例年になく早い梅雨の訪れになるのではないかと思われた今年ですが、関東は思いのほか梅雨の到来が遅く、今週は真夏日が続いています。そんな中、ちょうど6月9日の夜は快晴で、絶好の観測日和。とはいえ、水蒸気なのかPM2.5なのか、大気の透明度は非常に悪いですし、夏至近くで暗夜の時間も非常に短い……というわけで、淡い天体はすっぱり諦め、惑星状星雲を自宅前から狙うことにしました。これなら展開・撤収も手早くできますし、平日夜にはもってこいです。
ちなみに、先日再構築したオフアキシステムの検証も兼ねています。
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家族の食事を用意、片付けしてから機材を展開すると、時刻は0時過ぎ。自宅玄関前は視界が狭く、撮れる対象は非常に限られるのですが、その中から、まずはヘルクレス座のNGC6210をチョイス。長辺が20秒角ほど*1しかない小さな天体ですが、どこまで捉えられるでしょうか……?
「撮って出し」はこんな感じ。今回も惑星状星雲撮影のご多分に漏れず、感度を上げて短時間露出し、枚数を稼いだ上でRegistaxによるウェーブレット処理を行う予定です。この写真はGainを最大値の450まで上げ、露出2秒で撮影していますが、星雲自体は飽和せずにしっかり写っています。それにしても小さいですね……。
おまけに、この夜は思ったよりもシーイングが良くなかったようで、オフアキでのガイドにもかかわらず、ガイドグラフが結構動揺します*2。とどめに、撮影序盤は近くを通る電車の振動を拾ってしまい、なかなかいい状態のコマが得られません。こんなので大丈夫でしょうか……?
NGC6210について必要コマ数を確保したら、次はりゅう座の「キャッツアイ星雲」ことNGC6543へと移動。こちらは4年前にデジカメで撮影していて、そこそこいい感じに仕上がっているのですが、できればもう少しカッチリ写したいものです。
なお、NGC6210から引き続き、ガイドシステムの試運転を兼ねてオフアキを利用しようとしたのですが、適当なガイド星が視野内に見当たらなかった*3ことから、こちらはガイドを行っていません。
「撮って出し」はこんな感じ。撮影条件はNGC6210と全く同じです。カタログ上では、視直径はNGC6210と同程度のはずですが、全体的に明るいためか、こちらの方が大きく見えます。
この時間になると、さすがに電車も終電を迎えており、変に振動を拾うこともありません。落ち着いて撮影に臨むことができました。
なお、撮影終了後、カメラを取り外して眼視でNGC6543の観望にチャレンジしてみました。上でも書いたように、この夜は大気の透明度が非常に悪く、肉眼では2等星もギリギリという感じでしたが、視認はかなり簡単でした。手元にあったOPTOLONGのUHCフィルターをアイピースに取り付けると、コントラストが付いて楕円形の光芒がさらにハッキリします。
とはいえ、構造などを確認するには光量不足を感じるのも事実で、やはり「もっと口径を!」となるのは確かです。大口径ドブソニアンの利点はこういうところなのでしょうね(^^;
リザルト
さて、撮影した画像は片っ端からコンポジットして、Registaxでウェーブレット処理して終わり……だったら良かったのですが、なかなかそう簡単にはいきません。
最初、Autostakkert!3で簡単に処理できるだろうと思っていたのですが、パラメータなどをどう弄っても、なぜかうまくスタッキングできず。仕方がないので、ステライメージで全部現像処理したのち、電車の振動を拾ってブレたコマを目で確認して手動で除去し、コンポジットする羽目になりました。
救いは自動位置合わせがだいぶ高性能になった点で、今回は不自然にズレるコマは1枚も現れませんでした。
コンポジット後の画像については、NGC6210では処理を二手に分割。一方はRegistax6でウェーブレット処理しましたが、もう一方はレベル調整やデジタル現像を組み合わせて周辺の淡い部分を持ち上げ。これらを合成し、出てきた結果がこちら。
2021年6月10日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃, Gain=450, 露出2秒×160コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
セレストロン オフアキシスガイダー+Lodestar+PHD2によるオートガイド
Registax6、ステライメージVer.9.0bほかで画像処理
このNGC6210には"Turtle Nebula"という愛称があります。星雲全体の形が、甲羅を背負った亀のように見えることからかと思いますが、その可愛らしい愛称から受ける印象と違って、かなり複雑な構造があるのが見て取れます。
ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された写真と見比べると、粗いながらもその構造をちゃんと捉えているのが分かり、ちょっとした感動です。
とはいえ、口径や焦点距離が絶対的に足りないのも事実。口径30cm近くあると、ずいぶん変わってきそうな気がしますが……。
一方、NGC6543はこんな感じに。
2021年6月10日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃, Gain=450, 露出2秒×320コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
ガイドなし
Registax6、ステライメージVer.9.0bほかで画像処理
こちらは惑星写真と同様、Registaxによるウェーブレット処理の後、最大エントロピー法による画像復元を行っています。コマ数を多めにしたこともあり、星雲の微細構造や極にあるひげ状の構造も、以前よりハッキリしたかと思います。
ハッブル宇宙望遠鏡での画像と比べてみても、案外いい線行っているような気がします。
惜しいのは、光軸が若干狂っていたのか、星が微妙に尾を引いてしまっている点。惑星状星雲の場合、視直径が小さい分、どうしてもトリミングすることになりますが、そのために光軸の狂い等による星像の乱れもハッキリ分かってしまいます。なかなか厳しいものです。