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惑星状星雲二態

8月終わりから秋雨前線がどっかりと居座っている上、台風まで接近してきていて、今月は撮影の機会はないかなと思っていたのですが、金曜は思いもかけぬ晴天。Windyの予報では夜半過ぎから雲が出てくることになっていましたが、この機会を逃すと次がいつになるか分かりませんので、思い切って宵のうちから出撃してきました。


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今回は、前半はオフアキの調整を兼ねてこと座の「環状星雲」ことM57を、月が沈んだ夜半頃からはみずがめ座の「らせん状星雲」ことNGC7293を狙う予定。また、撮影中は月や惑星、星団を観望したい……ということで、台車に積み込んだ荷物は、鏡筒がEdgeHD800、ED103S、MAK127SPの3本、架台がSXP赤道儀とAZ-GTiマウント、さらにLED街灯からの光をカットするための衝立と三脚 etc, etc……。


台車を含めた総重量はおそらく100kg近くあったんじゃないでしょうか*1?過去最大の積載量ですが、さすがは業務用台車。これでも何とかなるのが分かったのが収穫です(笑)

環状星雲 M57


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公園に到着したら、まずはEdgeHD800でM57狙い。以前、NebulaBooster NB1フィルターを導入するに伴いオフアキの構成を変更しましたが、それ以来初の実戦ですので、ピント合わせ等の調整も兼ねています。ちなみに、先の構成ではオートガイダー側が延長筒の「2階建て」になっていましたが、さすがに不安定なのでここはビクセンの「接眼アダプター 42T→31.7AD SX」に変更しています。


結果としては、オフアキの構成は上々で、特に問題が発生することもなく比較的スムーズに撮影に移行できました。



ちなみに、上の写真で鏡筒の横に見えているのは上弦の月


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この日は木星と接近しているのが美しく眺められました。それにしても、こうやって撮ってみると月と木星の明るさの差って凄まじいですね……。


さて撮影の方ですが、相手が表面輝度の高い惑星状星雲ということもあって、NB1フィルターを噛ませた上で「短時間露出・多数枚」の戦略で行くことに。とはいえ、以前撮影したキャッツアイ星雲やエスキモー星雲ほどには単位面積当たりの輝度がないため、1コマ当たりの露出は30秒とかなり穏やかにせざるをえませんでした。これだとRegistaxで高解像度を狙うのは少々厳しそうです*2


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撮って出しだとこんな感じ。F10の光学系、ISO800のわずか30秒露出で写っているというあたりはさすがですが、上記のキャッツアイ星雲等と比べると淡いのは否めません。地球との距離が近い分、視直径が大きくなって淡くなるのは仕方がないんですけどね……。ともあれ、これを120コマ確保します。


次いで、フィルターをHαのナローバンドフィルターに変えて、同じ対象を撮ってみます。これはもうただの好奇心で、あわよくばM57周辺のハロの片鱗だけでも捉えられれば……というところ。ISO800で15分露出してみましたが……


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うん、さすがにハロなんて見えませんね。恐ろしく淡いので当然といえば当然です。


閑話休題


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この日は月が出ていましたので、撮影の合間にMAK127SPで月面を眺めていました。AZ-GTiとの組み合わせだと、ピント合わせのたびにグラグラ揺れて大変なのですが、ひとたびピントが合えば口径なりの像を見せてくれます。


せっかくなので、アイピースコンデジPowerShot S120)を手で押し当てて「なんちゃってコリメート」でパチリ。


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こんな安直な方法でこれだけ写ってくれるのなら大満足です。スマホのカメラでも十分行けるでしょうね。


らせん状星雲 NGC7293


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夜半近くになった時点で鏡筒をED103Sに切り替え、予定通りみずがめ座の「らせん状星雲」ことNGC7293を狙います。有名な天体ですが、撮影好機が秋雨の時期にぶつかりがちで今まで撮るチャンスがなかったのです。


ただ、ある程度意識的に避けていたのも事実で、その原因は淡さと高度の低さにあります。東京におけるNGC7293の南中時の高度は約34度。地上からの光害の影響を思えば決して楽な対象ではありません。


