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長焦点鏡の出番

春が近づいて雨の日も増えてきましたが、8日金曜は快晴の上に月明かりもなし。ということで、家族の晩御飯を大急ぎで作ったのち、いつもの公園に出撃してきました。


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この夜の気圧配置を見ると、大陸からの移動性高気圧が日本上空をすっぽりと覆っています。地上の風は穏やかで、さらにシーイングも良好だろうとにらんで、EdgeHD800を持ち出しました。先日購入したIDAS NebulaBooster NB1もさっそく使ってみたかったので、最初のターゲットはうみへび座の惑星状星雲「木星状星雲」ことNGC3242に。


撮影条件は、過去に撮った惑星状星雲同様、短時間露出のコマを多数枚撮ることにします。これらをコンポジットして、最後にRegistaxで処理する方向です。自宅で撮影すると近くを通る電車の振動のためにボツコマが大量生産されるのですが、この場所だとそうしたものと無縁なので実に快適です(^^)



日付が変わる頃、NGC3242の撮影が終了。そのあと何を撮るかノープランだったのですが、ちょうどM83が昇ってくるところだったので、フィルターを普段使いのLPS-P2に付け替えてM83に鏡筒を向けます。


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M83の南中時の高度は、東京で24度ほどしかありません。見るからに鏡筒が水平方向を向いています。都心だけに地平付近は光害が半端なくて、果たしてどこまで写るものやら……。


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さらに、日周運動でM83が西に傾いてくると、鏡筒の方向にちょうど公園のLED街灯が。2000mmの長焦点なので、視野が狭くてあまり影響は出ないとは思いますが、少々心配です。


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必要コマ数を確保して、なお時間が余ったので、夜明けまでのわずかな時間を使ってへび座球状星団M5を撮影。これで全撮影シークエンス完了です。




仮眠後、木星状星雲から画像処理を始めますが……ここでステライメージの思わぬ弱点が発覚しました。


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今回、320コマをコンポジットするつもりで撮影したのですが、これをコンポジットウィンドウで選択すると……


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259コマまでしか読み込まれません*1。これはステライメージ7でも8でも同様でした。


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ステライメージ8の「自動処理モード」では、多数枚の画像処理を念頭に置いているだけにこの枚数でも読み込めるようですが、一方で、このモードだと「位置合わせ」は「自動」しか選べません。ステライメージの自動位置合わせは、EdgeHDのような長焦点鏡での画像だと誤検出が多すぎて使い物にならないのが実情で、この時点で320枚を一気に処理するのは諦めました。


結局、旧来のインターフェイスで16枚ずつに区切って読み込み、「基準点」で位置合わせを行って処理することに。ステライメージ8の「自動処理モード」は、多数枚処理に重点を置こうという意図は理解できるものの、できることが少なすぎて実際には全く使い物になりません。もし「次」があるなら、ここはきっちり改善してほしいところです。


ともあれ、320枚分をコンポジットしたのちにRegistaxでウェーブレット処理を行い、出てきた結果がこちら。



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2019年3月8日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO800, 露出10秒×320コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
ノータッチガイド 中心部をトリミング
ステライメージVer.7.1e、Registax6ほかで画像処理

今回は、オートガイダーの視野内にちょうどいいガイド星が見当たらなかった*2こと、また1コマ当たりの露出がわずか10秒ということから、赤道儀任せで撮っています。赤道儀任せなのでどうしても時間とともにズレてくるのですが、赤経側のズレ方がピリオディックモーションを反映するかのように変動するのがちょっと面白かったです。


ひょっとしてもう少し細部が出るかと期待しましたが、まぁ、写りとしてはこんなものでしょう。中心星を取り巻くシェルの様子がよく分かります。「木星状」というよりは、まるで何かの目のようです。


ちなみに、「木星状星雲」という愛称は、イギリスの天文学者ウィリアム・ヘンリー・スミスが「大きさといい、色といい、見え方といい、木星そっくりだ」と感想を言ったところからきているそうですが、視直径*3はともかく、色は酸素原子由来の青緑色が強くて木星とは似ても似つきません。「土星状星雲」の方は形自体がいかにもそれっぽくて、まだ分かるのですが……(^^;



次いでM83を処理。こちらは15分露出のものが8枚だけなので、その意味では楽ですが……「撮って出し」はご覧のありさま。


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低空ゆえの光害の強烈さもあって、見事に真っ白です。センサーのゴミや周辺減光も目立ちますし、毎度のこととはいえ本当に嫌になります。


それでも、写っていることを信じて処理した結果……


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2019年3月9日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO400, 露出900秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
セレストロン オフアキシスガイダー+Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

立派なフェイスオンの銀河の姿が出てきてくれました。渦がこちら側を向いた「フェイスオン」の銀河は一般に淡く、カタログの等級の数字以上に撮りづらいものが多いのですが、このM83についてはその心配はありませんでした。低空ゆえにシーイングの影響が大きく、星像が膨らみ気味なのが残念なところですが、外周部の淡い腕も存在が分かり、東京都心でここまで写ってくれればいいかなという気もします。


この淡い腕、M83本体を円形に取り巻くように存在しているため、最初はフラットの取り損ないかとも思ったのですが、他の写真などを見る限り、実際にこういうもののようです。


ところでこのM83、東京での南中高度が低いのは上でも書いたとおりですが、メシエが活躍していた頃のパリでの南中高度はさらに低く、せいぜい12度くらいしかありません。当時は光害がほとんどなかったとはいえ、こんなものを口径数cmの小望遠鏡で発見するのですから、恐るべき鋭眼と言わざるをえません。



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2019年3月9日 EdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO800, 露出60秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
セレストロン オフアキシスガイダー+Lodestar+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

最後はへび座球状星団M5。北半球最大の球状星団であるヘルクレス座のM13にも匹敵する、明るく大きな球状星団です。ごく短時間の露出での撮影ですが、実に見事な姿です。空の暗いところで、大口径ドブソニアン&双眼で覗いたりしたら、さぞや素晴らしい眺めになることでしょう。

*1:256コマなら、まだなんか分かる気がしなくもないですが(笑)

*2:1/2型センサーを採用したStarlightXpressのLodestarをオフアキで使用しているので、35mm判換算だと8000mm以上の焦点距離に相当します。都心で空が明るい上、春の空のように星の数が根本的に少ないと、こういうことはまま起こりえます。

*3:木星状星雲のサイズは40秒×35秒。衝の時の木星が視直径約44秒なので、ほぼ同サイズです。