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丹羽雅彦氏の個展「時空を超えた贈りもの —宇宙は不思議で美しい—」訪問

現在、南青山で開催されている丹羽雅彦氏の個展「時空を超えた贈りもの —宇宙は不思議で美しい—」にお邪魔してきました。


氏は「PixInsightの使い方 [基本編]」の著者としても有名な方で、X(旧Twitter)やブログを通じて多くの有用な情報を発信しておられます。

twitter.com
masahiko.me


天体写真の技術も確かなもので、チリのリモート天文台を有効に活用しつつ、見事な作品を次々と発表されています。そんな氏が近場で個展を行うというのですから、行かない手はありません。



写真中央、黒いタイル張りの壁に沿って地下入口への階段があります。


場所は表参道駅から歩いて5分ほどのビルの地下。入るのにちょこっとばかり勇気が要りますが、扉を開けるとすぐ受付。ギャラリー内はパーティションで区切られていて、そこに作られた小部屋が丹羽氏の個展になります。



丹羽さんご本人。非常に気さくな方で、天文に詳しい人にはより詳しく、
天文に詳しくない方に対しては丁寧かつ平易に説明されていたのが印象的でした。


作品点数は9点ほど(大2、中3、小4、ほかアクリルブロック等)と決して多くはないのですが、丹羽氏おひとりで丁寧に解説されていること、そして観覧者がじっくり作品と向き合うという意味でも適当な規模かなという気がします。


なお、個展開催に際しての「あいさつ文」は個展のサイトにも掲載されていますが、首がもげるほどに頷きたいところです(笑)
dvp.co.jp



さて、自分はお恥ずかしながら、今まで「写真展」というものに意識して行ったことがありません。その上で、この小部屋に入った時に強烈に感じたのが「現物の存在感」です。自分ももちろん天体写真を撮りますが、ディスプレイで眺めるそれと違って、プリントにはやはり圧倒的な存在感があります。目に入る情報としては画面もプリントもそう変わらない……どころか画面の方が情報量としては多いはずなのですが、この感覚の違いは面白いところです。


また、本来「光年」オーダーのものが、実物として人間が知覚できるサイズに収まるというのも、原理としては全くもって当たり前なのですが、なんとも不思議な気持ちになります。


プリントはいずれも極上で、明るい部分が飽和することも淡い部分がつぶれることもなく、画像の元々のポテンシャルをフルに引き出しているように思えます。実際、氏が最も力を入れたところのひとつで、プリントの調整に半年かけたというのも納得です。



この個展の最大の目玉が「ほ座超新星残骸」。一般に「ガム星雲」の名で知られる南天超新星残骸の、部分を収めたものです。本来写っているはずの恒星はAI処理で取り除き、ガスの流れのみを表現しているのですが、細かいフィラメントの表現は目を見張ります。


撮影はHαおよびOIIIのナローバンドで行われているのですが、これをカラーではなくあえてモノクロにすることで、一種抽象画的な不思議な風合が生まれています。氏は今回の個展のテーマの1つに「Science × Art」を掲げていますが、このモノクロプリントは「天体写真」という範囲を超えて、本当に美しいと思います。


また、ちょっと面白いのが、この宇宙の大規模構造が細胞の電子顕微鏡写真にも見えること。例えば下の写真はヒト樹状細胞の電子顕微鏡写真ですが……どことなく似ていないでしょうか?



García-Nieto S, et al. (2010) PLoS ONE 5(4): e10123. より
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0010123

このマクロとミクロの世界の類似性、そして超新星自体が様々な元素の源……ひいては人体の構成要素を形作っていると思うと、その不思議なつながりに身が震える思いがしました。


ちなみに、「マクロとミクロの類似性」というのは台風の衛星写真などを見ても強く感じるところで、物理的な理由があるとはいえ、本当に面白いと思います。


なお、余計なお世話ながら客の入りについてですが、この類の個展にしては珍しいくらい盛況だったように思います*1。ブログ「なりゆき天体写真記」のオーナーで、自分と同じく23区内でも撮影にチャレンジしておられるapophisさんともお会いできましたし、私たちが観覧している間にも次々と観覧者が訪れていました。


ちなみにapophisさんの訪問記はこちら。
apophis323.livedoor.blog


個展自体は13日まで開催されているので、近くの方はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?きっと満足できると思います。

*1:かといって混みすぎというほどでもなく、丹羽さんと個別にゆっくりお話しできる余裕はありました。