しかし、今は手元に「準ナローバンドフィルター」とでもいうべきNebulaBooster NB1があります。淡いとはいえ、対象が輝線で輝く惑星状星雲となれば勝機は十分あるでしょう。


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ISO200の15分露出で撮ってみましたが、撮って出しのこの時点で星雲がしっかり見て取れます*3。これなら十分行けそうです。


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しかし0時半ごろから、台風13号へ吹き込む湿った空気の影響か、千切れ雲が南から速い速度で次々と流れてくるようになりました。しかも、ピンポイントで撮影領域を横切っていくので始末が悪いです。最低でも8コマは確保したかったところですが、雲のおかげで2コマがだめになり、そうこうしているうちに対象の高度が20度を切りそうになったので、ここで撮影を切り上げました。


このあと、さらに別の対象を狙おうとしたのですが、湿度が急激に上がってきた上、雲量も大きく増えてきたので、ここで撤収となりました。

リザルト

帰宅後、ダークとフラットを確保したのちに処理に移ります。


まずはM57ですが、こちらは処理枚数こそ多いものの、処理自体はさして厄介ではありません。120枚を現像後にコンポジットして、若干の処理を加えて出てきた結果がこちら。


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2019年9月6日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO800, 露出30秒×120コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
セレストロン オフアキシスガイダー+Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理 中心部をトリミング

本当ならRegistaxでウェーブレット処理をかけてみたいところでしたが、輝度が低い上に枚数が少なめなこともあって、試したらノイズまみれになったので諦めました。それでも星雲の濃淡はある程度出てきてくれたかなと思います。


また、M57といえば虹色の特徴的な色どりが印象的ですが、今回その理由がはっきりと理解できました。


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2019年9月6日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO800, 露出600秒×4コマ, OPTOLONG H-Alpha(7nm) for EOS APS-C使用
セレストロン オフアキシスガイダー+Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理 中心部をトリミング

こちらは戯れで撮ったHα画像ですが、外縁部のみが写っています。M57の赤色がHα由来なのはここからも明らかですが、注目すべきはリングの幅。カラー画像で赤く見えている部分を超えて写っているのが分かります。


カラー画像において緑色に見える中心部は、おそらくOIII由来のもの。この緑色とHα由来の赤色とが合わさって、境界部分が黄色に見えているのでしょう*4。昔から、どこからM57の黄色が出てくるのか不思議だったのですが、おそらくこの推測で間違ってはいないだろうと思います。



次いでNGC7293。こちらも最初から星雲が見えているので、処理は想像以上に楽です。フィルターのおかげで光害カブリはほとんどありませんし、SDフラットナーHDが優秀なおかげで周辺減光もほとんど気になりません。


ささっと処理して出てきた結果がこちら。


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2019年9月7日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO200, 露出900秒×6コマ, IDAS Nebula Booster NB1使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理、中心部をトリミング

地球からの距離は約650光年と、私たちに最も近い惑星状星雲の1つで、見かけの大きさは満月の半分ほどもあります。しかしその分、惑星状星雲らしからぬ淡さでそれなりに難物なのですが、フィルターのおかげでそれなりの見栄えに仕上げることができました。こうしてみると、まるでM57をそのまま拡大したかのような姿です。


とはいえ、惜しいのは撮影枚数の少なさで、もう少し枚数を稼げれば周辺部の淡いガスも抽出できたんじゃないかという気がします。撮影時のヒストグラムを見る限り、1枚当たりの露出時間ももっと伸ばしたいところで、このフィルターを使う場合の撮影条件については、もう少し検討する必要がありそうです。


ところで、ステライメージで画像を処理していた際、ちょっとしたことで猛烈なスピードアップを図れることに気づきました。その人の使い方次第の部分はありますし、とうの昔に皆さんご存知だったのかもしれませんが……。これについては後ほど別項で。

*1:台車が21kg、集配ボックスが7kg

*2:Registaxでの処理の旨味はシーイングによる像のブレを軽減できるところにあるので、露出時間が伸びればその分効果は薄くなります。

*3:ホワイトバランスの関係上、低い赤のレベルが無理やり引き上げられているせいでアンプノイズが結構ひどいですが。

*4:「赤+緑=黄色」というのがピンと来ない人は、「加法混色」でググってみてください。