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蛇妖星雲

先日から書いていた先週金曜の夜の話は、ようやくこれでひと段落付きそう。今回はこの夜の「本命」についてです。


先述したとおり、この日はSQMの計測と「ブラックミスト プロテクター」の試写を先行して行い、「本命」の撮影は20時ごろからとなりました。


狙うはふたご座とこいぬ座の境界付近にある惑星状星雲、「メデューサ星雲」*1ことAbell 21です。




聞けば「表面輝度が非常に低い」とのことでしたが、Digital Sky Surveyの画像を見る限り、少なくともHαの領域は比較的明るくて写りやすそう(写真左上の円内)。とはいえ、別の狙いもあるので、ここはL-Ultimateを用いてガツンと長時間露出をかますことにします。


子午線を超えて2時ごろまで撮影した後は、恒星の色を捉えるためにフィルターを光害カットフィルターであるLPS-D1に交換し、小1時間ほど撮影。3時以降はSN 2024gyの撮影に移るため、ここで終了となりました。


リザルト


撮影した結果ですが、L-Ultimateでの撮って出し&レベル調整後の画像は御覧の通り。




さすがに写りはいいですね。1コマでも十分に存在が分かります。そしてLPS-D1で撮ったものも……




レベル調整をすると容易に星雲が浮かび上がってきます。姿を捉えるだけなら、この星雲はかなり撮りやすい部類ですね。「表面輝度が低い」と言いながら、下手なICナンバーの散光星雲よりもよほど写りやすい印象です。


ところで……写真の隅の方が欠けたように黒くなってますが、どうやらこれ、過去にASI2600MC Proで問題になった「熱伝導パッドからのオイルブリード」のようです。以前、自分で掃除してきれいになったのですが、また分解清掃しないとダメそうです。面倒な……orz



さて、画像処理の方ですが、LPS-D1の方はBXTによるデコンボリューション、および色彩強調後にStarnet2を用いて星だけの画像を抽出。一方のL-Ultimateの方は、南中の前後に分けてコンポジット、カブリ除去処理をした*2のちに統合。BXTによるデコンボリューション、NeatImageによるノイズ除去*3、NikCollectionのSilverEfexによる強調などを噛ませたうえ、Starnet2で恒星を除去して、前述のLPS-D1による恒星画像と結合します。最後に微調整を行って……はい、ドンッ!




2024年1月12日 ED103S(スペーサー改造済)+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
カラー画像:Gain100, 300秒×6, IDAS LPS-D1フィルター使用
ナローバンド画像:Gain350, 300秒×66, Optolong L-Ultimateフィルター使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0n、PixInsightほかで画像処理

メデューサ星雲」ことAbell 21です。地球からの距離は約1500光年。


チェコ天文学者ルボシュ・ペレク(Luboš Perek, 1919~2020)とルボシュ・コホーテク(Luboš Kohoutek, 1935~2023)*4がまとめた惑星状星雲のカタログにおいて「PK 205+14.1」*5、銀河系内のHII領域を収載したシャープレスカタログにおいて「Sh2-274」としても登録されています。


発見したのはアメリカのジョージ・エイベルで、1955年のこと。肉眼では見えづらいこともあってか、NGCやICからは漏れています。惑星状星雲にしては大きめのサイズと、その網目状の構造のためか、かつては超新星残骸かと思われていましたが、1970年代になって、ガスの拡散速度が秒速約50kmと超新星残骸にしては遅いことなどから、惑星状星雲だと考えられるようになりました。


メデューサ星雲」という愛称は、網目のようになった赤いHα領域が、髪の毛が蛇になっているギリシャ神話の怪物メデューサの頭を連想させるから、ということから付けられています。しかし見た目的には、自分はどうしても「バラ鞭」*6の方を思い浮かべてしまいます(^^;


Hαの赤とOIIIの青緑との取り合わせは、ちょうど亜鈴状星雲 M27とよく似ています。そして注目は、明るい星雲本体の右上(北西)に円形に広がる淡いHα & OIII領域。これを捉えたくて長時間露出をしたようなものです。これはメデューサ星雲本体と同様、中心星から流れ出したガスが輝いているものでしょう。


メデューサ星雲の立体構造を考えてみると、基本的な形はほぼ球形のところ、その側面の一部が破れるような形で淡いガスが泡のように広がっているのではないかという気がします*7。こうした構造を想像しながら惑星状星雲を眺めるのも楽しいものです。

*1:ちなみにタイトルはこれの中国語表記。なんかカッコいいですw

*2:高度の高いところを通過する天体の場合、南中前後で地上からの光害カブリの向きが変わるので、こうしないとカブリ除去処理が猛烈に面倒になります。

*3:今回、Denoise AIは効果が強烈すぎて、かえって不自然でした。適材適所です。

*4:「天文史上最悪の期待はずれの1つ」こと 誤報テク コホーテク彗星(C/1973 E1)の発見者である、あのコホーテク氏です。

*5:ちなみに、PKの後ろの数字は「銀経、銀緯」を表していて、実際この星雲は銀経205゚08'20"、銀緯 +14゚14'29"に存在しています。

*6:分からない人はググってください(一応センシティブ案件w

*7:あくまで見た目の話で、成因は別問題。実際には、例えばまずこの方向から中心星の質量流出が始まって、のちに星雲本体を形成するような大規模な質量放出が起こったのかもしれません。