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冷却CMOS本格始動!

せっかく5月に冷却CMOS(ZWO ASI2600MC Pro)を入手したものの、月齢や梅雨の長雨などに祟られ、長いこと本格投入することができずにいました。しかし、19日の夜は久々に快晴になる予報で、体感温度的にも耐えられそうな雰囲気。おまけに週末は天気が崩れそうということで、平日ですがちょっと無理していつもの公園に出撃してきました。


今回の狙いはケフェウス座の散光星雲IC1936。「ガーネットスター」の愛称で知られる赤色超巨星ケフェウス座μ星の南に広がる大型の散光星雲です。写真派には有名な天体ですが、とにかく淡い上、撮影場所が都心も都心、北10km圏内に渋谷・新宿を控えているため、それなりに困難な対象です。


一応、3年ほど前に、EOS KissX5 SEO-SP3にOPTOLONGのCLS-CCDフィルターを用いて撮ってはいるのですが、色は濁るわディテールはつぶれるわで、いかにも無理やり感の漂う仕上がりでした。
hpn.hatenablog.com


そこで今回は、ASI2600MC ProにAstronomikのHαフィルター*1およびIDASのNebulaBooster NB1フィルターを用い、よりしっかりとIC1396の姿を捉えることを目標としました。


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まず、光害が比較的激しいと思われる夜半前は、Hαでのナローバンドでの撮影を試みます。AstronomikのHαフィルターの半値幅は6nmと狭いので、1コマ当たりの露出時間は長めに20分としました。


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撮って出しはこんな感じ。極めて激しい光害の中にもかかわらず、星雲の姿がはっきり確認でき、少しは期待できそうです。


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夜半過ぎからはフィルターをNB1に切り替え。フィルターの厚さが、AstronomikのHαフィルターが1mmなのに対し、NB1は2.5mmあるので、ピント位置が変わってしまうのが厄介ですが、ちょうど子午線反転するタイミングでもあり、それほど大きな面倒は感じませんでした。
hdv-blog.blogspot.com


NB1フィルターの方は、光量があるので露出は1コマ当たり15分で。この条件で天文薄明開始頃まで撮影を行い、終了としました。


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こちらの撮って出しはこんな感じ。さすがにナローバンドのように星雲の姿がハッキリと……とはいきませんが、それでも星雲の存在は分かります。3年前のCLS-CCDを用いた時の結果とは明らかに違い、期待が持てそうです。


ちなみにASI2600MC Proの消費電力ですが、外気温約27℃、CMOSの設定温度0℃として、結露防止ヒーターONの状態で約7時間運転して、容量700Whの電源が20%程度減るくらいでした。消費電力は案外とつつましやかな印象です。また、このときの冷却機構のパワーが60%程度と余裕がありそうだったので、イチかバチかで設定温度を-10℃にしてみましたが、冷却機構がフルパワーで動いてもギリギリ届きませんでした。ASI2600MC Proの仕様では「外気温-35℃」が限界なので、まさに仕様通りの結果と言えるでしょう。




さて翌日、時間を見つけてこれらの画像をそれぞれ処理します。


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処理途中はこんな感じ。コントラストはさすがにHαナローの方が有利。とはいえ、NB1の方も「準ナロー」とでもいうべきフィルターなので、これはこれでなかなかよく写っています。しかし、せっかくのHα画像を生かさないのはもったいないので、まずはNB1で撮影した画像のRチャンネルをHα画像と入れ替えてみます。



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そして各種調整後の画像がこちら。星雲の細部が締まって、だいぶ見栄えが良くなりました。しかし、Hα画像の良さが生かし切れていない感じも多少ありますし、星雲もやや重ったるい感じがなくもありません。


そこで、今度はHα画像を輝度情報とし、NB1の画像とLRGB合成してみます。合成後、さらにあれこれ調整して……出てきた結果がこちら!


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2020年8月19日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, 0℃, Gain=0, 露出1200秒×8コマ(Hα)+900秒×12コマ(NB1)
Astronomik Hα & IDAS NebulaBooster NB1使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

うん。東京都心でここまで写せれば、まずは上出来でしょう。有名な「象の鼻星雲(Elephant's trunk nebula)」をはじめ、暗黒星雲が複雑に入り組んだ様子がよく分かり、なかなか興味深い姿です。


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象の鼻星雲(Elephant's trunk nebula)

今回使ったフィルターはいずれも基本的には輝線しか通さない*2ので、IC1396中心部などに存在する、反射星雲由来の青い光などが一切表現されないのは惜しいところ。とはいえ、場所柄、淡い反射星雲由来の光を捉えるのは土台無理な話ではあるので、そこは諦めざるをえないでしょう。


コロナ禍で遠征がためらわれる昨今ですが、街なかでも工夫とテクニック次第でこのくらいは撮れるので、皆さんも諦めずにチャレンジしてもらえればと思います。




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ところで今回の撮影中、合間を縫ってAZ-GTi+MAK127SPを使って木星土星、火星などを観望していました。


実は、AZ-GTiの電源(eneloop)を充電器に入れたまま家に忘れてきてしまったのですが、そこらのコンビニで手に入る単三電池を買って事なきを得ました*3。肝心の惑星像の方は、3万円台の安い鏡筒にもかかわらず、相変わらず良く見えます。ちょうどシュミットさんでセールをやっていますし、チャンスかもしれません。
www.syumitto.jp

*1:本当はOPTOLONGのHαフィルターを入手する予定だったのだけど、生憎欠品とのことでやや高めのこちらのフィルターを購入した次第。とはいえ、半値幅が7nm→6nmと、より狭くなっているので性能は期待できます。

*2:通す波長を考えると、「疑似AOO」と言ってもいいかもしれません。

*3:街なか撮影のありがたいところです。