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晴れの週末二連荘 1日目~惑星状星雲祭り

去る9/26、久々に「星欲」を満足させたのですが、WindyやSCWによれば9/30~10/2にかけても晴れの予報。これまでが我慢のし通しだったので、またぞろ機材を引っ張り出すことにしました。


とはいえ、2夜連続で出撃するのはさすがに体力的にきついものがあります*1し、家族の晩飯を放っておくわけにもいきません。というわけで、9/30金曜の夜は自宅の玄関前に機材を広げることにします。


ところが、我が家の玄関前は狭い道を挟んで3階建ての建物が視界をふさいでいる上、電線が縦横無尽に張り巡らされていて、実質的にほぼ天頂方向から西側20度くらいしか空が開けていません*2。視界が狭いので大きく広がった天体は不適で、淡い天体も撮っているうちに日周運動で電線にかかってしまいかねないのでダメ。そもそも近くを通る電車の振動があるので、長時間露出自体が困難です。


そこで、ターゲットを惑星状星雲に絞ります。これなら短時間露出で十分写りますし、視直径も十分小さいので、たとえ電線の隙間に差し掛かっても問題なしです。


惑星状星雲の場合、せいぜい数秒~数十秒の露出を積み重ねるだけなので、オートガイドはあまり必要ないのですが、スタック時のトラブルを避ける意味で今回はオフアキを利用。システムの組み合わせは以下の通りです。

SCTアダプター25.3mm
オフアキシスガイダー本体29mm
M42(オス)Tマウント用カメラアダプター12.5mm
M42P0.75→M57AD【7528】8mm
M57/60延長筒SS【7601】+ZWO EOS-EFマウントアダプターII後部21.5mm
Tスレッド延長リング20mm
ZWO冷却カメラ17.5mm

これでバックフォーカスは133.8mm。EdgeHD800のバックフォーカスの規定値は133mmですが、フィルターが入ると必要光路長がやや伸びるので、これでほぼ適正のはずです。


フィルターは、EOS-EFマウントアダプターII後部にφ48mmのフィルターを入れられるということで、以前キャンペーンでもらったZWOのDuo-bandフィルターを入れています*3*4


撮影を開始したのは20時半ごろ。このセットで何を撮ろうかと星図を調べ、天頂付近を通る惑星状星雲ということでNGC7027、NGC7048、NGC7662(青い雪玉星雲)の3つを選びました。NGC7662以外は見た/撮ったことのない対象です。どんな雰囲気の天体でしょうか……?


一連の撮影が終わった後、せっかくEdgeHD800を出しているのだし、あわよくば木星を……と思って準備していたのですが、ちょうどタイミングよく(悪く)雲が襲来。あえなくここで撤収となりました。


リザルト


後日、撮影した画像の処理を始めたのですが……想像以上に厄介だったのがファイルの枚数と容量です。


惑星状星雲の撮影では、自分は高感度設定・短時間露出・多数枚で撮影する、いわゆる「ラッキーイメージング」的な手法を用います。その結果、撮影枚数はNGC7027が700枚、NGC7048が64枚、NGC7662が657枚*5と、全部で1400枚以上にもなりました。カメラにうっかりASI2600MC Proを使ってしまった*6ため、Fitsファイル1枚当たりの容量は約50MB。これだけで約70GBにもなります。しかも、最終的にスタックするまでの過程で、フラット/ダーク補正してステライメージで保存したFitsファイルはビット数の関係で2倍の約100MB/枚、現像するとさらに3倍の約300MB/枚にもなるので、合計で630GB以上もの容量を食いつぶすことになってしまいました。撮影前の時点でデータ保存用HDDの残容量は1TBちょっとでしたので、これはなかなかキツイ……。


ステライメージの処理性能的にも厳しいところで、当方の環境*7だと旧来のUIでは370枚を読み込むのが限界。また、読み込めたとしてもコンポジットの過程でメモリ不足で落ちる、仮想メモリを増やせば速度が極端に低下するなど、どうにもうまくありません。


新UIだと枚数にこの制限はないものの、そもそもの処理速度が遅かったり*8、途中で落ちたりと散々です。今回は、やむを得ず適当な枚数に分割しながら処理していきましたが、何かうまいソフトはないものか……。


と言いつつ、実はいくつか目星をつけているソフトはあるので、そのうち試していってみたいと思います。


ともあれ、順次粛々と処理していって、出てきた結果がこちら。




2022年9月30日 EdgeHD800(D203mm, f2035mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃
Gain=500, 1秒×700, ZWO Duo-Bandフィルター使用
オフアキシスガイダー+StarlightXpress Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

まずは、はくちょう座の惑星状星雲NGC7027です。


最初見た感想は「ちっちゃ!」の一言に尽きます。調べてみると、見かけの大きさはわずか18秒×12秒。サイズ的には「環を除いた土星本体」と同じくらいしかありません。実際のサイズも0.2光年×0.1光年程度で、一般的な惑星状星雲の直径が1光年程度あるのと比べるとかなり小さいです。これは、年齢が600年程度と非常に若いのが原因で、まだまだこれからガスが広がっていく途中なのでしょう。


姿自体は、まるで淡いハロをまとったコガネムシのようです。輝度が高いので露出を1秒まで絞ったのですが、それでもなお色が飛び気味なのが恐ろしいところ。大気差による色分散らしきものも見えたあたり、本当に惑星撮影用のシステムを持ち出すべきだったかもしれません(^^;<




2022年9月30日 EdgeHD800(D203mm, f2035mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃
Gain=500, 60秒×64, ZWO Duo-Bandフィルター使用
オフアキシスガイダー+StarlightXpress Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

お次は同じくはくちょう座のNGC7048。この星雲も先のNGC7027も、北アメリカ星雲のすぐ近くにあるのですが、なにしろ近くには人気の被写体がひしめいているので、どうしても影が薄くなりがちです。


しかしいざ撮ってみると、ちょうどこぎつね座の亜鈴状星雲M27のミニチュアという雰囲気で、なかなかきれいです。赤い領域の広がり方などまさにM27そっくりで、M76ではなくこちらの方こそ「小亜鈴状星雲」と呼びたくなります(笑)





2022年9月30日 EdgeHD800(D203mm, f2035mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃
Gain=500, 3秒×657, ZWO Duo-Bandフィルター使用
オフアキシスガイダー+StarlightXpress Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0kほかで画像処理

最後は「青い雪玉星雲」ことNGC7662。こちらはずいぶん前にデジカメで狙ったことがありますが、描写は当時よりもはるかに上です。
urbansky.sakura.ne.jp

露出時間を3秒と切り詰めた上で数百枚撮影し、スタッキング後にRegistaxによるウェーブレット処理を行うという、惑星撮影に準じたいつもの方法を用いることで、星雲内部の複雑な構造や外殻のガスの濃淡をしっかり描写できました。南北方向にガスがわずかに噴き出しているのも分かりますが、このあたりの淡い部分の描写力はさすが冷却CMOSと言ったところです。

*1:台車を使うとはいえ、人力で荷物を運ぶので。

*2:しかも南側は電線だらけでほぼ壊滅。逆に北側はもう少し余裕があります。

*3:普段この目的で使っているIDASのNB1はφ52mmのものしか持っていないので……。

*4:φ48→φ52のステップアップリングを使えば、φ52mmのフィルターも取り付けることは可能です。

*5:枚数が半端なのは雲の到来で撮影を中止したため

*6:対象は小さい惑星状星雲なので、本来APS-Cはまったく不要です。

*7:Ryzen7 2700X+32GB RAM

*8:メモリに負担をかけない分、CPUがフル稼働していないようです。