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子持ち銀河と彼方からの光

秦の時代、中央で祭祀を司る「奉常」の職にあった哈 武留(は ぶる, ?~紀元前203年)は、銀河の幽き光を死者の霊魂であると考え、これを慰めるとともに生気に満ちた春の訪れを寿ぐ祭りを執り行った。これが世に言う「春の銀河祭り」の起源である。ちなみに、Y社が行う「春のパン祭り」で配られる白い皿は、元々は「春の銀河祭り」で使われた楕円銀河を象ったもの。また、哈 武留は現在も、宇宙望遠鏡にその名を留めている。

民明書房 刊「歴代王朝の祭祀と星辰信仰」より)


というわけで、春です!(ぇ


春と言ったら系外銀河、系外銀河と言ったら長焦点鏡というわけで、天気の良かった19日夜、EdgeHD800を携えていつもの公園に出撃してきました。


この夜はWindy(ECMWF)SCWの予報が食い違っていて、Windyでは夜半頃に雲が南方を通過するものの終夜快晴、一方のSCWでは夜半頃に雲が頭上を通過するような予報になっていました。さて、どちらに転ぶか……。


ところが、夜半どころか、機材を設置した直後からべた曇り。ひまわりからの画像を見る限り、撮影場所の直上に雲が居座り、なかなか動く様子が見えません。本当は宵のうちにふたご座の惑星状星雲NGC2392あたりを撮るつもりでいたのですが、まったく当てが外れました。


しかし、撤退が頭によぎり始めた20時ごろから雲が薄く。その後、光軸を慎重に合わせて21時半ごろから撮影を始めました。ターゲットはりょうけん座の「子持ち星雲」ことM51。天体写真を本格的に撮り始めた比較的初期のころから何度も撮ってきた対象です。


渦巻が正面を向いている「フェイスオン」の銀河の割に明るく、街なかからでも比較的撮りやすい対象です。2021年には、近赤外撮影と組み合わせ、非冷却カメラでそこそこの像を撮ることに成功しています。

hpn.hatenablog.com
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しかし今回は、赤外線撮影に頼らず、通常の光害カットフィルターでごり押しする予定。どうにもマズいようなら、後日撮り足せばいいでしょう。Hαについても同様。


南中を過ぎたら望遠鏡の姿勢を入れ替え、このまま明け方まで撮影を続行しました。結局、総露出時間は6時間に達しました。春霞……というかスギ花粉の影響というか、冬場と違って「澄み切った」とはとても言えない空でしたが、露出時間でなんとか押し切……れるかなぁ?押し切れるといいなぁ(ぉ


ちなみに、SCWで夜半に到来が予想されていた雲ですが、夜半前に西にそれらしい雲が現れたものの、結局こちらに近づいてくることはなく、予想は外れた形になりました。過去を振り返っても、ウチのあたりではこういうパターンが多く、Windyの方が総じて精度が高い印象です。


リザルト


というわけで、撮影結果です。


撮って出し&ASI FitsViewerでの自動調整後の画像はこんな感じ。



さすがに明るい銀河だけに、軽く調整しただけで渦巻銀河の姿がはっきり浮かび上がってきます。そして、これを6時間分スタックし、背景をならしたりなんだりして……こう!



2023年3月19日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain=200, 300秒×72, IDAS LPS-D1フィルター使用
オフアキシスガイダー+StarlightXpress Lodestar+PHD2によるオートガイド
PixInsight, ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

思った以上にモノクロっぽくなってしまったのと、赤いHII領域の出方がもう一つというところですが、一方で、都心からの撮影でありながら、伴銀河であるNGC5915との相互作用で形成された潮汐尾がハッキリ写っていて(しかも近赤外の助けなく)、その意味では満足です。HII領域については、後日Hαを別撮りしてもいいでしょう。




ちなみに、春の系外銀河を撮ると、たいてい背景に粉のように細かい系外銀河が写りこみますが*1、この写真もご多分に漏れず、多数の系外銀河*2が写りこんでいます*3




なかでも興味深いのは、写真右下にあるSDSS J132903.44+470230.5という天体。ただの系外銀河ではなく、遥か彼方にあるクエーサーです*4。その赤方偏移zは約1.826……約138億年前の宇宙誕生からわずか36億年後の光を捉えていることになります*5


明るさは19.5等前後ですが、これほど離れた天体がこんな明るさで見えること、そして東京都心からアマチュアの機材で捉えられるというのは、色んな意味でなかなかすごいことだと思います。

*1:俗に言う「粉銀河」

*2:おとめ座銀河団付近の比ではありませんが。

*3:PixInsightの参照するデータだとどうしても抜け・漏れがあるので、Aladin Sky Atlasと突き合わせて手動でアノテーションしました(笑)

*4:よく見ると、やや青白い天体像を中心に、左右ほぼ対象にやや赤みがかった像が見えるので、ひょっとしたら「銀河の重力」の影響による「クエーサー重力レンズ像」ないし「クエーサーの重力」の影響による「銀河の重力レンズ像」が見えているのかもしれません。まぁ、数多の天文学者がそうそう見逃すとも思えませんし、まったく根拠ないですけど。

*5:俗な言い方をすれば「約100億光年彼方からの光」とも言えますが、光が飛んできている間にも刻々と宇宙は膨張しているので、必ずしも正しい表現ではありません。