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Pierro Astro ADC MK3簡易レビュー

先日、うっかり気絶して海外サイトに注文したものが届きました。

Pierro Astro ADC MK3

Pierro Astro社のADC MK3……大気分散補正用のいわゆる可変ウェッジプリズム(ADC, Atmospheric Dispersion Corrector)です。価格はおおよそ300ユーロ程度だったかと思います。


仕様としては、プリズムは溶融石英、プリズム頂角の可変幅は0~2.5度となっています。透過波長域の広い溶融石英の採用に加え、コーティングもUV域を透過する仕様になっていて、UVによる金星の観測*1を妨げないようになっています。


ADCとしては、実は2年ほど前にZWOのADCを購入して手元に持っています。これに加えて倍以上の価格がするPierro Astro製のものを購入したのは、ZWO製ADCの使い勝手に大きな不満があったからです。
hpn.hatenablog.com
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ZWOのADCは、白い目印を地平線方向に合わせたのち、そこを中心につまみを手動で対称に開き、補正量を調整します。ところが、そもそもつまみをきっちり対称に開くのが難しく、補正方向が勝手に傾きがち。さらに、開いたところでキッチリ止めるには微妙なネジの締め具合が必要など、操作性にかなり難がありました。


一方、Pieero AstroのADCは、補正方向と補正角の調整を別々に行えます。補正方向はノブの位置(緑矢印)で、補正角はノブ自体を時計の竜頭のように回す(青矢印)ことで調整します。この構造なら補正方向がずれることはありませんし、プリズムの開き方の対称性も保たれます。前世代のMK IIまではZWOのADCと同様の構造でしたが、MK3になってこの構造になったのが購入の決め手でした。


Pierro AstroとZWOのADCの比較です。プリズムハウジングのサイズは同程度。接続規格は、Pierro Astroのは望遠鏡側がM48メスネジ(M48 P0.75)、カメラ側がT2オスネジ(M42 P0.75)となっています。ZWOのものは、プリズムハウジングの両端ともT2メスネジとなっていて、アダプターを介して31.7mmスリーブが使用できるようになっています。

接続方法はZWOの方が柔軟ですが、31.7mmスリーブでの接続だとたわみが発生する可能性があり、Pierro Astroではあえてこれを採用していません。

ちなみにPierro Astroのプリズムハウジングの両端には、それぞれ重厚な金属製のねじ込み式フタがついています。高級感はありますが、取り付け、取り外しが面倒ですし、こんなところにコストをかけるくらいなら普通にプラスチック製のフタでいいように思います(^^;

プリズムの有効径はPierro Astroの方がやや大きいように見えますが、差は大きくありません。材質はZWOがBK7相当の光学ガラスなのに対し、Pierro Astroのは上で書いたように溶融石英です。BK7は通常のガラス同様、紫外線を吸収してしまうので、その点は溶融石英に軍配が上がります。ただし、この特性を十分に生かすためには光学系全体として紫外線に対して透明でなければならず、純反射系以外ではなかなか活用が難しいのではないかと思います。

作りについては、さすがに倍以上の価格差があるだけにPierro Astroの方が圧倒的に優秀。プリズムのコバ塗りもしっかりしています。一方の、私が買ったZWOのADCは初期ロットということもあり、プリズムに接着剤がはみ出していたりと「いかにも」なチャイナクオリティだったりします。まぁ、実用上問題はなかったのですが……。


と、期待を持たせる作りですが、残る問題は接続方法。現在の惑星撮影システムはBorgのパーツ群をやりくりして組み上げていますが、カメラ側はM42P0.75→M57AD【7528】を使えばいいとして、望遠鏡側はM57メスをM48オスに変換しなければなりません。とりあえず、光映舎で変換リングを比較的安く扱っていたので発注してみましたが……さて?

*1:可視光で金星を見ても模様はほとんど見えませんが、UV域で金星を観察すると雲が見える場合があります。