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ZWOptical ADC(Atmospheric Dispersion Corrector, 大気分散補正用可変ウェッジプリズム)簡易レビュー

先日、ZWOpticalのADC(Atmospheric Dispersion Corrector, 大気分散補正用可変ウェッジプリズム)を実際に使ってみたので、簡易レビューと使ってみての感想などを。

外観


他社のADCが安くても日本円で4〜5万円ほどする中、その1/3ほどの低価格ですが、本体は総金属製で、意外としっかりした作りという印象を受けます。ただ、先日の記事でも書きましたが、小キズや光学面への接着剤のはみ出しが見られ、このあたりの品質の甘さは価格なりといったところです。手元の個体で最も心配だった接着剤のはみ出しについては、端の方だったこともあって、幸い直接的な影響はありませんでした。


本体の構造としては、Astro Systems Holland(ASH)やPierro AstroPA)のADCとほとんど同じです。本体は「31.7mmバレル-M42 P0.75オスネジ(Tマウント オス)を備えたノーズピース」、「ウェッジプリズムのハウジング」、「M42 P0.75オスネジ(Tマウント オス)-31.7mmスリーブアダプタ」の3つのパーツから構成されています。最後の「31.7mmスリーブアダプタ」の31.7mmスリーブの外側にはM42 P0.75オスネジが切ってあり、これを利用しての接続も可能です。

プリズムハウジングは長さ30mmで両端にM42 P0.75 のメスネジ(Tマウント メス)が切ってあります。2枚のウェッジプリズムはこの中に収められており、レバーを動かすことでお互いの角度を変えることができます。これにより0度〜2度の範囲でプリズムの頂角を連続的に変化させ、色分散補正の効果を調節します。レバーの可動範囲は非常に広く、お互いがオーバーラップするような動きも許容されるようになっています。

プリズムはコーティングがされており、λ/10(@632.8nm)の平面度があると謳われています。使われているガラスはH-K9Lで、SchottのN-BK7相当品です。


レバー自体はネジになっていて、プリズムのセルにねじ込まれています。また、ハウジングとの接触面にはゴム製のOリングがはめられています。このリングとハウジングとの摩擦がレバーの動きに適度なフリクションを与えているのですが、プリズムの位置を固定しようとしてレバーをギュッとねじ込むと、Oリングがよじれるために位置が微妙にずれてしまいます。このあたりは良し悪しですが、あまり強くねじ込まずに使うべきものなのでしょう。あるいは平面状のゴム製ワッシャにでも交換してもいいかもしれません。


白いテフロン製のネジは、目盛の刻まれたリングを固定するためのもので、水平位置の指標を兼ねるものです。

大気による色分散は、垂直方向にのみ発生します。そのため、これを補正するADCは、水平線を基準としてそこから対称にレバーを操作しなければなりません。

ASHのADCはプリズムの可動範囲の関係上、基準点の位置が固定されているため、基準点を水平線に合わせるためにはプリズムハウジング本体を回転させなければなりません。PAのADCには目盛がありますが、基準点を示す明確な印がないため、どこを基準点にしたかをユーザーが覚えていなければなりません。一方、ZWOpticalのADCでは、目盛の刻まれたリングが自由に回転する構造となっており、これを固定するネジが水平位置の指標を兼ねるようにしています。そのため、基準点の設定とプリズム回転量の把握が容易にできるようになっています。

ただ、あくまでも回転するのは指標目盛だけなので、プリズムハウジングの取り付け角度とプリズムの可動域、必要な補正量によってはプリズムハウジング本体を回転させる必要が出てきます。製品写真を見ただけだといかにもプリズムハウジング本体が回転しそうな印象を受けますが、そうではないのでその点は要注意です。

実使用編

このADCを拡大撮影系に組み込んでみました。構成としては以下の通りで、ADCとフリップミラー以外は全て手元にあったボーグのパーツです。


【7424】シュミカセ→M57/60AD〜【7601】M57/60延長筒SS〜【7505】2インチホルダーM〜【7396】50.8→31.7ADII(+Meade 3x TeleXtender)〜【7604】M57/60延長筒L〜【7352】M57回転装置DX〜【7522】M57→M36.4AD〜ADC〜【7522】M57→M36.4AD(逆向き)〜【7459】M57→M57ADIII〜【6160】ミニボーグ鏡筒〜【7602】M57/60延長筒S〜【7506】2インチホルダーSS〜フリップミラー〜ASI120MM/MC

いやぁ、長い長い。全長は50cm近いんじゃないでしょうか。プリズムハウジングの後端からカメラのCMOS面まででも308.5mmあります。ただ、その分プリズムによる光路の屈折は最小限に抑えられるはずなので、画質への悪影響も小さくできるはずです*1


実際の使用方法ですが、目的の天体を視野に入れたら、まずはプリズムハウジングの基準点が水平になるようハウジングを回転させます。プリズムの可動範囲によっては指標リングを回すだけで済む場合もありますが、今回はハウジングそのものを回転装置で回転させています。指標が水平線と一致し、かつ補正効果を最大にした時にプリズムの厚い側が上に来るような向きが正しい設置方向です。

次に、Firecapture上で露出オーバーになるくらいゲインとシャッター側をを上げたうえで「PreProcessing」の「Color- Saturation」を選択し、効果を最大にします。こうすると惑星のリム部分の色分散がはっきりと見えるので、これがおおよそなくなるよう、プリズムの相互位置を調整します。


しかし実際にやってみると、これがとても難しい!カメラの視野が狭く、また補正量が小さくて済むようにプリズムとカメラの距離を離したため、プリズムの角度をほんの少し動かしただけでも惑星が視野外に飛び出してしまうのです。今回は木星をターゲットに実験しましたが、木星の高度が高くてそもそも分散量が小さいことも重なり、相当微妙な操作を強いられました。後述の計算で分かる通り、必要なプリズムの移動角度は調節困難なほど極小だったので、少なくとも高度の高い天体についてはプリズム位置をもっとカメラ寄りにしてもいいかもしれません。

また、テフロンネジが水平位置の指標になるといっても、しょせんは目見当で合わせた水平*2。実際に画面上で色分散の補正状況を見ていると、指標を中心に対称にプリズムを動かしても、正しい補正は難しい感じです。あくまでも水平位置の目安と割り切って、現物合わせで行った方がよさそうです。


ちなみにこの日撮った写真ですが、シーイングが悪すぎて色分散補正どうこう以前の問題でした。やっぱり元が悪いとどうにもなりませんorz

*1:ウェッジプリズムは光軸に対して非対称なので、原理上どうしても非点収差が発生しますし、像面も撮像素子に対して傾きます。

*2:架台が赤道儀なので、余計に判断が難しいです。しかも時々刻々、水平線は望遠鏡に対して回転していきますし……。セッティングだけなら経緯台の方が簡単でしょう。