原因の1つかと思います。
それでも、どうにか特徴的な姿を捉えることができました。思った以上にコマが大きく広がっていますし、地球との位置関係でわずかにアンチテイルが見えているのも面白いところです。
次いでこの夜の本命、クリスマス星団周辺です。まずは、撮って出し&レベル強調後の画像から。
LPS-D1
L-Ultimate
さすがはL-Ultimate、光害まみれの空での5分露出にもかかわらず星雲が淡い部分までしっかり写っています。また、写野内に明るい星があまりないのであくまで参考ですが、その後の処理全体を通じてゴーストの類は特に見られませんでした。
一方のLPS-D1はさすがに分が悪い。なにやらうっすらと星雲らしき光芒があるのは分かりますが、これでは5年前のデジカメ撮影*5で苦労したのも当然です。
ではLPS-D1での撮影に意味がないかというとそんなことはなく。処理を進めていって最も大きな差が出たのがここ。
左がLPS-D1、右がL-Ultimateによる画像ですが、L-Ultimateの方には反射星雲がまったく写っていません。反射星雲は恒星の光をそのまま反射しているので、幅広い波長の光を含みますが、ナローバンドフィルターでこれを撮影した場合、当然のことながらナローバンドに相当した波長しか通しませんから、よほど明るくない限り、散光星雲のほかの部分と全く見分けがつかなくなってしまうのです。
また、L-Ultimateで撮影したものの方が星の数がずっと少ないのが分かります。恒星が放つ光のうち、HαやOIIIに相当する波長の光が弱ければ写りにくくなってしまうわけで、これをそのまま使うと、いわゆる「ナローバンドくさい」絵になってしまいます。
そこで、StarNet V2で星雲と星とを分離後、星雲についてはL-UltimateのものとLPS-D1のものとをブレンド。星についてはLPS-D1のものを星の色に気を付けて処理して……こう!
2023年1月20日 ミニボーグ60ED+レデューサー0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
カラー画像:Gain100, 300秒×30, IDAS LPS-D1フィルター使用
ナローバンド画像:Gain300, 300秒×48, Optolong L-Ultimateフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0k, PixInsightほかで画像処理
今回は天の川中の天体で「星がうるさくなりやすい」ということもあり、先日紹介したBlurXterminatorも使っています*6。星像がしまって期待通りの効果です。
hpn.hatenablog.com
反射星雲周辺の色がピンクに転んでしまったのがやや不満ですが、写りとしては総じて上々ではないでしょうか。まして、東京都心からの撮影と思えば……。
ちょっと面白いのは写真の右上にOIIIの豊富そうな領域が見えること。最初はフラットのしそこないかと思いましたが、構造もあるようですし、他のナローバンド作品を見ると写っている*7ので、これは正しいのでしょう。
そういう目で見ると、中央付近で散光星雲や暗黒星雲がやや濁ったような色に見えるのも、OIIIの成分がかぶさっているせいかもしれません。
それにしてもL-Ultimate、聞きしに勝る凄まじさです。光害の悪影響もほとんど感じません*8 *9。ただ、反射星雲が写りにくい、色が単調になりやすい、写る星数が少なくいかにもナローバンドくさい写真になりがち、といった弱点も少なからず存在するので、生かし方を考えつつ、適切な対象を見極めて使うべきかと思います。
*1:シュミットだと税込57750円なのでわずかに高いですが、手間などを考えればかなり良心的な価格だと思います。即納ならこちらで買っていたでしょう。
*2:自分が持っているAstronomikのHαフィルターでも半値幅は5nmあります。
*3:経験上、都心では高度が30度を切ると、光害の影響もあって写りがかなり厳しくなります。
*4:ご存じの通り、北方10km圏内に渋谷・新宿を控えています。
*5:この時使っていたのはLPS-P2ですが、特性はほとんど同じです。
*6:???「BlurXTerminatorは買わんと言ったな。あれは嘘だ。」
*8:光害カブリがなさすぎるせいでフラットに苦労した(普段はカブリが直線状になることでフラットになったかの判断をしている)のは内緒。
*9:月明りや光害の影響がゼロではないので、淡い対象を狙うならやはり気にすべきではあります。